愚兄とジェリーの出会い
過去編の続きです。ジェリーはあんまり出てきませんでした。
数日後。クトゥーは自室で勉学に励んでいた。書庫から勝手に拝借した本を読み込んでいる窓からは死角になる位置だ。
あれから連絡は来ていない、どういった方法で連絡をしてくるのかすら聞いてはいない。
「クトゥー、ちょっといいか。」
ノックと共に父親が声をかける。慌てずに本を隠し反応する。
「いいよー。」
返事を聞き父親が入室する。
「どうしたの?」
「お前に文が届いたんだが私の知らない名前でなお前に聞いておこうかと思ってな。」
「ふみ?」
一枚の封筒をクトゥーに差し出す。
封筒には花が一輪刺さっており、可愛らしい文字で宛名が書いてあった。
差出人はジェリーという名前だった。クトゥーにも心当たりは無い。
「ジェリーって知ってる子か?」
「うん。このまえともだちになったの。」
「いつだ?」
「しょくじかい?でとうさんをまってるときだよ。」
「あの時か?城の人か?」
「たぶん。」
クトゥーはおそらくリュトゥーイの当てたものだと思っていた。早速中を確認する。クトゥーは父親を外へ出そうとも思ったが不自然ではあるし、差出人の名前まで変えた手紙がパッと見てわかる内容なわけが無いと思い父親の目の前で開けた。
中には白い紙が一枚入っていた。どこを探しても色は付いていない。
そしてクトゥーは一緒に送られてきた花を取る。
ヌユの花。青紫色の花びらが4枚十字に広がり、中心からは白いとさかのような形のもじゃもじゃが出ている。
「白紙か。」
「そそっかしい子だったからまちがったのかも。でもせっかくもらったしたからものにするの。」
「そうか。特に問題はなさそうだし大丈夫か。大切にするんだぞ。」
「うん。ねぇおとうさん。お花ってどうしたらいいかな?」
「そうだな。庭師に話しておくよ。それまで大事に持っていろ。」
「うん。」
王はクトゥーの頭をなでてから部屋を後にした。
数分して庭師が花瓶を持ってやってきて花を生けた。
「定期的に見に来ますけど何か変だなと思ったら遠慮なく行ってください。」
「わかった。」
「それでは仕事に戻ります。」
庭師は簡単に説明すると忙しそうに部屋を出て行った。
クトゥーは花と白い紙を見て考えた。
そしてマッチを取り出し、紙を火にかけた。
真夜中人知れずクトゥーは城を脱走した。
夜も深まり風も無く草木も眠る様に静かな山。一人の少年が陰に隠れ静かに駆け抜けていく。
月明かりも薄く慣らした目と耳を頼りにぐんぐんと進む。目的地を知っているかのように迷い無く進んでいく。
「あ、いた。」
少年は何かを発見しそこへ向かってスピードを上げる。
「定刻前。流石だね。」
「流石に急すぎだろ、少し荒が出る抜け方しか出来なかった。」
「まあまあ、二人とも簡単には抜け出せない身なんだから言いっこなしだよ。」
少年がたどり着いたのはイーワイ国とサン・エルティの国境付近にある山の山頂。
木々も無く雲に隠れた月が顔を見せあたりを淡く照らす。
「まずジェリーって誰だよ。リュトゥーイ。」
「安心して、今から合わせるよクトゥー。」
「それに随分と回りくどい書き方しやがって。」
「その様子だと意味もわかっているみたいだね。」
「そうだな。思い返すとぴったりの花だったかもな。ヌユの花の花言葉は。」
「そうだろ。」
「使者、知恵、火炎。主には火の用心の意をこめても使う花だったな。」
「そうだね。」
「あの手紙は俺をここに呼ぶ使者であり、知恵が無いと読むことは出来ない。それで花言葉の火を使えば簡単に手紙が読める。」
「正解。」
「今日日付が変わる頃、国境の山の頂にて待つ。文章はひねりが無かったな」
「僕も忙しいからね。でも流石だね見込みどおりだよ。」
リュトゥーイはぱちぱちと手を叩いて賞賛する。嫌そうな顔をしながらクトゥーが話を始める。
「また時間がなくなるさっさと本題に行こう。」
「ああ、取引の件だね。まずは君にあってもらいたい人がいる。」
「どこにいるんだ?」
「ここだよ。」
リュトゥーイは自分の胸をとんとんと叩く。
「何を。」
「出ておいで、ジェリー。」
「!。」
その言葉と共にリュトゥーイから脱皮をするかのように一人の美女が現れる。
「君が言ってた子ね。へーなんだか面白そうな子だね。僕はジェリスリューワン。長いからジェリーって読んでくれ。」
「クトゥー・イーワイです。いずれ王家を止めるのでクトゥーだけ覚えてもらえれば大丈夫です。」
「面白いこというね。貴族を辞めたいの?」
「はい。」
「ますます気に入ったよ。まあ、今日は取引の話らしいから僕は後ろで黙ってみてるね。」
