愚兄、爪を立てる
ちょっぴり過激な表現があります。流血やそういった表現があります。
「俺は、ジアッツ村に行くんだ。一緒に行くか。」
「特に急ぎの用も無いのでお供いたそう。」
旅の仲間にフゼスリが加わった。
それをよそにミロイ達3人は一つの疑問を抱えた。
「すまない、クトゥル。」
「ん。」
後ろから神妙な面持ちで声をかけられ振り返る。
「私達はあなたの護衛として一緒についてきているがあなたの実力がわかった以上足枷になってしまうんじゃないだろうか。」
後ろの二人も同じ感情なのかミロイの言葉に頷いている。
クトゥーは少し考えてミロイの目を見る。
「別に用事があるのであれば無理にとは言わないが出来れば一緒に来て貰いたい。対人戦はとあるものには絶望的に弱いので。」
「わかった。それならば護衛を続けよう。」
「ありがとうございます。まあ、こいつと二人っきりはちょっとつまらなそうだったので助かりました。」
「はっはっは、某にご指導いただけたら退屈はしませんぞ。」
「それが嫌なんだよ。」
こうしてクトゥー達は5人でジアッツ村を目指した。
戦闘にフゼスリが立ち殿を再びクトゥーが請け負う。
フゼスリが真っ先に危険を排除してくれるためかなりペースを上げ昼間を少し過ぎたところで山頂に到達した。
「さて、ここいらお昼ご飯でも作るか。」
「眺めも良いのでより美味く感じられそうだな。」
「何で二人はピクニック気分なの。」
楽しそうにしている男二人を見てクスヒオは信じられないような目を向ける。
そんなことは気にもです二人は手ごろな石を積み上げていく。
不意にその手が止まる。
さっきまで楽しそうに積み上げていた二人が真剣な顔つきになる。
「どうかしたの。」
「三人とも離れていろ。」
「え。」
クスヒオも何かを感じ取る。
「どうするの。」
「もうこっちのことはばれているみたいだしやりあうしかないと思っているよ。」
「敵か。私達も手伝うぞ。」
「ならば少しばかり離れていてくれ、今回のはお前達じゃちと荷が思い。」
「そんな。」
ミロイが何かを口にしようとした時、メキメキ何かが木をなぎ倒して近づいてくる音が聞こえた。
「目を瞑れ。」
その言葉に全員が目を閉じる。
フゼスリが何かを投げる。すると一瞬まぶしい光が世界を包んだ。
光が消え世界に色が戻っていくと目の前には一匹のヒジェが目を覆いもがいていた。
しかし、ただのヒジェじゃない推定で3mはあるであろうビッグサイズだ。筋肉のつきも通常とはしっかりしている。
見たことも無い巨大なヒジェに3人は2,3歩後ろに下がる。
「だから言ったろ、離れてな。お前達の手に負える代物じゃない。」
「しかし、これは骨が折れそうだな。」
2人は一切の弱気を見せずに向かい合っていた。
「そんな。」
「クスヒオ。ここは言うとおり引くぞ。」
「でも。」
「いいから。」
ミロイは強引にクスヒオを引っ張り連れて行く。
「ミロイさんなんで。」
「私達に何かできることはあるのか。」
「それは。」
「今ここで全滅したらあの脅威を誰が伝えるんだ。あの2人は身を挺して我々を逃がしたんだ。」
その言葉は振るえその顔はとても悔しそうな顔をしていた。
ミロイの感情に気づきクスヒオも大人しくついていく。
「それに、あの二人なら救援が間に合うかもしれない。ギルドや国に伝えて緊急招集をかけてもらおう。」
「はい。」
かなり弱い光だが光を見つけたことによりクスヒオの目に光が映る。
「!。ミロイさん人がいるしかも結構な人数同じ依頼を受けた冒険者がいるのかもしれない。」
「どちらにせよ合流して状況を伝えないとな。」
後ろから轟音が響く木が割れ大地に落ちる音がどかどかと響いてくる。
「あの様子じゃ、異変には気づいてはいるだろうな。」
3人は急いで人がいる方へと向かった。
「皆さんここは。」
木々から顔を出すと同時にミロイは声をかける。
しかし、目の前の光景にその言葉は止まった。
「何で……。」
後から来た二人もその光景に体の血と力が引いていった。
「お、そっちから会いに来てくれるとはな。一生懸命働いた甲斐があったぜ。」
ニヤニヤと笑う大男その周囲には冒険者らしき男達が傘下のように立ち同じように笑っていた。
彼女達は大男に見覚えがあった。それにあの男達の目にも覚えがある。忘れたくとも忘れられない記憶が呼び起こされる。
「くっ。そんなことをしている暇は。」
「そんなことは無いさ。あのヒジェは、いや、あのヒジェの大量発生は俺達が仕組んだことなんだからな。」
「なっ。」
「大変だったぜ一匹一匹眠らせて運ぶのは。それに一匹に関しては改良を施してやったんだ。あの忌まわしき忍者を殺すためにな。」
「だが、私達以外の者がこの依頼を。」
「その心配はありませんよ。」
