愚兄と一通の手紙
ヴィツチジェ編のラストです。次回からまた新しい話になります。
「できましたよ。」
セミコの楽しそうな声と共にテーブルに大量のヴィツチジェ料理が並ぶ。
「私の村で食べられている下味をつけて小麦粉をまぶして揚げたものとシンプルに串にさして塩で焼いたもの、香草と一緒に焼いて香り付けしたもの、後は細かくして丸めて出しをとったスープです。たくさん作りましたのでどうぞ食べて下さい。昨日はお疲れさまでした。」
テーブルに並んだ、料理のにおいにクトゥー、ジュティはよだれがあふれ出てくる。
「ジュティ、お前の功績だしっかり挨拶しろ。」
「はいよ。」
ジュティは胸元で手を合わせる。
ヴィツチジェの雄姿を思い浮かべ目の前の料理に感謝を込める。
「いただきます。」
「「いただきます。」」
ジュティに合わせてクトゥーとセミコが続く。
クディの分はすでに用意して外に持って行ってある。
ジュティが料理に手を付ける、クトゥーとセミコはその様子を見守る。
「おいしいぃぃぃい。」
目がきらめきとても幸せな顔で料理を食べ進める。言葉を発さずに誰にもとられたくない子供の様な勢いで食べ続ける。その顔は変わらず幸せそうな顔をしている。
「この揚げたのすごくおいしいわね、小麦の衣がサクッとして中から柔らかいお肉と肉汁がジュワっと広がっておいしいが広がるわ。焼き鳥も肉がいいのかしらね今まで食べたもので一番おいしいわ、弾力があって肉のうまみが噛むたびに広がる。香草焼きも香りが邪魔をせずよく合っているわ。スープも優しい味がするわ。
ありがとうセミコちゃんすごくおいしいわ、二人も食べなさいよ。」
満足そうなジュティを見てクトゥーもセミコも笑みがこぼれる。
「そんなに喜んでもらえてうれしいです。これからもおいしいものを作りますよ。」
「夜通しで解体した甲斐があったな。ジュティ帰りは任せたぞ俺はこれ食ったら寝る。」
二人も料理に手を付け始め楽しい幸せな朝食が進んだ。
「クディ準備OK?」
「がうぅ。」
クディに小屋をつなぎジュティがクトゥーの定位置の手綱を握る席に座る。手綱を握りクディに指示を出す。
「さあ、スフォーヒに戻るわよ。」
「がう。」
クトゥーは部屋で眠り、セミコは食器の片づけや掃除を行う。
クディとジュティはのんびりと木々を抜けスフォーヒに向かって歩き出した。
特に何事もなくスフォーヒに到着した。関所で手続きを済まし冒険者ギルドの前に停めた。
クトゥーも目を覚まし、クトゥー、ジュティ、セミコの三人で中に入る。朝のピークから時間がたちギルド内はほとんど人はいなかった。
カウンターに到着すると昨日の受付嬢が当番をしていた。
「おはようございます。ヴィツチジェの進捗はいかがですか。」
「ああ、終わったんで報告しに来ました。」
「そうですか。え。」
受付嬢は営業スマイルから素に戻り固まる。
「あ、いけね首を忘れてきたすぐとってくるよ。」
「何してんのよ。」
走って小屋へと戻りヴィツチジェの首を取りに戻った。しばらくして首を抱えてクトゥーは帰って来た。そのままカウンターの上にその首を置いた。
「これがヴィツチジェの首です。確認してください。討伐の証明になると思います。」
「すぐにギルドマスターに確認をとります。」
恐る恐る首をもって受付嬢は奥へと消えていく。
しばらくして受付嬢が立派な髭を生やしたガタイのいい男と共に戻ってきた。
「どうもここのギルドのマスターをしておりますキュドサジです。確かにヴィツチジェの首で間違いありませんね。体はどうされたんですか。」
「解体してこっちで保管してます。討伐依頼ということでしたので首を持って行けばいいかと思いまして持って来ました。素材の採取が依頼目的ではなかったのでまさか依頼失敗とは言いませんよね。」
「ああ、そうだな、分かった。依頼の達成は認めることにするとしよう。素材は別で買い取ればいいのか。我々も初めての素材だ言い値で買うよ。」
その言葉にジュティは反応する。以前は一人で冒険者をしていたためこういった有利な商談に目の色を変えた。クトゥーはどうでもよさそうな態度を変えずにそのまま続ける。
「いえ、素材を売るつもりはありません。私達は討伐達成の報告と報酬をいただきに来ただけです。素材は羽一枚手放すつもりはありません。」
その言葉にキュドサジとジュティが驚きクトゥーを見る。そしてすぐにクトゥーに抗議する。
「どういうつもりなのクトゥー。ギルドが言い値で買うってことは相当ふんだくれるわよ。それにこいつの討伐のメインは私よそれ相応の理由を聞かせて頂戴。」
「あいつは体を燃やしながら戦っていた。しかし、皮膚や肉は燃えていない、熱を通さなかったりと色々熱に対して利点があるだろう。それでセミコのカバンの材料に使おうと。」
