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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄、副町長と再会する

洞窟のボス的な存在との戦いが始まります。

 円形のホールになっているような構図でパーティ面々とその魔物が対峙していた。

 見た限りパーティは息も上がり全体的に力が入っていないように体のバランスが落ちている。

 ビフォアットュはクトゥーたちに気がつき大きな声を出す。


「その扉を閉めるな!」

「え?」


 扉は最後に入ってきたジュティがぎりぎりで止めた。


「とりあえず止めたわよ。」


 声に気づき黒い魔物も一度クトゥーたちのほうを見る、動く気配の無いクトゥー達に視線を今の獲物へと戻す。そして長いリーチで拳を振るう。


「ぬん。」

「ぐっ。」


 大きな楯を持った二人がその手を押し返すように止める。力負けしているのか少し後ろに下げられている。

 その間に剣や槍を持った男三人が攻撃を仕掛ける。しかし、殴りかかった腕を軸にして飛び跳ねるようにすばやくその場からいなくなっていた。何度もやっていたやり取りなのだろう前衛組が逃げられたのに誰一人反応せず弓や魔法を使う後衛部隊が落下地点を予測して攻撃を放つ。魔物は地面に足をつけることなくごつごつした岩壁を器用に張り付いてクトゥーたちを含め冒険者を睨んだ。

 険しい表情のビフォアットュ集団。


「おい、Fランクこっちに来て手伝え。」


 Bランクの一人が痺れを切らして声を出す。


「え~俺達にメリット無いじゃないですか。副町長がいるってことは何か目的があって皆さん高額で雇われているんでしょう。何かもらえるんですか。」

「状況を考えろ! このままじゃ全滅するぞ。このすばやい魔物にダメージを与えるために今は手数が必要なんだ。」

「嫌ですよ。必要なのは頭数でしょう。」

「わかってるじゃないか。だったら早くこっち来て手伝え。」

「わかってますよ。俺達を囮にして逃げるつもりでいる何でしょう。」


 ビフォアットュ団は体をビクッと振るわせた。


「何を言ってるんだ。この魔物を倒して人類のためにホーフルフのためにこの洞窟を攻略するのだ。もちろん報酬は払う、副町長としてもだ。だから今はこの魔物の討伐を手伝ってくれ。」


 ビフォアットュが魔物から目を背けずにクトゥー達へ語りかける。壁にいた魔物が地面に降り前衛組が魔物の相手をする。ただし攻撃を防いだり避けたりするので精一杯のようだ。


「失礼しました副町長、いきなりの命令口調だったものでつい頭に血が上ってしまいました。」


 ビフォアットュの口角が上がる。

 A,Bの冒険者も全く表に出さずに相手の信頼を得るその技量に驚きと敬意を示していた。


「では、この魔物が逃げ出さないようにまずはここを閉めましょう。」


 その言葉に冒険者は慌てて振り返る。


「・・・副町長先程から扉を閉めさせない動きは何故なのでしょうか。」


 冒険者達の顔を見てクトゥーは笑う。


「もし我々で対処できなかった場合ここへ近づかせないために情報を持って誰かが逃げるためだ。」

「また開ければ良いじゃないですか。」

「こちらからは開かないのだ。」

「では、我々で増援を呼んできましょう。」

「Fランクがギルドを動かせるのか?」

「ああ、ではトレードしましょう。Aの方一人と私以外のメンバーが戻って増援要請。これなら万事解決ですね。」

「残るのはお前達全員だ。」

「何故。」

「Aランク一人とお前一人が一緒の扱いなわけなかろう。こちらの戦力が大きく変わるわ。」

「左様ですか。」


 クトゥーは考え込むように沈黙する。ジュティ達はその様子を見ながら決して動かない。クディは魔物を見つめ、セミコも周囲を警戒している。


「ぐぁああ。」


 一人の冒険者が攻撃を受け大きく飛ばされていた。避けようとして避け切れなかったのだ。軽く当たっただけなのに3m後方に転がされていた。今まで冒険者側も攻撃を受けずに攻めていたが、いつから戦っているかはわからない、だが、全員のバテ具合から相当長い時間たたかっているに違いは無い。いくら高ランクの冒険者といえど常に集中し気と力が張っている状態では一日と体は持たない。

 そして不幸にも全員が攻撃を食らう様子を見てしまったのだ。

 冒険者全員の頭の中にはあの程度の被弾であの威力なら直撃すれば間違いなく死ぬという死の意識が大きく残ってしまった。

 そして、何より最悪だったのが被弾した冒険者がAランクの冒険者であったということだ。

 よろよろと頭を押さえながら冒険者は立ち上がる額からは赤い物がたれ出ている。

 全員の体の時間が止まった。


「あああああああああ。」


 一瞬のの後、一人の男が発狂したかのように叫びながらクトゥーたちの下へ駆け出した。


「待て、どこへ行く。」


 ビフォアットュも慌てて声をかける。


「地上に帰るんだよ。どうせ俺達も下のランク者と同じようにお前らの踏み台にされるんだ。ここで一番ランクが低くてお前らの支配下にあるのは俺達だ。だったら殺される前に逃げるんだよ。」