一人の男が男達を掻き分けて前へと出てくる。小太りで高価なアクセサリーに身を包んだ男だ。
「あなたは。」
「依頼主の私が調整すればあなた方をこの依頼に導くなど造作もありません。」
3人に絶望が連鎖する。
「大変でしたよ。あなた達のような上玉が来たときは心臓と欲望が張り裂けるところでしたよ。」
「クスヒオ、ヌラッグ。武器を構えろ。」
ミロイの言葉に反応して2人はかすかな力を振り絞る。
「無駄な足掻きということはお前達が一番わかっていることだぞ。」
「やってみなきゃわからない。」
「一度やったじゃないか。あっちはやれて無いけどな。苦しかったぜお前らみたいな上玉を逃して昔の女に拷問されたよ。ナイフで切られ、鞭を打ちつけ、溶かした鉄を垂らされ、針に刺されたこともあったな。水も中々苦しかったかな。
だが、お前達のことを考えると苦じゃなかったぜ。逃した獲物を捕らえる執着心が俺に力をくれたよ。」
余裕の表情で男は語り続ける。
「今日やっと俺の夢が叶う。しかも以前より上質な形でな。」
男はなめるように3人を見る。数年前よりも美しく成長した3人に野獣のような眼光を向ける。
「さあ、素敵なパーティの始まりだぜ。」
「そうだな。随分と大人数で素敵なパーティができそうだな。」
突然の知らない声に男達は辺りを見回す。
「どこ探してんの。」
一人の小さな男がいつの間にか割って入ったかのように目の前にいる。
「ところで後ろの皆さんはどうしてこの件に加担したんでしょうか。気になるので答えていただけると助かるのですが。」
「そんなの、中古だろうと上玉とやれるんだ男なら参加しない選択肢は無いだろう。」
一人の男が喋りながら小さな男に近づく。
「なめたこと聞いてんじゃねぇぞ糞餓鬼。」
手に持っていたナイフで小さな男の顔面を誘うとする。
「皆さん同意見ということでよろしいですね。」
赤い血が飛び散る。倒れたのは攻撃を仕掛けた男の方だった。
首から真っ赤な鮮血を流しゆっくりと倒れる。傷が浅く自分の死を理解する時間があったためその表情は絶望に満ちていた。
「やばいぞ。油断するな一斉に襲い掛かれ。」
「男の風上にも置けないな、お前らが男を名乗るなよ。」
襲い掛かってきた4人から目ですら捕らえられないうちに血が飛び散る。
「人間は楽でいいな。力がなくたって簡単に致命傷を与えられる。」
そのままその小さな男は冒険者達の中に入っていって殺戮を続けた。
阿鼻叫喚、全員が首を押さえながら叫び声を上げている。
「あああああぁぁぁぁあ。」
「嫌だぁぁぁ死にたくない。」
全員に意識があった。だが、あったからこそ全員が絶望し叫んだ。小さな男はもちろん狙って即死にならない傷を与えていった。
その小さな男は叫び声の中悠々と歩き大男と商人の間を歩いていった。真っ赤に染まった彼の表情はしっかりとは見えないが、哀しくも楽しそうに笑っていた。
「ごめんね。君達に割く時間は無いんだ。」
「クトゥル、あんたヒジェはフゼスリさんはどうしたの。」
ミロイは目の前の光景に理解が追いつかず最初に抱いた。今はもうどうでもいい質問をクトゥーにぶつけた。彼の両手には昨日のヒジェから入手した爪が握られていた。
少し時は遡る。
「それにしても2対1というのは少々気が引けるな。」
「何言ってんだよ。身長は俺らの倍はあるし体積体重なんて倍以上だろ。そんな奴なら2対1くらいちょうど良いもんだろ。」
「ああ、なんだかそんな感じがしてきた。」
「そうだろうそうだろう。」
呑気している二人に鋭い爪が襲い掛かる。
「よっ。」
「おっと。」
持ち前の身のこなしから難なく2人は攻撃を避ける。
「ああ、やばいあいつらどこまで行くんだ。」
「どうした。」
「ミロイ達がアホみたいに離れていくしかも迷いの無いスピードで。」
「それって。」
「多分助けを呼びに行こうとしてるんだと思う。」
激しい攻撃を避けながら淡々と会話をする。
「そんなに俺達って信用無いのかね。」
「無いのだろうな。」
そこまで話し2人はまじめな顔をする。
「いやな予感がするんであっち行ってくるよ。こっちよりは向いてると思うし。」
「ならば、こちらは某が承った。」
「そんなに長い時間見て無いから過信するなよ。足が弱そうだ。」
「助かる。クトゥー、3人を頼む。」
「人間相手ならこっちより勝算はあるよ。」
クトゥーはそのまま後ろに下がり、攻撃の届かないところまで来ると反転して3人を追った。
一度ヒジェが逃げ出したクトゥーを見るが、すかさず石を顔に投げ込み意識を自分に向ける。
「おぬしの相手は某だ。よそ見して勝てる相手では無いぞ。」
フゼスリは刀を抜いた。
個人的に様々な作品で敵討ちで即死させるのはやさしい世界だなって思っています。




