愚兄の作った風呂
少し間が空いてしましました。今回は少し長めになっています。
日も傾き辺りが赤く照らし出された頃、クトゥーとクディは再び村長宅へと戻ってきていた。
クトゥーは扉の前でノックして声をかける。
「村長。二人の迎えに来ました。」
「おお、入れ入れ。」
「失礼します。」
中に入るとテーブルを囲んで3人がお茶を飲んでいた。
「完成したの?」
「ああ、ばっちりだ。今日から使えるぞ。」
「楽しみですね。」
「村長、色々とお世話になりました。我々はこれで。」
「ああ、いつでも遊びに来い。」
「失礼します。」
3人は村長宅を後にした。
「おお、これが風呂場か。」
「立派ですね。」
二人は目の前に増築された小屋を見て驚きの声を上げる。
屋根の上には1,2時間ほど前には無かったものが加わっている。
「色々とこだわりを持って作った。中々いい出来だと思うぞ。」
「でもこれ周りから覗かれない?」
「ああ、俺は失念してたんだがロックスムが仕切り板を用意してくれていた。移動のときは外して使うときにつける感じだな。」
「いや、何で失念してたのよ。男でも嫌でしょ。」
「すまんすまん。まあまずここにいるのも邪魔だし村の外に出るか。」
「そうね。」
ジュティとセミコは小屋の中に入りクトゥーは手綱を持って村の外に出た。
夕飯を取り終え早速風呂場を使おうとする。
仕切り板は背負えるように背負い子のようなものも用意されていた。
はしごを使い3人は風呂場へと上がる。仕切りは四隅と中に止めるための溝の入った台が用意されていてそこに差し込むと簡単に壁が出来た。中に取り付けた板は戸がついていて脱衣所と分けられるシステムになっている。
「それじゃあ、ジュティ特訓の成果を。」
「任せなさい。」
ジュティは手に魔力をためそれなりの勢いで水を生成する。
「おお、中々の水量。」
「まだこれに熱を加えることは出来ないんだけどね。ただ入れ終わった後火の魔法で熱を加えるわ。」
「いやいや、短時間でこれは凄いと思うぞ。」
「私はまだ火をつけるくらいですから速く追いつきたいです。」
あっという間に水が溜まり次にジュティが火の魔法を使って熱を加えていく。
十分に温まったところでジュティは魔法を止める。
「ほんとここだけ見るとただの風呂ね。」
「ああ、十分だな。」
「お風呂なんて久しぶりですね。」
「それじゃあセミコちゃん。」
「はい?」
「一緒に入りましょうか。」
「え。」
セミコは固まった。クトゥーは脱衣が始まる前に桶を取って来ようとはしごを降りた。
「え。何か問題でも。あ、もしかして雪女的に入れない体とか体調崩しちゃったりするのかしら。」
セミコの硬直にジュティが慌てて確認する。
「いえ、その辺は大丈夫です。むしろ好きなほうですよ。ただ。」
「ただ?」
「この体質なのですぐお湯が冷えちゃうのでご迷惑になるかと。」
どこかそわそわしたような感じでセミコは答える。
「温めそれこそ私と入れば温めなおせるわよ。」
「えーっと、二人は狭いんじゃないかと。」
「クトゥー。」
セミコの言葉に桶を持ってきたクトゥーに回答を求める。
「1.5mと長身のジュティでも足を伸ばしてのんびりくつろげるように作ってあるから体格の小さいセミコとなら普通に入れると思うぞ。これ桶な必要なとき、あとタオル洗うときに使うのと水気を取るときに使うのな。着替えも持ってきたからここに置いておく。それじゃあごゆっくり。」
「設計者はこう語って言ったわよ。」
「・・・。」
外堀がどんどんと固められていくことにセミコの目が泳ぐ。
「ごめんなさい無理強いしてしまったわね。軽い気持ちで聞いてしまったわ。私は温めなおすことが出来るし、セミちゃん先に入っちゃっていいわよ。私は少し反省してくるから。」
セミコの様子を見て冷静になりジュティは振り返る。
「あ、いえ、違うんです。私は、その。」
セミコはジュティを止める。
「ジュティさんが一緒に入ろうといってくれたときうれしかったんです。私こんななのでそれでもいいといってくれるのはうれしかったんです。ただ。」
ジュティは改めて振り返りセミコを見る。
「一糸も纏わぬジュティさんの体を前に私の心が持つかどうか。」
「はい?」
ジュティは自分とセミコの体を見比べる。
剣を振り冒険者として剣を持つものとして一日も鍛錬を欠かすことは無く、最近では自分の能力の向上や目標となる男の実力を知り練習量が増えている。そんなこともありジュティの体はとても引き締まっている。また、女性として出るところも程よく出ているためとてもバランスの取れたいい体をしている。
一方セミコはジュティと対照的で特にどこか出ているということも無く手足も身長相応の長さだ。
「セミコちゃんも十分かわいいわよ。それに一回襲われているわけだし十分魅力的よ。私襲われたこと無いもん。」
「いやいや、全然うれしくないですし、そもそもジュティさんが高嶺過ぎるんですよ。」
「そう?クトゥーなんて、セミコちゃんに少し距離を置かれただけで固まるのよ。」
「絶対娘みたいにしか見て無いですよ。」
「それは否定できないわね。」
「はぁ。わかりました一緒に入りましょう心が折れたらよろしくお願いします。」
「そんなに思い悩むこと無いって。」
そういいながら二人は服を脱ぎ浴槽へと向かった。
「すっごいスベスベ、綺麗ね。肌触りも抜群だしこの丸みがなんともいえない優しさを感じるわね。見ただけでもわかっていたけど実際に触ってみると心地よさが段違いね。」
