愚兄の旅立ち
さあ、ついに旅立ちます。
それから一週間程経ちジュティは王に呼ばれていた。廊下を歩いているとクトゥーが走ってやってくる。
「余計なことは言わないようにね。」
すれ違いざまにあのときの空気を出しながらそのまま去っていった。
「失礼します。」
「入りたまえ。」
ジュティは丁寧に入室する。
「まあ、座りたまえ。」
用意されていたイスに座る。
「周りを見ていれば何となくわかると思うが君だけでなく従者全員を呼んでいる。だから君が何かしたわけではない、楽に聞いてくれたまえ。」
「はい。」
「これからの質問に従者ということや、王である私の話しだからといって聞かないで貰いたい。素直に本音の意見を述べてくれ、どんな答えでも君の事を無碍にする気は無い。」
「わかりました。」
そこまで話し、ふぅーっと深い息をついてから王は話し始める。
「私は王を引退し息子に王権を渡したいと思っている。」
「はい。」
「クトゥーには悪いが王権を渡すのは弟のグルーフにだ。」
きっと大喜びするんだろうなぁとジュティは呑気なことを考えていた。
「そこで、クトゥーにはこの城を出て行ってもらおうと思っている。」
「何故とお伺いしても。」
「構わん。答えるとグルーフの威厳に関わるからだ。」
「・・・。」
「君もクトゥーが愚兄と呼ばれていることはわかるな。」
「はい。」
「そして、クトゥーは兄であるため次期王は自分だと思っている。」
「・・・。」
「それで王になれないことを告げ子供のように暴れまわられるとグルーフだけでなく国の沽券にまで影響がでる。従者の誰かがついてクトゥーが余計なことを口走らないように子守をしてもらいたいと考えている。」
「そんな。」
子守だなんて彼はしっかりした人だと否定しかけたところで当の本人の言葉を思い出した。
その時、王の顔がかなり険しいものになる目元にうっすら涙も浮かべている。一人の親としてとても辛い決断を迫られているのだろう。
「皆が嫌がる気持ちも大いにわかる。最悪の場合、家出を装い殺そうと思っている。」
「・・・。」
無理だろう。ジュティの感想はその一言に尽きた。
(あれを殺すって私でも無理だし、ここにいる兵士が束になっても無理だわ。立ち合いなのに殺せるもんなら殺してみろって顔で殺す気で来いって言って来るんだよ。無理だろう。)
他の従者と比べてあまりにも無反応なジュティを王は変に思った。
「どうした。なんともいえない表情をしているが。」
「あ、ああ、いえ、あまりにも唐突に言われたので頭の整理が、ははは。」
「そうか。」
腑に落ちないところがありながらも王は続ける。
「それでジュティ、君はこの件受けてくれるか。」
「はい、受けます。」
「そうかやはりそうじゃ・・・え?」
「クトゥー様の件ですよね。私が行きます。」
クトゥーに言われ剣の腕の磨きなおしを考えていたが従者としての仕事が忙しく退職を考えていたところだった。
あまりにも意外な言葉に王が固まっている。
「受けてくれるのか。」
「はい。いいですよ。」
「あのクトゥーだぞ。」
「はい、私もクトゥーという名はあの方しか知りませんが。」
静かな時間が過ぎ王の目に涙が見え始めた。
「ありがとうジュティ。これで私は息子を殺さなくて済む。」
(王も一人の親だ。息子に手をかけるのはつらかったのだろう。やはりこの国の王だとても優しい人だ。)
「すまないジュティ、思わず出てしまった。出発はいつにしようかこちらはいつでも構わないもちろん退職金だけでなく援助金も出そう。」
「ああ、では、明後日とかで良いですか。」
「随分早いな。構わん明日は休暇にして荷造りをしなさい。家政婦長にはあたしから言っておくよ。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
そういってジュティは退室した。
自分の部屋に戻り、ジュティは声を出した。
「やった~。城を辞めるどころか親公認でクトゥー様と旅が出来る。これで私の剣をいつでも見てもらえるな。それに援助金までいただけるなんて最高の辞め方よ。」
