愚兄、増築設計図を描く
何も起こらない回です。ほのぼのとしたトレーニング風景をお楽しみください。
「しかしまあ、セミコもアホだな今更俺達が戦えないからってお前を切るわけ無いだろう。」
「ごめんなさい。料理がとても美味しく自分に自信をなくしました。」
「そこまでほめてくれるとはつくり外があるってもんだな。」
一通りの落ち着きを取り戻し再び食事へと戻る。
ハッハッハと笑いながら話すクトゥーとヌスアルに恥ずかしそうに真っ赤になるセミコ。
「話は変わるけど、明日はここで待機でいいのよね。」
ジュティが話題を変える。助け舟を出してやろうという考えと純粋に予定を確認したいという気持ちだ。
「ああ、設計図もまだできて無いからな。まあ、2人は城下町でゆっくり買い物とか羽伸ばしてな。こっちのことは気にしなくて良いから。」
「そういわれるとなんだか申し訳ないですね。」
「まあまあ、人が人な訳なんだジュティ君やセミコ君が行ったら余計に時間がかかると思うよ。」
苦笑いのセミコにドゥエンスさんが横槍を入れる。
その槍に乗っかるようにクトゥーも続ける。
「そうそう、ドゥエンスさんもそう言ってるんだしょうがないと割り切ってゆっくりしてな。」
「でも、私達だけ休みってのもね。」
「あ、そうだ。それじゃあ宿題をやろう。」
「そういわれると嫌になるわね。」
暇なのは嫌だけどその言い方はなぁと微妙な顔を浮かべるジュティを無視してクトゥーは続ける。
「セミコは火の魔法を覚えよう。」
「火ですか。でも雪女族は苦手な魔法ですよ。」
「高火力を求めているわけじゃない。料理で今はジュティにつけてもらっているだろう。セミコがつけられるようになればいちいち申し訳なさそうにジュティにお願いすることなくなるだろう。」
「ああ、そうですね。」
「ただし、体に異変が生じるようならすぐに止めろ。」
「はい。」
やる気に満ちた目でセミコは答える。
「クディもしばらく魔力コントロールを練習させないとな。」
「そうね。今は取り合えず魔法が使えるって状態だからね。」
「んで、ジュティは一番大変な宿題だ。」
「うう。まあ、この中で一番魔法が使えるからしょうがないけど口にされると気が滅入るわね。」
「ジュティは水魔法を覚えよう。」
「やったこと無いわよ。」
「もちろん明日教えるよ。目標はとりあえず片手でコントロールできるようになることかな。」
「わかったわ。」
それぐらいなら何とかなるわねと余裕の表情を見せるジュティもちろんこれだけじゃない。
「それと2人への指導ね。」
「ああ、そりゃ大変だわ。」
忘れていたと頭を重くしながらジュティは宿題を受け入れた。
食事も終わりドゥエンス夫妻も自分の小屋へと戻っていく。
その後ろをクトゥーもついていった。
「何してるんだ。」
「いえ、設計図を忘れてしまったなと思いまして。」
「ああ、そういえばそうだな。」
ドゥエンスもテーブルの上を思い出しクトゥーを招き入れた。
設計図を丁寧にたたんですぐにその場を後にしようとした。
「何か悪かったなみんなで行ける所紹介できなくて。」
「別に、こちらから振った話題ですし、あてがあるだけありがたいってもんですよ。」
「そうか。ああ、忘れないうちに紹介文を書かないとな。少し待っててくれ。」
「わかりました。」
その後紹介文も受け取りクトゥーは自分の家へと帰っていった。
翌朝。
セミコの作った朝食を食べクトゥーはこもりながら設計図に手をかけ、ジュティ達は外で魔法の練習を始めた。
「まずは、セミコちゃんね。」
「はい。」
「まずは魔力を体から取り出す感覚を身につけましょう。」
ジュティはセミコの手を取り魔力を流し込む。
「お、おおお。」
「これが魔力よ。きっかけは作ったからこの感覚を体の中から外に出すイメージを持って出来るようになったら自ずとわかってくると思うわ。」
「はい。」
セミコは深呼吸をして魔力を呼び出すのに集中した。
ジュティはクディの方へ向く。
「クディはコントロールの練習よ。」
「がう。」
「今あなたは体に電気を流すことと全体に放電する魔法を身につけているわね。」
「がう。」
ジュティは少しはなれたところに薪を一本地面に突き刺す。
そこから左右5m離れた地点に一回り小さい薪を刺す。
「そこから真ん中だけを攻撃できるようにしてみて、左右の薪は攻撃しない。あわせて小さな魔力を放出することによって出力のコントロール練習をするわ。」
「がぁう。」
「例を見せたほうがいいかしらね雷系は使えないから火でやるわね。よっと。」
