愚兄の設計図
ついにクトゥー不在回。
「こんにちわ。」
「いらっしゃいませ。」
「すいません、亭主さん呼んでいただけますか。」
「亭主ですか。少々お待ちください。」
店員は中のほうへ入って行き少しして降りてきた。
「すぐ参りますのでもう少々お待ちください。」
「わかったわ。」
数分して一人の男が降りてくる。ドゥエンスさんくらいの年齢に見えるが筋肉質でしっかりとした体の人だ。
「申し訳ないお待たせした。私が亭主のウォズロクだ。何かあったか。」
「ドゥエンスさんから紹介してもらっているジュティと申します。」
「あ、あなたが話題のジュティさんか。よろしくな。敬語が苦手で申し訳ないジュティさんも楽なしゃべり方をしてくれ。」
「ええ、わかったわこちらこそよろしく。」
二人は握手を交わしお互いを見る。
「それで、紹介状見せてくれるか。疑ってるわけじゃないんだが一応商人だから確認はしっかりさせてもらうよ。」
「ああ、それが紹介状無いんです。」
その言葉にウォズロクは顔をしかめる。疑惑の目を向けていた。
「無い?それは困ったあんたを疑わないといけない。」
「その必要は無いよ。」
タイミングを見ていたドゥエンスさんが笑いながら入ってきながら声をかける。
「すまないな、ウォズロク。紹介状や地図を書く時間が無かったから私も来てたんだ。ついでに抜き打ちチェックさせてもらったよ。」
「人が悪いぜドゥエンス、それで俺はどうだったんだ。」
「うん、特に問題は無いと思ったけど、やっぱり敬語は使えるようにしていたほうが良いかもね、貴族の中には強要する人もいると思うよ。」
「こんなとこ職人や業者しか来ないぞ。」
「まあまあ、こうやって冒険者の人が来てるんだぞ。」
「手紙をもらった時始めは誤報かと思ったぞ。」
二人は仲良く笑いながら話をしている。ウォズロクの店は鉄工品を扱っていて基本的に荷車業者やものづくりが好きな人ぐらいしか来ない。
「おっと、長話もいけないだろう、さっさと商談と行こう。」
「おお、そうだな。」
「よろしく。」
ジュティは作成中の荷車の話と設計図を見せて相談する。ウォズロクもいわば鉄製品のプロであり、面白い話だと興味心身で聞いている。
一通りの話しを終えると、ウォズロクは腕を組み考える。
「成程、面白い話だな。少し時間をくれるか適したバネを準備する。他のところを回り終わったらまたうちに来てくれ。」
「あ、それと補強用で鉄の端材とか売っていただけませんか?」
「補強?まあいい、構わないぞ。それも合わせて準備しよう。」
「ありがとうございます。」
「ドゥエンス、ティゼロのところに行ってこっちに一緒に来てくれ。そっちのほうが話が早い。」
「ふむ、わかったすぐ戻るよ。」
「よろしく。」
ウォズロクの店を後にしてドゥエンス先導の下、ティゼロの店へと向かった。
あの店だという話を聞いて例によって例の如くジュティだけで見せの中に入った。
「こんにちわ。」
「いらっしゃいませ。」
「ああ、すいません。」
「はい。」
遠くで品物の整理をしている店員を呼ぶ。返事の後すぐにジュティのそばに駆け寄る。
「何かお探しですか。」
ここは革製品を扱っている店でかばんや靴、衣服などを取り扱っていて、また、生地の発売や裁縫道具など既製品だけでなく手作りのためのものもそろっているため、皮関係ならここと言われるほど大きな店だ。
「亭主の方いらっしゃいますか。」
「店長ですか、少々お待ちください。」
しばらくすると所々に装飾が施された細身の黒いドレスに身を包んだドゥエンスさんよりも少し若い女性がやってきた。
「いらっしゃいませ、当店へようこそ。何か特別な御用でしょうか。」
「ドゥエンスさんの紹介で来ました、ジュティと申します。」
「あら、あなたがジュティさんね。私はティゼロ、この店のオーナーです。最近名を上げてらっしゃる冒険者さんがドゥエンスさんと交流があったなんてあの方は本当に商人の星の元から生まれてきたみたいですね。」
「あはは、私はそんなに凄い人じゃないですよ。」
「冒険者で一時でもいい意味で名前が出ればそれは立派なことだと思いますよ。」
「そう、ですかね。」
「あ、ごめんなさい、お忙しい方なのに長話になっちゃうところでしたね。早速商談へ移りましょうか。まずは紹介状を確認させていただけるかしら。」
「あ、すいません。紹介状無いです。」
その言葉に時間が止まったかのよう静かになる。しかし、ティゼロは怪訝な顔を一切せずにジュティの顔を見て考える。ジュティもティゼロの反応を待ちじっとティゼロの顔を見ていた。
「・・・ドゥエンスからなんと言われましたか。」
「なんとと言いますと?」
「いえ、あの人のことですから書くのが面倒くさくなったんじゃないですか。」
「私を疑わないんですか。」
「紹介状が必要なことを知らないうそつきさんなら動揺しますし、仮に動揺を見せなかったとしても最初の自己紹介と考えているときに私の顔をじっと見つめ続けられるということは本人かかなりの人です。疑わないのかという質問もうそつきは言いませんよ。だから私はあなたを本人と決め付けました。これで偽者でも
後悔はありません。」
「ははは、流石だねティゼロ。君のほうが商人らしいんじゃないか。」
