愚兄対ジェリー
会話少なめの回になってます。なかなか戦闘表現は難しいですね。
「それじゃあいつものように僕を楽しませてね。」
「期待に答えられるように頑張りますよ。」
「スタート。」
ジェリーの開始宣言と共にクトゥーは大地を蹴った。リュトゥーイもジェリーの後ろへと下がっていく。
ふわふわと空に佇むジェリーはクトゥーを見下ろしながらまがまがしい大きな腕を4本クトゥーへと向ける。これは魔力を固めた彼女のオリジナルの魔法だ。
流星の如く襲い掛かる脅威をクトゥーはすばやく軽やかに避ける。前後左右に来る攻撃をかいくぐりながらジェリーへと近づく。
そのスピードは常人では手も足も出ない圧巻のスピードであった。
点で襲い掛かるだけでなく腕ごと振り下ろしたり下ろした腕を横に振るなど縦横無尽の攻撃がクトゥーを襲う。
クトゥーはその攻撃表情一つ変えずに進み続ける。
「流石に早いけどこれ以上は近づかせないよ。一気に上げるわね。」
ジェリーの背後から現れる手が4本増え8本へと変わる。単純に考えて二倍以上の攻撃速度になる。
クトゥーは表情を変えることなく見事に攻撃を回避し続ける。表情を変えずに避ける。
「凄いよクトゥー。君は本当に強いんだなこれならジェリーさんにも勝てるんじゃないか。」
「・・・。」
「クトゥー?」
「イセミ、見ていてくれ。」
「! すまない。そうだったな。」
イセミは見ることに専念した。話しながら避ける攻撃ではない。現にクトゥーの近づくスピードは格段に落ちている。
少しずつ前に進もうとはするが避けるために後ろに下がらず終えない場面も出てきている。
魔力の腕が地を割き地を砕く轟音だけが広がり続ける。
それでもクトゥーは少しずつジェリーへと近づく。
「ハッハッハッハッハッハ、流石だね。出してる分は割りと本気で動かしてるんだけどやっぱり速いね。」
「そりゃ光栄だ。」
一人は楽しくおもちゃで遊ぶ子供のような屈託の無い笑顔を見せ、片方はジッとその子供を見ながら無表情で歩みを進めていく。
近づくにつれて攻撃の鋭さが増す。発動者の彼女に近づくにつれもちろん精度が上がってくる。
約5mその距離を縮められずにクトゥーは一進一退を繰り返していた。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
クトゥーの息が荒れ始める。
クトゥーの動きはなるべく小さく避けるように動いてはいるが決して小さな動きではない。
更に、前後左右あらゆる方向から攻撃が飛んでくるため、常に全体を見て最善の動きでよけなくてはいけない。その集中力はとんでもない疲労へと変わる。
クトゥーが確認しなくてはいけないのは彼女の腕だけではない。彼女の攻撃によりダメージを受けるのはクトゥーだけではないからだ。
地面もまた彼女の攻撃の影響を大きく受ける。
常に地面が飛び交う石や攻撃の勢いによって変動を繰り返している。着地の失敗は被弾へと直結する。
「へぇ。」
離れたところで高みの見物を決めるリュトゥーイが興味深そうに声が漏れた。
子供の成長を見るかのようにどこか楽しそうな表情を浮かべる。
「やっぱり僕の直感は間違っていなかったんだな。」
二人は拮抗状態にあった。お互いに隙を一切作らず激しい攻防を続ける。
クトゥーはだんだんと息が上がり、ジェリーは口角が上がっていく。
「いいよ。いいよクトゥー。君の自由な動きをもっと私に見せてくれ。」
少し睨むような怪訝な表情をする。
そのとき戦況が大きく動く。
(!)
「!」
一瞬の出来事であったが二人は同時に眼を見開いた。
クトゥーの着地した場所が着地と同時に少し崩れた。比例してクトゥーの体勢も少し崩れる。その少しはギリギリの攻防をする二人には大きなものとなった。
ジェリーはすぐに近い腕を2本クトゥーへと向ける。挟み込み捕まえるように腕を合わせる。
(!?)
