愚兄とリュトゥーイの出会い
少し長めになってしまいました。ほとんど過去の話になります。
リュトゥーイがクトゥーの隣に座り、イセミが指輪越しに話しかける。
「正直何から聞いたらいいかわからない。こいつとも出会ってからそんなに日にちもたっていない。だが、友達ではある。友達がこんな大変な目にあって死にそうなことをされて黙っているつもりは無い。」
「そうだね。僕もどこから話してよいのやら。」
「まずは二人の目的を知りたいと思った。ここまでしてやることなのか。」
リュトゥーイは顎に手を当て考える。
「そうだな。改めて問われるとどう言葉にして良いのやら。まあ、簡単に言うと僕達は殺されたいんだよね。」
「殺されたい。」
「うん。もちろんただ単に死ぬのはごめんだよ。僕達にもプライドがあるからね。敗北をしっかり味わいながら殺されたいね。」
「それでクトゥルに目をつけたと。」
「最初は興味本位から近づいたんだけど大正解だったよ。」
「いつからの関係なんだ。」
「もう、15年くらいになるかな。」
「幼少期からなのか。」
「そうだね。少し昔話でもしようか。」
15年前。リュトゥーイはとあるパーティを開いた。人族の代表国として年に一度各国の交流会をかねた恒例の催し物だ。
毎年やっていることなので大人はあまり変わり映えの無い連中ではあった。ステージで一通り挨拶を済ませ会場内を見渡しながら歩いていた。
「お、いたいた。あそこか。」
いつもはつまらない近況報告やお世辞を聞くだけの退屈な会。でも、今日は違った。次世代を担う子供達とも交流がしたいと進達し、6歳から15歳位の王家の子供達も招待した。
お酒に合う料理を中心としたテーブルとは別にテーブルを用意していた。そこに10人ほどの子供達が料理を楽しんでいた。
「やあ、こんにちわ。料理は口にあったかな。」
「リュトゥーイ王!?。」
最年長と思われる一つ頭の出た男が気づき頭を下げる。
「本日はお招き頂きありがとうございます。大変美味しい料理を皆で楽しんでおりました。」
それにあわせて周囲の子供達も同じように頭を下げる。
「失礼しました。私、」
「ああ、自己紹介とかはいいよ。堅苦しいのも抜きだ。君達はまだ王や女王では無い王家の子供というだけだ。無礼だとかそういうのは気にしないで色んな話を聞かせてくれ。」
「ですが。」
「正直、毎年堅苦しく腹の読み愛をしているような大人達の会話に飽きたんで言葉は悪いが暇つぶしの意味もあるんだ。だから肩書きとか後ろ盾とかは気にしないでちょっと金と権力を持った胡散臭い男リュトゥーイとして接してくれ。」
「わかりました。みんな顔を上げて言葉通りだ、せっかくだし色々お話をしよう。」
子供達はその言葉に顔を上げリュトゥーイの元へと群がった。
「おや、意外と人気があったんだな。」
「子供の頃から聞かされていますしみんな色々と興味があるんですよ。」
「君も最年長だから崩さずに堅苦しく来ると思ったんだが。」
「ええ、何も無ければそうなっていたでしょう。」
含みのある言い方にリュトゥーイは眉を上げる。
「なんだか、面白い話かな。」
「いえ、気づいたらこのメモがあったんですよ。」
一枚のメモを取り出し見せる。
“子供は上の子供を見てまねをする。だから君が指標となる。リュトゥーイ王の支持は君が真っ先に受け入れろ。”
意図的に定まらない筆跡でかかれ筆跡からの特定は難しくさせていた。
「このメモのおかげで柔軟な発想が出来ました。もし私の対応が間違っていましたら申し訳ありません。」
「いや、君の行動は正解だ。このメモはどこで。」
「それがわからないんです。いつの間にかポケットにありまして、父が入れていてくれたのでしょうか。」
「それだと筆跡をぼかす必要が無いはずだ。この助言は一つの功績となり評価を上げる可能性があった。それをわざわざぼかすという事は何か裏があるのかもしれないね。」
「なるほど。確かにそうですね。」
「このメモいただいてもいいかな。」
