愚兄とイセミ達との食事会
ただただ食材をとって食事会をするだけの回です。
5人は扉を出て螺旋の通路を見上げる。
「ああ、これをまた上るのは大変だよね。ちょっとみんな僕の周りに集まって。」
4人は言われた通りに近づく。
ぶつぶつとイセミは何かをつぶやいたと思ったらクトゥーたちを囲むように地中から蔦のような植物が天井に向けて伸びる。その後クトゥーたちの入る地面が浮き上がり急上昇した。
通路の最上層で地面は停止し、通路側の植物が開いた。
「凄いな、魔法で植物を作って引っ張り上げたのか。」
「正解。それにしても。」
目線を見たくないが見なくてはいけない現実を見るように躊躇いながらとある場所へと動かす。
「派手にやってくれたね。」
「やったのはヒューという奴だ。」
「そそのかしたのは君だろ。」
扉の横にあるそこそこ大きな穴を見ながらイセミはため息をついた。
今回は穴ではなく扉から正式に部屋の中に入る。
「ヒュー、お疲れ様。」
「ウアアアアァァ。」
申し訳なさそうな声が響く。
「大丈夫怒ってないし君が無事でよかったよ。彼らのことはもういいから帰るときには通してあげて構わないからな。」
「アアァウ。」
ヒューはその言葉に頷いた。
「ようヒューさっきは悪かったなお前に全力を出してもらうために怒らせたんだ痛かったな。」
「アアアァアァウ。」
警戒されながら威嚇するヒュー、クトゥーもしょうがないかと苦笑いで返す。
「まあいいか、腹減ったし飯にでもしないか二人にもセミコの味に感動してもらおう。と言っても。」
言葉の最後に力をなくしながらクトゥーはヒューを見上げる。
察したようにセミコがクトゥーの横について告げる。
「流石に残りの食材全部使っても足りないと思いますよ。」
「だよなぁ。」
「私とってくるわよ。」
二人の会話が聞こえたジュティが名乗りを上げる。
「取ってくるって言っても5階ぐらい上らないと魔物が入ないだろう。」
「出せるよ。」
イセミの一言に全員が振り向く。
「僕は管理者だぞこのフロアに魔物を出すくらい出来る。ちょっと待ってて。」
そう言って目を瞑ってイセミは集中した。
「ああ待て待てまだ出すな。」
今にも出しそうな雰囲気を出してきたため慌ててクトゥーが止める。
「何だ止めるのか。」
「そうじゃない。役割分担だ。」
イセミはクトゥーの話をわかっていない。
「この前の階に植物だらけの部屋があるよな。」
「ああ、ヒューを相手にするんなら十分な休養が必要だと思って安全なエリアを作ったんだ。」
「それって敵に塩を送ることになるんじゃないのかしら?」
ジュティがイセミの言葉に疑問を覚え問う。
「ああ、僕達の目的は別に身の安全じゃないからね。楽しいこと面白いことを求める自由な思考だからね。」
「ふーん。」
「何故こっちを見る。
まあ、それはいいあそこの植物食べても良いんだよな。」
「あ、ごめん適当にやったから食べちゃ駄目なものもあるかも。」
「ああ、そうじゃない。なんというか。」
「あ、僕の持ち物のこと気にしてるの? 今更? 洞窟のものとして持ってって良いよ。」
「そうか助かる。それじゃあクディ、セミコ、野菜のほうはよろしく。」
「がう。」
「わかりました。」
「んじゃ開けるね。」
開いた金の扉からクディに乗ってセミコ達は外へ出て行った。
「んじゃ肉担当は俺らだ。」
「私が狩りで。」
「俺が解体。剣も見てやるから魔法禁止ってどうだ。」
「OK。アドバイスよろしく。」
「それじゃあ出すよ。」
数十分後大量のヨンディ肉の塊が準備される。
「ふぃー、いい運動になったわ。」
「力で押すのも良いがお前は速さが売りなんだからもう少し速さを生かした戦い方のほうが向いてるんじゃないか。」
「手数を増やせって事?」
「いや、もっと弱いところを突いていくと考えたほうが良いかな。スピードある攻撃でもガードされるよりされないほうがダメージが大きいだろ。」
「そりゃもちろん。」
「だからガードされていない弱いところに攻撃を移すか次の攻撃に行ったりできるともう一歩先の速さにいけるんじゃないか。」
「成程、参考にするわ。」
クディに野菜を乗せてセミコも部屋の中へと戻ってくる。
