愚兄の施工計画
おつかい編終了です。
ジュティとクディは道を進みアジトへと帰っていた。荷車自体も簡易的なものだが、荷車に積んだ量が多かったため整備されていない森の中を進むのを諦め道を進んでいる。
二人はなるべく早く帰ろうと夜になってもジュティの火の魔法で辺りを照らし進んでいた。
「クディ、眠くなったら言ってね。夜は私が見張りをするから、その代わり昼間は私も運んでね。」
「がぁうう。」
了解といわんばかりに頷き、まだ余裕があるように見せた。
更に一時間歩き、そこでジュティがストップをかける。
「まずは、ここで休みましょう。余裕のあるうちに休まないといざというとき動けないからね。クディ昼間のために安心して寝なさい。」
「がうぅ。」
荷車に止め具を掛けクディから荷車をはずす。クディはそのまま指示通りにすぐに寝た。
そしてジュティはそのまま警護を始めた。
朝を向かえ日が昇り明るくなり始めた。クディがその明るさで目を覚まし起き上がるとジュティの姿はなかった。辺りを見回してもいない。
「がぁああううぅぅぁあああ。」
「朝っぱらから大声出してどうしたの。」
森の中からジュティが出てきた。クディはジュティに近づき頭をこすり付け安堵の声を出す。
「がぅう。」
「ごめんごめん。心配かけさせちゃったね。明るくなってきたら丁度近くにティムディティがいたから朝ごはんにと思って取ってきたのよ。」
ティムディティとはヨンディの仲間とされ、ヨンディと同じでおとなしい性格だが、攻撃したり近づいたりしなければ襲ってこない。ヨンディよりかは引き締まった足でヨンディより少し長い足だ。頭が硬く短い立派なる角があり、頭突きで攻撃を行いもろに食らうと結構なダメージになる。
肉は野生にもかかわらず臭みが少なくヨンディの肉に近く美味しい。
ジュティは森の中で血抜きも済まし、頭が飛んだディムティディの死体を持っていた。サッと裁いて肉と毛皮、骨などに分け、肉以外を適当な袋に入れて荷車に吊るした。
「さ、しっかり食べて先を急ぎましょう。」
「がう。」
朝からティムディティステーキをがつがつと平らげて二人はまた移動を始めた。
「それじゃあ、何か会ったら起こしてね。」
「がう。」
日が完全に昇り辺りが明るくなったところでジュティは荷車に乗り眠りに着いた。
クディはザサルエとであった大きな木を目指して一定のペースを守り歩き続けた。
「あああ、何でこんなことに。全部あの女の所為だあの疫病神女。」
一人大荷物を背負って歩く男をクディは見かける。荷車を軽く揺らしジュティに合図をする。
「何かあった。」
「がう。」
前を歩く男を指す。
「ああ、わかった挨拶しながら通り過ぎよう。そのまま行っていいわ。」
「がう。」
クディはペースを上げ男を追い越そうと進んだ。
ペースを上げる分がらがらと音が大きくなる。その音に気づき男は振り返る。
「ん、誰か来たのか。」
振り返ると見たことの無い生物が楽々と荷物を引っ張る姿が見えた。
(何だあの生物は見たことが無いぞそれにあのパワーとスピード、まだ本気で引っ張ってるわけでもない。これはビッグビジネスの匂いがするぞ。主人は荷車に乗っているのか。)
一歩横に避け主人に交渉しようとこちらに来るのを待つ、通り過ぎると同時に声をかける。
「ああ、すいませ、ん!?」
忘れもしない苦汁を飲まされたあの女が荷物の上で寝ていた。ジュティの方はあの時は碌に顔も見ていないので記憶にさっぱり残っていない。
「お前はあのときの。」
突然の大声にクディは止まってしまう。
怒りをあらわにしながら声を出す男にジュティは考えながら男に聞く。
「えーっとどこかでお会いしましたか?」
「忘れただと、トイレの窓から脱出してあの後お前との商談を逃すし、悪いうわさが立って店は駄目になるし、散々だったんだぞこの疫病神女。」
「自業自得でしょ知らないわよ。クディ出して付き合ってられないわ。」
「待て。」
動きだす、荷車を捕まえようと荷物を捨てて走り出す。
「逃がすか。」
「しつこい。」
吊るしてある袋からティムディティの角を投げる。見事に額に命中し男は気絶してその場に倒れた。
「まさかこんなところで会うとは怖い怖い。ありがとう、クディまたなんかあったら起こしてね。」
「がう。」
その後快調に移動しジュティとクディはその日のうちにアジトへと到着した。日は落ちかけのところでうっすらと確認できる状態であった。後ろに追加で連結された荷車にマーキングされた板などを干し肉をかじりながら見るクトゥーを見つけた。
「クトゥーお待たせ。急いで戻ってきたよ。」
「があぁうぅあ。」
その言葉にクトゥーも振り向き二人を確認した。
「おお、お帰り。早かったな、もう少しかかると思っていたんだが、ドゥエンスさんは協力してくれたか。」
「うん、おかげで早く、安く、手に入ったは、もう暗いし材料の確認は明日で良いわよね。」