彼女は剣に対してまじめで一直線のため剣馬鹿といわれるほどで知り合いに城の女中になったといったら「兵士じゃなくて!?」と驚かれるほどだ。
「あ、この間のグルーフ様の顔。」
一週間前の人生が変わったあの日、最後に見たさびしそうなグルーフの顔を思い出した。
「そして、すれ違いざまのクトゥー様の言葉。あの二人は知ってたんだこのこと。」
気づいたらジュティは部屋を出ていた。グルーフの部屋の前に着きノックをした。
「どなた。」
グルーフの声だ。
「ジュティです。少しお話しがありまして、夜分にも仕分けないですが聞いていただけ無いでしょうか。」
「入ってきて。」
「はい。」
扉を開け中に入った。
「鍵締めて。」
「はい。」
鍵をかけてグルーフに近づく。
「この前みたいにかしこまらなくて良いよ。」
机に座っていたグルーフが振り返る。
「兄さんのことかな。」
「はい。」
まずジュティは深々と頭を下げた。
「ごめんなさいあなたの気持ちに気づけなくて、出発を明後日にしてしまいました。」
「そうか。頭を上げて。」
ジュティは顔を上げる。あの時と同じ顔をしていた。
「ありがとう。ジュティさん。僕も心の整理をつけられます。」
「驚かれないのですね。」
「うん。あの時にはもう兄離れの準備をしていたからね。ジュティさん兄さんをよろしくお願いします。」
「いえ、私のほうこそ。」
「今日はもう遅い、あなたも荷造りとかあるでしょう。いろいろとありがとうございます。一個人グルーフとして城で会うのは最後でしょうから言わせてください。
ありがとう、そしてさようなら。また会いましょう。」
「はい。」
ジュティは退室し、自室へと戻った。
中庭の窓のほうへグルーフは移動し窓を開けた。
「盗み聞きは得意になったんじゃない。」
「まあな。まさか、あいつも来るとわ。」
「堂々と出れて良いんじゃない。」
「それもそうだな。」
クトゥーは従者への聞き込みが終わったタイミングで家出するつもりでいた。あそこまですばやい動きを見につけ慣れ親しんだこの城を抜け出すのはクトゥーにとっては簡単なことだ。
「それじゃあ、明日言われるのかな。これで猫かぶりの生活も休む時間が増えるな。」
「あれ?辞めるんじゃないの。」
「これはこれで使えたりするんだよ。」
「そっか。」
いい天気で月の光が綺麗に差し込んでいる。
「さびしいか?」
「全然。」
「そうか。俺はさびしいぞ。」
「あ、ずるい。気使ったのに僕だってさびしいよ。」
「はっはっは、お前は優秀だ上手くやれるさ。」
窓からひょっこり出すグルーフの頭を撫でながら笑う。
「安心しろ。俺の弟だ。」
「うん。僕の一番の誇りだよ。」
「んじゃ、戻るわ。」
「うん、おやすみ。」
翌日、王はクトゥーに王となるために世界を旅して学んで来いとそれっぽいことを言ってきた。
クトゥーは子供っぽくわかったとか何とか言って納得した。
更に翌日旅立ちのとき。
「それではジュティ、よろしく頼むぞ。」
「お任せください。」
「ジュティさんよろしく。」
「はい。クトゥー様。」
門が開き二人は手をつないで歩いていく。ジュティが門直前でジュティが止まる。
「そうだ。陛下。言い忘れていたことがありました。」
「何だ。」
顔だけ振り返り、ジュティは捨て台詞のように王に向かって一言。
「私もクトゥー様は愚兄だと思いません。この方に仕えることを誇りに思います。」
ジュティは王を見ていなかった階段上でひっそりと眺める、一人の男を真剣にまっすぐな目で見ていた。場内は不思議な空気に包まれ二人は城を出て行った。
困惑する場内で一人の男だけ笑いながら部屋に戻って涙を浮かべていた。
たくさんの閲覧ありがとうございます。かなりの見切り発車でスタートしましたのでこの後の展開を何も考えていません。考えていたことはクトゥーとグルーフとジュティのキャラ案と冒頭のばれるところまで位です。とりあえず、馬車みたいなものにの出て行こうと思っています。