愚兄の停滞
少し短めです。
「失礼します。リュトゥーイ国王、兵士団団長コラコナ、ただ今イーワイ国の次期王の視察を終え戻りました。」
コラコナは自国の城に戻り王の下へと報告のために向かった。
「おかえり、まあ座ってお茶でもどう。」
「それではお言葉に甘えて失礼します。」
王と呼ばれた男はテーブルにティーセットを並べてお茶を飲んでいた。
コラコナの入室と共に向かいの席へと促し、コラコナもそれに従い座る。
「どうだった彼は。」
コラコナのお茶を淹れながらリュトゥーイは質問する。
「はい、武もあり、知もあり、心もある、なかなか素質のある若者と感じました。後ほど報告書にて提出いたします。」
「君がそういうならなかなか見所がありそうだね。武もあるということは彼と立ち合えたのかい。どうだった。」
「恥ずかしながら負けてしまいました。」
「へぇ君がかい。これは凄いな。どんな魔法を使ったんだい。」
けらけらと部下の敗北をうれしそうに聞く。
「すいません。魔法は見ていません。」
「え、剣技だけで君を負かしたのか。こいつは驚いた。最高だね、新しい王は。」
「責めないのですか。」
「そんなの君がよくわかっているだろう。そんなことよりどうして負けたんだ。」
「報告書に書く内容が減ってしまいますな。では、お話しましょう。」
コラコナは立ち合いのことを中心に今日の視察を説明した。
「成程、いい環境で育っているじゃないか。」
「ええ、あなた様が彼に惹かれる理由が何となくわかりました。」
「はっはっは、コラコナ君はまだ半分も理解していないと思うよ。」
「そうですな。彼の魔法も見ていませんでしたな、それに大変なのはここからですしね。ご馳走様でした。私はこれで。」
「急に行って貰ってありがとう、お疲れゆっくり休んでくれ。」
コラコナは王の部屋を立ち去った。
リュトゥーイは立ち上がり夕日に染まる空を見ながらうれしそうに笑っていた。
「コラコナ、君は彼らの魅力の半分も知らないよ。無論俺ももっと知りたいけどね。」
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コンコン。
「グルーフいるか、入るぞ。」
コラコナの視察あった日の晩、部屋で本を読んでいるグルーフの元にノックをしながら父親が入ってくる。
本を置きため息交じりの呆れ顔で父親に対応するグルーフ。
「父さん、返事をする前に入って来るなって言ってるだろ。それで何の用?」
「おお、すまんすまん。あいさつ回りも一通り終わったのでそろそろ正式にお前に引き継ごうと思ってな。」
部屋にある椅子にテーブルを挟んで向かい合う親子。
「国民への発表演説か。これで王になっちまうんだな。」
「何を今更、今日はサン・エルティの兵士団長の急な視察に対応したんだろ。お前なら大丈夫だ。」
「あ。」
おもむろに立ち上がりグラスを二つとコラコナから貰った果実酒をテーブルに置きグラスに注ぐ。
自分のグラスを一口のみ毒が無いことを再確認してもう片方を父親の前に差し出す。
「珍しいな、お前が果実酒を用意してるなんて。」
「貰ったんだよ。毒は無いよ安心して。」
「お前が言うなら間違いないな。」
グラスを取り一口口に含み味わい飲み込む。
「いい酒だな。誰から貰ったんだ。」
「コラコナさん。」
「兵士団長からか。一度開けたようだったが、夕飯のときでも飲んだのか。」
「いや、貰った直後に飲んだよ。」
「何!?直後だと、危機感が無いにも程があるぞ。」
父親は立ち上がる声を荒げる。グルーフは無反応でそれを見ていた。
「と、普通なら注意するんだろうが、お前じゃそんな注意をする方が馬鹿馬鹿しいな。」
「まあね。」
得意げに笑う息子を見て随分と立派に育ちすぎたうれしさと自分の手のつけられない程の才能に呆れるなんともいえない表情をしていた。
「随分と驚いただろうな。」
