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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄は冷たく人を殺める

ちょっぴり過激な表現は今回で終わりの予定です。

 横たわった男の前に4人は集まる。


「では、あなたを殺します。拒否権はありません。」

「い、嫌だ。た、助けてくれ。」

「あなたは同じように拒否した女性を何人犯してきましたか。0ならお助けしますけど、0じゃないでしょう。」


 男は何も返せずに力が抜けていく。


「それでは、トラウマの元凶である彼を殺します。これでトラウマがなくなるかはわかりませんがやわらげばと思っています。手にかけたい人は何人いますか。」


 3人は男を見下ろした。

 男は既に戦意を喪失し、体は呼吸による胸の上下運動のみで全く動かなくなっている。


「早く決めないと。この人も長くないよ。」


 全く止血処理を行っていないため段々と血溜まりは広がっていく。

 ミロイが剣を抜き男へと近づく。


「クトゥル、私はやらせてもらうぞ。これでスッキリトラウマがなくなるわけじゃないだろうが、誰かはやらないといけないし、私もけじめはつけたい。」

「そうか。誰かがやらなくちゃいけないって理由だけなら止めたが、あなたの意思もあるのなら止めない。殺人は。」

「やったこと無いかな。」

「首を任命しよう。ためらわずに思いっきりすばやく切れ、骨があるがまっすぐ体重をこめてやれ。」

「わかった。」


 震える手で首に剣を添える。


「ああ、まだ行くなよ。」


 クトゥーは再度、クスヒオとヌラッグを見る。


「どうする。」

「私にもやらせてください。」

「ヌラッグ!?」


 杖をグッと握り締め、ヌラッグはクトゥーを見る。


「理由は。」

「超えなきゃいけない壁だと思ったからです。」

「いい理由だ。得意魔法は。」

「火です。」

「そうか。それじゃあ、杖を伝って頭を燃えしつくすことは出来るか。」

「……はい。」

「じゃあ、そこだ。」


 ヌラッグは倒れている男の頭へと移動する。

 クスヒオは俯き目を伏せている。クトゥーはその様子をチラリと見る。答えはまだまとまっていないようだった。


「それじゃあそろそろ時間だしやろうか。」

「私も!」


 クトゥーが開始を促すと大きな声で遮られる。


「私にもやらせてくれ。」

「一応聞こうか。」

「私だって女だ。勝てる女の敵を前にすごすごと引き下がれない。ここで引き下がったら私はもう冒険者として女として、二人の横を歩けない。」

「まあ、良いか。特等席を残してある。心臓だ。場所はここだ。」


 クトゥーは錫杖で心臓の位置を叩く。クスヒオはその場所に剣を立てる。


「せーの。」


 クトゥーの掛け声と共に鈍い音と燃え盛る炎の音が静かな森に響き一人の男が絶命した。


「うっ。」


 ヌラッグは口に手を当て険しい表情をする。死にかけだったとはいえ始めて人を手にかけたのだミロイもクスヒオにも来るものがあった。


「さあ、次はあの商人か。」


 思ってもいなかった惨劇と敗北に商人は木に寄りかかって縮こまって恐怖している。

 商人の元へ行き一枚の紙を出す。


「さて、交渉と行かないか商人。」

「交渉?」

「その足の止血と尻の治療を行ってやるよ。」

「本当か。」


 クトゥーの顔を見て表情が少し明るくなる。


「ああ、本当だ。ただし、お前も嘘をついちゃ駄目だぜ。」

「あ、まて、治療のあと殺したりはしないんだな。」

「ああ、ここにいる四人はここから見逃すことを約束しよう。あっちの3人は責任持って俺が止めよう。」

「わかった。で、何をすればいいんだ。」

「簡単なことさ。契約書を一筆書いてもらいたいんだ。」

「契約書。」

「ああ、この紙に自分のプラスの財産を全てミロイ、クスヒオ、ヌラッグに分配すること、マイナスの財産は3人には一切分配されないこと、この契約書は他の契約書や遺書よりも優先すべきものであること、この三つだ自分の血で拇印と実印を押してくれ、店はまあ、勘弁してやるよ。」

「な、それは。」

「俺達にここで殺されるよりましだと思うけどな。」


 商人は苦虫を噛み潰したような渋い顔をして悩む。そして顔を上げる。


「やむ終えん。書かせてもらおう。」

「商人証も後でちゃんと見るから。」


 そう言って紙にすらすらと契約書を書いていく。クトゥーも常に書いている様子を見て確かめている。

 契約書を書き終え足から出ている血をつけ拇印と実印を押した。


「ほら契約書とライセンスだ。」


 名前と拇印、実印、内容を確認し間違っているところや小さい文字などでの逃げ道が無いことを確認する。


「大丈夫そうだな。ずっと見られてたんだ細工のしようが無いだろ。」

「そうだね。それじゃあ治療に入ろう。かばんを取ってくるよ。」


 木陰においていた黒いリュックから救急キッドを取り出して商人の元に戻ってくる。


「まずは尻からだね。少し痛いかもしれないけど我慢してね。一応袖でも噛んでだ方が良いと思うよ。」

「ああ、わかった。」


 爪を抜きズボンをグッと下げる。ガーゼで圧迫して少し止血をして薬を塗ってガーゼを当て包帯を巻いてとめる脹脛もガーゼを当てて包帯を巻いて止血する。


「はい、おしまい。」

「おい、足の薬はどうした。」

「足は止血だけって言いましたよね。」

「くッわかったよ。」


 ズボンを上げ怪我したほうの足を引きながら荷物を持ちその場を離れる。


「契約書のこと忘れるなよ。」

「わかってるよ。」


 そういいながらゆっくりと山を下っていった。


「ほら、契約書だ。分配も使用方法も任せるから好きに使え、何か損になる様な事になったらフォローしてやるよ。」

「いや、クトゥル。多分それは何の役にも立たないだろうな。」


 3人に近づきクトゥーはミロイに契約書を渡す。


「何で?」

「あの男が町へ戻ればこれ以上の優先順位を持った契約書が作られたり、一度自分の資産をどこかに移し変える時間が出来る。そうなればきっとこの紙で入ってくるお金は1ギューツも無いだろうな。」

