愚兄と三人の女性冒険者
しばらくはこの四人でのお話になります。
「それじゃあヒジェの耳をそいで早速行こう。」
「え、他の部分は。」
「こんなでかいの持っていけるわけ無いだろう。」
「まあ、そうですね。ところでおなか空いたんでお昼にしませんか、丁度肉もありますし。」
「何を呑気な敵がいたらどうするんだ。」
「ミロイさん今この辺には特に何もいません。私達も栄養を補給すべきだと思います。」
「む、そうか。クスヒオが言うなら安全そうだな。わかったクトゥル一度ここで休憩しよう。」
全員は荷物を降ろし座り込んだ。
クトゥーはリュックからナイフを取り出しヒジェに近づく。
3人はその様子を不思議そうに眺める。
ヒジェの前で一度静かに合掌をする。
次の瞬間もの凄い手際でするするとヒジェを解体していった。
「「「!?」」」
3人は目を点にさせながらその光景を見続けていた。
何回かにわけ解体した皮を皿代わりに大量の肉を持ってきた。
近くの石を丁寧に積み上げ簡易的なかまどを作った。
「ヌラッグさん火つけてもらって良いですか?」
3人は固まったまま動かない。
「? ヌラッグさん火貰って良いですか。」
「あ、は、はい。」
ヌラッグは慌ててかまどに火をつける。
クトゥーはリュックから鉄串を出して大きさをそろえながら刺して鼻歌交じりで焼き始める。
「あの~クトゥルさん。」
クスヒオがクトゥーに声をかける。
「何ですか。」
肉から目を離さずに声だけで返す。別に怒っているわけではないので明るい声色だ。
「もしかして先程は邪魔しましたか?」
「何のですか?」
「ヒジェのことですよ。先程の解体技術並みのものではありません。正直、ギルドの解体よりも綺麗だと思います。」
「ありがとうございます。」
「そうなれば獲物を横取りしたことになりませんか。」
「依頼を受けているのはあなた達ですし別にヒジェ目的で来てないですからね。何より倒したのはあなた達で私は何もしていないじゃないですか。」
はははと笑いながらクトゥーは明るく答える。
「それに生きている相手に同じことをしようと思っても出来ないですよ。解体って絶命し力が無いことが大前提じゃないですか。」
「そうですね。いやぁ本当はかなり力のあるお方で邪魔しちゃったかなとドキドキしました。」
頭をかいて安堵の笑顔でクスヒオは笑った。
クトゥーも同じように笑う。
「私は小手先の器用さだけで力は無いんですよ。下手したらヌラッグさんより無いですよ。」
「それは言いすぎじゃないですか。」
「そうですよ。男の人には私も流石に負けますよ。」
「まあそれでも魔力はヌラッグさんの方が段違いで多いのでやっぱり私が一番非力なんですよ。」
名前を呼ばれヌラッグも会話に混じりお互いに笑いながら話をする。
「ミロイさん? そんな難しい顔されてどうかしたんですか。」
一人考え事をしているミロイにヌラッグが声をかける
「うむ、実に惜しい。」
「何がですか?」
クスヒオとクトゥーもミロイのほうを見る。
「あ、すいません。ヒジェって煮込み料理のほうが美味しいんですか? 器具が無いので焼きしか出来ないんですよね。」
「流石にそこじゃないですよ。」
頓珍漢な事を言うクトゥーにクスヒオが呆れ顔でツッコミを入れる。
ミロイは顔を上げ考えていたことを伝える。
「いやな、クトゥルにうちのパーティに入ってもらえないだろうかを考えていてな。」
ガタッと勢いよくクスヒオが立ち上がる。その表情は怒り交じりの苦渋の表情をしていた。
「ミロイさん。忘れたわけじゃないですよね。」
「無論だよ。忘れたくとも忘れられないさ。」
「……。」
ヌラッグも何かを思い出しているのか俯き暗い表情をしていた。
「ミロイさん、男ってのは。」
何かに気づきクスヒオは言葉をとめる。
「気にせずにどうぞぶちまけてください。私は居ないものと考えて良いですよ。その方が皆さんのためです。」
止まったところにクトゥーは自分が原因と気づきすぐにフォローを入れる。
「いいのか。酷い事言うぞ。」
「別に気にしないですよ。私がいて中途半端な論議で皆さんの仲が悪くなる方が気にします。」
「じゃあ、お言葉に甘えます。」
そう言ってクスヒオはミロイに向きなおした。