「ああ、ありがとう。今日は二人もゆっくり休んで明日からがんがん進めるからな。」
「わかったわ。クディ今日はもう寝ましょう、明日からまたよろしくね。」
荷車を固定してクディをはずす。クディはそのまま横になり眠りに着いた。
積んできた荷物を眺めるクトゥーにジュティは近づいていった。
「何か間違ったものあった?」
「いや、大丈夫だよ。ただ、そこそこ良いものを準備してくれたみたいで本当に100万で収まったのか?」
「そりゃ、ジュティちゃんの美貌を前にしたら老若男女問わずおまけの嵐よ。」
ふんとそこそこある胸を鳴らして答えるジュティをじっと見て顎を押さえながら考えてクトゥーは答える。
「そうだな。こんなに美しいのなら納得できるな。じゃあもう寝ようか明日からよろしく。」
家へと入っていくクトゥーに予想外の返しを貰ったジュティは数秒固まり頬を赤く染めながらクトゥーを追いかける。
「ちょっと待ってよ、冗談だってちょっとしたジョークだってば、本当はあなたの図面のおもしろさとドゥエンスさんのおかげだよ。」
「知ってるよ。俺なりの冗談だよ。」
「あ、ひどい。もっとわかりやすく嘘つきなさいよ。」
「いや、冗談は言ったが、嘘は付いて無いぞ。」
「はい?」
「明日もいっぱい作業があるし寝るぞ。おやすみ。」
「う、うんおやすみ。」
ジュティは腑に落ちないままだが、明日のことを考えて眠ることにした。二人が就寝してから少し経ったとき小屋の室温が2℃くらい上昇した。
「がああぁあうぅぁあああ。」
朝を向かえクディの雄たけびと共に二人は起床した。二人とも上手く寝付けなかったようで眠そうな顔をしている。
「おはよう。ひどい顔だぞ。寝付けなかったのか。」
「気になることがあって寝付けなかった。クトゥーもひどい顔だよ。」
「考えることがあってな。」
「クディの腹の寝も限界みたいですのでおきますか。」
「だな。」
働かない頭で料理をはじめ、簡単な朝食を作る。
ヨンディの肉とチーズのホットサンドを食べながらクトゥーは会話でもして目覚めようとジュティに話を振る。
「そういえば気になることって何だ。」
「え。」
突然の質問にホットサンドを頬張ったままクトゥーを見て固まる。
口の中のものを飲み込みジュティは答える。
「この小屋をどうやって積むのかなぁと思ってね。そんな便利な魔法があるわけでも無いし、魔法で乗っけるだけで済むような簡単なつくりじゃないんでしょ。」
「まあな。まずは土台を確定させて、柱を建て、壁を作り、屋根をかける。大まかにはそんな流れだな。今日は土台のバネの設置と小屋の下書きかな。」
「小屋の下書き?」
聞きなれていない言葉に疑問符を浮かべながらクトゥーに聞き返す。
「いやぁ、綺麗に解体しないといけないから上から作業していくしかないわけだ。」
「そうだね。」
「テント暮らしは良いんだけど、雨降っちゃうと、ねぇ。」
「ああ。」
屋根が無いので小屋内はずぶぬれになる。家具や絨毯等の宅内のものが荒れるし、壁や床にもダメージが入る。
そのことにジュティも気づき納得する。
「それで何で下書き、そもそも下書きって何?」
「昨日色々考えたんだけどやっぱりスピード勝負で振る前に完成させようと思うんだよね。
それで一つ一つのパーツに番号を振る。壁で言ったら入口をAの面としてパーツをしたから1,2,3・・といった風に番号をつける。時計回りにB~D面とする。屋根も法則をつけて番号を振る。床にも家具の配置をマーキングして収納やら配置に迷う時間をなくす。」
「成程、それで作業効率を上げて何かが起こる前に完成させるのね。」
「そう、やられる前にやれ作戦だ。」
「おお、戦闘でやったら反感や次の喧嘩を買うようなひどい作戦だね。」
「ただ今気づいたがこれには問題点がある。」
「問題点?」
「柱の改造が出来ない。」
「ああ。」
今回はクディが引っ張る爆走荷車に乗せる家ということもあり鉄で補強したり、クッションを入れたりして耐久力の上昇を必要とされている。そのため柱にもクッションを入れる計画を練っていた。しかしこのやり方では柱の改造という時間のかかる作業を無防備で行わなくてはいけない。
「どうしようか。」
「え、作っちゃえば。」
「何を。」
「柱、いっぱいあるじゃん。」
周囲を見渡しジュティが当たり前のように答える。
クトゥーもそれに合わせてぐるりと周りを見回した。ここは森の中にぽつんとある小屋であまり人も通らない高い位置にあり綺麗にまっすぐ伸びた生き生きとしたたくましい木が生い茂る。
「ああ。」
三人の小屋作りはまだもう少しだけ続く。
次回は久しぶりにグルーフを出そうと思っています。10話ぶりくらいですね、未だに他の町に行けていません。移動拠点が完成したらいろいろ動かしていこうと思っています。




