愚兄とリュトゥーイとグルーフ
グルーフは出てきません。リュトゥーイとのやり取りはここで一旦終わります。
「こうして僕達は友達になり定期的に今日みたいなことをしてクトゥーは強くなって行ったんだ。」
はははと笑顔を向けながらリュトゥーイはイセミにそう話す。
「待て、だったら別に一度殺す必要は無いだろう。」
「それは、俺が決めたことだよ。」
体を回転させ横になりながらイセミの指輪とリュトゥーイを視界にへと入れるクトゥー。
「おや、起こしちゃったかい。」
「耳元でぺちゃくちゃおしゃべりされたらそりゃ起きるよ。」
「クトゥー自分で決めたって。」
「俺だって人間だ。どこかで何かに甘んじて楽をしたいと思っているんだよ。」
「それがどう関係あるんだよ。。」
「俺がジェリーに負ければ殺されてもおかしくは無い。でも彼女は殺さない自分に敗北を与える有望株だから。だから殺しはしない。でもそれに甘んじたら俺は成長を止める。それは、俺の死でありグルーフの死にも繋がりかねない。」
よっと体を起こし胡坐で座る体勢へと変わる。
「だから俺は自分に罰を与えた。負けたら一度死ぬという罰だ。」
「自分から苦痛を提案したのか。」
「彼女を楽しませる一つの案でもあったかな。まあ、それに慣れてしまったらクトゥーという人間は本当に死んだことになるだろうな。」
グッと体に力を入れ立ち上がり体をグッと伸ばす。その姿に気づきリュトゥーイもあわせて立ち上がる。
「もういいのかい。」
「ああ、十分休んだ。」
ぐおぉぉぉぉおおおぉぉ、という胃の叫び声がクトゥーの腹からこみ上げる。
「戻って食事にしよう。色々積もる話もあるしね。」
「悪いないつも。」
「なに、気にするな。僕が君に用意したいただそれだけだよ。」
「あ、イセミ今日はありがとうな。何かこの二人を倒す手段が見つかればと思ったんだが。」
「すまない。あまり力にはなれなさそうだ。」
「わかった。まあ得も後で色々聞かせてくれ第三者の目での感想が聞きたい。」
「わかった。」
そうして指輪は光るのをやめた。
リュトゥーイは静かに大量の魔力を放出し固める。
背中からゆっくりと花が開くように魔力の塊が広がっていく。鱗が重なり合うかのように隙間無くどんどんと薄く重なっていく。
「いつ見ても綺麗に感じるのは少し悔しいな。」
そして魔力が広がるのが止まる。
体よりも大きく薄く神々しく魔力の塊がリュトゥーイの背中から広がる。
「ふー。さて、行こうか。」
リュトゥーイから白く大きな翼が生えた。ばさばさと軽く動かし操作性の確認を行う。
「いつものように出いいのか。」
「うん。はい。」
そう言って右手を差し出す。それにあわせてクトゥーも右手を掴む。
「それじゃあ、いくよ。」
翼の動きを大きくし上昇する。徐々に加速し雲ほどまでに高く昇る。そして方向を変え空を泳ぐようにリュトゥーイは大空を移動した。
風の音で会話なんて出来るわけも無くあっという間に二人は目的地へと到着した。
人気のいない森の中にゆっくりと下降する。
地面に近づくとクトゥーが掴んでいた足から手を話し着地する。リュトゥーイも足をつけ魔力を固めた羽を崩す。
目の前には一見の小屋がある。リュトゥーイの別荘だ。
「さあ、会食の準備は済ませてもらっているから早速中で頂こうか。」
「相変わらず、準備が行き届いているな。」
小屋からはいい香りが鼻をくすぐる。
二人は中に入り食卓へとつく。
テーブルには今作ったような湯気の立ち上るおいしそうな料理が並んでいた。
「それじゃあ。いただきます。」
「いただきます。」
二人は早速料理を食べ始めた。
「そういえば、グルーフ君。」
「グルーフがどうした。」
リュトゥーイが食事をしながら話題を振る。
「いや、大活躍みたいだよ。王の変わりたての時期だし無謀な俗物が戦を仕掛けたらしいよ。平和に国で育った甘ちゃんが王になったってね。」
「ああ、やっぱりでたか。」
「知っていたのかい。」
「何となく。それで何人殺したんだ。」
「何を言ってるんだい。戦だぞ。何人とかそういうレベルじゃ無いぞ。」
リュトゥーイのその口調は疑問になど微塵も感じていないわかりきってとぼけている様子だった。
その言葉にクトゥーが微妙な顔をする。
「ごめんごめん。重役が4人戦死したよ。いずれもグルーフ君をよく思ってはいなかったみたいだね。意外といるもんだね。」
「平和な国でも、いや、平和な国だから野心家が出てくるだよ。それも力量のわからない無謀な馬鹿がね。」
「偶然、偶々、疑いようの無いほど完璧な戦死だったよ。だからこそ、いいアピールになっているようだね。」