いない。そう思ったジェリーは落ち着いて残っている6本の腕をすばやく自分のほうへと伸ばす。
ガシッ。
目の前にまで迫り錫杖を構えるクトゥーを捕獲する。
「くっそ~、あと少しだったんだがな。」
既にジェリーの表情に笑みは無く真剣な顔でまっすぐクトゥーを見てた。
そこにリュトゥーイが楽しそうに前に出てくる。
「誘ったな。」
発せられた声はジェリーだ。
「ああ、地面の崩れに合わせれば行けるかと思ったんだが判断力と行動の迷いの無さは流石だね。」
「なに、褒めるのはこちらのほうだよ。君を過小評価していたらこの攻撃は当たっていたよ。君は過大評価しておいて正解だったよ。」
「あらあら、いつの間にそんなに株を上げていたんだろうか。」
「出会ったときからだよ。」
声がリュトゥーイへと変わる。
「子供の頃であったあのときには君には可能性を感じていたよ。」
「魔力の無い糞餓鬼にか。」
「ああ、魔力は完全に無いなんて逆に希少だよ。それに、君は魔力が無くても生きることをやめてはいない目をしていたからね。」
「そうか。まあ、希望があったからな。」
「グルーフ君だね。彼もすばらしい男だ。国王になって魅力が更に増したね。」
「おお、代表国の王に評価いただけるなんて、やっぱり自慢の弟だな。」
「ああ、今度ゆっくり話そうじゃないか。それに今は。」
リュトゥーイは微笑むのをやめさっきだった顔でクトゥーを見る。
「さっきの動きを見たら僕も久しぶりにやりたくなってきたからね。」
「その顔を見るのも久しいな。」
「ああ、そういえば言わなくてもわかると思うけど新記録だよ。」
「だろうな。始めてあそこまで近づけたよ。」
「もう、ジェリーも8本からの開始になりそうだね。」
二人はジェリーを見ると頬を膨らましてご機嫌斜めの様子だった。
「どうしたんだい。」
「私が何か萱の外何だもん。」
「ははは、ごめんよそういうつもりは無かったんだけど。」
「冗談よ。久しぶりにその顔が見れてうれしかったよ。」
「そうか。」
「もう慣れて来たけどすごい光景だよな。」
声はまるっきり違えど出てくるのはリュトゥーイからのみなのでクトゥーも慣れるまでは脳が壊れそうになっていた。
「そんなことよりクトゥーそろそろあれやろうか。」
ジェリーがサディスティックな表情でクトゥーを見る。
「ああ、あれね。覚悟はしてきてるよ。」
「おや、もう慣れた感じかな。」
「そんなわけ無いだろ。あれに慣れたら人として終わってるよ。」
「僕としてはあれを何回も受けて平然としている君も人かどうか怪しいけど。」
リュトゥーイがクトゥーを茶化す。
「なあ、クトゥーあれって。」
イセミがハッとしクトゥーへと聞いた。
「おお、イセミ忘れてた。お前が行っていた矛盾が今解決するぞ。」
「は?」
「よく見ていてくれ。俺は死ぬから毎回ここの記憶が無いんだ。」
「いや何言ってんだ。」
「まあまあ見てろって。」
クトゥーに諭されイセミは反論するのを止めた。
「それじゃあ行くよ。」
ジェリーはクトゥーへと近づき胸に手を当てる。
「壊れないでよ。僕のおもちゃ。」
「度重なる酷使でそろそろやばいかもよ。」
「でも、しょうがないじゃない。あなたは私に負けたんだから。」
「そうだな。本来ならそうだもんな。」
クトゥーは目を閉じる。
「逝ってらっしゃい。擬死体験。」
俺の意識はスッと消えていった。
次回は少し変わった回になると思います。ネガティブ色が強いそんな回にする予定です。
評価いただきましたありがとうございます。とても励みになります。これからも面白いものが作れるように頑張っていきますのでよろしくお願いします。




