愚兄洗い流す
投稿したと思ったらなってませんでした。そのため珍しい時間の投稿です。
「は~さっぱりした。」
しばらくしてびしょびしょのクトゥーが帰ってくる。
「ちょっとクトゥルさんちゃんと乾かさないと風邪引きますよ。」
ヌラッグが慌てて火の魔法を地面に放つ。
「おお、ありがとう。温かいな。」
濡れた服を乾かしながら自分の体も温める。
「って、そんなことしている場合じゃないだろ。フゼスリさんが危ない。」
完全に忘れていたことをミロイは思い出し慌て始める。
「大丈夫だろ。服も濡れてるし乾いてからでも問題ないだろう。」
「濡れてるのは自業自得なような気がするが。」
「こんなにも静かなんだぞ上手いことやってる証拠だろ。」
「言われればそうだな。」
そんなことを言っているとガサガサと木陰から音がする。3人は武器を構え警戒する。
「ここにおったのか。」
出てきたのは重そうな何かを背負ったフゼスリだった。きょろきょろとあたりを確認する。
「片付いたのであらばさっさと煙を上げて合図を灯せ。こんな重いもの持って骨が折れるわ。」
「別にこれ狼煙じゃないしな。」
「それもそうだの。」
不図大きな男の死体に目がいく。そしてミロイ達3人を優しい笑顔で見た。
「邪念は断ち切れたか。」
「どうだろうか。」
ミロイは苦笑いで返した。
「まあ、いいきっかけにはなったろう。クトゥル殿感謝いたす。」
「ほんとだよ。まだ血の匂いが取れないぜ。」
「死体を見る限り、楽しんだように拝見できるが?」
「3人に恐怖を思い出させたんだ。別の恐怖だがそいつらにも楽しんでもらっただけだよ。」
「左様か。」
仏頂面で暖を取るクトゥーをフゼスリは小さく笑った。
乾いた上着を着なおし、クトゥーは自分のかばんを背負った。
「って背負ってたのあのヒジェじゃないの。」
「そうだぞ。どこが証明になるかわからんかったから、頭丸々持ってきた。」
「耳だよ。耳も段違いででかいな。」
クスヒオは証明になる耳を剥ぎ取りながらフゼスリに答えた。
「時間食ったな。そろそろ行こうか。」
「承知。」
「そうだな。」
「了解。」
「わかりました。」
5人は再び旅路へと戻る。
「よし着いた。」
先頭を歩いていたクトゥーが足を止める。
「着いたってまだ山の中だぞ。」
クスヒオが辺りを見回す。
特別なものは目の前に首がなくなった巨大なヒジェのボロボロの死体があるだけだ。
「何言ってんだ腹ごしらえだよ。解体してくるから火の準備しててくれ。フゼスリは綺麗な水汲んできてくれるか。」
「承知。」
「それにしてもボロボロだな皮とかは売り物にはならなそうだな。」
毛皮には焦げた後や見たことも無い色の液体が付着している。おまけに鉄の投擲武器が深々と刺さり穴を開けている。
「すまない。全てを使ってやっとだったのだ。」
「別に責めてるわけじゃないよ。ああ、リュックに鍋があるからそれを使ってくれ。汲んできたら煮沸しといてくれ。」
「承知。」
ミロイとクスヒオは燃料となる枝を拾いに行きヌラッグは石を積む。フゼスリが水を汲みに行きクトゥーが肉を切る。肉も食べても問題の無いように選別して解体していく。
先に水汲みと枝の回収が終わり4人で鍋を囲んで水を加熱していく。
「ミロイさんこれ完全に山で一泊コースなんですけど大丈夫ですかね。」
「どうだろうな。」
「某とクトゥル殿がいるんだ何も心配することは無い。」
「確かにクトゥルさんの強さを見せつけられましたね。」
「いや、ヌラッグおそらく君達は彼の強いところを見ていない。」
「え。」
思わず3人はフゼスリに目をやる。
「肉切り終わったぞ。」
