愚兄対リュトゥーイ
少し遅れてしまいました。またいつものような感じでやっていきます。
「ぁ・・・ガッ。」
クトゥーは慌てて呼吸をした。おぼれた人のように呼吸が上手くできない。声を出しながら一生懸命に空気を体内に取り入れる。
取り入れた瞬間、長年動かしていない機械を動かすようにクトゥーの体が動き始めて血流をまわす。
今まで止まり、意識は既に体を忘れていたクトゥーは四つん這いになるのもおぼつかないまま苦しそうに荒れた呼吸をする。心臓というエンジンが回り始めどんどんと正常の動きを取り戻すにつれ動いていなかったほかの臓器も動き始める。
クトゥーはその臓器が異物と思うほど体に馴染まず吐き気や拒絶反応に苦しみのた打ち回っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
「おかえりクトゥー。」
「・・・ハァ、ただいま。」
リュトゥーイが近づきクトゥーに声をかける。
「お疲れ様。」
「あー、こればっかりは慣れないな。まだ、あっちの空間の感覚が残ってしまっているよ。」
少しずつ息を整えるクトゥー。イセミの指輪を見て確認する。
「それで俺はどうなっていたんだ。」
「クトゥルがジェリーさんに魔力を流されてゆっくりと眠るように力が抜けて行ったようだった。ゆっくりと地面に眠らされた直後に動き出して苦しみだしていた。」
「そうか。」
「何があったんだ。」
「死んでたんだ。」
「そうか。」
イセミはすぐにそのことを受け入れた。
「案外あっさり受け入れるんだな。」
「完全に力が抜けていたからな。意識が無いことは間違いないと思ったよ。」
クトゥーが頭をかきながら周囲を見渡す。
「あれ?ジェリーはどこへ。」
「彼女なら満足して僕の中に戻ったよ。」
リュトゥーイが楽しそうにクトゥーの疑問に答える。
「あそこまで来られて満足したみたい。これ以上あそこまで近づける自信ないでしょ。」
「ああ、半分奇襲だったからな。」
「だから今日はここまでにしとくって。いい状態で終わらせたいらしいよ。」
「そりゃ仕事が速く終わって助かるな、と思ったんだが。」
クトゥーは改めてリュトゥーイの目を見る。
「どうしたんだ、珍しく生き生きとしてるな。」
「遠まわしに言うなんてつれないじゃないか。」
「それじゃあ、随分とやる気じゃないか。」
「君の成長を見て久しぶりにね。」
端から見れば先ほどまでと同様に落ち着いた傍観者の風貌でリュトゥーイは立っている。
だが、クトゥーには違いがわかったようだ。
「体が馴染んだら少し相手をしてくれないか。」
「俺に拒否権は無いんだ。好きにしろ。」
「もちろん。」
クトゥーは落ち着きを取り戻し体のいろいろな部分を動かしストレッチをする。
ふーっと息を大きく吐き立ち上がる。
「お待たせ。」
「もういいのか。」
「ああ。チャッチャとはじめようどうせ勝てないんだ。」
「そうか。君の踏み込みが開始の合図で構わないよ。」
「余裕だな。」
「さっきまで死んでたじゃないか。」
「それもそうだな。」
キッとお互いの目線が鋭くなり集中した空気が広がる。
クトゥーは錫杖を構え、リュトゥーイは拳を構える。
クトゥーが踏み込み、試合が開始された。
クトゥーは距離をつめて錫杖を突きつける。
むにゅんとした丸い何かに当たり攻撃が届かない。
「少し焦ったな。一段と速くなってるね。手の形まで作れなかった。」
「お前も魔力を固めるのも速くなったな。」
「やはり身体能力じゃ劣るね。魔法を使うよ。」
「一々言うなんて俺へのあてつけか。」
「そのつもりは無かったな。」
お互いの顔を見合い口角を上げる。
「我が魔力よ我が肉体と共鳴し能力を強化せよ。」