「そういえばよく他国の内部事情まで調べてるな。」
「密偵を送っているからね。」
「ああ、多分ばれてるぞ。」
その言葉にリュトゥーイが驚きの表情を見せる。
「え、うそ。」
「いつ頃からどういう風にもぐりこんでいるんだ。」
「彼が王権を譲り受けてから女中の一人として紛れ込んでいるよ。」
「正式な手続きで?」
「いや、お金の力でこっそり一人と入れ替わっているよ。」
「尚更だな。」
そう言ってクトゥーは最後のスープを飲み干した。
リュトゥーイは不思議な顔をしながらクトゥーの回答を待つ。
クトゥーは皿を置き口をぬぐって答える。
「あいつは城内の全ての人間を把握している。」
「は?」
「重役だけではない。むしろ重役の方が怪しいと思うぞ。兵士、女中、庭師、調理師。全ての顔と名まえを一致させている。」
「嘘だろ。100とか200とかの騒ぎじゃないだろう。」
「ああ、だが覚えているんだ。」
「信じられないな。」
「そうか?よく考えてみろ。ただでさえ反抗を企んでいた重役だぞ。一人二人はよく無いようにしているかもしれないが、全員で反抗的な態度を見せたら疑って下さいって言っているようなものだろう。それに完璧な戦死なのになんでお前はグルーフが噛んでるって感じたんだ。」
「あ。」
「多分報告書にもグルーフが加えられているよ。ばれてるのを明かしたのか明かしてないのかは知らないがな。」
そこまでを話しデザートに手をつけるクトゥーを前にリュトゥーイは俯きながら震えている。
「多分含みを持たせて頭のいい奴だけが引っかかるようにでもしてたんじゃないか。」
「・・・。」
「長年の付き合いだからな。お前が何考えてるのか、残念ながら何となくわかるよ。」
「・・・ッ。」
デザートを食べ終えお茶を一口。
「遠慮せずに笑えよ。」
「はっはっはっはっはっは。」
クトゥーの一言で膝を叩きながら大笑いするリュトゥーイ。
「いやぁ。やっぱり君達は最高だよ。ここまで僕を裏切って成長してくれるなんてうれしくてしょうがないよ。」
「むしろこんなことに気づかないなんて歳か?」
「無茶を言うなよ。君との約束で彼についてはあまり触れられなかったんだから。」
「それもそうだな。」
クトゥーは席を立って食器を片付ける。水がめから水を汲み食器を洗う。
「俺はこれ片付けたら寝るけどほかに何かあるか。」
「いや、弟君の話が聞けて満足だよ。僕はこの後出かけるけど君はいつものように来ないんだね。」
「行ったところで満足に反応できないだろう。」
「難儀な体だね。」
「ああ、その所為で子ども扱いされるとな。」
「そこはプロだうまくやってくれるんじゃないか。」
「残念なことに目がな。」
「ああ、多分世界一いい目だもんね。」
「無意識にわかっちまうようだ。」
「それじゃあ行ってくるよ。」
「ジェリーに怒られないのか。」
「彼女には体が無いからね。そこは割り切ってくれるよ。」
「そうか。」
リュトゥーイが出て行った後一つの違和感を覚えたが、疲れた体には抗えずクトゥーは食器を片付けて眠りについた。
朝になりいつの間にか用意されていた朝食には何の違和感も無くクトゥーは顔を洗い席に着く。
「やあ、よく眠れたかい。」
「ああ、お前がいるからな安心してぐっすり眠れたよ。」
「それは良かった。」
先に席についていたリュトゥーイが声をかける。さっきはいなかったのにという思考もなくなり神出鬼没は当たり前になっていた。
クトゥーはゆっくりと朝食を食べながら昨日不図思った疑問を聞いてみる。
「なあ、ジェリーって何で体無いんだ。イセミはあったぞ。」
リュトゥーイの手が止まる。
「話したくないことだったか。」
「いや、そうでも無いよ。」
リュトゥーイは再度手を動かし食べながら質問に答える。
「僕が壊したからね。」
「へぇ。」
「ジェリーは自由な人だからね。僕と契約したらここはもういらないとか言ってたな。」
「そうか。」
「まさか体もなくなるなんて思ってもいなかったそうだが別にいらないといっていたな。」
「彼女らしいな。」
食事を終え軽く体を伸ばす。
「それじゃあ戻ろうか。」
「よろしく。」
「あ、目的地があるなら近くで降ろそうか?」
「あのお前を見られても困るだろ。歩いていくよ、案外早く終わったしな。」
「そうか。」
来た時と同じように魔力で羽を作って足にぶら下がり元いた場所へと運ばれていった。
荒地に戻ってくると二人は簡単な言葉を交わして別れた。
次回から二人に合流します。また、クトゥー一行の旅をまったりやっていきます。




