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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄、三人の過去を聞く

前回から会話回が続きます。

 休憩を終え4人はジアッツ村を目指し森を歩いていた。


「そういえばクトゥルさんパーティがいるって言ってましたけど捨てられたんじゃないんですか。」

「はい?」


 ヌラッグが不図した疑問を投げかける。


「そういえばそうだな、私らはてっきり捨てられたもんだと思っていたぜ。」

「こらヌラッグ、クスヒオ、あんまり人の傷をえぐるな。平然としているが我々に気を使っているのだろう。」


 その言葉を聞き二人は申し訳なさそうな顔をする。


「すまないクトゥル、気をつけるよう注意しておく、喋りたくないこともあるだろう。気に障ってしまったのならすまない許してくれ。」

「すいません。ミロイさんに言われるまで気づかなかった。」

「本当にごめんなさい。考えずに質問をしてしまいました。」


 3人はそれぞれ頭を下げる。

 なんともいえない顔をしながらクトゥーは否定を始める。


「あのぉ、別に縁切られて一人でいるわけじゃないですよ。」

「クトゥル。」


 ミロイが頭を上げ尊敬のまなざしでクトゥーを見る。


「その心遣い本当に尊敬する。男の人を尊敬するのは久しぶりだ。」

「ああ、もう。」


 意図せずにどんどん株が上がっていくこの状況がだんだん嫌になっていく。

 長い説明を経て目的の人物が女性恐怖症で男である自分ひとりがこうやって旅をしていることを何とか伝えた。


「なるほど、そうだったのか。」

「はい、自分の意思でこうなってるんで変に気を使わないで下さい。」


 しばらく進むと山のふもとへ到着する。日も沈みかけていてあたりを赤く照らす。


「それではここにテントを張ろう。クスヒオ問題ないか。」

「はい、大丈夫です。」

「登らないんですか?」


 キャンプを始めるにはまだ早い時間のため、クトゥーが疑問に思う。


「山は森以上に危険だからな登山は朝早くからだ、って冒険者の基本だろう。」

「いやぁ基本の基の字も知らない新参者の集まりで。」


 3人は手際よく準備をしすぐにテントを張り仮拠点が完成する。

 クトゥーは錫杖を刺し座ったままその様子を見ていた。


「クトゥルさんさっさと準備したら流石にうちのテントには入れさせないよ。」

「いや、入ろうとしてないから。ただ必要ないだけだよ。」

「?」


 そうこうしているうちに夜になった。

 

「それじゃあクスヒオよろしく頼んだよ。」

「はい時間が来たら起こしますんでしっかり休んでください。」

「ありがとう。」


 クスヒオがテントの前に立ち周辺の見張りをしている。


「お二人は随分と早い就寝なんですね。」

「見張りの交代をしなくちゃいけないからな。」

「私がやりますよ。」


 そういうとクスヒオは睨むような目でクトゥーを見る。

 

