愚兄の洞窟探索作戦
ドゥエンスさんの回になりました。
ドゥエンスはクトゥーとジュティに握手を求め二人もそれに応える。その後セミコの目を向け二人に問う。
「こちらの可愛らしいお嬢さんは?」
「始めまして私は雪女のセミコロイシアトフォビと申します。長いのでセミコと呼んでください。他のパーティとはぐれたところ、たまたまお会いしたお二人に助けていただきました。」
「そして、俺達が彼女の力に惚れてパーティに加わってもらったんだ。」
「ほう、二人の御眼鏡に適う能力ですか。失礼挨拶がまだでしたな、私はドゥエンスと申します。商人をしております。二人とは行商中にたまたま出会いましてそこから交友関係を築かせて貰ってます。これからよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
セミコとも握手を交わすが、セミコの冷たさに思わずドゥエンスの手が反応してしまった。
「あ。」
その反応に思わず声が出てしまったセミコ、クトゥーとジュティが温かく迎えてくれたので忘れていた。慌てて手を離そうとしたところドゥエンスがセミコの手を強く握りなおした。
「失礼いたしました。少し驚いてしまいました。商人としてまだまだ修行が足りませんね。」
驚くセミコに眉を下げ申し訳なさそうに笑う。
「いえ、ありがとうございます。」
そのまま二人は固い握手を交わした。
不図ドゥエンスはセミコの背負っているリュックに目をつける。
「おや、このリュックはどこで買われたのですか。よく見るようなデザインなのですがどこか違和感がありますね。」
しげしげとリュックをじっくり観察する。セミコは体が強張って背中に冷や汗を感じ始める。ジュティはクトゥーをばれないように小突いている。
「ふむ、パッと見は何の変哲も無い大きなリュックなのですが、なんと言えば良いんですかね。」
「そのーこのリュックそんなに変ですか?」
クトゥーも内心どきどきしながらドゥエンスさんに聞いてみる。
「あ、いえ、とてもよくお似合いですよ。すいませんお気を悪くしましたか違和感というのは商品っぽく無いなと感じただけで、セミコさんが背負っていて変というわけではありません。」
商人としての目や感想が先走ってしまったと反省し慌てて誤解を解こうとする。しかし、クトゥーは商品っぽく無いという発言に大きなショックを受ける。かなりの自信作だったようだ。
「ち、ちなみにどの変が商品っぽく無いんですか。」
「ええ、パッと見はどこにでもありそうなリュックなのですが、布のつなぎ目や骨組みとのかませ方がとても綺麗だと感じました。この手の商品は大量に製作するために所々綻びが多少なりとも生まれてきます。
しかし、そのリュックはオーダーメイドのような完成度が出ているので、もしどこかで購入されたものでしたら仕入先の候補にさせてもらおうかと思いましてお聞きしました。」
「ちなみに普通の人から見てそのことはわかりますかね。」
クトゥーの質問にドゥエンスは自信満々の笑みで応える。
「私から言うのもあれですが無理でしょうな。私は長年道具屋の亭主として良いものを見極めるトレーニングをして来ました。私と同等それ以上の目利きでないと違和感を感じることすらないでしょうな。その反応からするにわざとこういったデザインにしましたな。」
敵わない相手を目の前に脱力した笑いを出しながらクトゥーは観念したように答えを話す。
「流石ですね。考察の通り、どこにでもあるようなデザインに拘ったセルフメイド品ですよ。製作者は俺とセミコです。骨組み等は俺が、裁縫等はセミコがやりました。」
「ほう、それは凄いですね。かなりの完成度ですよ。副業にいかがですかな高値で買いますよ。」
「ご冗談を、本業で忙しいですよ。」
「ですか。もし仕事に困りましたらお声掛けください。その腕買わせていただきますよ。」
「機会があれば。」
そっけない態度を取っているがクトゥーとセミコは口角が上がるのを抑えきれていない。それに気づき二人とも顔をそらす。
「余程の自信作だったみたいね。二人とも顔隠しても意味ないわよ。」
「うっさい、見るな。」
「あんまり見ないで下さい。」
ドゥエンスはそこそこ名の知れた商人であり、その目利きは間違いないとされている。だからこそドゥエンスの手にかかっている店は良いものばかりがそろっており、イーワイ国を中心にその知名度は広がりつつある。そんな物を見るエキスパートから絶賛されたら、加工に加わった二人が表情を保てないのも無理はないのだ。
「ドゥエンスさんこのリュック凄いんですよ、中と外触ってみてください。」
