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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄の洞窟攻略作戦

今回で黒い魔物との戦いが終わります。次回から最終フロアになります。

 クトゥーは逐一ジュティの様子を観察していた。魔物が地面を叩く轟音で全く声が届かないからだ。そして不図、目があったときは酷い顔で首を横に振っていた。

(駄目だったか。)

 ジュティ自分を交互に指差し入れ替えるようなジェスチャーを送る。大声を出しても届かないからだ。

 ジュティは頷きクトゥーに近づいてきた。ある程度離れたところで風魔法を魔物にぶつけ自分に注意を引かせる。当たったところで魔物は改めてジュティを認識し、クトゥーの投げナイフよりも強い攻撃に興味を引かれターゲットをジュティに変更する。


「ジュティ、無茶するなよ。危なくなる前にクディに合図しろ。あと、回避最優先な。」

「わかった。よろしく。」


 声が届くところで挨拶を交わしクトゥーは扉へジュティは魔物へと向かっていった。

 途中でセミコを乗せたクディと出会う。


「クディはセミコ含め安全第一に動いてくれ。セミコはジュティが無理したらクディに移動してもらって俺に伝えてくれ。」

「がう。」

「わかりました。」


 そして、クトゥーは扉へと到着する。


「到着っと。さてどんな感じなんだろうか。」


 傷一つ無い綺麗な扉を見上げる。

 鍵穴は無い、掴むところもなく壁のように存在している。しかし、真ん中に切れ目が縦一直線に存在している。


(ふーん。何も無いな。ジュティも色々試行錯誤はしてくれていたみたいだし、何となく魔力を感じる。魔法でこの扉は開閉するのか?)


 錫杖を扉と自分の耳にあて扉の奥を確認する。コォォォという空気が流れる音が聞こえてくる。一応隣の壁にも当ててみるが音は何もしない。


(先は確かにあるみたいだな。それじゃあ、何かがスイッチとなってこの扉が開くのかな。)


 数歩離れ扉を全体的に確認する。扉の周りにクトゥーは気になるものを見つける。


(これは、ジュティの斬撃か土壁に傷つけちゃって何か威力増してないか。ただ嫌味のように扉は綺麗だけどな。)


 先程のジュティによる袈裟切りが壁に後をつけ結ぶと一直線になることから扉の計り知れない強度が手に取るようにわかる。

 クトゥーは腕を組み思考をめぐらせる。


(よしやることは決まった。)