「はい。構いません。」
「少し興味が湧いた。」
リュトゥーイは紙を受け取り子供達との会話を楽しんだ。
腹の探りあいを常にしているような大人の会話と違い純粋な質問や体験談や自慢にリュトゥーイは久しぶりにこの会を楽しんでいた。
大人達も楽しそうに話す子供達に割り込むことが出来ず、リュトゥーイの作戦は成功した。
「そういえば今日はこれで全員か。」
「いえ、イーワイの男兄弟も来ていたのですが、全ての料理をチェックすると兄の方が弟を連れてどこかに行きました。大国だからといって調子に乗りすぎです。特に兄は10にもなるのだからもう少し自覚を持つべきだと思いますね。」
「そうか。」
「あ。」
そのとき、聞き覚えの無い子供の声がしてリュトゥーイは振り返る。
「もう来てたのか。グルーフ並べ挨拶だ。」
「わ、わかった。」
10歳くらいの男の子が二人並ぶ。
「ああ、挨拶とかは大丈夫だよ。リュトゥーイ王は僕達の話を純粋に聞きたいそうだ。二人もそのまま話しに混ざってくれ。」
「「はい。」」
移動をするときにチラリと兄の方が笑ったように見えた。
イーワイ兄弟が合流し10分ほどでお開きの時間となる。
「時間だな。今日は楽しかったよありがとう。」
そう言ってリュトゥーイは子供達の下を立ち去る。
「イーワイ国として大丈夫なのか。あまり話せなかったんじゃないのか。」
「今日はイーワイをせおって来てませんから。」
「俺の代で№2の国を変えてやる。」
「・・・。」
イーワイ兄弟は何も返さなかった。
リュトゥーイは再度ステージを目指す。
「いかがでしたか。」
一人の初老の男が脇に位置取り歩きながら声をかける。
「イーワイ兄弟ともう少し話がしたい。イーワイ王に別室で待機してもらってくれ。」
「かしこまりました。」
そう言ってスッと横からいなくなった。
ステージに登壇しリュトゥーイは挨拶をして会は幕を閉じた。
子供達も親と合流し、各々の足で帰路へとついていた。
「イーワイ国王様。」
子供を二人連れイーワイ王は帰ろうとしていた。
「私か。」
「少々お話がありまして少しよろしいでしょうか。」
「ああ、私は構わないのだが。」
ちらりと二人子息子を見る。
「お子さんはこちらで一度預からせていただきます。」
「そうか。すまないが、よろしく頼む。」
「いえいえ。」
一人の女中を呼び、指示を出して兄弟とどこかへ行き、イーワイ王も男に目的地へと向かった。
「急に呼び出してすまないね。」
リュトゥーイが扉を開く音がして声をかける。
「そんなに警戒しないでくれ。さっきは話せなかったからね少しお話がしたかったんだよ。クトゥー・イーワイ、グルーフ・イーワイ。」
リュトゥーイの前には二人の男の子がいた。
クトゥーが前に立ちリュトゥーイを警戒し、グルーフが後ろで周囲を警戒する。
「僕達の名まえおぼえてくれたんですか。」
クトゥーは笑顔を作り、さっきまでのおびえた様子を消した。
「うん。とても興味深かったからね。」
「やったなグルーフ。」
「うん。兄さん。」
うれしそうに兄弟は手を合わせる。
「この部屋はどこにも繋がっていないし音が漏れることも無い。もちろん窓から除くなんてこともできない。」
兄弟は戸惑いの表情を見せる。
その表情にリュトゥーイは笑う。
「素でいいってことだよ。さっきの警戒した目は10歳の目じゃないよクトゥー君。」
その言葉に、一息つき目つきが変わる。
「どこで、そう考えられたんですか。」
「兄さん。」
「大丈夫だグルーフ、何とかする。」
クトゥーはグルーフを背中へとやる。
「君達の足取り、武術をしっかりと学んでいるいい動きだ。しかしそれなのに君達の発言は幼い、特にクトゥー君。」
「・・・。」
「さっきの警戒の目で僕の中では確信になっているよ。」
クトゥーは睨むようにリュトゥーイを見る。その目にリュトゥーイは自分の推理が当たり口角が少し上がる。
一度、目を瞑り手を上げて話す。
「わかりました。上手く隠したつもりだったんですけどね。」
