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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄ジアッツ村に到着する

やっと到着します。

 朝になり反射された月の光よりも明るい光が差し込んでくる。


「クトゥル殿。」


 木の中からフゼスリが目の前に下りてくる。


「どうした。朝ごはんが手に入らなかったか。」

「それどころではない。」


 珍しく慌てた様子のフゼスリに四人に緊張が走る。

 テントをたたみフゼスリの案内で連れられるとそこには血だまりと一頭のヒジェ。それ以外は何の変哲も無い。


「体は?」

「わからない周囲を見たが確認は出来なかった。」

「骨すらないところを見ると冒険者が持ち帰ったんじゃないか。耳を取らないところがアホ丸出しだけどな。」


 ちゃっかり耳をそぎ落としながらクスヒオが答える。


「そうだな。一体だけなら某もそう慌てはしないさ。クスヒオその首に違和感を感じないか。」

「違和感? 特に何も…。」


 そこまで言ったところでクスヒオの顔が恐怖と驚きへと変わっていく。


「何だこの切り口!?」

「切り口? それがどうかしたのか。」


 驚くクスヒオにミロイが聞く。


「見てくださいよこれ。」


 そう言って近づいたミロイに首の切り口を見せる。


「な、綺麗だ。嘘だろ。どんなに切れ味の良いもので切ったんだ。死体でさえ切り裂くのが困難な毛皮だぞ。」

「!。」


 クスヒオが気づきフゼスリを見る。


「フゼスリさん。さっき一体だけって言ったよね」

「ああ。」

「血が向こうへ飛び散っているな。」


 更に案内されるとまたヒジェが一頭。先程と同じ切り口だ。


「この先にまだ3,4個ある。いずれも討伐証明の耳が残ったままだ。」

「何か怖くなってきた。儀式やそういう類でも無いだろう。」

「多分な。それにあの切り口というだけでも草々できるものではない。体の状態が分からない以上どう戦ったのかははっきりしない。だがもう一つの違和感が某の体を震わせたのだ。」

「もう一つの違和感。」

「ミロイ、クスヒオ、ヌラッグ。周りをもう一度見渡してみろ。」


 そう言われ3人はぐるりと周囲を見渡す。獣の通り道のように一部草がかき分けられている以外に特に森におかしい様子は無い。


「特におかしいところが無い普通の山道だと思うが。」

「そうだなおかしいところが何も無いんだ。」


 クスヒオとフゼスリの会話にミロイが何かに気づく。


「クスヒオ。何も無さ過ぎじゃないか。」

「ミロイさん何言ってるんですか。何も無い…って。」


 そこまで言ってクスヒオとヌラッグは気づく。」


「そうだ何も無いんだ。ヒジェだぞ。」

「戦った後がありません。」

「木につめ傷一つついていないんだ。まるでヒジェが気づかない、若しくは対応できないほど早く近づき、ヒジェに動きを許さないほど早く首を切り裂く、それに5体のヒジェを運ぶほどのパワーの持ち主だ。」


