愚兄のお土産
会談回です。
朝になり朝日と共にジュティが目覚めて外へと出てくる。
「あぁやっぱベットで寝るほうがよく寝れる。」
「おはよう。よく眠れたようで。」
「ええ、そういえば夜中なんかあった。呼ばれなかったからそのまま寝たけど。」
クトゥーは空を見上げ少し考えた。
「特に。」
「そ。」
「ああ、そこのプレイ中の男の縄は外すなよ。」
地面に転がっているものを指差してクトゥーは注意する。ジュティも指差しに合わせて目線を移し縛られているものを確認する。諦めたのかもう抵抗はしていない。
「わかった。お楽しみの邪魔はしないわ。」
「よろしく。」
そういうとクトゥーは大きなあくびを一つ。
「私の後でよかったら少し寝てきたら、セミコちゃんにも言っておくよ。」
「じゃあお願いするか。朝食できたら起こしてくれ。」
「了解。」
クトゥーは中へ入って行き見張りはジュティへと交換された。
程なくしてクディ、セミコも起床する。クディはジュティの見張りを手伝い、セミコは朝食の準備に入った。
朝っぱらから強襲をかけるやからもいるわけがなく穏やかな陽気の中ぼんやりと見張りを続けている。
「平和ね。」
「がう。」
つい昨日まで洞窟内という危険の隣合わせの場所で生活していたジュティは地上の穏やかさに魅入られていた。
「ご飯で来ましたよ。クディさんの分はこれです。」
「がぁあ。」
待ってましたといわんばかりにクディは朝食へ噛み付いた。
「クディなんかあったら呼んで頂戴。」
「がう。」
ジュティも一言声をかけ中へと入っていった。
匂いに釣られてかクトゥーも起床していた。
ソスラテにもご飯を配り3人はテーブルを囲んで朝食を取った。
「今日は予定は?」
「ドゥエンスさんのところに報告とお土産を渡しに行って終わりだろうな。」
「まあ、そうよね。」
「あれで納得していただけるでしょうか。」
「まあ、そのときは土産話で茶を濁そう。今後も長い付き合いになるだろうし。」
朝食を終え一服し身支度を整えてから土産の入ったリュックを背負いクトゥー一行はドゥエンスさんを訪ねた。
店はまだ開けておらずヨンディ車の入口に回り声をかける。待っていたかのようにドゥエンスはすぐにクトゥーたちを出迎えた。
「今日は店を休みにしたんだ。是非君達の話を一杯聞かせてくれ。まあまずは中へ。」
「ははは、ご期待の話が出来るかわかりませんよ。」
「わかっているさ。」
中へと通されテーブルへと促される中は商品のような荷物で一杯になっている。
「すまないね。商人だから荷物が多くて。」
「ああ、いえ、気にしませんよ。」
「あんた達が旦那の言っていた期待の冒険者ね。」
奥から一人の女性がお茶を人数分持って来る。
女性は顔は整っており昔は美人だったんだろうなという面影がある。別に今は綺麗じゃないというわけではないがその体から綺麗よりもたくましいが先行してしまう。
「お邪魔しております。クトゥルといいます。ドゥエンスさんにはいつも。」
「あんたがクトゥルか小さいねぇ、ちゃんと食べてるのかい。」
「はい、毎日セミコの美味しい料理を一杯食べてますよ。」
そういいながらクトゥーはセミコに目線を向ける。女性もその目を追うようにセミコを見て目が合う。
「セミコといいます。本名はもう少しあるんですけど長いんでセミコって呼んでください。」
「わかった。」
「最後に私がジュティです。外にいるのがクディです。」
「あ、私の自己紹介がまだだったね。こいつの妻のヌスアルだよ。今後ともよろしくね。」
「「「よろしくお願いします。」」」
流れで自己紹介を済まし5人はテーブルに着く。
「積もる話もありますがお土産から。」
降ろした自分のリュックをあさり始める。
「ああ、いいよいいよ、言葉のあやだ。土産話でもしてくれると程度で考えて言ったことだ。」
「いえ、せっかく持ってきたんで。」
ゴトッとテーブルに拳ぐらいの大きさのある黄色の鉱石を置く。
「何かわからないんですけど綺麗だったんで取ってきました。どうぞ、お土産として持っていってください。」
「いやいや、頂けないよこんなの。」
出してきた物に驚き慌てて手を振って受け取りを拒否するドゥエンス、ヌスアルも同じ表情をしている。
「ああ、やっぱり価値無いですか。」
「逆だよ。価値がありすぎるんだ。お土産感覚で貰ってしまったら撥があたるんじゃ無いかって言うくらいすごいものだぞ。」
このサイズの鉱石が一塊のまま取れるなんてことはまずありえない。しかも、まだ整えていないのにうっすら輝きを感じさせるほど綺麗な色をしている。何かはわからなくとも明らかに価値のあるものだった。
