愚兄と大輪の花
洞窟に入って初めてまともに戦います。
そのまま5階ほど下へと降りていった。
「ふぃー扉に到着っと。午前中の倍くらい時間がかかったな。」
「そうね。広さも量も大きくなってきたわね。」
到着までに5時間ほど時間を要した。かかった原因はフロアの拡大にある。魔物も強くはなってきているがその分体つきも大きくなりまともに相手にするのは厳しいが避けて逃げる分には対して変わらない。しかし、フロアの拡大は大きく分かれ道の数も増え分かれ道の先に分かれ道というパターンもどんどん増えてい
く、それに魔物から逃げながらのためソナーを使う余裕もなく、クトゥーの空間把握能力を信じて虱潰しに進んでいく形となっている。
「どうするもう一本行くか?」
「そうね、調子良いしもう一つくらい進んでおきましょうか。」
「がうぅ。」
「私も大丈夫です。」
全員が進むことを了承した。
「よしじゃあもう一本行くぞ。今日は最後じゃないって気持ちで望め、今まで通りだ。気を張りすぎたり緩めすぎたりしないで適度に緊張して行け、いいな。」
「もちろんよ。」
「がう。」
「はい、慢心はしません。」
「よし、行くぞ一本集中。」
気合を入れなおしクトゥー達は螺旋に下る道を降りていった。
螺旋の道を抜けるとそこは今までと違いまっすぐな道が一本だけあった。
クトゥーは今までと違うことを不審に思い錫杖を刺した。
「ハァッ。」
いつものように声を出し錫杖に耳を当てる。
そしてクトゥーは笑った。
「はっはっはっはは。」
「どうしたの?」
「こりゃやべぇな。」
笑いながら喋るクトゥーに三人は疑問符を浮かべる。
「お前ら、戦う余力はあるか。」
スッと別人格に切り替わったかのように真面目な低い声を出す。
三人もその声に顔つきが変わる。
「何があったの。」
「どちらかというと何もなかった。ただの一本道だ。」
その言葉に全員の緊張がよりピンと張る。
「それは簡単なのかそれとも。」
「簡単で良いくらいここにいるのがやばいのかのどっちかだ。」
おそらく後者、絶対後者、確実に後者、と四人全員が思うくらいその通路はやばい空気を放ちだしていた。
「クトゥーの声で。」
「警戒したな。簡潔に伝える、クディはセミコを連れて何が何でも扉に到着しろ、たとえどっちかが捕まっても扉まで行き最悪中に入れ。ジュティは俺とクディの経路を作り状況を見て先頭を離脱する。」
「了解。」
「がう。」
「行くぞ。」
スピードを上げて通路を駆け出していった。
通路も中盤に差し掛かったところで魔物の姿が見えた。
大きな葉っぱの上に立ちそこから何本もの蔓を器用に操り、頭に大輪の花を咲かせた蔦のドレスを着る緑色の女性がそこにいた。
「植物かよ。」
「クトゥーもしかして。」
「超苦手ジャンル。」
クトゥーは一撃で息の根を止めるために急所を一点狙いするため植物のようにここを突けば一撃という場所が無い植物は代の苦手分野だ。
「クディ、俺とジュティで囮になる一気に抜けろ。」
「がう。」
クディがクトゥーの前を行き隙間を突破する体勢に入る。
クトゥーはポケットから細身のナイフと油を取り出す。
「ジュティ。」
一言声をかけ油を塗ったナイフを構える。投げる直前の一瞬にジュティはクトゥーのナイフに火をつける。そのまま投げられたナイフは燃えながら魔物へと飛んでいった。
「!!。」
逃げようとするクディに目が行っていた魔物も飛んでくる火とナイフに反応しクトゥーとジュティを見る。
その隙に一気に加速をしてクディは魔物の横を抜けた。
「よしそのまま先に行け。」
そしてクトゥーとジュティ、魔物がお互いに対峙する形となった。
「あ。」
緊張感に包まれる中力の抜けるような声でジュティが声を出す。
「どした。」
「あなたと初めて共闘するわねクトゥー。」
「あ?何言ってんだヴィツチジェ戦で共闘してただろ。」
「あんな水をバシャバシャしてただけの戦いなんて共闘って言いません。」
「そうですか。俺は帰りにまたこれと戦わなくちゃいけない可能性に頭が一杯ですよ。」
フォン。
世間話をしていると痺れを切らしたのか魔物が蔓で攻撃を仕掛けてきた。
難なく二人は避ける。
「よ。」
「ほ。」
襲い掛かる複数の蔓を器用に避けていく。ジュティは隙を見て火の魔法を放ち魔物を攻撃するが水分を含む植物には火力が足りず燃え広がる前に消火される。