 全員が言葉に詰まる。


「ジアッツ村に急ごう。」


 ずっと何かを考えていたクトゥーが声を出す。


「俺が先頭で敵に注意して最短で引率する。指示を出したらフゼスリは敵を片付けてくれ。」

「待て、クトゥル。慎重に動いたほうが良いのではないか。」


 ミロイの言葉にクトゥーは首を横に振る。


「いや、時間が無い。急げば夕方ごろには到着できる。」

「急いで森を抜けた方が得策かもな。某はそれに従おう。」


 ミロイ、クスヒオ、ヌラッグもそれに頷く。


 しばらくクトゥー先頭で走り続ける。ジアッツ村を目指す5人は奇しくも血の跡を追っているように移動していた。


「ねぇクトゥル本当にこれ大丈夫なの。血の跡も同じ方向なんだけど。」

「大丈夫だ。」


 クスヒオの言葉に短い言葉だけでクトゥーは返す。

 そのままジアッツ村へ一直線に走り続けた。

 夕日が沈みかけた頃ジアッツ村の入口が見えた。点々と数件の家があり畑が広がっているのどかな村だ。

 山を降り森を抜け4人はジアッツ村に到着する。

 フゼスリは敵のけん制のため少し離れて移動していた。


「おっそ~い。呼んだほうが遅刻ってどういうことよ。」

「お前らが速すぎるんだよ。」


 そんな村に異色を放つ一台の車輪のついた小屋があった。見たことも無い生物がその小屋を引く位置で寝ている。小屋の後ろには頭の無いヒジェが積まれている。

 クトゥーはその小屋から出てきたとても綺麗で美しい人と親しくけんか腰で話している。


「あんたに呼ばれたから夜通しクディと飛ばしてきたのについたらいないって言うし。」

「何してんだよ。ところで。」


 そこでガサガサとフゼスリが森から出てくる。


「ふう、無事到着したな。おお、ジュティ殿ではないか。」

「フゼスリ!? あんたも一緒だったの?」

「ちょっとそこで会ったから一緒に来た。」

「そう。びっくりした。あ、ソスラテ中にいるわよ。」

「久しぶりに旧友に会いに行くか。」


 ガサガサ。

 再び森が揺れる。

 グォォォオオという雄たけびと共に一体のヒジェが森から出てくる。

 ミロイ達3人が振り返る頃にはクトゥーとジュティが前に出ていた。

 クトゥーが石を投げてヒジェの注意を引く体ごと下ろしてきた爪を後ろに避けながら眉間に錫杖を刺す。

 ヒジェがひるんで少し下がり動きが止まったところにジュティが切りかかる。ジュティは二回剣を振る。一度目は風魔法を飛ばし、二度目は風魔法がぶつかる同時に剣を滑り込ませた。