「え、洞窟の壁に普通に埋まっていた奴ですよ。」
あの時はバタバタしていて気づかなかったが植物の魔物と戦った場所で見つけたものだ。
「それでもだ。何を返したら良いか。」
「一週間の見張り代とソスラテのご飯代ってことで駄目ですか。」
「まだまだ、こっちが返さなくちゃいけないよ。」
「よし、うちで飯食ってけ。」
ヌスアルが急によくわからないことを言い出し全員がヌスアルを見て固まる。
ヌスアルは自信があるような顔をしている。
「ああ、アル。お前は何が言いたいんだ。」
「これからうちに来たときはいつでも飯を食わしてやろう。どうせ食材とかはあるわけだしな。」
「いや、それ護衛さん達の分もあるからね。」
「今回も結構設けたし、冒険者もあんまりいないからもう帰ろう。前倒しにした分食材が使えるだろう。それにうちに来たときは何かもてなせるように準備しておくさ。」
「まあ、彼らがそれでいいのならな。」
「ああ、それでいいです。」
ドゥエンスとヌスアルのやり取りを見ながらクトゥーは面倒くさくなってその提案を受け入れた。
少し考えドゥエンスも頭を抱えながら納得した。
「はぁー君がそれでいいならこれを受け取ろう。近くまで来たら必ず寄るようにしてくれ。いつになったら返せるんだろうな。」
ドゥエンスは宝石に手を近づけた。しかし、触れることなく直前で止めた。
「では、その条件でこの土産を俺は受け取る。俺がこの宝石に触れるまではお前さんのものだ。」
「……。」
ドゥエンスはまっすぐとクトゥーの目を見続けた。クトゥーもその目をじっと見つめ返し動かないでいる。
「……。」
「……。」
「はぁ、こんなそこそこの商人に何故ここまでできるんだろうな。」
「それはお互い様じゃないですか。洞窟に入るときは盛大に嘗められたものですよ。」
「見る目のない奴らなだけだ。あんたらはすごいよ。」
ドゥエンスは黄色の鉱石を手に取って自分の方へ近づけた。
「土産一つでこの有様か。今日一日休みにして正解だったかもしれないな。」
「じゃあ、次に商談お願いします。」
「は?」
リュックから綺麗にはぎとられた皮や骨が出てくる。
「食料調達で手に入ったものです。」
「あ、これヌケヨンディの皮と骨じゃないか。」
ヌケヨンディは二足歩行の筋肉質のヨンディである。知能はかなり低いが持ち前の筋力と戦闘本能からしっかりと対策しなければあっさり全滅されるくらい強い。皮や骨はその強靭な肉体を支えるためにかなりの強度を持っていてそこそこ高価で取引されている。しかし、ちゃんと対策を練って戦えば倒せないこともないため希少価値はあまりない。
「何体分だよこれ。」
山になった皮と骨を見てドゥエンスは再び頭を抱えた。
「15,6体ぐらいかな。」
「そのくらい? 数えてなかったから正確にはわかんないわね。」
「道中では3体くらい倒していたと思いますよ。」
淡々と話す3人にドゥエンスのため息が止まらなかった。
商人としてまずはしっかりと出された素材の品質を確認する。以前のティムディティのようにかなり綺麗な状態で剥ぎ取りが完了されている。
「品質としてはやはり申し分ないな。金あったかな。」
「ちなみにギルドの買取はどのくらいと見ます?」
「そうだな。通常一体15万ギューツくらいで解体処理を考えると1体13万ギューツくらいか、それで15体分くらいあるから色付けて200万ギューツくらいかな。」
「そうか。それじゃあ。」
「もちろんクトゥルさんの持って来たものは解体も済んでいて尚且つ品質も高い。1体20万は軽く見れるでしょうな。」
ティムディティの1件もありドゥエンスはクトゥーの声と場を遮るように話を進めていく。
「それもギルドの買取価格です。ギルドが売りさばく値段となると総額400万くらいでしょうかね。それでうちがそれを買い占めたとして400万ギューツでの買取でいかがでしょうか。」
「それじゃあ、ドゥエンスさんの儲けがなくなるんじゃ。」
「まさか、ギルドで適正に仕入れたことと同じということになるんですよ。ここからうまく売りさばけば100万、200万の利益は出せますよ。Cランクの中級者のパーティが運搬も考えて一日1体持ってこれるかの物ですよ、利益は結構出せますよ。」
「…。350でどうでしょうか。」
「なんで冒険者の方が値段を下げているんですか。今取ってきますから400で受け取ってくださいね。」
そう言ってドゥエンスは奥へと消えていった。
ドゥエンスさんは既婚者です。商人の嫁ということで強気のたくましい女性をイメージしています。クトゥー達の貴重な収入源なのでこれからも度々登場すると思います。