「それでは失礼して。」
ニヤニヤが泊まらない二人を置いてジュティはドゥエンスさんに語りかける。
その言葉に促されドゥエンスはまず外の生地を触る。
「これはあまり触れたことのない生地ですな。骨組みを含めなかなかの強度がある。何の素材を使っているのですか。」
「その前に中に手を入れてみてください。」
「どれどれ、セミコさん失礼します。」
ドゥエンスは上の口から中に手を入れてみる。
「これは!?」
ジュティと同様、ドゥエンスもその冷気に驚きの声を上げる。
その様子を見てジュティも自信満々に答える。
「すごいでしょ、セミコちゃんはね、自然と冷気が漏れ出しちゃう子なんだけどクトゥーはそれに目をつけたんだ。」
「この冷たさ、食料の保存ですか。」
「すごい、流石ドゥエンスさん正解。私達は流れ者だからね保存食だけじゃ辛いのよね。」
すぐに答えを導き出すドゥエンスにジュティは素直に応える。そして、ドゥエンスは考察を続ける。
「それにしても冷気が残り過ぎている。このリュックは特別なものを使っているね。」
「またまた正解。このリュックはこの間スフォーヒで倒したヴィツチジェの素材が使われているのよ。」
「あれを倒したのは君達だったのか。」
イーワイ国の商人として情報はなるべく早く仕入れているだけあってスフォーヒの流れ者ヴィツチジェの討伐の情報も入っている。
「成程なだから目立たせないデザインにしたんだね。おっと、結構話し込んでしまったね会計は終わったのかい。安くするよ。」
「残念ながらもう終わりました。」
「それは残念だな。ではまた当日私も行商で入り口には行きますので見つけたらお声がけください。」
「お忙しそうですね。」
「商人なんてそんなもんですよ。それでは。」
一礼してドゥエンスは去っていった。
「そういえば集合はいつなんだ。」
そう言われジュティはギルドでもらった資料を確認する。
「えーっと三日後ね。場所は町の裏山みたいね。私達は小屋持ちだし前日入りすれば余裕ね。」
「それじゃあ明後日に食材を買いながら移動だな。明日はゆっくりするかな。」
「了解それじゃあ三日分の食料買って戻りますか二人も待ってることだし。」
「そうですね。」
三人はそのまま食料を買い小屋へと戻っていった。
小屋に着いたのは夕方を過ぎた時間だった。
二日後の朝、小屋の前で五人全員が集合していた。
「それでは作戦を発表する。意義や意見、質問のあるものは遠慮なくすぐに行ってくれ。」
四人はそれぞれの返事をする。
それを確認し、クトゥーは話を始める。
「今回、洞窟探索組は俺、ジュティ、クディ、セミコの四人で行く。」
「ソスラテには残っていてもらうってことね。」
「ああ、ソスラテには一応小屋の警護として残ってもらう。ソスラテそれでいいか。」
「カァ。」
鳴き声と共にソスラテは頷く。
「ドゥエンスさんも現地に来るということだったから、小屋のこともついでにお願いしようかと思っている。ただ、ドゥエンスさんも忙しいからずっと見れる訳では無いと思う。そこでソスラテの出番だ。もし、ドゥエンスさんも襲われるような状況であれば迷わずフゼスリを呼んできてくれ。この小屋だけが狙われる場合は、小屋の位置の把握を最優先に余裕があればフゼスリに連絡して回収に当たってくれ。ここまでは大丈夫か?」
ソスラテは力強くうなずく。
「よし頼んだぞ。」
そんなソスラテを見て頭をなでながらクトゥーは答える。
「それで洞窟探索組だが、今回はスピードを中心とした作戦を行う。」
「スピード。」
「ああ、セミコはクディの背中に乗って移動する。先頭を俺にして罠や敵を確認して先導する。クディはそれに続いてくれ。セミコは最後尾をついてくるジュティが問題ないか逐一後方を確認してくれ。最後にジュティが後方からの敵に注意してくれ。」
「成程、隊列はわかったわ。それでスピード中心の作戦って。」
「ああ、今回俺達は洞窟を全力で駆け抜ける。素材やお宝の回収は帰りに全部回す。そして、極力敵はすべて無視してスピードに物を言わして巻く。」
それぞれが黙り真剣に考える。ひとしきり考えを整理しジュティから声を出す。
「わかった、異論はないわ。それで行きましょう。」
「がぁう。」
「私は戦闘はできませんので、皆さんについていくだけです。」
全員がクトゥーの作戦に同意する。
「ありがとう。緊急事態があれば随時指示を出す。何か起こらないということは絶対にない、何か起こる前提でそれぞれも注意を払ってくれ。」
こうしてクトゥー一行の作戦会議が終了する。
次回から洞窟探索が本格的に始まります。




