愚兄対100万の男
クトゥーさんの実戦回です。
「そういえば狙っている山賊のポイントってわかるのか?」
朝食のパンと干し肉をかじりながらジュティへたずねる。
「もうすぐ到着するわね。出てくるかどうかはわからないけど。まあ、顔もわかるし何とかなるでしょう。」
「ちなみに懸賞金は?」
「100万ギューツ。大物よ。」
「それ勝てるのか?」
「さあ。近かったから来てみただけだし。」
「おい。」
昨日のうちに野草を煮出して作ったお茶をすすりながらジュティは淡々と答えた。若干の不満を覚えながらクトゥーもお茶を飲んだ。
テントを片付け、荷物を持ち出発した。クディが二人の荷物を持つといわんばかりにアピールしたが、丸っこい体と短い腕のため断念した。
日が真上に来た頃、三人は少し開けた場所に到着した。広場のようになっていて真ん中にシンボルのように大きな木がある。
「どれ、ここで少し休むか。お昼ごはんにしよう。」
「またパンとヨンディ肉?」
「いや、ちょっと違う。ジュティ昨日の火を弱めて手に持続させることは出来るか?」
「出来ない。」
「だろうな。教えて無いからな。」
「じゃあ聞くな。」
かばんをあさるクトゥーを睨みながらジュティは呟く。
「昨日の感じは覚えているな。」
「うん。もちろん。」
「燃えやすいイメージと空気を取り込むイメージ、それを自分の手から少し離したところで上向きに放出する。」
「維持じゃ駄目なの。」
手のひらを上に向けながら魔力を形成する。その様子をクトゥーも見ている。
「手が熱いだろ。」
「そうね。」
「そして、魔力の量を小さくして熱のイメージを加える。」
ポッ
小さな破裂音と共に小さな火がジュティの手の上に浮いていた。
「お、出来た出来た。」
「よし、そのまま維持してろ。」
クトゥーは切ったパンを出しあぶる。更に、棒に刺した黄色い塊を出す。
「お、ヨンディチーズ。」
「これだけでもだいぶ違うからな。これもってろ、こぼすなよ。」
ジュティの空いている手にあぶったパンを持たせ細かくちぎった干し肉をまぶす。
「そろそろだな。」
トロッと溶けたチーズを干し肉に乗ったパンの上に乗せる。もう一枚パンを軽くあぶりサンドする。
「よし、完成だ。ヨンディのホットサンドだ。」
「いただきます。」
辛抱たまらずジュティはホットサンドにかぶりつく。
「それ食ったら俺らの分も焼いてくれよ。」
「これ美味しい。トロッとした濃厚なヨンディチーズと干し肉の塩っ気と旨みが凄く合うわ。パンもサクっとしてもちっとするところも良いわ、食べ応えある~。」
とても良い顔で口いっぱいにほおばり続ける。ジュティの顔はとても満足したいい笑顔だった。
「聞いてるか?」
「聞いてるわよ。安心しなさい、ちゃんと焼くから。」
「随分と呑気に良い匂いを出してくれるじゃないか。」
大きな木の上から突然男の声が響いた。
「貴殿らはこの道をザサルエの住む道と知っての通行か、それならばこの身を持って相手いたそう。ただし、貴殿らが負けたときその荷物、全て頂戴する。山のザサルエここに参上。」
クトゥーはその様子を見上げ、ジュティは二人の分を調理中、クディはまだかまだかとジュティの前でわくわくしている。
「これー?」
「それー。」
露骨に嫌な顔をして見上げるクトゥーの前にザサルエは降り立った。
「貴殿ら少し俺の扱いが悪くないか。」
「いえいえ、そんなこと無いですよ。とても関わりたくないなぁと思って露骨に嫌な態度取ってるだけです。」
「そんなこと大有りではないか。」
嫌そうな態度を止めないクトゥーにザサルエは激しく講義する。
「まあいいや。お前がここいらで道を専門として襲う山賊か、俺達の財布のためにお縄についてもらうぜ。」
「カッコつけてお金目的を言うな。」
そこへジュティがやってきてクトゥーにホットサンドを渡す。
「はい。クトゥーの分。」
「お、ありがとう。んじゃ後よろしく。」
ホットサンドを受け取り邪魔にならないように後ろに下がろうとする。
「待て。」
「何だよ。」
ザサルエがクトゥーを低い声で呼び止める、不機嫌そうにクトゥーも振り返る。
「一つ聞いてよいか。」
「何だ?」
「貴殿、歳は。」
「25だ。」
ザサルエは驚きと怒りで目を見開き、怒りの表情をはっきりと出した。そして怒号とも呼べる大きな声でクトゥーに申し付ける。