「ミロイさんだって男の怖さを知っているだろう。今はこうやって仲良くやれてるけどいつ豹変するかわからない。一時的な協力関係ならまだしもパーティを組むってことは長い時間を共にするんだぞ。いくらクトゥルさんが非力で魔力も少ない人だとしても今はいろんな道具が溢れている。寝ている間であればクトゥルさんでも私達を拘束することは不可能じゃないんだよ。」
「ああ、それは私だって苦しいほどわかるよ。でも、私達女だけじゃどうしようもない場面だって多かったじゃないか。私達はもっと裕福な生活をしても良いほど力があるはずなんだ。だから、解体技術や洞察力、記憶力に長けているクトゥルは私達に必要な人材だと思っているんだ。」
「そんなの、私だってそうありたいと思っているさ。でも、だからって男とパーティなんて。」
クスヒオの体が震える。俯いているヌラッグもだ。
無言の静寂が続く、お互いがお互いの意見をまとめているようだ。
あまりにも深刻な状況に流石のクトゥーも味の感想を挟むことができず、噛んでいるお肉と一緒に言葉を飲み込んだ。
ちなみにヌラッグは俯き、クスヒオは背中を向け、ミロイはクスヒオが壁になっていて誰殻も見られていない。
「私だって男を入れることに全肯定な訳ではない。私はお前達をもっと幸せにしたいんだ。
みんな前を向いてお金にも困らず、それぞれに明るい未来が待っている。そんな未来を私は作りたいんだ。」
「ミロイさん。」
「すまなかった。お前達の気持ちをもっと考えるべきだった。」
「ううん。私こそごめんなさい、変な意地張っちゃって。私達のことを思ってくれてありがとう。」
「良かったです~。」
一段落ついたところでヌラッグが二人に抱きつく。
「お二人と離れ離れになるんじゃないかってどきどきしましたよ。」
泣きじゃくるヌラッグにミロイとクスヒオが優しく頭をなでる。
「すまなかった不安にさせてしまったね。」
「ごめんね。過剰に反応しすぎたよ。」
三人の友情が更に深いものになっていい雰囲気が辺りを包む。
5本目に差し掛かったクトゥーは無視して良いと言った手前口を挟みにくい。
しかし、入れ替わりで焼いていたお肉がいい感じに仕上がってきている。ここを逃してしまえば焼きすぎたお肉か生焼けのお肉を提供してしまうことになる。それは避けたい。
5秒ほど悩んだ末にクトゥーはこの雰囲気を台無しにすることに決めた。
「まあ、どちらにせよ私にもパーティがいるんでその話はお断りさせてもらうんですけどね。」
「あのさ~クトゥルさん事実かも知れないけどそういうのは野暮って。」
その言葉にムッとしながら振り返ると思ってもいない光景に言葉が止まる。
「クトゥルさん。」
「何?」
「あの状況でよくお肉片手に口挟みましたね。」
「いい感じに焼けてきたので。」
「む?長いこと喋っていたのに随分火の通りにくい肉なのだな。」
「ああ、これ2陣目です。最初のは皆さんの話が長くなりそうだったので食べました。私これ5本目です。」
「台無し。」
そのマイペースな姿にミロイとヌラッグは思わず笑ってしまう。
その後は楽しく談笑しヒジェ肉を食した。ヒジェ肉は旨みが強くとても食べ応えがあった。
「すまない、ちょっと席を外す。」
クトゥーが立ち上がりそっと森の奥に立ち去ろうとする。
「クトゥルさんどうかされたんですか。」
「ヌラッグ、そっと流してやりなよ。クトゥルさんだって気を使ってくれてるんだから。」
「え、あ、ごめんなさい。」
クスヒオに言われ気づく。クトゥーも苦笑いでその場を後にする。
森の中に入り、周囲に人がいないことを確認する。
「イセミ、イセミ。」
指輪に問いかけると小さいイセミがぽんと出てくる。
「よ、クトゥル。何か用かい。」
「ジュティに伝言頼む。」
「繋ぐかい?」
「いや、交戦中の可能性もあるから隙を見て伝えてくれ。」
「了解。」
伝言を入れ3人のもとへ戻ろうとするクトゥーをとめる。
「そういえばクトゥル一つ聞いていいか。」
「何だ。」
「さっき言ってた男がどうこうってどういうことだ。」
「多分お前にはわかんない話だよ。機会があれば教えるよ。今はこれもばれる訳に行くまい。」
指輪をそっと眺めるクトゥー。
「そうだね。」
小さいイセミは再度ポンと音を立てて消えた。
クトゥーも3人の元へと戻った。
いつものように何となくしか先の展開は考えていないため伏線とか難しいことを求めないで軽い気持ちで見て下さい。