「兄さん、いいのか。」
「ああ、しょうがないさ。」
「やっぱり、君は素のほうが魅力的だね。」
「お褒めに預かり光栄です。」
クトゥーとグルーフはお互いに見合う。
「リュトゥーイ様、申し訳ありませんが弟グルーフは退席させても。」
「兄さん!?」
「理由を聞こう。」
「グルーフはまだ10にもなっていない子供です。責任や取引なら私が受けます。」
「君も子供だが。」
「我々は今子供しかいません。ですので兄として弟を守りたい思いです。」
「僕はいいよ。弟君を納得させな。」
クトゥーは一切グルーフを見なかった。
「兄さん。」
不安そうな声を出すグルーフ。
「言ったとおりだ。お前に余計な責任を負わせない。ここは退いてくれ。」
「でも、いつも兄さんが。」
「ごめんな。いつもの俺の我侭なんだ。安心しろお前は立派に育て上げてやる。お前は無力じゃない、まだ潜在能力が出てきていないだけだ。」
「そういうことじゃ。」
「だから、まだお前が弱い今の内だけ兄貴面させてくれ。」
足音が響き扉が開く音が聞こえる。
「いつの日か。肩を並べようそのときまで待ってくれ。」
「兄さんの肩なんてすぐに超えてやるよ、並べる時間なんて作ってやら無いんだから。ばーか。」
バンと音を立てながらグルーフは部屋を後にした。
「いい兄弟だな。」
「自慢の弟です。」
改めてリュトゥーイは残ったクトゥーを見る。
「それでどうしたら黙っててもらえますか。」
「ああ、そうだな。」
リュトゥーイは違和感に気づく。
椅子から立ち上がりクトゥーへと近づく。
そして手を取った。
「君は。」
「?」
「魔力が無いのか。」
「!」
クトゥーは驚愕の表情を浮かべ反射的に手を引いた。
「随分強い魔力を持った二人だとは感じていたが、ということは。」
「そうです。全部あいつの魔力です。」
「そうか。いや驚くべきは君のほうか。」
リュトゥーイの目が変わる。
「何故君はこんなにも強くいられるんだ。」
魔法世界であるこの世界で魔力が一切無いということは致命的である。道具や生活にも魔力や魔法が関わりつつあるこの世で魔力が少ないだけでも問題になる。それなのに今目の前にいる少年は一切内のにもかかわらず代表国の国王を前に堂々と立っている王家の息子だ。リュトゥーイは尊敬すら感じた。
「よくわかりませんが、私には希望がある。それを見届けるまでは死ぬ気はありませんよ。」
「グルーフか。」
「はい。あいつはイーワイの王になる男です。」
「兄であるお前ではなくか。」
「はい。私は弟を立派な王に育てるんです。」
リュトゥーイは俯いた。肩を震わせた。初めて出会う男に感情を抑えきれなかった。
「はっはっはっはっはっは。最高だよ。クトゥー・イーワイ。」
大きく腹お抱え背中を沿って大笑いした。
「取引とは別に友達になってくれ。」
リュトゥーイはクトゥーへ手を出した。
「何かのご冗談ですか。」
「いや、冗談じゃない。この僕リュトゥーイはクトゥー・イーワイ、グルーフ・イーワイを気に入った。王としてではなく個人としてだ。友達として色々な面で協力してあげるよ。」
「信じていいのか。」
「構わない。何にでも誓ってやろう。」
「わかりました。信じます。」
クトゥーは手を取る。
「私と弟をよろしくお願いします。」
「友達に敬語なんて要らないさ。僕は上下関係が大嫌いなんだ。腹の探りあいなんて陰気臭くてやってられないよ。」
その言葉にクトゥーは微笑む。
「奇遇だな。俺も大嫌いなんだ。」
そうして二人は固い握手を握った。
「それで取引は。」
「ああ、また今度詳しく話そう。今日は長く喋りすぎたもう帰ったほうがいいだろう。」
「わかった。」
クトゥーは扉のほうを向き歩き始めた。
「そのまま聞き流せ、お前には俺達を殺して欲しい。また会おう。」
クトゥーは言われたとおりに聞き流し振り返ることも聞き返すこともせずに無言で部屋を出た。
次回も過去編になりますね。一応次回で過去語りは終わりにしたいと思っています。




