愚兄と優れた弟
ちょっと視点変更が多くなってしまいました。ごめんなさい。
朝、差し込む光と共にクトゥーははっきりと目覚める。
「・・・朝か。」
体をほぐす様にストレッチをしながら日の傾きを確認する。
(しまった、いつ始まるのか聞いていなかったな。まあ、宿屋の亭主でも知ってるだろう、聞きながら出ればいいか。)
頭も体も目覚めたクトゥーは荷物を持ちながら部屋を出た。
カウンターにチェックアウトの手続きをしながら店番をしている女将さんに気になっていることを聞く。
「聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「何だい、わかることなら教えるよ。」
「ありがとうございます。実は昨日この町に来たんですけど新国王への授与式が今日あると聞いていたんですがいつ頃行われるんですか。」
「ありゃ、お客さん見に来たのか。それじゃあ、ちょっと出遅れたんじゃないか。」
「え、もう始まってます。」
「いんや、まだ始まってはいないが場所取りとかでもう賑わってる頃だろう。うちの亭主も朝早くから見に行ったんだ。お客さん小さいから見れないかもしれんな。」
「え、そんなに集まってるんですか。参ったな。」
「期待の新王らしくてな結構な町や国から集まっているらしいよ。」
「マジか、ありがとうございます。俺も急ぐんで。」
「はいよ。頑張ってきな。」
勢いよく宿を後にして走り出した。
「あの、兄ちゃん見れないかもって言ったのににやけてたな。不思議な兄ちゃんだな。」
口元を抑えながら城へ向かって走っているクトゥー。
(おばちゃんにばれたかな。ちょっと抑えきれなかった。)
自然に口角が上がっていくのを感じ慌てて宿を後にしたクトゥーは思考を落ち着かせながらどんどん城へと向かった。
ガヤガヤ。
城門に到着すると多くの人がごった返していて城内に入り切れていない人まで出始めてきているレベルである。数百メートル離れたところで立ち止まったクトゥー、立派な城壁に囲まれているため城門の隙間からしか中を確認できないが流石の人の数にクトゥーも動揺を隠せていない。
「これは、すごいな。どんだけ期待されているんだよあいつ。」
正面から入るのをあきらめることに決めた。
(あいつも緊張してるんじゃないか。)
苦笑いを隠し切れない表情で横道に走り出し正門に向かう道から立ち去った。
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グルーフは窓の外を眺めていた。その表情は穏やかで澄み切った綺麗な青空を見つめていた。その目はとても遠くを見つめている。部屋はとても静かで物音ひとつせず彼のため息だけが響いていた。
コンコン。
静かな部屋にノックの音が響く。
「はい。」
振り返りもせずにグルーフは返事をする。
「失礼します、グルーフ様。お召し物の調整をしに来ました。」
女中長の女性が入ってきた。ベテランの女中でグルーフが生まれたころにはこの城に仕えていて第二の母親のような存在になっている。
「ヒュービーさん、おはようございます。」
「はい、おはようございます。良く似合ってるね、身長もあるし、流石の着こなしだよ調整もいらないようだね。」
「ヒュービーさん、どうしてこうなっちゃったんですかね。」
「そりゃあ、王家に生まれた宿命かね。」
「あ、そうじゃなくてこの人の量、集まりすぎじゃないですか。」
窓の外に広がる城門の人の数を指しながらヒュービーさんの方を見る。
ヒュービーさんは返答に困り目をそらす。
「そ、そんなもんなんじゃないかな。」
「絶対違いますよね、ごった返してあふれ始めてるんですけど、あの量集まるの知ってたら警備員とか立てますよね。慌てて整理してるじゃないですか。」
「それほど期待されてるんだよ良かったね。」
「集まれば集まるほど期待という名の重圧がすごいんですけど。」
「さて、現王様と王妃様のお召し物の確認をしてこないとね。それじゃ頑張って。」
「ああ、他人事。」
ヒュービーはそそくさと出て行った。
頭を抱えながら何度目かわからないため息をつき窓の外を見て腹をくくることにした。
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その後ほどなくして現王と新王が城の正面のバルコニーに姿を現した。
集まった人達の大きな歓声が響き渡った。
「皆の者静粛にこれより新王グルーフへの王権授与式を開始する。」
その言葉に一時盛り上がりすぐに場は鎮まる。
その状況を確認して現王が声を上げる。