「昼間の印象は仲良く出来ると思っていたんだがね。言葉に気をつけな。返答次第で私はあんたを切る。」

「どうしたの急に殺気だって、あ、そういうこと。別に襲いませんよ負けるのは目に見えてるんでただの善意ですよ。」

「……。とりあえずは信じるよ。あんたはなんだか他と違う匂いがするし昼間は正直楽しかったからね。」

「ありがとうございます。」

「何故お礼を。」

「失言を許してもらえたので。」

「やっぱり変な奴だな。」


 それからしばらくして真夜中になる。

 クスヒオも眠気が出始める。


「クトゥルさん起きてる?」

「半分起きてますよ。」

「半分?」

「ええ半分、周囲の警戒をしないといけませんからね。」


 少しクスヒオは考える。


「つまり半分寝て半分起きている状態を保てるということか。」

「言葉が悪かったですね。そんな特殊なことは出来ません。」

「じゃあ何なんだよ。」

「この錫杖に触れ何かが起こった時に察知して目覚められるくらいの浅い睡眠を保っているんですよ。」

「十分特殊ですよ。練習したの?」

「元々一人で旅をする予定でしたからね。」

「それは昼間に聞いたよ。」

「そのパーティも本来はいないものだと思って準備してました。」

「へぇーやっぱりクトゥルさんって強いんじゃないの。」

「力は弱いって言いましたよ。」

「ふーん。」


 真っ暗闇の中お互いの姿がはっきりと見えずに二人は会話をした。

 表情もしぐさも何もわからない、声だけがお互いにわかる情報だ。


「ねぇ、私らの話聞いてどう思った?」

「どうって?」

「感想。何でもいいよ思ったこと。」

「最初は腹が立ったけど紹介してくれた人も町から離れてたからしょうがないなって思いましたね。」

「ごめん、何の話。」

「ヒジェが出回ってる話を聞いたときの感想。」

「それじゃないでしょ。どう考えても聞きたいのは言い合ってたときの話よ。」

「ああ、そっちですか。えーっと始めて食べましたけど旨味が。」

「もういいや。何かどうでもよくなってきたわ。」

「まあ、私もどうでもいいなって思ってましたからね。」


 暗闇で見えないがクトゥーは何となくこっちに振り返って目を見開いてる感じがした。


「どうでもいいだと。」

「そりゃそうでしょう。体験者でも無いし全てを語ってもらったわけじゃない、知らないことが多すぎて感情移入も出来ませんよ。」


 クスヒオは少し黙る。顔やしぐさは見えないが何かを決心した声でクトゥーに話し始める。


「わかった。同情を求めてるわけじゃないが全てを話そう。」

「同情する気なんてさらさら無いし、全部を聞く気はもっと無いですよ。要点だけで十分です。」

「要点?」

「何人に襲われたのか、どうして対抗できなかったのか、結局どうなったのか。後、何でそんな話を私にするか、私との同行を提案してきたか。後半の二つが特に気になりますね。」


 凄い決心で全てを話すと言われ長くなりそうな雰囲気を強く感じたクトゥーは先に長話を封じた。


「襲われたのは基本一人だ。」

「主犯か全て悪いと。」

「ああ、純粋な強さだけでなく口も達者でな。」

「ああ、いますね、そういうリーダー格。」

「寝込みだったことと、宿屋を一つのパーティで使っていたから完全に安心していたんだ。」

「はいはい、ばっちり計画されてましたってことですね。」


 真剣な声のクスヒオと正反対に軽く世間話を聞いている雰囲気のクトゥー。


「衣類を剥かれ裸になりもう何も対抗策がなかった。味方だと思っていたパーティの男全員がそいつを中心に人が変わった顔をして入ってきた。とても怖かったよ。」


 思い出しているのか、声が震え始める。


「3人で大人数の男から手足を押さえられ色んなところを触られたさ。ここで女としての人生を壊されるんだと諦めたときに全身黒の男がやってきて全員の首をはねたんだ。」

「へぇ~。」

「ただ、女として生き残った変わりに、大きなトラウマを抱えることになったよ。」


 昔話を終え深く息をつき、その後自分を落ち着かせるためか深呼吸を続ける。


「成程ですね。」


 少し落ち着いたと思ったところでクトゥーはとても軽い口調で相槌を打ち感想を述べる。


「とても運が良かったんですね。」


 クトゥーは鋭い視線を感じた、何かが反射的に動いた気がした、でもすぐに視線が解け動いたものがゆっくりと戻った気がした。


「そうだね。運が良かったよ。」

「おや、激情して殴られるかと思いましたよ。」

「一瞬そうしようと思った。」

「思いとどまっていただいて助かりました。」

「先にあなたと同行を提案する理由を話すよ。」


 クトゥーが提案した順番を変える申し出だ。クトゥーも特に順番にこだわりが無いため無言の承諾をする。


「私達が助かった背景には一人の少年が関わっていたの。

 その騒動の前に私達3人がたまたま出会ってたまたま助けた少年だった。貧乏な少年で両親もいない、小さいながらにして裏の界隈で協力して生き延びていたみたいね。だからこそ私達は助かった。

 裏で指名手配になっていたのよ。前の被害者が出したみたいね。その黒い人は裏では有名な暗殺者で少年が私達のあとをつけて知らせたらしいわ。

 少年は私達を助けるためじゃなかったかもしれないけどね。」

「その男もそのとき死んだと。」

「いえ、その男だけは生きているわ。」

「え。」

「生け捕りが依頼だったらしいわ。」

「ふーん。」


 そこまで真剣に話していたクスヒオが明るく砕けながらも自分自身をあざ笑うよう皮肉がかった声で最後の答えを言う。


「だから私達は人助けはするの、また、意図せずに助けてもらえるかもしれないから。パーティに入れるのは拒絶反応が出ちゃうけどね。おかしな三人組よ、ほんと。

 クトゥルにこの話をしたのはあなたが他の人間と違うように感じたからかな。私達を変えてくれるきっかけになるんじゃないかなと思ってね。」

「買いかぶりすぎですよ。私にはそんな力はありませんよ。」

「何なら男になめられない方法を教えてもらうだけでも良いよ。」

「舌切ったり引っこ抜けばなめられませんよ。」

「そりゃそうだ。」


 話が終わり再び夜の静寂が訪れる。

次回も会話回になると思います。

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