「貴殿は、こんな綺麗な女性に戦いを任せて自分はのんびり飯を食べるというのか、男として恥ずかしくないのか。」
「・・・。」
念入りにウォームアップを始めるジュティを見ながら言葉を失う。
「百歩譲って共闘するならまだしも、貴殿は彼女に丸投げとは男として情け無いと思うぞ。」
見事な動きで剣と体の調子を確認するジュティを指差しながらザサルエを見る。
「俺は3対1でも構わない、貴殿も戦いに参加しろ。」
準備ばっちりといった顔をして立っているジュティを横目に呆れながらクトゥーは口を開く。
「お前の目は腐ってるのか。」
「腐っているのは貴殿の男としてのプライドだろう。」
「はぁ~。わかったよ、やるよやれば良いんでしょ。ジュティこれもってろ。」
ジュティにホットサンドを渡して錫杖を取りに行く。
戻ってきて錫杖をザサルエの前に突き立てる。鋭い眼光で睨みながら彼に言う。
「ザサルエ、1対1で構わないこっちから出るのはもちろんご指名の俺だ。」
「良い顔ができるではないか。」
「俺が勝ったら役所へおとなしくついてきてもらうぞ。そしてお前の奪った金品、アジトのもの全部貰うぞ、もちろんアジトもだ。いいな。」
「構わん。」
クトゥーはジュティの肩、は届かないので背中を叩いて告げる。
「準備万端な所悪いが、お前今日は見取り稽古な。」
「えぇ~。」
「うっさい先方からのリクエストなんだから我慢しろ。」
「先方3:1で良いって行ってたじゃん。」
「馬鹿か1:1でやって心を折らないとああいうのはめんどくさいんだよ。」
「ちぇ。」
ジュティは離れて行き邪魔にならないところでクディと観戦する。
ザサルエとクトゥーは向き合う。
「待たせたな。始めようか。」
「貴殿に私の攻撃が受けきれるか。」
ザサルエは身長180cmで太くも無く細くも無い筋肉のつき方をしており、山での動きによって出来たナチュラルな筋肉をしている。服も動き安い伸縮性もあり、山でこまごまとした枝に対応できるようある程度ゆとりのあるものだ。
武器は槍のように棒状の長い持ち手があり先端に50cmの刃がついている。持ち手だけでもザサルエの身長に達するほどでかなり長い武器だ。
「薙刀か珍しい武器だな。」
「いや、貴殿には言われたくない。というかそれ何?」
そりゃ錫杖を武器にしてる人から薙刀を武器にして珍しいじゃんとは言われたくない。ザサルエの感想はもっともだ。
「これ?錫杖。知らない?音なるんだよ。」
地面についてシャンシャンと落ち着いた音を鳴らす。
「それで良いんだな。」
「どういう意図か知らないが俺はこれしか使えない。」
「そうか。」
ザサルエは静かに薙刀を構えた。
クトゥーは錫杖をついたまま仁王立ちしていた。
「おい。」
「何だ?まだあるのか?」
「構えろよ。」
「え、ああこれで良いんだよこれで。さっさと来いよ。」
なめられていることに怒りを覚えながら薙刀を握る手に力を入れる。
「あ、悪いそれじゃあ一言。」
「何だ。」
「殺す気で来い。」
「元より。」
その一言を期にザサルエが一気に攻め立てる、細かく突きや払いを不規則に混ぜ込み攻め込んでくる。例によって例の如くクトゥーは反撃するそぶりも防いで止めようとする素振りも一切見せずに錫杖を巧みに扱って攻撃を全て回避する。
ザサルエは男らしく打ち合おうとせず、ひたすらに避け続けるクトゥーに怒りと焦りを感じていた。今まで彼は小刻みに攻撃を仕掛け近寄らせず、武器ではじいて懐に入ろうとするタイミングで相手の武器をはじきしとめるのを必勝パターンとしていた。そのためには武器同士で打ち合わなくてはいけない。しかし、クトゥーは一切武器を合わせる気配が無い。一方クトゥーには打ち合ったり、薙刀をはじく選択肢は無い、彼が弱いからだ。
遠くで見ていたジュティも予想以上の速さに驚きを見せる。
「もぐもぐ、凄いわねあの人結構速い、しかもあんなに不規則な動きが出来るものなのね。」
「んぐぁぅ。」
ザサルエの突きに合わせて薙刀の柄を伝う様に距離を詰める。
突然のことに驚きながらザサルエは薙刀を降った。
「のわぁぁぁああぁ。」
貧弱なクトゥーがその力に耐えられるわけも無く、薙刀の振りと一緒に体ごと振り飛ばされる。綺麗に着地を決めて向きなおす。
ザサルエをまっすぐ見て錫杖を前に構えて地面を二回つく。
シャン、シャン。