「皆の者ありがとう。それでは早速始める。
本日をもって私は王位を引退させてもらう。今までたくさんの者の協力によりイーワイは平和の国として大きな発展を遂げより豊かな国へと成長した、心より感謝する。
今後は我が息子のグルーフが王位を引き継ぎより良い国へと成長させていくことだろう。新王ということもあり始めは至らぬ点も多くあると思うが、今後も大きな発展と豊かな国の維持に協力していただきたい。」
一息ついて大きく息を吸い、より大きな声で宣言する。
「今日この日この時をもって王権を新王グルーフへ授与することをここに宣言する。」
「「「おー。」」」
大きな歓声と拍手に囲まれながら頭にある王冠を膝まづくグルーフの頭へと持っていく。
王冠を受け取り中央に来て前に出る。場も合わせて静かになる。
「私が本日よりイーワイの王位を授与された、グルーフ・イーワイである。
平和の国としてよりよい発展を目指していく、また新しい発展や新時代として柔軟な発想と挑戦をしていきたいと考えている。各町や村の貴族を中心に国民全員でこの国を豊かにして行こう。まだまだ若輩者だが、一国の王という自覚は忘れない、この国を家族として皆ともに歩んで行こう。」
拳を大きく上げる。
その拳に合わせ歓声とともに拳を上げる人が続出した。
しばらくグルーフは拳を上げ続けた。
イーワイは新時代を迎えた。
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授与式が始まる少し前、横道へとはずれたクトゥーは人気の少ない道をたどり城の裏の森にやってきていた。
「ここは警備が甘いな。ここから城壁に沿って、途中で登るか。」
正面の方に向かって壁沿いに歩き森を抜ける手前で木と壁を使って城壁の屋根に乗る。見つからないように顔を少し出し中を確認する。
(うわ、すげぇ人の数だな。一番前は貴族の連中や他国の連中で牛耳ってるな。)
周囲を確認して見つからない位置で座る。
(特等席、特等席っと。)
誰もいない城壁の上で悠々と授与式を鑑賞した。
グルーフの演説が終わり歓声と拳が湧き上がっている。
(立派に育ったなグルーフ後は任せても大丈夫そうだな。度々戻ってくる予定だし時々助けにはなるけどな。)
式の途中だが終了まで見ると集まっている人たちが一気に動いて抜け出しづらくなる。城壁から降りて人の少ない道をまた駆けだした。
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式が終わり、集まった人も徐々に解散していき集まった他国や自国の貴族との挨拶を終了し自分の部屋でくつろいでいた。
(はぁ、とりあえず初めのあいさつが終わった。集まりすぎだろ正面に出たらよりはっきり認識できたよ。)
体を伸ばしながら椅子に座ってゆっくりとくつろぐ。
(一人だけ特等席でゆっくり見てたな、わざわざ戻ってくるなんて本当馬鹿だな。)
目元から頬を涙がつたるのを感じながら今日のことを振り返る。一月ぶりくらいに見る兄の顔に自分のために来てくれたという事実に感極まる。
(見ててくれよ兄さん、立派な王を務めてやる。)
部屋で改めて決意を固めるグルーフ王の姿がそこにはあった、誰も見ていない静かな部屋に。
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先に式を後にしてクトゥーは食料や消耗品を買い込み城門へと向かっていた。
夕方、門番に忠告されながらも町の外に出たクトゥーはアジトに向かって歩き始めた。
しばらく進み前から来る小屋を乗せた荷車に乗る女性に話しかけられた。
「こんな日も落ちる時間から冒険ですか。よほど腕に自信があるようですね。それともあの町に居辛い事情でもあるんですか。」
その女性の言葉に軽く笑いそのまま女性に答えた。
「残念ながら後者の方で、しばらくこの町から離れようと思いまして夕刻ですが出発したんですよ。」
「それは大変ですね。」
「・・・。」
「・・・・ぷ、はっはっは。用事は済んだようねクトゥー。」
「ああ、そっちもずいぶん早く仕上げたじゃないかジュティ。」
「筆が乗ってね。」
「そうか。」
クトゥー、ジュティ、クディは夕日に照らされながらお互いの顔を見た。
「二人ともずいぶん待たせちまったな。それじゃあ、行こうか俺達の永い永い旅の始まりだ。」
「おー。」
「がぁー。」
行き先の決まっていない自由な旅が始まった。
ようやく始まります。本当にこんなにどこにもいかないとは思いませんでした。
少し投稿が遅れましたごめんなさい。




