愚兄への忠誠
ここから目的のない旅をのんびり始まります。
二人は城を出て城下町をまっすぐ歩いていた。クトゥーはよくいる町の子供のような格好でジュティも女冒険家のような動きやすい服装でいる。
「よくそんな服持ってたな。」
「元流れ者ですからね野宿とかもなれてますよ。」
「そうですか。」
クトゥーの荷物は無く、着替えや色んなものを含めジュティが大きなリュックをしょっていた。
「それでクトゥー様。」
「様はいらない。敬語も要らない。それにこの町を出たら別々に行動してもいいんだぞ。」
「ご冗談。私はあなたに剣を教えてもらうつもりでついていくんです。むしろ先生や師匠と呼んでも良いんですよ。むしろ呼ばせてください。」
「わかったわかった。それはやめてくれ。」
だらだらと会話をしながら歩いていく。目的の無いたびが始まったのだ。
「それで、どこか向かうあてはあるんですか。」
「とりあえず今日は旅の準備を整えるって名目でこの町に泊まる。」
「え、城下町から出ないんですか。」
「俺の荷物をとりに行かないといけないからな。」
「荷物ならありますけど。」
「お前はグルーフの何を聞いてたんだ。もともと家出する予定だったんだ荷造りはしている。脱出のシュミレーションも済んでいる。最低限、錫杖は回収しないとな。」
ああそういえばそんなことも言ってたなと思いながら歩き続ける。
「ん?ちょっと待ってください。あの時盗み聞きしてたんですか。」
「あ、やべ。」
「だから、私が一緒に行くって言ったときも驚いてなかったんですね。もう、恥ずかしいじゃないですか。」
「悪かったよ。お前だって余計な事言うなって言ったのに出る前に堂々といってたじゃないか。」
「あれは、次期王に言ったんでノーカンです。」
「調子良いな。」
そんなこんな良いながら二人は旅に必要なものを揃えていく。ナイフや食器、寝袋やテントだ。
二人はっていうのに語弊があった正確にはジュティだけだ。
「俺金持って無い。」
「急にどうしました。出しますよ。援助金は半分あなたのみたいなものですし。」
「いや、荷物さえ取ってくればあるんだよ。」
「全く、水臭い事言わないで下さい。二人の旅なんですから。」
「完全についてくるのね。」
昼食も取り、二人は今日の宿を探す。城下町の端の方で小さな一般的な宿に入る。
「何で一部屋なんだ。」
「良いじゃない別に。安上がりですし。」
「まあ、良いか。早速行ってくるわこの時間なら警備も薄くなってきてる。」
宿の夕食を取り部屋で出発の準備をするクトゥー。
その様子を心配そうにジュティは見ていた。
「クトゥー様。」
「だから様は。」
振り返ると不安そうな顔でジュティが見ていて思わず口が止まった。
「必ずここへ戻ってきてください。あなたに伝えることがございます。」
ジュティの不安はクトゥーに置いていかれることだった。せっかく剣を教えてもらえる師に出会えたからもあるがジュティは心のどこかでクトゥーとの旅を楽しみにしていた。
「らしく無い顔するな。ちゃんと戻るから安心しろ。」
ジュティの頭を撫でながらそう伝えた。ジュティの中にはやっぱりこの人は兄なんだなということを感じた。
「ちょっと忘れ物取りに行ってくるだけだ。」
そう言い残し窓から夜の街へと消えていった。
人目につかない路地を選びながらかさかさと進んでいく。狭い路地をすばやく進み時には屋根に上って飛び回って進んでいく。
30分ほどで城壁に到着した。
(さて、警備の程は。いい仕事するね。関係ないけど。)
そこから城の中に入らず、裏側へ回る。そこから城外へ降り草木を掻き分け自分のリュックを発見する。サッと中身も確認して背負う。
そのまま城の裏山を駆け上がり裏町に出る。本来ならばここから城下町の外へ出るのだが今回は目的地が違う。
(さて、こんなチビが歩くのはおかしい町だからな。さっさと逃げよう。)
裏町はちょっぴりアダルティなお店が並ぶ町でありクトゥーのような小さい子供が夜歩く町じゃない。
いや、クトゥーは通える年齢ではあるんだけどね。
人目につかないように慎重かつスピーディに駆けていった。
クトゥーが出てから一時間、そろそろ城に着いた頃かと思いながらジュティは休んでいた。
ちなみに捕まる心配は一切していなかった。
コンコン。
突然窓が叩かれる。
