愚兄、重傷を負う
もうすこしこの場でのんびりします。次々回くらいからようやく風呂作りに行きます。長かったな。
ミロイ達3人を前にセミコは一人で座る。最近はクトゥーかジュティのいる環境が多かったため一人で話をするのは久ぶりだ。
「あのセミコさん。」
「は、はい。」
ただでさえ緊張しているのが目に見えて分かるセミコのため、ミロイが話したら余計緊張するだろうと考えあいコンタクトを取った後にクスヒオが声をかけた。
「実は聞きたいことがありましてこの場を設けていただきました。今から話すことは既にジュティさんにも話しています。」
「はい。」
「ジュティさんから軽く話を聞きました。もしかしたら嫌なことを思い出させてしまうかもしれません。それでも、私達はお聞きしたいことなのでどうかよろしくお願いします。」
クスヒオにあわせて二人も頭を下げる。
「あ、頭を上げてください。私の話でよければいくらでも話しますので。」
「ありがとうございます。」
3人は頭を上げる。
「単刀直入にお聞きします。男の人との旅ってどう感じていますか。」
セミコはその問いに目を見開く。
「クスヒオまず私達のことを話さないと何のことかわからないだろ。」
「あ、そうか。すいません。」
「いえ、皆さんのことはお聞きしていますよ。」
人が変わったように落ち着いた声色に3人は驚く。
「おそらくジュティさんは同じような境遇があると話されていたんだと思います。」
「はい。そうです。」
「その話は本当です。私は男の人に襲われかけた経験があります。」
その言葉に3人は息を呑んだ。
「なあ、ジュティ。」
「何?」
「城下町に行ったら今日の商談で決まった150万ギューツで。」
「200万ギューツ。」
「…。200万ギューツでセミコといっぱい楽しんでくれ。」
「言ってくれればいくらか残すわよ。」
洗い物をする二人はお互いの顔を水に横で会話する。
「いや。ジュティもセミコもおしゃれとかしたいだろ。欲しいものもあるだろうし今までバタバタしててそういう時間作れなかったから思いっきり遊んでくれ。」
「わかった。遠慮なく使わせてもらうわ。」
「まあ、そもそもほとんどジュティの手柄だしな。」
「価値を上げたのはクトゥーでしょう。」
「まあ、風呂代が足りなかったときのために力を蓄えておいてください。」
「その前に魔法の練習ね。」
「今この水あなたの手から出ているように見えるのですが。」
洗い物をする二人というのは少々語弊があった。ジュティはただ手から水を出してクトゥーの洗い物を楽しそうに眺めている。ジュティいわく、いかに生活の一部である行動も手際のいい効率的なものを見ると結構面白いとの事で、よくセミコの包丁捌きを眺めている。
「まだまだちょろちょろしか出せないのよ。戦闘で使うとなるともっと威力が必要ね。」
「本当に戦うことしか頭に無いんだな。」
そんな二人の洗い物は仲良く続いていった。
「というわけで結局未遂に終わりまして、その後森で迷ってるところお二人に拾われたんです。」
「成程、怖くは無いんですか。」
「はい、主犯の方はもういませんし、残りの二人にもクトゥルさんが脅しを入れてくださったのでもう恐怖というのはありません。」
「でも、同じような人がまた現れたら、お二人が近くにいなかったら。」
「んーまあ、あの件があったので思うことかもしれませんが襲われたらしょうがないって思いますしやっぱり私は常に冷気が出ちゃいますので襲える人がいるのかが怪しいですね。」
「強いんですね。」
「いえ、強いわけじゃありません。今は、女を失うよりもあの二人を失うことのほうが怖いんです。」
まっすぐな目で語るセミコの言葉には一変の偽りがなかった。
「あの二人の優しさとぬくもりを知ってしまいました。だから私にそれ以上の恐怖が無いだけです。」
「はぁ~。」
ぐったりとクスヒオが背もたれに体を預け大きなため息をつく。
「えーっと。」
「つえぇ。強すぎて参考にならねぇ。」
ゆっくりと体を戻し再びセミコを見る。
「じゃあ、もしクトゥルさんが我慢できなくて襲ってきたらどう思います。」
「え。」
その言葉にセミコは固まり頬を染める。
「え、えっと、クトゥルさんには感謝をしてますし私の体で良ければあの、その。」
「野暮なこと聞きましたご馳走様です。ありがとうございました。椅子片付けときますね。」
椅子を持って小屋の前に二人はいた。
ジュティが見えないほどの剣捌きを見せ、クトゥーがそれを避け続けている。
