愚兄との試合
週一くらいではあげていきたいと思っています。
「はい。私と立ち合いを行ってください。」
まっすぐクトゥーの目を見て続ける。
その目を見てクトゥーが彼女の本心ということを悟り真剣な顔をする。
「わかった。その願い受けよう。グルーフ、更衣室へ。」
「はいよ。ジュティさんその格好じゃ動きにくいでしょう、こちらへ。」
ジュティはロングスカートのメイド服を着ている。戦闘向きとはあまり思えない格好のため動きやすい格好に着替えてもらおうと兄弟は配慮した。
「いえ、武器だけ見せてください。この格好で大丈夫です。」
「いいんですか?」
「ええ、グルーフ様、動きにそんなに支障はありません。それに足が隠れて動きをごまかせる可能性もあります。」
ジュティは含みのある笑顔を見せる。その顔を見てクトゥーは期待を込めてニヤッと笑う。
「言うねぇ。」
「それじゃあ武器庫へ。」
グルーフが武器庫に案内し程なくして二人が出てくる。
刃渡り1m弱のロングソードを手に二人が戻ってくる。
「成程。」
「意外でした?」
「いや、別に。」
グルーフを見てクトゥーが一言。
「グルーフこの人は強いそれに現場を知っている。よく見るんだ、現場の戦い方を。」
グルーフは深く頷く。
「では、始めましょうか。」
「ジュティ。殺す気で来い仮に殺したら罪としてグルーフを守ってくれ。」
「・・かしこまりました。」
ジュティが走り寄り両手で構えた剣で突きを入れる。スッと当たり前のように横にかわす。そのまま角度を変えクトゥーへ切り払う。剣に押されて回っているかのように後ろ宙返りで避ける。
剣に体がまたいでいる状態を見て一気に切り上げる。けどあたらない。当たってる感覚はもちろん無いのだが、視覚的にあまりにもギリギリで避けるので切れない剣を使ってるのではないかと錯覚するほどだ。クトゥーは避けながら錫杖で切り上げにあわせ切り上げを加速させる。
少量の力ではあったが合わせ方が上手く思った以上に剣が上がってしまった
ジュティはその勢いに任せ宙返りで一度距離をとる。追撃を警戒したが彼は動いていなかった。
ジュティは左手で剣を持ち距離を詰める。スカートを軽く捲り隠していた投げナイフを取り右手で投げナイフを三本投げる。クトゥーは動じずに投げナイフを掴み処理するその隙を突こうとしたがクトゥーは甘くなく、全てを避けられた。ヒュンヒュンと風を切る音と足音だけが訓練場をこだまする。
ジュティの鋭い斬撃が続きそれを当たり前のように避けていた。
シャン、シャン。
距離をとりクトゥーは錫杖を二回鳴らした。
投げナイフを使ったタイミングでクトゥーが動く、ナイフを裁きながら一気にジュティの右に入る。ジュティは反応して左足を軸に体ごとクトゥーに合わせようとした。動かした右足に足を合わせられバランスを崩した。やばいと思いジュティは鍛えた体幹を活かして何とか留まる。クトゥーを探すも見当たらない、突然後ろから膝の裏を軽く押される、真後ろに移動していたクトゥーが膝かっくんをし、崩れる前にジュティを支えた。
「君の癖は覚えた。何度やっても君の攻撃は当たらないよ。」
体勢を立て直し、小さくも大きな存在を見下ろしジュティは目を閉じた。
「参りました。」
終わったことを確認したグルーフも近寄ってきた。
「どうだったグルーフ。」
まずはグルーフに感想を聞く。
「驚いたよ、投げナイフを仕込んでいたときは兄さんに一矢報えるかと思ったけど残念。それでも重さを感じないほどの鋭い剣筋やパワーには驚いたよ。剣の道を休むのは惜しいくらいさ。」
ほめられてジュティも悪い気はしない。
「悪いと思った点は。」
「投げナイフを投げるときかな明らかに何かあることがばれる動きだったと思うよ。後は片手になったときの速さが少し落ちるところかな。」