「ああ、それは大丈夫だろ。まあ、大事に持ってて町に戻ったら駄目元で使ってみな。」

「まあ、クトゥルが言うなら信用して預からせてもらおう。」


 ミロイはその紙を受け取った。


「冒険者をなめすぎだよ。商人。」


 クトゥーは誰からも聞こえない声でそうつぶやいた。


---


 逃げた男は太い枝を杖の代わりにして下山していた。


「せめて財産だけでも守りきらないと。」


 痛む右足から血が染み出てくる。止血したとはいえ塞がった訳でも無い。ついでに尻もまだ痛い。

 そんな状態で男は岐路を急いでいた。


「くっそ、何でこんな目にあわなくちゃいけないんだ。こんなことなら娼婦で満足しておくべきだったな。」


 愚痴を挟みながらもペースを保ちながら移動を続ける。

 しばらく歩き続け疲れが出始める。


「はあ。疲れた。あいつらはすぐに街に来る様子もなさそうだし、少し休もう。」


 腰を下ろし、荷物に入っていた水を飲む。止血や治療の効果もあり無理をしなければ痛みが広がることはなさそうだ。


「あの男意外としっかり治療したな。まあ、あいつから受けたものだし義理や情けを感じる気にはならんがな。」


 傷の具合を確かめながらしっかりと休む。


「食料や水も少ないし急ぐに越したことは無いな。」


 少しの休憩を後にゆっくりと立ち上がり再び歩き始めた。

 

「それにしてもあんな契約書一つで満足するなんて商人のしょの字も知らない愚かな男だったな。」


 そんなことで元気を取り戻しながら歩き続けた。突然ガサガサと草木が揺れる音がした。


「ん?」


 その音はどんどんと近づいてくる。

 近づくにつれてあることを思い出す。

 ここは山だ。それも魔物だって生息していていつ襲われてもおかしくは無い。それに加え今はヒジェが多く発生している山だ。大量の冒険者と一緒だった行きとは違うことを再認識する。


「そ、そんな、行きは全く魔物に出くわさなかったじゃないか。」


 魔物だって馬鹿じゃないそんな大人数で歩いている集団にけんかを売るほど愚かではない。そのことにも気づかずに大丈夫とどんどんと進んでいった。

 行きのこともあり帰れることを確信していた。だが、その夢は今儚く散っていった。


「うわあああぁぁぁぁ。」


 襲われる間際小さな男の約束を思い出した。小さい男は最初からこうなることがわかっていたことに気づいたときには意識と首が綺麗に切り裂かれた。


---


「さて、返り血を洗い流さないとな。音的にこっちだな。」


 一仕事終えたようにクトゥーは仕切り始める。


「ミロイさん、荷物持ってもらっても良いですか? 手には血がつかなかったので契約書は綺麗に受け取れましたが流石にこれでリュックを背負ったら赤色に染まっちゃいますんで。」


 3人はまだしっかりと行動できるような心理状況ではなかった。


「何気負ってるんですか。ほとんど死んでる状態だったじゃ無いですか。殺したのはどう考えても俺ですよ。」


 誰がどう見ても死ぬしか無い状況だったことは否定できないが心の整理というのはそう簡単なものじゃない。


「じゃあ、ここでかばん見ててください。さらっと血ィ流してきちゃうんで。」

「クトゥル。」


 歩き去ろうとするクトゥーをクスヒオが呼び止める。


「何?」

「一つ聞いてもいいかな。」

「どうぞ。」


 言葉に迷っているのか、聞きづらい質問なのか、口ごもるクスヒオをクトゥーは穏やかな顔で待った。


「何であなたはそんなにも強いんだい。」


 質問に目を丸くする。


「強い? 俺が? 何言ってんだ?」

「強いじゃないか薬で強化した男に一発も貰うことなく余裕で打ち負かしたんだ。それにこんなことを平気でやれるんだ。」

「こんなことって言うのは人殺しのことで良いんだよな。」


 クスヒオは静かに頷く。


「俺が弱いからだよ。」


 予想外の答えに3人は静かに驚いた。


「俺は生まれてから筋力という筋力が全くつかなかったんだ。どんなに鍛えてもどんなに食べても、体が大きくなる気配がなかった。

 それでいて魔力もからっきし無い。魔法を使うなんて夢のまた夢だ。魔法や筋力で押さえ込まれたら脱出や抵抗する手段が無い。

 だからその前に何とかしないと生き延びることが出来ないんだ。だから明らかな敵意、略奪、殺意を感じたら本気で殺すよ。そうでもしないと対抗できないからね。」


 そう言って立ち去ったクトゥーの顔は冷たく笑っていた。

人を殺すというのは物理的にはとても簡単にできることだと思います。しかし、それはとても愚かな行為であり自分を壊して自分じゃなくなってしまう行為ですので安易に考えたり行おうとしたりしては行けないものです。

私の言いたいことはこの作品はもちろんフィクションですので真似をしたり、感化されたりしないでください。簡単に殺せる様な雰囲気出してますけど簡単じゃないですからね。まあ、こんな頭悪い作品でそこまで真剣に考える人はいないと思いますが簡単に人殺しをしてしまう表現をしてしまったので一応注意書きを後書きで書きました。

次回からまた平和に進んでいくと思います。

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