 錫杖先を尖った物から尖って無い物へと交換し、準備運動をしながらクディの下に歩き出す。クディの元に到着するとセミコが声をかける。


「いい案が出たんですか。」

「ああ。二人は危なく無い且つ合図で一気に扉へ最速で来れるような位置にジュティといてくれ。」

「合図があれば扉のほうへ行けば良いんですね。」

「ああ。合図後は俺が魔物を遠ざける。その後撒きながら追いつくから先に進んでてくれ。」

「わかりました。来なかったら置いていきますね。」

「ああ、それでいい。」


 魔物と追いかけっこするジュティの前に立ちジュティと魔物を見る。二人もクトゥーの姿に気づく。


「交代だジュティ。指示はセミコに聞いてくれ。」

「わかったわ。」


 そのままクトゥーを過ぎクディの元へジュティは駆けていった。

 魔物は空気を読むかのようにクトゥーの前で止まる。


「よう、二回戦と聞こうか。」

「ファァアア。」


 どけ、邪魔だと言う様に首を横に一度振る。


「そう冷たくするのは。俺に攻撃を当ててからにしな。」


 左手で手招いて挑発する。


「ウオァァアア。」


 まっすぐに繰り出された拳がクトゥーのいた場所を襲う。


「駄目だよそんな攻撃じゃ、当たってやら無いよ。」


 クトゥーは攻撃を避け魔物の足元へと走っていく、魔物は自分が巻き上げた砂埃でクトゥーを見失う。

 クトゥーはそのまま魔物の太く鋭い爪に沿うように錫杖を爪の付け根の側面の肉がちょっと盛り上がっているところと爪とのあだの隙間に錫杖をち込んだ。

 その後動き出す前にすぐ錫杖を引き蹴られないように離れる。


「ウアァアァアァァァァアアアアアアアアアア。」


 今日一番の魔物の声がフロア中に広がる。大地を揺らし、壁を揺らし、天井を揺らした。

 そのまま足を抱えてその場で転がる。


「アアァッァァァアアァアァァァ。」


 二度目の悲痛の声をあげ魔物の動きが止まる。ゆっくりと立ち上がった目は光を失い、クトゥー以外は見えなくなっていた。


「グアアアアアアアアア。」


 今度は自分を鼓舞するかのような相手を脅すようなそんな力強い声が響く。

 クトゥーは既に扉の方へ進んでいた。魔物が痛がっている間に結構な距離を作った。

 魔物は辺りを見回しクトゥーを探す。発見するや否やすぐに追いかけた。

 さっきまでの遊びのある追跡ではなく本気の追跡、最高速でクトゥーに近づいていく。


「うぉお。速い。」


 クトゥーも振り返り魔物の位置を確認する。

 射程範囲にクトゥーを捕らえると攻撃をしながらクトゥーを追いかける。

 その攻撃を避けながらクトゥーも逃げることを止めない。


 トン。


 魔物を見ながら後ろ向きで逃げていたクトゥーの背中に大きなものがぶつかる。

 壁だ。

 魔物は好機と捉え攻撃を強める。クトゥーは険しい表情を見せながら壁に沿うように逃亡を進める。


 トン。


 二度目だ。クトゥーがぶつかったほうを見ると壁から少し出っ張っていた扉がクトゥーの肩に当たる。

 魔物はこの状況を逃さない。扉に対し斜めの位置を陣取りクトゥーを逃がさないように構える。


「クトゥルさん。」


 遠巻きで見ていたセミコが不安の声を上げる。


「ジュティさん助けに行きましょう。」


 慌ててセミコはジュティに提案する。

 しかし、ジュティの態度はセミコのまるで逆。冷静で落ち着いた顔と声でセミコに返す。


「何で?」

「何でって。」


 セミコの顔が絶望に変わる。


「見てたんですよね。追い詰められてましたよね。魔物も頭が良いようで逃げられないように追い込んでましたよね。あんな状況で勝ち目なんか無いじゃないですか。」


 声を荒げて強い口調でセミコはジュティに捲くし立てる。


「あはは。ごめんごめんセミコちゃん落ち着いて。あいつの本気戦闘見たことなかったわね。見てたあいつの顔。」

「顔、ですか。」


 何の不安も感じていないジュティの様子を見てセミコは落ち着きを取り戻す。


「あいつマジの顔してたよ。それにクトゥーが周りを見ないで戦うわけ無いでしょう、周りはちゃんと見えているわよ。それはこの三日間でわかったわよね。」

「はい。」


 クトゥーはどんな状況でもどんなスピードでも冷静で罠や魔物を見逃すことなく安全なルートを見つけ続けてきた。後ろからしっかり見ることが出来たセミコもその技術のすごさはよくわかる。


「それにセミコちゃんはこの洞窟に入る前の作戦覚えているかしら。」

「え。」

「まあ、勝負所には間違いないわね。ただ計画通りにも行ってるみたい。何となくやりたいことも読めてきたかな。」

「本当ですか。じゃあ、勝ち目はまだあるんですね。」

「いえ、多分勝ち目は全く無いわよ。」


 いい笑顔でジュティは答えた。


 魔物はクトゥーが逃げづらくなった分大降りでの攻撃を開始する。壁から背を離し避けやすい体勢をとるクトゥー先程までより予備動作が大きくよけやすくはある。しかし、この場から逃げ出されないような左右からの攻撃も交えてくる。

 クトゥーは真剣な表情でその攻撃を避け続けた。

 魔物の攻撃はどんどんと加速していく。その攻撃は地面を荒らし、壁をゆがませる、足場が悪くなりつつもクトゥーは真剣な表情で避け続ける。

 長く続く強力な攻撃により、ジュティ達からはもう二人の姿を見ることは出来なかった。拳が地面や壁に当たる鈍い轟音のみがジュティ達へ戦況を伝えていた。


(見えづらくなってきたな。だが、まだ避けれるな。)


 あっちへこっち錫杖を駆使し飛び跳ねるように攻撃を避けている。


(まだいい音はしないがだいぶ近づいてきたみたいだな。確認する余裕は無いけど。)


 クトゥーはとある音を聞いていた。どんどんとその音は近づいてくる。その音に心を弾ませながらクトゥーは避け続ける。


 バキャン。


 今までの鈍い音とは違う軽やかで抜けるような音がクトゥーの背後から聞こえる。バッと一瞬反射的に後ろを確認する。


(よし、出来た。)


 シャン、シャン。

 クトゥーは錫杖を二回鳴らした。


「合図だ、行くよ。」

「がう。」

「はい。」


 三人は金属がはっきりとぶつかり響きあう聞き慣れた音を聞き、一気に扉の方へ走り出した。

 クトゥーも錫杖を鳴らした後、最高速で魔物の股下を抜けていく。砂煙で反応が遅れた魔物はすぐに振り返りクトゥーを追いかける。

 ゴールはフリーになった。


 ジュティ達は二人がいなくなった戦場に到着する。


「やっぱり。」

「これを作っていたんですか。」


 到着するとゆがんだ壁にクディでも余裕で通れる大きな穴が掘り出されていた。

 穴の先には扉の裏側が見える、その先に続く通路まで。


「扉が開けられないなら諦める。クトゥーらしい発想だ。」

「あ、確かにこれじゃあ別にあの魔物に勝つわけじゃないですね。」

「逃げることを得意とする、クトゥーの戦い方ね。」


 そのクトゥーは魔物に負けずとも劣らないスピードで旋回して穴に向かって猛ダッシュしていた。


「うぉぉぉぉぉおおおお。とう。」


 穴に近づき穴に向かって飛び込んだ。

 後ろからは巨体が壁に激突する音と崩れた石が転がる音が聞こえた。


「よし、これで先に進めるな。」

「お疲れ~。」

「がぁう。」

「お疲れ様です。」


 立ち上がり先を見ると三人がクトゥーを待っていた。


「何だ、待っててくれたのか。」

「疲れたからちょっと休憩してたのよ。あんたが一番疲れてるだろうしちょっと休む?」

「いや、進みながらで良いよ。この感じだと帰りも掘らないといけないかもな。」

「ま、そのとき考えましょう。」


 呑気なことを言いながらクトゥー達は下に下りる螺旋の通路を進んでいった。


こんな感じになりました。個人的には好きな戦いの終わり方です。気に入らなかった方はごめんなさい。

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