愚兄のいない休日
クトゥーは出てきません。名前だけです。
イーワイ国城下町。ここに一人の商人が5人の女性を連れて町に入った。
「到着。イーワイ国城下町。流石に何回も来てるとクディも止められなくなったわね。」
ジアッツ村での食事会から3日後、途中ホーフルフの町でヒジェの討伐報告を行い商人の契約書を処理して城下町へとやってきた。
「私達がこんなに貰っていいんだろうか。」
商人の契約書があり、ヒジェ強姦事件を起こした商人の店はつぶれその分のお金がミロイ達3人に分配された。
あまり名を上げてはいないにしろ、1商人の資産は馬鹿にならないものになっていた。
「今までのツケだと思って貰っておけ。」
「そうは言われてもな。」
ドゥエンスはしきりにそう言うも3人には見たこともない額で戸惑いを覚えている。
「それに私達定住しているものが無いので持ち歩くにはちょっと辛いですね。」
「ああ、そうか。それじゃあ、うちで預かろうか。もちろんちゃんとそれぞれに帳簿をつけるよ。」
「本当か。それは助かる。」
「それじゃあ、まずは私の店に戻ろうか。」
「了解。クディ行くわよ。」
「がう。」
ゆっくりと城下町を歩きドゥミラ・モニトイへと移動した。
裏に回りヨンディ車が並ぶ場所に小屋を引き停車させる。クディを小屋から外し停車を完了させる。
「それじゃあ、私はこいつを仕分けして商会連中に売りに行って来るからみんなは中でゆっくりしてて。」
「私達で出来ることなら手伝わせてはもらえないか。」
「いいのかい。」
「はい、商人の契約書の件スムーズに行ったのはドゥエンスさんのおかげですし、それの礼ですよ。」
「ただ、やったこと無いので美味くできる自信はありませんけど。」
「いや、助かるよ。まさかこんな量を捌くとは思っていなかったからね。商会連中に手伝って貰おうと思っていたところだったんだ。」
そう言って4人は後ろにつけたヒジェ6体分の素材の仕分けに入った。
「ああ、ジュティさんお金は。」
「後でいいわよ。しばらく私達もここでゆっくりするしね。」
「助かるよ。」
クディは既に眠りにつき、セミコは中で料理の研究をしている。今は美味しいソース作りに励んでいる。
(とは言っても。やること無いわね。特に眠いわけでも無いし、少しぶらついてきますか。)
「ドゥエンスさん、私出かけてきてもいいかしら。」
「ああ、いいよ。」
「もし、何か襲われたらクディ叩き起こしていいんで。」
「わかった。」
そういてジュティは街中を散歩に出かけた。
ホーフルフの洞窟探索の後一度戻っては来たがクトゥーから連絡がありとんぼ返りで戻ったためじっくり回るのは一月振りくらいだ。
(ちょっと前まではあの城で女中として仕えてたんだっけ。まさか、あんな偶然自分のスランプを解決することが起こるなんてね。まあ、今は思っていた方向よりも違う方向に強くなってる気がするけど。)
元々覚えていた風魔法、身体強化魔法に加え、人水の魔法を覚えようとしている。剣を学ぶはずがクトゥーが異様な方向に知恵が広がっているためいつの間にかこんなことになっている。
(ま、強くなれれば何でもいいんだけどね。ギルドに情報収集とでも行きますか。)
特に行き先を決められなかったジュティは何となくギルドへと向かった。
しばらく顔を見せていなかったからか今までのようにざわめきだすことは無かった。しかし。
「お姉さん一人ですか。良かったら俺達のパーティに入りませんか。」
「遠慮します。」
「じゃあ、俺たちのパーティはどうだ。ランクもCだし不自由な生活は遅らせないよ。」
「特に今不自由には思って無いので、失礼します。」
男からのパーティの勧誘が止まらなかった。
(面倒ね、何でそんなに一人だと話しかけてくるのかしら。ん。)
ジュティには自分の尻をチラリと見つめ周囲を伺い新聞を広げテーブルに座る男が見えた。
「失礼。」
「え。」
フニッ。
「ちょ、何すんだクソ野郎。」
「違う。俺だってお前を触りたかったわけじゃねぇ。てめぇこそ邪魔しやがって。」
触られる直前に一人の男冒険者の肩を押さえするりと体を入れ替えた。その結果悲惨な光景が生まれた。
「こんな昼間から喧嘩なんてここのギルドも治安が悪くなったわね。お姉さんここ2ヶ月くらいの新規賞金首とかありますか。」
「えーっと、少々お待ちください。」
引きつる笑顔のお姉さんは中の方へと資料を取りに行った。
「特にいい情報は無かったわね。」
ギルドを後にして町の中を再び歩く。
(・・・。)
しばらく歩くとジュティはイーワイ城の目の前にいた。