 一度目の攻撃が首に切り込みをつけ反応する前にその切り込みに二度目の攻撃をすかさずいれ固い筋肉のヒジェの体をものともせずに首を吹っ飛ばした。


「お見事。」

「隙作ってくれればこのくらいは出来るようになったわあなたのおかげよ。」


 美しく舞い上がった首をフゼスリが片手でキャッチする。


「本当に鮮やかであるな。」

「フゼスリも魔法習ったら。」

「某は剣士ではないこういうのは求めていない。道中はどうやって斬っていたのだ。」

「あの子の雷で痺れた隙にザクッと一発。」


 クディを指差した跡に首に親指を滑らせる。


「お二人は予想以上の成長を遂げて面白いな。」

「まだまだよ。こいつの最高傑作は私なんかよりもはるかに高いステージにいるわ。」


 フゼスリに鳥肌が走る。


「色々歩いた気でいましたがまだまだ世界は広いですね。鳥肌が久々に立ちましたわ。」

「安心しろ。もっと凄いの知ってるから。」

「マジで。」

「もう少し色々調べてみないといかんな。」


 別次元の世界で呆れるしか無いフゼスリはなんともいえないため息をついた。


「どれ、ソスラテの様子でも見てくるかな。」

「俺もセミコの顔見てこよ。」


 二人が呑気な事言いながら小屋へと向かった。

 そこを肩を捉まえてとめられる。振り返るとこわいかおをした女性が二人いた。


「「知ってたな。」」


「えーっと何のことだ。」

「そ、そんな怖い顔するなよ体が強張ってすばやく動けなくなるだろ。」

「私達の不安を返しなさいよ。妙にやばい奴がいるって雰囲気だけ出しといて蓋を開けてみたら知り合いなんじゃないの。クトゥルは何か凄い息ぴったりだし。」

「やばい奴には変わりないだろ。」

「おい。」


 代表してクスヒオがまくし立てて言うのを遠くで楽しそうに見ていたジュティが野次を飛ばす。


「息が合うのは色々一緒に行ってたからだよ。」

「え、ということは。」


 目線を向けるとにこやかに手を振っていた。


「あれがクトゥルのパーティ。」

「そうだよ。」

「成程私達を襲わないわけだ。ミロイさんも綺麗だが彼女のほうが美人だもん。」


 ミロイも苦笑いでジュティの美貌を認めた。


「騒がしいですね。ジュティさん何かあったんですか。」


 小屋から可愛らしい美少女が出てきた。


「おう、セミコ久しぶり。」

「クトゥルさん。久しぶりです。ああ、結構人増えますね。急ぎで解体してもらって良いですか。」

「ああ、ヒジェの解体だな。任せろ。」

「よろしくお願いします。」


 そう言って小屋へと戻っていった。


「成程、ヌラッグにも手を出さないわけだ。」

「もう良いだろ降ろせ、セミコのご飯が俺を待っているんだ。」

「はい。」


 手を離したところで一人の男がふらふらと外にやってきた。


「あ、ドゥエンスさんこっち来てください。」

「おお、クトゥル。」


 クトゥーの呼び声に気づき男は近づくついでにジュティも近づいてきた。


「こちらの三人がくだんの冒険者。この男は違う。」

「成程。」

「ヒジェくらいだったら三人で余裕で討伐できるよ。」

「ふむふむ。」


 ドゥエンスは一人一人の顔を見る。


「あ、討伐で思い出した。あの頭あなた達の討伐でしょ。討伐証明の耳渡さないと。」

「いらないわよ。」

「え。」


 クスヒオが慌てるのをジュティが止める。


「ギルドに持っていくのが手間だし。」

「え、いやお金。」

「いらんいらん。素材をドゥエンスさんに売りつけた方が楽だし儲かる。」


 クトゥーが本人の前で躊躇い無く話す。


「常人の発想じゃないぞ。まあ、君達はFだしギルドに行くだけ面倒事が増えるだろうな。」

「え、何で。」

「君達の実力なら王家や商人が目を光らせて自分の下におきたいと考えるだろう。ギルドだってAやBのランクを与えて駒のひとつにしたいと考えているさ。」

「え、でも俺らFランクってランク付けが。」

「Fはただの身分証明書だ。」

「そんなに欲しいですかね。」

「ヒジェの首をさらりと飛ばした奴らにそんなことを言う資格は無い。」


 ヒジェの頭に目をやり呆れたものを言う。


「それで、ドゥエンスさんも俺達を下につけておきたいの。」


 ニヤニヤと笑いながらドゥエンスを見る。


「お前らみたいな規格外はいらないよ。今の立ち場で十分。」

「そうか。それじゃあサッと解体してくるから買い取ってくれ。」

「金はほとんど置いてきたぞ。冒険者の紹介じゃなかったのか。」

「ジュティ達の遊び代だよ。向こう渡しで問題ないよ。ちゃんとふんだくれよ。」


 そう言いながらクトゥーは小屋の後ろへといった。


「ああ、クトゥー解体技術学ばせて頂戴。」


 そう言ってジュティも消え、いつの間にかフゼスリもいなくなっていた。


「商人にふんだくれとか言うなよ。ただでさえ今までの謝礼ができて無いんだからな。

 さて、話がそれて悪かったな。」

「いえ。」


 3人に緊張が走る。今までのふざけた雰囲気メーカーがいなくなったからだ。


「ああ、自己紹介がまだだったな。私はドゥエンス。イーワイ城下町を拠点に商売をやっているよ。」

「丁寧にすまない。私は一応リーダーのミロイだ。」

「クスヒオです。」

「ヌラッグと申します。」


 ドゥエンスにあわせて三人も自己紹介をする。


「ありがとう。確か君達は男性恐怖症だったよね。」

「はい。」

「それじゃあ、素材の買取を中心にすれば良いな。商談だ。ヨンディとヨンディ車は貸し出しをしよう。歩合制になるが素材の採取をお願いしたいと思う。ヨンディの貸し出しを考えて不特定素材ならギルドの一割減、特定素材ならギルドと同額で買い取るでどうだろうか。」

「え、そんな。」


 3人は言葉を失った。ドゥエンスは頭をかく。


「ああ、駄目か。それじゃあ。」

「いえ、そんなに貰って良いんですか。」

「え? 相当の対価でしょ。こっちだってギルドと同額でも利益は出せるんだから。」

「それじゃあ、それでお願いします。」

「お、いいの。それじゃあよろしく頼むよ。男性恐怖症が治ったら護衛もお願いしたいと考えてるから。詳しい契約書は向こうで書くからしっかり確認してくれ。後、ヒジェの報告があるんでしょ、ジュティ君に言っとくから途中でよってもらおう。」

「何でですか?」


 ぽんぽんといいように進む商談にミロイが声を出す。


「何でって何か問題でもあったか?」


 彼女らの疑問が分からずにドゥエンスは聞き返す。


「何でそんな好条件を出すんだ。我々は知ってのとおり男性恐怖症だぞ。」

「うん。え。」

「それに女性三人のパーティだ。」

「そうだね。私も二十年若かったら。いや、あいつも二十年前だとあいつを取るな。」

「そうじゃない。」


 今日一番に声を荒げた。


「すまない。あなたが悪いわけじゃないんだ。今までの不幸が何だったのかと思うほど良いことが続いてしまって。」

「じゃあ良いんじゃないか。今ラッキーなんだろう。

 色々クトゥーから聞いたよ。同情する気は無いよ、こうして私の元で働いてくれるらしいからね。女だからってどうこう言うのは嫌いなんだ。私には妻がいてねこの人がまあ凄いんだ。それに君達も見ただろクトゥーとジュティ君をあんなの見せられたら女性もクソも無いよね。ハッハッハ。お互いとんでもない人達に出会っちゃたね。」


 笑いながら3人に語る。


「もう不正な報酬に苦しませたりはしないよ。これからよろしく。」


 差し出された握手に3人は泣きながら応じた。

次回は懇親会になりそうですね。何かすごい久々にジュティを書いた感がありました。

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