「お、終わったのか。イスは中に適当に置いててくれ。あぶね。余所見はもうしてられなくなったな。」
「クトゥーのおかげよ。」
二人とも笑っていた。汗の量ははるかにジュティのほうが多いがそんなことどうでもいいくらい圧倒的な戦闘が繰り広げられていた。
「ジュティ今日はここまでにしよう。明日も要になるのはお前なんだ疲労困憊で動けませんでしたって事の無いようにしよう。」
「はぁ、はぁ、わかったわ。はぁ。疲れた。」
「今日のヒジェも上手く切れてたぞ。」
「切り込み有でしょう。あれを無しにしてゆくゆくは首を飛ばさないで首を切りたいわね。」
「どこまで行く気だよ。」
そんな異次元な会話を聞きながら3人は二人の横を通った。
「それでは我々はこれで。」
「明日はよろしくね。」
「はい。こちらこそよろしくお願いする。」
そう言ってミロイ達は村へと消えた。
ミロイ達を見送った後、目をやるとセミコが外で座ったままぼーっとしていた。
「何やってんだセミコの奴。」
「そうね。何か心ここに非ずって感じね。」
「ちょっと驚かしてくるか。」
「程々にしなさいよ。」
「後ろから声かけるだけだよ。」
そう言って足音を消してクトゥーはセミコの背後へと移動する。
「相変わらずそういうことは得意よね。」
足音と共に気配を消したクトゥーは周りの暗さも相まって意識をしなければ見失ってしまうほど闇に溶け込み風のように移動していた。
「暗殺のスペシャリストになれるんじゃないかしら。敵に回すと絶対に厄介よね。」
そんなクトゥーはあっさりとセミコの背後を取る。
「セーミコ。」
明るい口調で声をかけながら肩を掴む。
「きゃああぁぁ。あ、え、へ、クトゥルさん。」
悲鳴をあげ振り返りクトゥーだと判断しながら離れようとして慌てて椅子から転げ落ちた。
予想以上の激しい反応にクトゥーも驚く。
「どうしたセミコそんなに反応して、すまないそんなに驚くとは思わなかった。大丈夫か怪我は無いか。」
「あ、えっと、はい。」
「あいつらに何か言われたのか? 悩み事だったら相談に乗るぞ。いつでもお前の味方だ何でも遠慮なく言ってくれ。」
すぐにそばに寄り添い優しく体を支えられる。
セミコはさっきの言葉と想像してしまったことにより変な意識が向いてしまってまともにクトゥーの顔が見れない。
「あ、な、なんでもないんです。ごめんなさい。」
そう言ってセミコは小屋へと逃げ出した。
「え。」
置いてけぼりにされたクトゥーは心に大きなダメージを受けた。
一部始終を見ていたジュティもセミコのらしく無い反応に驚き目を見開く。
そして落ち込むクトゥーを見て自分を指し小屋を指し口に手を当てて会話のジェスチャーをする。
(私が聞いてくるわ。)
そのサインを見てクトゥーも垂直に手を広げサインを送る。
(よろしく。)
そして、ジュティは小屋の中に、クトゥーはセミコの座っていた椅子に力なく座り込んだ。
「どうしたのセミコちゃん、らしく無い反応しちゃって。」
小屋の中でへたり込むセミコに寄り添い優しく問いかける。
「あの、その、えっと。」
顔を真っ赤にして混乱している。先に3人と会話を終えているため何となく察しがつく。
「セミコちゃん落ち着いて聞いてね。」
「はい。」
自然な形でベッドへ座らせ横から優しく抱きしめる。
「あの3人と話をしたのよね。」
「はい。」
「セミコちゃんが動揺しているのはクトゥーに襲われたらどうする、という言葉よね。」
「…はい。」
「今までそんな意識をしたことがなかったから始めて意識しちゃったのよね。」
「はい。」
「どう思ったかしら。」
「それがよくわからなくなって。」
声が小さくなりまた混乱しそうになるセミコを止める。
「質問を変えるわ。嫌だと思ったかしら。」
セミコはすばやく顔を横に振った。
「それなら大丈夫ね。セミコちゃんそれは一種の錯覚よ。クトゥーとそういう関係になりたいかどうかもまだわからないのよね。」
ゆっくりと頷く。
「それなら明日の朝ごはんでも考えながらゆっくり眠りなさい。慣れない話でびっくりしただけよ。」
そう言ってセミコの頭を軽くはじいてベッドに寝かせた。
「あう。」
そのまま立ち上がりもう一人の患者の元へ到着する。
「よ、ジュティ。今日の朝日はまぶしいな目の前が真っ白になるほどだ。」
力ないその声と患者の瞳に光の無い重体患者にジュティは額を押さえた。
次回でミロイ達とのお話は終わります。まあ、ドゥエンスさんは今後も使っていくと思いますのでその内また出てくると思います。次出す時はもう少しヌラッグを前に出して行きたいと思っています。