「おかげ様で。それで、うちにいらしたということは皮自体の注文ですか。それ
ともドゥエンスさんの浮気援助道具の買い物ですか。」
「何で45の男が20前半の仕事付き合いの人を出汁にさんじゅ・・・。」
何かを言いかけたところで突如凄いスピードでハンドバックがドゥエンスの顔
を襲った。
あまりにも一瞬の出来事にジュティも反応できず驚いていた。
ティゼロはうふふと笑っている。
「ドゥエンスさん喋る内容は気をつけてくださいね。」
「君もだろ。」
顔から落ちるハンドバックを取りながらドゥエンスが答える。
「切り下げて30の人の冗談はこれ位にして。」
「ちょっとぉ。ほぼ言ってるじゃないの。」
「まずはウォズロクのところへ来てくれ設計案と共に説明しよう。」
「わかりました。」
「よろしくお願いします。」
ティゼロさんも一緒にウォズロクさんの店に戻る。待っていたといわんばかりに中にいれずと共にわかりやすく説明してくれた。
「まず、車輪の止め具にゆとりを持たせて動きに対応するのは今の高級な荷車でもやっているとだ。今回はそれを更に耐性を上げるために衝撃を吸収するバネを入れる。本来のヨンディの動きならまず間違いなくいらない心配だが、この生物はヨンディばりの力でヨンジェイ並みのスピードで走るため必要なんだな。」
「はい。」
ヨンジェイとは首と足が長く、とても足が速い草食の魔物だ。ヨンディと同じように各種族の生活に馴染む魔物の一つだ。
ヨンディほどパワーは無いがスピードがとても出るため軍や貴族の移動などによく使われている。
「だとすると、設計はこうだ。車輪の軸と基礎となる板の間にバネをつける。その木の間に厚手の皮をいれ更に衝撃を吸収させる。これでだいぶ揺れに強い物になるはずだ。ここまでで質問あるか。」
「いや、ないよ。専門家じゃないから素人目だが良いと思うぞ。」
「私も無いです。ちょうど良い皮があるのでそれを準備します。ジュティさん後でまた私の店に。」
「はい。」
「そうか、二人とも無いか俺はある。」
ドゥエンスとティゼロは、お前はあるのかよといったなんともいえない顔をしていた。
「車輪の軸に対して小屋が一回り小さいように感じる。それにこのやり方だと、もちろん自重だけでもだいぶ安定すると思うが横揺れに弱くなる。何か考えがあるのか。」
「クトゥーは軸の端に四本の鉄の柱を建て、そこから何十本も束ねた針金で引っ張り合って若干吊るようにするといっていました。この柱にも強いバネを入れるそうです。」
「成程、吊るのかそれで横揺れの対策をしようというのか。」
スッキリした顔でウォズロクは納得した。
「よしそれじゃあ裏の倉庫に荷車をつけてくれ強固なものを用意してある。設計書に寸歩も書いてあったからな問題ないと思うぞ。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ私も店に戻って準備します。」
そう言ってティゼロは店に戻りジュティとドゥエンスはクディを連れて裏の倉庫へと向かった。
倉庫に行くと必要数のバネと端材がまとめられていた。
クディ、ジュティ、ウォズロクと従業員二名が加わり、荷物の移し変えを行った。
「全部まとめて50万ギューツだな。」
「そんなに安くていいんですか。」
端材も含めると結構な量になったため鉄工品の相場をあまり知らないジュティは驚く。
「ドゥエンスの紹介もあるし、面白い図面も見せてもらったからな。それに赤字じゃないしこれで良いよ。」
「ありがとうございます。」
すぐに現金で払い、ウォズロクもそれを確認した。
そのまま倉庫を後にしてティゼロの店へと向かった。
店に着くと店員から倉庫へと案内される。
「いらっしゃい。早速お話ししますと、この丸めたのが皮でこっちの容器が木と川をつなぐ用の接着剤です。合わせて30万ギューツでどうでしょうか。」
「ありがとうございます。」
「いいえ、これからもうちの店をよろしくね。」
「はい。」
荷車に積み込み倉庫を後にする。
「後は塗装材と食糧を買って終わりですね。」
「そっちにも声をかけてあるよ。そっちは特に設計やら何やらが無いからすぐに終わりそうだね。その前にお昼を食べないかご馳走しよう。」
「いいんですか。ありがとうございます。」
「そこの兵士さんもね。」
「私も良いんですか。」
「ええ。」
「いたんだ。」
「いるよ。仕事だもん。」
「すいませんそれじゃあ甘えさせてもらいます。」
「従魔もいっしょに対応してもらえる店が離れにあるからそこへ行こう。」
その後も順調に買い物を終え、午後3時にジュティたちは門の外に出た。
「今日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」
「翌朝の出発でも良いんじゃないか。もうすぐ暗くなるぞ。」
「少しでも早く帰りたいので、それに帰りは道を使う予定ですので急ぎたいんです。待ってる人もいるので。」
「クトゥー君か。まあ君達なら大丈夫だと思うがきをつけたまえ。」
「はい。」
「がう。」
二人は荷物を持ってクトゥーのいるアジトへと戻っていった。
もう大分彼の愚兄感がなくなりましたね。もう少し貧弱感を出していかないと駄目かなと思っています。