そのタイミングでクトゥーが肉の山を持って近づいてくる。
「どうした? 未知なる物を見て驚愕した顔をして、昨日も見ただろ。」
よいしょといいながら毛皮を皿に肉を置く。
「煮沸終わったか?」
「後、2分ほど待った方がいいかも知れぬな。」
「そうか。それじゃあ先に焼肉の調理に入るか。」
鉄串に肉を刺して鍋の下で肉に火をかける。
ジューという音に肉が焼けるいい匂いが食欲を刺激する。
その後、煮沸後のお湯にヒジェ肉を投下してヒジェオンリーのスープが完成した。
「旨みが取れてスープもやっぱり美味いが、野菜や香草で深みをつけたくなるな。」
「某はこんなに美味いもの久しぶりに食したな。」
「クトゥルはグルメだな。十分美味しいと思うのだが。」
「クトゥル普通に美味しいぞ。そんなにいつも美味いもの食ってるのか。」
「とっても美味しいですよ。」
クトゥーのみ少し渋い顔をした昼食を終え再び歩き始めた。
日が沈み辺りが暗くなり始めた頃に山頂に着いた。
女子3人は野営の準備を始めた。
男2人はその様子を昼間の残りの肉を焼きながらぼーっと見ていた。
「お、焼けた焼けた。」
「しかし、この肉は旨みが強くて美味いな。クトゥル殿に見習って解体技術を身に着けたくなりますな。ご教授願えないだろうか。」
「俺は結構感覚でやってるからな。」
「あれだな。教えるのが苦手な天才って奴だな。」
「どうだろうな。教えたこと無いからな。まあ、上手く教える自信は微塵も無いことは確かだな。」
もしゃもしゃと焼きあがったところからどんどん食べている。
「鍋と鉄串しか持って来てないからバリエーションが無いな。味にも飽きてくるな。」
「普通冒険者の旅は保存食を貪るだけだよ。こんなにいい食事ができるのは贅沢なことだよ。うまっ。」
支度を終えたクスヒオがひょいっと一本焼けた串を取る。
「そうだな。クトゥルのおかげで豊かな旅が出来ているな。」
「ヒジェのお肉がこんなに美味しいことも知りませんでした。」
ミロイ、ヌラッグもそれぞれ一本ずつ串を取る。
「そういうもんか?」
「普通はそうだ。」
軽い夕食を摂り終える頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。
テントの前にクスヒオが立ち、クトゥーは木を背もたれに、フゼスリは別の木の上へと上りそれぞれ休息をとっている。
「別に襲いはしないからゆっくり寝てたら良いのに。」
「そういうわけには行かないだろ。お二人には感謝してるんだし、昼間のことを考えるとお二人のほうがしっかり寝るべきだと思うよ。」
「某は熟睡などせずとも大丈夫な体に鍛えてきたからな。今更ゆっくりなど眠れぬ。夜更かしはお肌にも悪い女子はしっかりと規則正しく寝るべきだ。」
木の上から姿を見せずにフゼスリも会話に参加する。
「そういうハニトラ担当はミロイさんとヌラッグの役割だよ。かわいい担当は身長も小さく、くりんとした丸目のヌラッグ。スタイルや顔からとれば美人お色気はミロイさんになる。それにあの人は少しキリっとした目から感じさせない隠れた母性がある。あの人の優しい声と言葉をささやいてもらいながら頭撫で撫でされたときの破壊力は凄かったよ。」
「成程、それは末恐ろしいな。」
「ミロイにそんな一面があったとは女子というのはわからないものだな。」
自信満々に二人の魅力、特にミロイの魅力を自信満々に話すクスヒオ。男2人はその自慢話に興味をそそられる。
「まあ、俺が言うのもなんだがクスヒオもクスヒオらしい魅力があることを俺が保証しよう。」
「某も下に同じ。」
「めんどくさいな何だよ下に同じって降りて来いよ。下でも寝れるだろう。」