「ああ、一度幻滅されたからな。」
酒をかわしながら今日のことを楽しく話すグルーフ、今日あった出来事を酒を飲みながら話す、何気ない家族の団欒だ。内容が国家レベルなのを除いて。
なくなった自分のグラスに注ぎながら話を戻す。
「まあ世間話はこの位にして本題に戻ろう、それでいつやるのかも決まってるんだろ。」
「ああ、再来週を考えているよ。」
「国民への通知は。」
「最低でも来週以降、後はお前の原稿の出来次第だな。」
「うげ、何か責任感あるな。」
「今後は責任感だらけの人生だぞ。」
「それもそうだね。」
グッとグラスの酒を飲み立ち上がる父。
「それじゃあ出来たら俺に渡せ確認する。」
「見るのは父さんだけかい?」
「残念ながら重役の連中にも目を通してもらうよ。」
「了解。」
そのまま一人残されグラスの酒に手をつける。
(何かいよいよって感じがしてきたな。やっぱり不安は残るな、まあ不安が無いという状態のほうがおかしいのかもしれないけどな。
兄さんが出て行ってから半月くらいか。どこまで行ったのかな、流石に兄さんの足でも国外は出てないかな。サン・エルティは近いけど兄さんあんまり好きじゃないみたいだし多分行かないよね。意外と隣町とかでのんびりしてたりして、そんなわけ無いか。)
流石の弟でも隣町にすらたどり着かず建築作業に勤しんでいるとは想像できなかった。
(顔見知りは貴族ばっかりだし大丈夫とは思ったけど一応殺しておいたけど知ってるかな。まあ、知ったら余計な事しやがってとでも思うのかな。突飛な行動するからねいろんな意味で目立つだろう兄への弟からの餞別とでも思ってもらおう。)
最後の酒をグラスに注ぎ切る。何かつまめるものがほしかったかなと思いながらくっと飲み干す。
「さて、まず寝るか。明日からまた忙しくなるぞ。」
自分を鼓舞するように声をあげ、深い夜の中新たな覚悟を胸にグルーフは就寝した。
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目覚めの悪そうな少年がいる。
先に起きていたジュティはそんなクトゥーを見て疑問をぶつける。
「珍しく不機嫌だねどうしたの。睡眠不足って感じでもなさそうだし。」
隈もなければ、肌もつやつや、体もだるそうではないが腑に落ちない顔をしている。
「いや、なんでもない。妙な正夢を見ただけだ。」
「昨日の今日で妙な正夢を見たって言うのが既に奇妙なんだけど。」
「何か、グルーフが王になる夢を見たんだ。」
「そりゃ正夢だね。」
「だろ。」
顔を洗ったり朝食の準備をしながら二人は会話をしていた。
「今更見る夢でも無いと思うんだがな。あいつに何かあったのかな。」
「何があってもグルーフなら何とかするんじゃないの。」
その言葉にクトゥーは胸を張ってドヤ顔で答える。
「当たり前だ。そうできるように育てたんだから。」
「はいはい。」
話を流しながら朝食のために火をおこすジュティ、その態度にふてくされるクトゥー、のんびりと朝食を待つクディ。
彼らはまだ出発地点の近くの森にいた。
「まあでも、グルーフもまだどの町にも行って無いなんて想像できないでしょうね。」
朝食のパンをかじりながら今朝の話で思い出したかのようにグルーフの話題を出した。
「そうだろうな。」
「あれ、あっさり認めるんだ。」
「いくら頭の良いグルーフでもよく知らない生物が二人もいたら予測なんて出来ないよ。」
「それもそうね。よく知らない生物扱いが腹立たしいけど。」
「言い方が悪かったかもしれないが事実である。でもクディはもう家族のように思っているよ。」
「そこじゃない。」
今日もまた建設作業が始まる。
この作品を始めた当初は半月以上違う町に行かないとは思いませんでした。
一話ごとに100PVぐらいは見ていただけるようになり不図疑問に思ったのですが皆さんはどうやってこの小説に出会ったんでしょうか。