クトゥー一行は料理の準備をする。クトゥーとセミコは材料の下ごしらえを始めジュティは火の準備をしている。クディは寝ている。てきぱきと調理を進め山となった肉がどんどんと料理へと変わる。ステーキ、ハンバーグ、野菜炒め、煮込み、様々なものへと変化を遂げ盛り付けされる。
イセミとヒューはその無駄のない動きに言葉が出ず見入ってしまっていた。
「よしできた。セミコ残りはカバンにでも入れておいてくれ。」
「ほぼないですけどね。」
そう言いながら拳2個分くらいの肉の塊と使わなかった野菜をカバンへ入れた。
「ああ~おいしそう。」
「がうぅ。」
クディが目を覚まし、ジュティも配膳を終え料理の近くに座る。
「ほら、イセミとヒューもこっち来い。セミコの料理はうまいぞ。」
「クトゥーさんも手伝ってくださったじゃないですか。」
「味付けは基本セミコがやっただろ。」
イセミとヒューはその言葉にハッとし料理に使づく。
「すごい技術だな。いい匂いだ。」
「アゥウ。」
「イセミはこっち、ヒューはクディとそっちの大盛を食ってくれ。」
クディとヒューには大皿で山になっている料理が並んでいる、体の大きさに合わせて盛っている。
クトゥー達4人は料理を囲む。
「それじゃあ、みんな食材となった命に感謝していただきます。」
「「いただきます。」」
「がううう。」
クトゥー達は手を合わせて礼をする。
「それは何の儀式だ。」
「ん? 知らないのか。」
「ああ、この辺に来たばっかりだし地上の者の習慣は学ぶ機会がなくてな。」
顎を抑え考えて言葉をまとめる。
「お前はさっきさらっと出したけど、魔物もこの植物も命あるものだろ。そんな命を奪い俺達は自分の命をつないでいる。だからそんな命に感謝を込めるんだ。」
「成程な、いただきます。」
イセミは納得して見様見真似で感謝を込める。
「よし温かいうちに食べよう。」
クトゥーの言葉にジュティとクディは勢いよく食べ始める。クトゥーも同じ様に食べ始める。
「ゆっくり食べましょうよ体に悪いですよ。」
「「無理、セミコの料理を我慢できない。」」
「はぁ。」
小さなため息をつくセミコと苦笑いするイセミもゆっくりと食べ始める。
イセミは料理を口に入れると目を見開き自然と口角が上がっていく。その様子をセミコは見て小さく笑う。
「お口に合って良かったです。」
「ああ、とてもいいぞ。すごく幸せな気分になる。こっちはまた違う幸せがこみ上げてくるな。」
「おお、イセミそれを美味しいって言うんだ。」
次々に幸せな顔をして料理を口に運ぶイセミを見て肘で腕をつつきながら話しかける。
「美味しい。」
「そうだ。料理や食べ物を食べて幸せになったりもっと食べたいと思う気持ちを美味しいっていうんだ。それで食べられなくなると幸せでいっぱいになったことになるんだ。ちなみに幸せを食べすぎると欲張りすぎで神様から罰が下って気持ち悪くなるからちょうどいいところでやめろよ。」
「わかった。というか神が罰を与えるのか。」
「ははは、例えだよ。容量以上に取り込むとこぼれるだろそういうことだよ。」
「成程。」
そんな小話を交えながらどんどんと料理がなくなっていく。
「美味しかった、私はもう食べられないな。それにしても二人は良く食うな。」
「さっき動いたからな。」
「おなかがすいちゃってね。」
そう言いながらすべての料理を完食した。
「「ごちそうさまでした。」」
「お粗末様でした。」
クトゥー、ジュティ、セミコのやり取りに頭をひねるイセミ。
「それは何だい?」
「ごちそうさまでしたは食材や食材を美味しく料理をしてくれた人への感謝を伝えるんだ。」
「お粗末様でしたは、えーっと謙遜の意を表す言葉ですかね。まだまだ未熟ですが美味しく完食してくれてありがとうございましたみたいな意味ですかね。」
「謙遜する必要のない腕だ。自信を持て。」
「ああ、何と言いますか。」
セミコが説明に困っているとクトゥーが助け舟を出す。
「ああ、何というか、お前が人が到着したら正装をしたいと同じように定型的な返しなんだよ。」
「ふむ、そんなものか。では。」
イセミはセミコに向き直った。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。」
セミコは笑顔で答えた。
もう少しイセミと仲良くやる予定です。そのあとは地上に戻ります。