「あまり寝ている姿を見られなれていないのでこのまま失礼する。」
「そうかい。」
そんな二人の会話を聞いて頬を染めながら返す。
「そんなお世辞でもやっぱりほめられるのはうれしいわね。」
えへへと頬書きながらハニカムクスヒオ。
「悪いが俺は、お世辞を言うときは口調を明るくして相手から離れて言うタイプなんだ。ああ言葉の距離をね。」
「素直にお世辞じゃないといえば良いものを。」
「ちょっと回りくどいほうが自分の中に言い訳を作り辛いだろ。」
「ちょ、ちょっと二人して私をからかわないでよ。」
すると、2人は少し静かになる。
木々から差し込む薄い月明かりのみの照明のためお互いの顔ははっきりと見えてはいない。一人にいたっては枝の中にいる。
「正直に言って、普通にかわいいほうだと思うしスタイルだってミロイ程じゃないに出るところはある程度出ている。それに明るく活発でとっつきやすい性格というのは男にとってはかなりの好印象になる。それに少し獣が混じっているためあざといとは思わせない自然なけも耳がアクセントとなっている。そして、二人よりも優しい心を持っている。今日の昼間に大男の処刑を聞いたときも最後まで真剣に悩んでいたしヌラッグに手をかけさせるのを負い目に感じていた。常にだってそうだ。自分達のために敬語を捨てなれない言葉で虚偽を貼るミロイの助けになろうと一生懸命に頑張っている。そんな女が魅力的じゃないわけ無いだろう。」
「ちょ、え。」
「まあ、全員に受けるわけじゃないから責任は取れないが俺は十分魅力的だと思うぞ。」
「え、いや、あの、その。」
「おい、クトゥル殿。某の分も残しておくれよ。まくし立てるように全部言ってずるいぞ。」
「ああ、もう、うぅぅぅ。」
クスヒオはその場で丸くなった。
その様子をほほえましく二人は見ていた。
「クスヒオ、そろそろ交代の時間じゃないか。」
ランタンに火を灯しミロイがテントから出てくる。
「ああ、ごめんなさい。」
ほめられることに慣れていないクスヒオはまだ丸まっていた。声をかけられて顔を上げる。
「顔が真っ赤では無いか。調子悪いならすぐに言えといっておるだろう。」
「すいません。寝たら治ります。」
そう言ってクスヒオはテントの中へと消えた。
しばらく静寂が続く。
「いつからばれていたんだ。」
「何が。」
クスヒオの寝息を確認しミロイが静寂を破る。
「私が虚偽を張っていることだよ。」
「何となく。だからいつからかは考えてなかった。」
「まいったな。」
「言い辛いんだったら戻しても良いんだぞ。」
「一度ほころびを見せるとそこから崩れていくのでな遠慮するよ。」
「そうか。」
そこで会話が一度終わる。静かな夜に静かに二人だけの声が通り抜ける。
「ありがとう。」
「急にどうした。」
「クスヒオのことさ。ほめてくれてありがとう。」
「褒める? 俺は正直な観想を言っただけだ。褒めていたと感じたのであれば日頃の行いがいい証拠だな。」
「成程な。そういう言い方もあるのか。」
クスクスとミロイは笑う。
「本当に君は不思議な人だな。」
そう言ってクトゥーの目の前に移動する。
クトゥーも目を開けその様子を確認する。
スッとすわりクトゥーの耳元に顔を近づけて優しくそっとささやく。
「あなたなら、私達に女を思い出させてくれそうね。」
その声色はとても女性らしく包み込まれるようであった。
すぐにテントの前に戻りクトゥーが見ていたミロイに戻る。
「本当に恐ろしいな。」
ボソッと声になっていないような独り言をささやきクトゥーは再びまぶたを閉じた。
次回辺りでジアッツ村に到着したいなと考えています。