警戒しながら窓をのぞくと黒い荷物を持ったクトゥーがいた。
「速く無いですか。」
「そうか?こんなもんだろ。」
窓から再度部屋に入る。
「んで、言いたいことって何だ。」
バッとクトゥーの前に膝まづく、忠誠を誓う騎士の様にだ。部屋はろうそくの明かりだけが灯る。
「クトゥー・イーワイ様。」
「王家はもう辞めた、後ろは取ってくれ。」
姓は王家や高等貴族がつけるものになっている国の王家なら国の名前、貴族は治めている町や村の名前を使うことが多い。決して作者が考えたくないわけではない。
クトゥーはジュティの覚悟を感じ今までと違う真剣な顔で接する。
「失礼いたしました。改めてクトゥー様、私、ジュティはあなた様への忠誠を誓いこの身の一生をあなた様へ捧げ忠義を尽くすことを誓います。あなた様の僕とさせてください。」
「本気だな。今の言葉に嘘偽り訂正は無いな。」
「全くございません。心からの本心でございます。」
「ジュティよ、顔を上げよ。」
「は。」
二人はお互いに目を合わせる。愚兄と呼ばれた男の陰は無かった。そこには立派な王家の血をジュティは感じていた。
「ジュティよ、この時刻を持ってお前をこのクトゥーの僕と認めよう。裏切ることは許さぬ、自分の言葉に責任を持ち我がクトゥーに忠義を尽くせ。」
「は。このジュティ、貴殿と自分の言葉、しかと肝に銘じました。」
沈黙が流れる。ここは宿屋の一室だ。今日の宿泊客は二人だけだからこそジュティは行動に移した。何れにせよ、近いうちにこのことは伝えるつもりだった。
忠義の儀、この世界における忠誠誓う儀式だ。王家や貴族の間で配下や同盟を結ぶ際に行われる。配下になる場合は配下になるものが膝まづき、同盟の場合はお互いに立ち手を握り合う。家系や町、村単位で行う儀式は重い誓いとなるが個人同士で行う誓いはお互いのさじ加減で決まる。本気を見せるための言わば真似事である。
「・・・ぷッ。はっはっはっは。そんなに俺から剣を学びたいのか。」
「それだけじゃないですよ。」
「え。」
「私はあなたの生き様、知性、強さに惚れました。それは一人の剣士として、一人の武道家として。」
ジュティはあの一件からクトゥーのやり方にこみ上げてくるものを感じ王から旅の依頼を受けた後、自分なりにそう解釈して、忠誠を誓うことを決めた。
「そんな大層な人間じゃないだがな。グルーフも含め変な奴しか集まらんな。」
「グルーフ様もですか。」
「出発前日に忠誠の儀をされたよ。兄として俺を尊敬するだとか何とか。一国の王となる奴が何をやってるかとは思ったがな。」
悔しそうな顔をしてジュティはにらんでいた。
「どうしたそんな先を越された子供みたいな顔をして。」
「いえ、私が始めての人じゃないんだなと思いまして。」
「は?」
「何でもないです。疲れましたし寝ますからね。」
寝袋を出して寝始めようとする。
「おい、待て。」
「何ですか私はもう眠いんです。」
「お前はベッドで寝ろ。」
「はい?」
「忠誠を誓うんだったらベッドで寝ろ。」
「いや、でも。」
「命令だ。」
「わかりましたよ。」
しぶしぶ、ジュティはベッドの中に入っていった。
クトゥーがろうそくを消し、ベッドへ近づく。
「ジュティよ。もう寝たと思うから独り言を言わせて貰う。
旅についていくと言ってくれてありがとう、こんな俺のどこに惚れたのかいまいちわからんが今はそう思っているのだろう。でもこれから時が経つにつれて忠誠心が薄れるときが来るだろうそのときは遠慮なくどこにでも行くことを許可する。俺はお前を縛りつけるつもりは無い。自由に生きよ。」
「元よりそのつもりですよ、自由に生きてるから私はあなたに忠誠を誓ったんです。あなたへの忠誠心が薄れることは絶対にありませんので一生ついていきますからね。」
背中を向けてジュティが答える。やれやれといった表情でクトゥーは床に横になる。
「寝言として受けとておくよ。」
二人の一日目が終了した。
前作(現在連載中)の作品では全部にルビを振っちゃってるんですけどどっちのほうがいいのかいまだに悩んでいます。書く側としては降らないほうが楽ですね。読めない漢字とかありましたら教えていただけると修正します。評価いただきましたありがとうございます。とてもうれしいです。評価、コメント、感想等いつでもお待ちしております。皆さんのご愛読が作者の励みになります。