「ジュティさん、浴槽の話しましょう。何で浴槽で私の体撫で回してるんですか。」
「触りたかったから。やっぱり十代で戦いを知らない肌は違うわね。」
「ジュティさんも十分綺麗ですよ。こうやって何も身に着けていないと本当にバランスのいい体してますね。出すぎず出なさすぎず、よく襲われませんでしたね。」
「そうかしら?巨乳でも無いし貧乳ともいえない中途半端な出方してるわよ。」
「いやでもその分形とても綺麗ですよ。」
「触ってみる?」
「いいんですか。」
「どうぞ。」
「うわぁ、ハリのあるすごい揉み心地ですね。腕や足も凄い太いわけじゃないんですね。」
「筋肉をつけたいわけじゃなく強くなりたいだけだからね。」
「違うんですか。」
「違うわよ。もちろん強さに直接繋がる面も多いけど結局女性は筋肉だけでは男性には勝てないわ。」
「体質的にですか。」
「そうね。真に鍛えた男性の筋肉には勝てないわ。」
「そうなんですね。あ、お背中お流ししますよ。」
「それじゃあ変わりばんこに洗いましょうか。」
小屋の扉が開く。
「いやーさっぱりした。クトゥー素敵なお風呂場だったわ。スベスベで触り心地も抜群だったわ。」
「どっちが。」
「ちょ。」
「どっちもよ。」
「ジュティさんもまじめに答えないでください。」
「というかクトゥー覗き?」
ニヤニヤとジュティは見つめる。
「違う。屋根無いから全部丸聞こえだぞ。」
「え。」
「そりゃそうよね。温めなおしておいたから温度は問題ないと思うわぬるかったら呼んで頂戴。」
「助かるよ。少ししたらクディを横に待機させておいてくれ。」
「クディも洗うのね。」
「流石に上には登らせられないからな。」
着替えとタオルを持ち小屋を出ようとするクトゥー。
目の前に固まったセミコ。
「ああ、セミコ。人間それぞれの魅力ってのがあるから、ああ、何だ。お前はお前で充分魅力的だぞ。」
そう言って肩を軽く叩きクトゥーは小屋を出た。
「・・・恥ずかしいこと聞かれた。」
そのままセミコは膝から崩れた。
クトゥーとジュティが浴槽の水を捨てながらクディを洗い終え、小屋に戻ったところでセミコは復活した。
「何で気づかなかったのでしょう。」
お茶を飲みながら3人はテーブルを囲んでのんびりしていた。
「まあ、周りに俺らしかいなかったから別にいいかなと思って。」
「クトゥルさんにも聞かれたくない内容でした。」
少し顔を膨らましながらセミコは答える。
「それよりこの後の目的地とか決まってるの?」
「いや、全然決めていない。」
「そう、それじゃあセミちゃんと話したんだけど魔法の国イジットルルに行かない?」
「何だ、魔法にはまったか。」
「いや、凄い当たる占い師がいるって話題なのよ。」
「何か知りたいことでもあるのか?」
「いや、興味本位。」
「そうか。」
「イーワイ国のこれからでも占ってもらったら。」
「別にグルーフがいれば安泰占うまでも無いね。」
「あの、クトゥルさん。錫杖光ってますよ。」
クトゥーの錫杖の上の装飾のひとつが緑色に発光していた。
その光を見てクトゥーの顔つきが変わる。しっかりと光を見つめ何かと敵対しているような目をし、恒例行事を迎えるような慣れた表情をしていた。
「そんな動きがあったの?何か見たことあるような光り方ね。」
全員がその光に注目する。
「この光は僕の作ったものと同じものだ。クトゥルこれどこで手に入れたんだ。」
クトゥーの指輪からイセミの声がする。
「・・・。」
「クトゥー。」
「クトゥルさん。」
すぐにクトゥーは答えなかった。
不思議そうに二人は声をかける。
「ジュティ。」
「何?」
「先にみんなでイジットルルに行ってくれ。」
「・・・あなたはどうするの。」
「用事が出来た。後から追いつくよ。単独行動が続いて悪いがよろしく頼む。」
荷造りをしようと立ち上がるクトゥーの方をジュティは無意識に肩を掴んでいた。
ジュティとセミコは直感で今までに無い雰囲気を感じた。決意を固め覚悟を決めた様子にジュティは動かざる終えなかった。
「どうした。」
「本当に追いつくのよね。何かいつもと雰囲気が違うわよ。」
「そうかな。」
「・・・絶対に追いつきなさいよ。」
「もちろん。俺は基本できることしか言わないよ。」
ジュティは掴んでいた手を離した。
セミコはクトゥーの目の前に立ち顔を胸にうずめる。
「クトゥルさん。無事で帰ってきてください。」
「当たり前だ。お前の料理はまだ食い足りていないんだ。今、俺からお前と別れることは無い。」
「また、みんなのために料理を作らせてください。」
「ああ。」
静かに夜は深くなっていった。
「イセミ。さっきは答えられなくて悪かったな。」
深夜。朝に出発することを伝えクトゥーは今日の夜間警備についていた。
「問題ないよ。二人には言いづらいことだったんでしょ。二人の通信も切っているよ。」
「察してもらえて助かるよ。」
暗闇に包まれる中、小さな青い光が空から迷い込んだ星のように輝く。
「明日会う奴らを見れば答えになると思う。」
「今は言えないの?」
「ああ。」
「わかった。」
「あと、明日のことは誰にも言わないでくれ。二人には特に。」
「それは見てからになるけど善処するよ。」
ジュティとセミコをもっと見たかったごめんなさい。またクトゥーの単独回が始まります。