「すいません。アポイントとか無いんですけど、グルーフ王にって会えますか?」
「いや、会えるわけ無いだろう。何言ってんだ。」
門番をしていた一人の男に話しかける。
回答はもちろんのことの回答であった。
「いや、昔の知り合いなんですよ。近くに寄ったんで来たんですけど。」
「いや、そんな友達感覚で言うなよ。一国の王だぞ。」
「それはそうなんですけど。」
「あれ。ジュティさんじゃないか。」
その声に二人は顔を向けると3階の窓から顔を出し声を明日グルーフがいた。
「王!?」
「あ、グルーフ様。」
「いよっと。」
グルーフは3階の窓から飛び降り、壁を蹴って門の近くに着地した。
「様や敬語は要らないよ。それでどうしたの。」
「そう、最近使ってないからそっちのほうが助かるわ。近くに来たからよってみた。暇?」
「おまえそんな口の聞き方。」
「暇だよ。せっかくだし話をしようか正面から入るとうるさいからあの3階の偶々開いている窓から侵入しよう。」
「わかったわ。」
グルーフとジュティは強化魔法と風魔法を駆使してぴょんと3階の窓へと跳ねるように入っていった。
「嘘だろ。」
門番は呆気に取られるしかなかった。
二人はグルーフの部屋へと到着してテーブルを挟んで話し込んでいる。
「兄さんは一緒じゃないのか。」
「ごめんなさい、今別行動してるのよ。女性が苦手な木工職人に依頼するものがあってね。」
「ああ、ジアッツ村のロックスムさんかな。」
「よく知ってるわね。」
「王として国の情報は小さなものでも仕入れてるんだよ。」
「それじゃあ、ドゥエンスさんと繋がってることも。」
「ああ、それは知らないドゥミラの亭主と知り合いになったんだ。」
「そうよ。用があったらドゥエンスさん通すと早いかもね。」
「いや、兄さんの力は借りないようにするんだ。」
「・・・。そうごめんなさい余計な事言ったわ。」
グルーフの哀しくも決意を決めた顔にジュティは謝罪をした。
「気にしないでくれ。そのうち兄さんも来るだろう。」
「そうね。いつかひょっこり顔出しそうね。」
その後、ジュティはこれまでの旅の様子を話し続けた。
グルーフもそれに笑ったり感銘を受けたりと楽しそうな様子で聞いていた。
「それで、この町に戻ってきたわけ。」
「成程ね。」
グルーフは腕を組んで考える。
「ジュティさん。」
「何?」
「僕と手合わせしてみます?」
ジュティの目が見開いた。
おそらくクトゥーが育てた世界の中でもトップクラスで強い化け物だ。そんな男の申し出にジュティの心臓が高鳴る。
「それは。」
「純粋にやり合ってみたくなっただけだよ。もちろん寸止めでね。僕も君も死んじゃうと兄さんに怒られるからね。」
その顔は昔見たことがあった。クトゥーの秘密を始めて見た時にしていた楽しそうな顔だ。
ただ、ジュティにはそんなことはどうでも良かった自分も強くなった自分を試してみたいというそんな思いしか頭には無かった。
「場所は。」
「裏山に行こうか。」
そう言って二人は席を立ち誰からも見つからず速やかに裏山へと移動した。
「ここでいいかな。」
裏山の頂上。人の気配も生き物の気配も何も無い。
「ルールはあくまで手合わせ頃しちゃ駄目だよ。」
「ああ、わかっている。」
「時間は、十分くらいにしようか。」
「そうね。」
「武器はお互い自前のものを魔法ももちろん使っていいよ。」
「わかった。」
そうしてお互いに武器を取る。グルーフの剣はジュティよりも刀身が長く太く出来ている。それを軽々と片手持ちをしている。
「そうだ。始まる前に僕のことを教えるよ。このままやっても僕が有利になってしまうからね。」
「そうなのか。」
「さっきまで散々聞いてたし君の動きは一度見ているからね。」
「その頃とは違うよ。」
「もちろん加味しているよ。」
一度剣をおろしグルーフは顎に手を当てて考える。
「そうだな。まず僕は力が強い、もちろん身体強化魔法も使えるけど今回は使わない。ジュティには使うことをオススメするよ。」
「そうね。そう思うわ。」
「あとは、とても速いから注意してね。」
「ええもちろん気をつけるわ。」
「最後に。きっとあなたは兄さんよりも僕の剣が速く感じると思うよ。」
その笑顔に鳥肌が立つ。優しい雰囲気でいつも朗らかに接するグルーフはいない。あの時は驚きが勝ったし正面からこのオーラを受けてはいない。こんなにも相手が大きく怖く感じることは子供の時以来だろう。
それでもジュティはこの手合わせをやりたかった。これからの自分のために。
「じゃあ、始めようか。」
次回、クトゥーの弟対クトゥーの弟子(自称)開戦