ジュティは真ん中の木に手をむけると細い光の線が飛び真ん中の気に着弾する。その後、先端だけを綺麗に燃やし蝋燭のようになる。その後手を仰ぎ風魔法を送り消火する。
「こんな感じかしらちょっと勝手は違うかもしれないけどイメージは出来たかしら?」
「がう。」
大きく頷きクディは魔法のコントロール練習を始めた。
「さて、最後は私か。設計図ができるまで考えてみろと言われたけれど、改めて考えるとわからないわね。」
少し、時は遡り、朝食を食べた後。
「ジュティとりあえず、二人に練習方法を教えてやってくれ。セミコはまず魔力を引き出すところからかな。」
「クディは。」
「薪を三本立てて真ん中だけに魔法を当てるトレーニングとか良いんじゃないか。」
「了解。私は。」
「まずは自分で考えてみ、設計図描き終わったら教えに行くよ。」
「うげ、難しそうね。」
さらっと教えてくれるのかと思っていたジュティは嫌な顔をする。
「自分の中で解釈があったほうが強くなると思ってな。まあいい機会だと思ってやってみな。」
「了解。」
そう言って3人は外に出たのであった。
ジュティは地面に座り水を知るために空を見上げた。
(全ての始まりはまず雨よね。恵みの雨とも言うし。雨ってどこから出来てるんだろう。雲か。そもそも曇って何だ?・・・)
「ジュティさん。ジュティさん。」
(つまり雲は綿飴では無いということか。いや、綿雨か。ん、待てよ地面にたまった雨を雨たまりとは言わないわね。雨って降ってこそ雨よね。ああでもそうなると雨水の存在がわからなくなるのか。)
「ジュティさん。」
肩に手を置かれハッと我に返るジュティ。
「ごめん。深いで考え事してしまったわ。どうしたの。」
「いえ、魔力を出す感覚がわかってきたので、後、クディもノルマを達成したみたい。」
「あら、クディ初めての練習で成功したの?結構難しめのノルマにしたんだけど。」
「いえ、何回か新しいの刺しましたよ。でも新規となると私の力では。」
左右の薪の下にもこげた後を確認してジュティは理解する。
「ああ、ありがとうセミコちゃん。」
「いえ、かなり悩まれてるみたいですね。」
「ええ、火を発生させる絵は見えるんだけど、水ってどこから発生しているのかしら。」
何となく新しい薪を4m感覚で刺しながらセミコに聞かれ考えていることを話す。
「ああ、確かに言われるとわかりませんね。冷たいものを入れたコップにも水つきますよね。子どもの頃はコップが溶けてると思って焦った思い出があります。」
「流石にコップが溶けてるとは思わなかったかな。」
「ええ、そうですか。ちなみにその後よく出来た氷のコップで驚かされましたけど。」
「雪女ならではね。」
(コップ、そうかもっと身近なところからも考えたほうが良いわね。)
薪を刺し終え、セミコの手を取る。
今度はセミコの成果を確認して新しい課題を与えるためだ。
「それじゃあセミコちゃん私に魔力を流してみて。」
「はい。」
どんと一気に来る魔力に驚く。
「あれ?」
力が抜けるセミコを動揺せずに受け止める。
「中々の魔力量ね。びっくりしちゃった。」
返答など帰ってくるはずもなくジュティの言葉は空に消えていった。
セミコが目を覚ますとしっかりとした弾力があるもどこかやわらかさを感じる何かを枕にして寝ていた。頭を優しく撫でられなんだかとても安心する。
(あれ? 何してたんだっけ。確か魔力の練習をして。)
ゆっくりと目を開けると規則的に撫でながら何かをぶつぶつつぶやいているジュティの姿があった。
規則的に撫でていたものに動きを感じジュティはセミコの方を見た。
「私。」
「大丈夫、始めはそんなもんだよ。魔力は焦るみたいだし、今度は出力を絞る練習ね。」
「は、はい。」
ゆっくりと体を起こす。
「いやぁ、硬かったでしょ私の足。」
「いえ、そんなことはなかったですよ。」
「そう?」
「それで出力の練習はどうしたら良いんですか。」
「その前にお昼にしましょう。」
空を見上げると太陽が天辺に到達しようとしていた。
「え、私どのくらい寝てたんですか?」
「一時間くらいぐっすり。」
「ああ、急いで作りますね。リクエストとかありますか。」
「えーっと。」
随分と言い辛そうにするジュティに首をかしげる。
「体があったまるものが食べたいかな。」
「あ、ごめんなさい。」
「謝らないで私もセミコちゃん撫で撫で出来てうれしかったし。」
「すぐ作りますね。」
「ええ、クデイと一緒に戻るわ。」
クディに休憩を告げ、ジュティは小屋へと戻っていった。
ストーリーが全く進まないどうでもいい回が個人的には好きです。