リュトゥーイの体に魔力が溜まり、全身にめぐる。
同時に錫杖の拘束が解けクトゥーはすかさずリュトゥーイへ攻撃を仕掛ける。
先程よりも鋭い動きでリュトゥーイは攻撃をかわし、クトゥーへ拳を突きつける。
クトゥーも冷静に攻撃を避ける。
クトゥーが再度攻撃を仕掛ける。リュトゥーイが半身になって避けようとするところでクトゥーは錫杖を止め縦に持つ。そのままリュトゥーイの右足を蹴り払う。
リュトゥーイは前に体勢を戻そうにもクトゥーの錫杖が邪魔で上手く力が入らない。
しかし、リュトゥーイは慌てない。後ろに回るように払われていないほうの足の位置を変えクトゥーに背中を向ける。錫杖を掴み体に流す魔力量を増やす。
「おおおぉぉぉぉおりゃっと。」
力を入れる為に声を出しながら背負い投げるようにクトゥーを投げた。
「ぬおおぉぉ。」
クトゥーも驚きながら30mほど先で着地し、すぐに振り返って距離をつめる。
しかし、既にリュトゥーイの攻撃が始まっていた。魔力を固めた拳がクトゥーへと飛んでくる。体をひねり避け、クトゥーは険しい表情をする。
(クソ、距離をとられてしまった)
詰めようにも次々に飛んでくる魔力に中々詰めきれずにいる。
一方的な攻撃が続く、クトゥーも着々と避けながら前へ前へと近づくが、リュトゥーイも近づけさせまいと魔力を乗せ拳を打つ。
ジリ貧を強いられているクトゥーは仕掛けることにした。ポケットから小さな玉を4つ取り出し、同時にリュトゥーイへと投げる。
リュトゥーイも反応し全ての玉を打ち落とす。攻撃が当たると玉から白い煙が視界を覆った。
(新技か。面白いことをどんどん覚えるな。)
リュトゥーイはしっかりと構えなおし、右手に魔力をこめる。腰を回し手首を回しながら大きな魔力を突き出した。
煙は散り煙の真ん中に空洞が出来る。パッと見でクトゥーの姿は無い。すぐに右腕を戻し左腕を振り上げながら右を見た。同時に錫杖が散った煙から動き出す。すかさずそこに魔力を撃つ。
「ぐっ。」
膝を着いたのはクトゥーだった。
「危なかった。錫杖のリーチがもう少し長かったら当たっていたね。」
「ハァ・・・ハァ・・・あと少し近づけていれば。」
少し冷や汗をかきながら褒めるリュトゥーイと腹を押さえながら悔しそうにするクトゥー。
「煙玉なんてどこで習ってきたんだい。」
「ハァ・・・知り合いに教えてもらってな。」
「煙玉で距離をつめて僕の攻撃にあわせて煙にまぎれるように避ける。そのまま僕の攻撃の前にしとめようとした。」
「だが、お前はそのことを読んだのか後ろに下がりながら攻撃を入れた。」
「偶々反応できただけだよ。」
「そうかい。」
ふーと息をつき体を休めるクトゥー。
「それにしてもここまできてくれるとは思ってもいなかったよ。グルーフなら僕達に勝てるんじゃないか。」
「今日はどっちも奇襲に近い。」
「それでも勝てればそれは紛れも無い勝ちだ。」
「だとしてもまだだな。あいつにはまだ強くなってもらわないとな。」
「厳しいお兄さんだな。」
「たった一人の兄弟だからな。」
「そうか。」
「満足か。」
「ああ、いつもありがとうね。」
「それじゃあ、少し寝る。」
「ごゆっくり、起きたら食事にしよう積もる話もあるだろうしな。」
「ああ。俺も色々聞きたいしな。」
そう言ってクトゥーは横になって眠りについた。
その寝顔はとても安心した顔でクトゥーは熟睡した。
「さて僕も久しぶりにあんなに動いて疲れた。少し休むか。」
体を伸ばしゆっくりとストレッチをするリュトゥーイに声がかかる。
「すまない。少し話がしたいのだが。」
「いいよ、僕もしばらく暇そうだしね。」
声の主はイセミ。リュトゥーイは指輪の近くに座った。
次回クトゥーの過去を話す予定です。