「成程ですね。」
「終わりか。」
その声に二人はドキッとした。グルーフはそれだけしか見えなかったことに、ジュティはまだあるということに、起こられる前の子供のように驚いた。
「まあ、第1者と第3者じゃそのくらいか。まず第一に剣が合ってない。」
剣を指差しながらクトゥーが話す。
「片手になって遅く感じられるんだったらもっと軽いほうがいい。昔からそのサイズに慣れているからかは知らないがもう少し軽く鋭いものが良いだろうな、持ち前のスピードも生かせるし、片手でも扱いきれる武器ならもっと強くなれるだろう。」
成程と思いながら自分の腕を見た。
「まあこれも隙を生む一つだが俺のようなタイプじゃない限りそこまで大きな影響は無いだろう。」
クトゥーの戦い方は異常だ。その体が故かの戦い方であり、通常なら鍔迫り合いや武器による回避が生まれる。その分ではスピードだけでなく重さや力強さも必要となる。しかし、クトゥーは見た目どおりの筋力しかないため打ち合うことができない。
「ジュティ、最初に言っておくが君は十分に強い、サン・エルティの兵士としても多少上を目指せるほどに。君が強さに限界を感じたのはおそらくそのまっすぐな性格とその性格が出てしまった剣筋にある。」
「兄さんジュティはいろいろな方向から鋭い攻撃を仕掛けていたように見えていたけれど。」
「そうだな全体を見たらそうだろう。ただ、一つの攻撃で切り取るとジュティの攻撃は剣の角度に対してまっすぐな動きしか無い。」
ジュティは光が見えたように目を見開きあごを押さえる。
「まあ、彼女の動きについてこれる人もなかなかいないが、ついてこれたり、頭の回転が速いもの、経験をつんでいる人は動きを予測して対応してくるだろう。実際にやってみると。」
クトゥーはジュティの横に横たわっている剣を持とうとする。全然上がらない。
「重っ、こんなのぶん回してたの怖っ俺より全然強いじゃん。」
「はい、兄さん木刀。」
「悪い。」
グルーフから木刀を受け取る。
「今のジュティはこう剣の角度に合わせてまっすぐな動きで動きを変えようとすると一度角度を変える動作が生まれる。そうじゃなく、動きの中で角度を変える。」
振り下ろし円を書くように剣を滑らかに動かし斜めに切り上げる。
「こうすると、ワンテンポ遅れることも無く、尚且つ相手に次の攻撃を読まれにくくする。これが出来るとワンランク上がると思うよ。ま、それでも俺は避けるけどね。後は、まあ難しいし、メインを剣にするなら別に良いか。」
「一応聞いても、いいですか。」
「ナイフ、左でも投げれたら良いかなって思っただけだよ。同じ相手じゃないとあんまり意味無いから別に気にしなくて良いんじゃないかな。
さあ、時間だ。息整えたら仕事に戻ったほうが良い。」
そういわれてジュティは気づく、自分はようやく息が整ってきた頃だというのにクトゥーは全く息を上げず淡々と解説までしていた。
木刀を片付けに行くクトゥーの後姿を見て横に来たグルーフにつぶやく。
「凄いですね。」
「でしょう。」
「あなたもですよ。」
「僕もですか?」
まさかこっちにも賞賛が来るとは思っていなかったグルーフが思わず聞き返した。
「ええ、私は彼の息を荒らすことも出来ませんでした。」
「ははは、何年しごかれてると思ってるんですか。」
「そうでしたね。」
「兄さんも言ってましたが、そろそろ仕事に戻りましょう。上には兄に気に入られ少し遊び相手になってもらうと伝えてますよ。」
「それで。わかりました。ありがとうございます。」
最後にジュティはさびしそうな顔で兄を見る弟の姿を見ながら退室した。
意外と見て下さった方が多く驚きました。異世界系はやっぱり強いですね。