シュッと錫杖を横に構える。そして、ザサルエに向かって走っていった。
ジュティは両手で自分のかばんをあさり、ロープを取り出していた。
「うおぁあああ。」
勢い良く突っ込んでくるクトゥーにザサルエは大きく薙刀を振り払う。
クトゥーはスライディングの要領でなぎ払いを回避しスピードをあまり落とさずに立ち上がって進んで行く。
払い終わった勢いを利用してワンステップ後ろに下がりクトゥーに突きを入れた。
紙一重で回避し伝うようにまたまっすぐ突っ込んでくる。
ザサルエは払うように今度は掬い上げて持ち上げながら地面にたたきつけた。
流石の筋力で大きな砂埃が舞う。
「はぁはぁ。」
息を切らしながらも集中力を落とさずに周囲を見ようとした。
シャラ。
「!?」
背後からの音に思わず振り返った。
「ヒュッ。」
振り返ったと同時にのどに錫杖が襲い掛かってきた。
先は丸く力もそんなに強くないため突き刺さりはしなかったが、激しい痛みと苦しみがザサルエを襲った。
言葉を発するまもなく空気が抜ける音が彼が発した最後の言葉だ。
「そりゃ振り返るよな。後ろから音がしたら誰だって振り返る。まだ仕留めていないってわかってるんだもんな。なおさら振り返るよな。」
ザサルエが集中力を落とさなかったのは途中で薙刀が軽くなったからだ。そう、獲物が途中で脱出したことが分かっていた。どこから攻めてくるかどこにいるのかわからない状態であれば音がした方向に振り向くのは当然のことで、クトゥーが錫杖を使う理由の一つである。
咳こんで痛めたのどにより少し血を出しながらクトゥーを見る。
「どうする、まだやるっていうんだったら相手になるよ。武器を盗りに行こうと必死になっちゃ絶対に打ち合わない俺に攻撃は当たらないけどね。ただし今度は杖先がとがったものに変えるけどやる?」
尖ったものに変え同じ攻撃を受けたら確実にのどを通されて死ぬ。
全くダメージを与えることが無くのどを潰されたザサルエはゆっくりと首を横に振り敗北を認めた。
「お疲れ。」
決着がついたと判断しジュティが近づいてきた。
ジュティのロープを見て素直にお縄についた。
「凄かった、私じゃ負けていたかもね。」
「どうだろうな。なんやかんや勝つと思うけどね。」
「本当?うれしいわね。つまり私の腕は100万ギューツ以上ってことね。」
「本気で言ってる?」
「そんなわけ無いじゃん。冗談よ。強さだけが賞金の金額じゃないからね。
さて、これで良しっと。」
しゃべりながら見事にロープで捕縛する。
「大丈夫?ゆるくない?仮にゆるかったとしても私達がお金を貰ってから逃げてね。」
見事なまでにしっかりと縛られておりザサルエも流石に苦笑いだった。
目の前にクトゥーが立つ。
「それじゃあ約束通りアジト貰うね、案内してくれるよね。」
けじめはつける主義のザサルエはゆっくりと大きく頷き立ち上がった。
丁度、クディが荷物を持ってきて二人は各々の荷物を背負う。それを確認しザサルエは自分のアジトへと歩き出した。
ザサルエの縄を持ちながら歩くジュティにクトゥーは手を出した。
「?」
意味もわからず何となく握り返すジュティ。
「違う。」
「うぇ、じゃあ何の合図よ。」
「ホットサンド。」
「ああ、美味しかったわよ。」
「いや、感想じゃなくて俺のホットサンドだよ。さっき渡しただろう。」
「だから美味しかったって。」
「・・・え。」
ジュティを見ながら、その場に止まってクトゥーは固まる。
「何してんの、早く行くよ別に疲れてないでしょ。」
立ち止まったクトゥーに顔だけ振り返って歩きながら非情の言葉をかける。
慌てて追いついてクトゥーは講義する。
「何で食べちゃったの。」
「冷めたら美味しく無いでしょ。」
「また温めてくれたら良いじゃん。」
「はぁしょうがないわね。本当の事言うわ。」
「食べたかったからとか言わないでよ。」
「凄い、観察眼って心まで見えるんですか。」
「見えるか~!!!」
森の中にクトゥーのおなかとこころの叫び声が響き渡った。
クトゥーさんの戦い方は基本これしかできません。力も魔力もないので基本避けることに長けています。鍔迫り合いのような状況になれば確実に力負けするので絶対にそうならないように動きます。
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