火の魔法持ちということに気づいた魔物はジュティへ蔓を増やしジュティを一切近づけないようにする。
「クトゥーこの子頭良いわ近づけない。」
「火の魔法は当てれるか。」
「何とか打つ余裕はあるよ。」
「分かった。」
クトゥーへのマークが少なくなり、その最中クトゥーが服の中から出した木の球のようなものを投げる。
「ジュティ燃やせ。」
指示に従い木の球に向かって火の魔法を当てる。木とは思えないほどに燃え魔物に向かう。
「!?」
今まで以上の火力で飛んでくる火の玉に慌てて魔物は蔓を使ってなぎ払う、しかし、蔓に少し引火してしまい険しい表情を見せる。
魔物が火の玉に気を取られている間にそのままクトゥーが魔物に接近して錫杖を構える。
ニヤッと魔物は口角を上げ次の瞬間地中から蔓が伸び、クトゥーの腹部を押し上げるように殴る。
「ぐっ。」
攻撃の段階まで行っていた錫杖は魔物に届かず魔物の足元に刺さった。
そのままクトゥーは天井に打ち付けられた。
「がはっ。」
背負っていたリュックのおかげで天井の石に突き刺さることはなく外傷は避けられたが強烈な打撃痛がクトゥーを襲いクトゥーは力なくうなだれる。
その様子に魔物は恍惚の表情を浮かべる。
「はあああぁぁぁぁ。」
クトゥーを楽しんでいる隙にジュティが魔物に近づこうとする。
ジュティの声に魔物も反応してクトゥーをそのまま天井に拘束してジュティの相手を始めた。
激しくなる攻撃にジュティは立ち止まる。そのときジュティは火の玉を放った。魔物はクトゥーを拘束している以上火力を上げることは無いと判断し冷静且つ余裕があった。
しかし、ジュティの攻撃は魔物に届くことはなかった。その手前に突き刺さる錫杖に当たる。錫杖はボウッと燃え上がり魔物の足元を燃やす。
「!!」
その攻撃に焦りだす魔物に違和感が襲う。クトゥーを拘束している蔓に液体が流れるような感覚が走る。
「よう、やっと気づいたか、太い植物は燃え難いからな着火剤を使わせてもらったぜ。」
うなだれるクトゥーの左手にはガラスのビンがありそこから蔓を伝って液体が流れ込んでくる。
魔物の理解が追いつく前にどんどんと火は広がり魔物の全身に広がるようになってくる。
もうクトゥーを拘束する余裕もなくなり緩まった蔓からクトゥーが滑り落ちる。
「オーライ、オーライ。よっと。」
落下地点にすぐさまジュティがスタンバってクトゥーをナイスキャッチする。
「お疲れ。」
「ぽんぽんめっちゃ痛い。」
「25歳が若作りしないの。錫杖どうする?」
「まずはここを抜けろ、酸欠になって死ぬぞ。グルーフ製の錫杖はこの程度で駄目にならん。燃え終わった後に取りに来る。まずは扉を超えて休憩だ。」
「OK」
力ない声でクトゥーがジュティの質問に答える。ジュティはクトゥーを抱えたまますたこらさっさと魔物の横を抜け奥の扉へと進んだ。
「よく気づいたな。」
「そう、あれ何?」
「フゼスリの煙を出した球にヒントを得て作っておいたんだよ。その名も油玉。」
「一回目は私に気づかせるために投げたでしょう。」
「ああ、気づいたんだろ。」
「ええ、あなたが攻撃を食らう前に手元で錫杖に刺してたのも見えたからね。錫杖には油が滴って燃えやすくなる。」
「後は俺が全身に油を撒けばいい。ビンを投げるという手もあったが気づかれると予備は取り出せなかったから確実にかけさせてもらったよ。」
扉をくぐると心配そうな顔の二人がいた。
「大丈夫ですか!?」
ジュティの腕でぐったりするクトゥーを見てセミコが心配の声を上げる。
「大丈夫よ。外傷は無いし血も吐いてなかったから酷めの打撲ですむわよ。触った感じ骨も折れて無いし。」
「ああ、一晩寝れば大丈夫だろう。」
「一応塗り薬塗っておきますね。」
セミコは薬箱から薬を出しクトゥーの服をまくった。
「うわっ、青。」
「よく平気そうな言葉並べますね。」
セミコは薬を手に取り早くよくなれぇと願いながら優しくクトゥーのおなかを撫でた。
「ああ、やばい。これはやばいぞジュティ。何か変なところが元気になりそうだ。でも痛すぎて無理だ。でも凄い今幸せ。」
「ああ、ズルい。セミコちゃん終わったら私のおなかも撫でて撫でて。」
「馬鹿なんですかお二人。」
呆れた声を出してセミコはため息をついた。
クトゥーとジュティはセミコを溺愛しています。胃袋もがっつりつかまれています。