「納得したわ。」
「え。」
置いてけぼりのキュドサジは戸惑いの表情を浮かべる。
「ということでこっちは解決しましたので、討伐報酬の50万ギューツ下さい。」
----
「さて、儲け話もなさそうだし一週間ぐらいの保存食買って次の町にでも行くか。」
ギルドから出てきて、消耗品や食料品の買い出しに向かって町の中を小屋ごと引っ張っていた。
「次はどこに行くの?」
「決めてないんだよな。あと、ジュティしばらくクディの手綱頼んでいいか?」
「いいわよ。カバンの作成?」
「ああ。」
「私も手伝います。自分のカバンですしね。」
「それは助かるよ。」
「あー見つけました。ジュティさんクトゥルさん。」
振り返るとギルドの受付嬢が息を切らせてこちらに向かってきた。
「先程渡し忘れていました。これ、ドゥエンスさんからの手紙が入ってます。渡しましたからね。」
そういって一枚の手紙をジュティに押し付ける様に手渡し、そのまま来た道を戻っていく。
三人はキョトンとしながら受付嬢の背中を見送った。
セミコはジュティに近づき話しかける。
「ドゥエンスさんってどなたですか。」
「ああ、私達の知り合いの商人さんよ。この小屋を建てる時にもいろいろお世話になったのよ。」
「んで、手紙はなんて書いてあるんだ。」
「ああ、そうね今開けるわ。えー何々。」
封筒に入った三つ折りの二枚の紙を開く。
クトゥルさん、ジュティさん、クディさん、お久しぶりですドゥエンスです。
小屋の方は完成したと伺っておりますので今は本格的な旅が始まりを迎え各地であなた方の功績が生まれ始める頃だと思われます。あなた方に出会った時のことは昨日のことのように思います。あの時あなた方に出会えたことは我が商人人生において一番の幸福だったと思います。それほど大きな冒険者たちだと直感で
「長い。」
「まだまだ、びっちり書かれているわよ。」
「えー。」
「と言うことをドゥエンスさんも予想していたみたいね三つ折りの中に小さな紙があったわ。」
「は?」
「えーっと。一枚目は建前で文章が長々と書いてありしびれを切らすと思います。二枚目にざっくりしたもの書きましたのでそっちだけ見てもらって大丈夫です。だって。」
「なんかむかつく。」
お久しぶりです。今回は依頼の紹介です、依頼と言っても私個人の依頼ではありませんので気軽に無視してください。ホーフルフという町の近くで新しい洞窟が見つかったそうで大規模な調査依頼が発行されました。商人が冒険者とつながっているケースがよくあるので私の元にもその通知が届きました。情報提供という形の手紙ですので無理に挑まなくても大丈夫です。資料入れておきますね。
追記:先日のティムディティの皮を知り合いに見せたところとても良い解体処理だとほめていました。とても安く譲っていただきましたので今度何かしらの形で返させて下さい。
「だって、三枚目が通知の知らせみたいね。一週間後みたいよ、行く?」
「行くか、行く当てもなかったし丁度いいだろう。クディもセミコもそれでいいか?」
「はい、どこにでもついていきますよ。」
「がうぅう。」
四人の次の行き先が決まった。ホーフルフはここから南西の方にある町でゆっくり歩けば一週間で余裕で到着する。
「だとすると、一週間でカバンを仕上げないとな、頑張るぞセミコ。」
「はい。」
胸元で両手で握りこぶしを作り気合を見せる。とてもかわいらしい。
「それじゃあ移動は私達に任せな。しばらく私が手綱を握るわねクディ。
「がう。」
四人は買い物を終え、スフォーヒの町を後にする。
その道中商店街の中でCランクのパーティに出くわす。
「よう、お三方のんびりヴィツチジェ対策を考えてるのか、ずいぶん余裕な表情だがいい案でも思いついたのか。」
にやにやと笑いながらリーダーが話しかけてくる。
四人は何を言っているのかわからなく首を傾げた。
「何言ってるんだ。もうその件は終わったよ。俺達は次の町に行くからな。」
「何だ、諦めたのか。諦めるにしても早いだろ。」
怪訝な顔でクトゥーの顔を覗き込む。
かみ合わない会話にクトゥーの表情も曇る。
「だから終わったんだって証拠ならさっきギルドに持って行ったから受付に聞いて来いよ。」
「は?昨日は偵察に行ったんじゃないのか?」
「偵察兼討伐に行ってたんだが。」
「・・・え、嘘だろ。」
リーダーに続いてCランクパーティは信じられないという顔をして走ってギルドへと向かって行った。
「何だったんだ。まあいいか行こうか。」
そしてクトゥー一行はスフォーヒの門を出て行った。
ドゥエンスの手紙に合った通り、異世界系小説お馴染みの洞窟探検に行きます。と言っても洞窟内に行くのはもう少し先になると思います。