声はリュトゥーイから出ているがその女性らしい高音の声にクトゥーは受け入れて会話が出来た。
「さあ、自己紹介はそこまでに本題に入ろうか。」
「取引の件だったな。」
声がリュトゥーイに戻る。
「僕からお願いしたいのは2つだ。」
「ちょっと待て。」
「言いたいことはわかるよ。もちろん君のお願いも一つ聞こう。」
遮られた言葉に思っていた疑問の回答を言われクトゥーは口ごもる。
「続けるよ。まず一つは僕達二人を殺してもらいたいんだ。」
「去り際にも言っていたな。」
「自分で言うのもなんだが僕達は強い。」
「何となくわかるよ。」
「だから、もっと強いものから納得の行く形で負けて殺されたいんだ。」
「難儀な願いだな。それに今じゃ勝てないぞ。」
「もちろんすぐに何とかできることではないと思う。だから君の一生をかけて挑戦してくれ。」
「やるだけやってやるよ。」
「ありがとう。」
時間のかかる難題を頭を掻きながらしぶしぶ受け入れる。
「それで、もう一つは。」
「定期的に彼女の相手をしてもらいたい。」
「戦闘狂かよ。」
「あながち間違いじゃない。」
「まじかよ。」
呆れた様子でクトゥーはリュトゥーイを見る。
「元々外で自由に暮らしていたから王家暮らしだと定期的にフラストレーションが溜まっちゃうんだよ。」
「まあ、わからなくも無い。」
クトゥーも嫌になると時々勝手に家出して見つからないうちに帰ってきている。
「それでいつ溜まるとかわからないんだが。」
「まあ、3ヶ月くらいかな充実した生活や鬱憤晴らしがあれば伸びたりするけど。」
「また同じように一々手紙を貰うのか。」
「いや、その必要は無い。」
スッとリュトゥーイは何かを取り出しクトゥーへ放り投げる。
難なくクトゥーは両手でキャッチし渡されたものを確認する。
渡されたものはアクセサリーのようなサイズの鉄のプレートだった。ご丁寧に首からかけられるように穴を開けて細いチェーンがつけられている。
「鉄板?いや、中に魔力を感じるな。」
「僕達が呼び出したら光るようになっているんだ。」
持っているプレートが緑色に発光する。
「うお!? 何だこれ見たこと無いな。」
「彼女の特製さ。妖人族にも真似できないぶっ飛んだ技術だ。」
「まあ、わかったこれが光ればここに来ればいいんだな。」
「いや、場所は帰るよここでは被害が多くなる。いいところを用意している。次会うときは案内しよう。」
「? まあいいや、わかった。」
クトゥーはプレートをしまった。
「それじゃあ君の願いを言ってごらん。」
「グルーフの邪魔をせず支えて欲しい。」
「決まっていたのかい悩むと思っていたんだけど。」
「あなたは表向き人族の代表国の王だ。そして、グルーフの実力はいずれあなたのお眼鏡に適うだろう。だから先手を打ってあなたに釘を刺す、グルーフを育てきるまでグルーフは守らせてもらう。」
堂々とリュトゥーイの目を見続けながら言い放った。
「確かに昨日の魔力を見ると素晴らしい潜在能力を感じたよ。」
目を瞑りゆっくりとクトゥーの願いを受け入れる。
「わかった。君が納得行くまで手を出さないよ。」
「悪いなとっても美味い果実なんで完熟させるまではお預けだよ。」
「しょうがないさ。君をつまみ食いして我慢するよ。」
「取引成立だな。」
「ああ、文句は無いよ。」
二人は手を握り合って誓いを結ぶ。
「それにしても恐ろしいね。」
「ん? 何が?」
「君がだよ。10歳とは思えない頭の切れと達観した目を持っている。魔力を失った変わりにとんでもないもの授かってるんじゃないのか。」
「どうだろうね。ただ、こんな体にした神様がなんかがいれば文句を言ってぶん殴りたいね。」
「気に入っていないのか。」
「普通に不便だからな。困難じゃなかったらこんな難題な取引もしなずに済んだと思う。」
皮肉ったらく言うクトゥーの姿にリュトゥーイは噴出すように笑う。
「何かおかしかったか。」
「いや、もしかしたら神は君の人間からかけ離れた頭脳と目を見て慌てて他のものを取り上げたのかもしれないな。」
「ああ、なるほど逆の考え方ね。無いから足したんじゃなくてありすぎるから引いたと。ますます憎しみがこみ上げるね。」
「まあ、そんなことは誰にもわからないしわかってどうなる話しでも無いだろう。」
リュトゥーイはクトゥーに背を向けサン・エルティの方向へと歩いていく。
「楽しかったよクトゥー。そろそろ戻らないと間に合わなくなる。また会おう。」
「今度は僕とももっと話そうね。」
二人はそういいながら歩いていく。
「もうそんな時間かわかった。連絡を待ってるよ。」
二人は反対の方向を向き自分の国へと帰っていった。
過去編はとりあえず終わりです。また、現代に戻っていきます。