「な。」


 男の言葉に時間が動き出したかのように5人の男女が同じように走り始めた。


「待って。」

「置いていかないで。」

「残さないでくれ。」


 各々がそれぞれの反応を示し慌てて追いかけていく。


「やむ終えん撤退だ。奴に気をつけながら入口を突破する。」


 ビフォアットュがAランクに指示を出し、全員が一斉に入口へと走り始めた。遠距離攻撃ができる者はけん制で攻撃を放ちながら進む。

 魔物も獲物を逃すまいと追いかけてくる。


「やっぱりなんかしてたな。」

「踏み台って言うと罠チェックとか魔物の討伐に使ったって事かしらね。」

「おそらくな。冒険者達に調子に乗らせて深入りして対峙している間に横を抜けて楽したんだろう。」

「まあ、私達も楽させてもらったからなんともいえないけどね。」

「確かにそうだな。」

「それにしても随分喋ってたわね。」

「誰かが壊れる時間稼ぎ、元々、取引に乗るつもりは皆無だったからね。」

「クトゥルさん、ジュティさん、あれ。」


 呑気に会話をする二人にセミコは正面を指差していた。今まで魔物や冒険者に目が行っていたが、セミコの指す方を見るとカラフルな扉があった。


「うわ、何だあれ気がつかなかったな。」

「何で気づかなかったのかしらね。」

「どうします。」


 その言葉に二人は悩む、迫り来る冒険者と魔物。


「まあ、行こうかもしもの時は何とかして出よう。」

「それじゃあこのまま相手をお願いしてあっち見に行きましょうか。」

「がう。」


 そう言って4人は扉から離れ外周を沿うように奥の扉へと向かった。

 冒険者達には入り口しか見えていなかったがビフォアットュと魔物は外周に沿って中に入る4人に目を奪われた。


「おいおい、よそ見して良いのか大量の獲物逃がしちゃうぜ。副町長も閉め出されちゃうぞ。」


 クトゥーの言葉に二人は入口を見る。

 魔物はラストスパートといわんばかりに大きくビフォアットュ達の方へ飛んだ。冒険者達も次々と部屋からの脱出に成功し扉を閉める準備をしなから仲間を応援する。クトゥー達も魔物が飛んだタイミングで直線距離で出口の扉へと向かった。

 巨体が壁に激突する音と小石が転がる音が中に響いた。

 入口のほうには砂煙が上がりぶつかった衝撃も合わさり完全に見えなくなっていた。


「ウワァアァアアアア。」


 部屋を揺らすような大きな獣の声が響き、砂埃が吹き飛ぶ。


「あーあー逃げられちゃったか。」

「どうするの。」

「囮になるから調査よろしく。鍵とか硬さとか」

「わかった。」


 そう言うとジュティ、クディは扉に走り、クトゥーは魔物へと向かっていった。

 投げナイフを取り出し魔物の顔にめがけて両手で交互に投げる。


「さあ、始めようぜ。」


 魔物がクトゥーを相手と認識した。クトゥーも錫杖を持ち直す。


「グオオオォァアアア。」


 咆哮と共に魔物が攻撃を開始した。

 それをぴょんぴょんと魔物の周りを周るように避けていき、ジュティ達の方へ向かわせないように自分に注目させる。

 ジュティ達も扉に到着して調査を始める。


「鍵穴も掴むところもも無いわね。」

「そうですね。」

「材質は岩だけど綺麗に均されてつるつるね。真ん中に切れ目があるから両開きかしら。」

「とりあえず開いてみます?」

「そうね。」


 ジュティはまず扉を思いっきり押してみる。


「ぬぅぅぅぅ。はぁー。クディこっち押して。」

「がう。」


 ジュティが右側クディが左側を押してみる。


「ぬぅぅぅぅ。」

「がぁぁぁぁ。」


 根気よく押してみるが微動だにしない。

 力を別の方法を思考する。


「引いてみるって言っても掴むところが無いし。」

「ジュティさん引き戸みたいな奴じゃないですか。」

「引き戸?スライド仕切って事?」


 ジュティとクディは扉に手をつきグッと右の方向へスライドさせてみる。

 動かない。


「逆はどうだ。」


 二人は向きを変え今度は左側に押す。

 動かない。


「それじゃあシャッター式だ。」


 上に押し上げてみる。

 動かない。


「まさかの下か。」


 下に押し下げてみる。

 動かない。


「……。」

「ジュティさん?」


 拳と額を扉につけわかりやすく諦めているジュティに近づきセミコは優しく声をかける。


「クディ。セミコちゃん。ちょっと離れてて。」

「がう。」

「はい。」


 気迫のこもった声に二人は大人しく離れる。

 ジュティも扉から二歩下がり剣に手をかける。


「たぁありゃぁああ。」


 風魔法に乗せ鋭い斬撃を気合を込めて繰り出す。扉は無傷である。


「……。」


 無言で何度も何度も切りつける。何度やっても傷一つつけることはできない。


「火ならどうだ。」


 右手に火の玉を作り扉に投げつける。焦げ一つつかない。


「あああああ、これならどうよ。」


 ジュティは扉に手をつけ扉の隙間に燃える魔力をイメージして隙間に流す。


「爆破。」


 そのまま熱を加える。爆発音とともに煙が舞い上がる。扉はきれいに保たれていた。

 ジュティは振り返りクトゥーに向かって頭の上で大きくクロスする。


「クトゥー、無理。」


 その声に気づいたクトゥーは魔物に追われながらその様子を確認した。


次回くらいで巨大な魔物戦は終わりそうですね。

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