愚兄からのおつかい
しばらく平和な回が続きますね。とりあえず移動拠点を完成させることが目標です。
朝早くから三人はアジトへと戻って行く。
三人が走りながら進み一日半かかった道もお昼過ぎ頃に到着した。
ジュティはアジト内の掃除とは言ってもだいぶ片付いてはいる。
クトゥーはクディと資材を見ながら作戦を立てていた。
「クディこの大きさの小屋は運べそうか?」
「がぁぁあうう。」
少し不安そうな声を出す。
「聞き方が悪かったかな。車輪をつけてゆっくりならどうだ?」
「がぅうがう。」
それなら大丈夫といったように頷く。
「そうかわかった問題はどうやってこの小屋を上げるかだな。」
「掃除終わったわよ。」
「ありがとう。それじゃ設計図を描いていこう。」
クトゥーの考えは車輪や土台、建物の梁を金属で補強し、車輪の土台と小屋の間にバネなどのクッションを入れる。たて揺れがもろに来ないようにゆとりを持たせた止め具で固定する。
室内の家具などの大きいものは床に固定する。窓は割れる危険性があるため木のスライド式で雨戸のようにする。
「成程、良いんじゃない。材料とかは大丈夫なの?」
「大本の部分は高級な荷車の解体もしていたようでパーツはそろっている。ただ、補強用の金属とクッション材が足りない。」
「そこでこの100万ギューツね。」
「そうだ。買出しは二人に任せる。ザサルエ愛用の荷車を使って行ってくれ。クディが小さい力持ちで助かりそうだ。よろしく頼むぞ。」
「があぁう。」
「内装に要望はあるか。」
「お風呂とトイレは?」
「難しいな。」
「やっぱり。」
「ただ、風呂のほうには一個案がある。」
「おお、本当。」
「今回は作ら無いけどな。本体の出来具合次第でって所だな。」
「でも、ここまででも十分以上の生活が出来るわね。」
「永い旅だからな。暇があったら水魔法の練習をしてもらうけど良いか?」
「もちろん。」
「よし、作業は明日からだ。今日はゆっくりしよう。急いでここまで来たからな。」
「そうね。」
「がうぁ」
三人はザサルエの干し肉パーティをして寝た。
翌日から組み立てと指示をクトゥー、クトゥーの力じゃ出来ないところのフォローと火魔法による不要な金属の加工と補強がジュティ、資材置き場からの運搬などの力仕事をクディという割り振りで作業を進めていった。
更に三日が経ち車輪を含む土台部分と取り付ける床までの準備が出来た。全く足りていなかったクッション材を買いにジュティとクディが準備をしていた。
「それじゃあ行ってくるわね。」
「がうぅう。」
「よろしく頼むよ。ドゥエンスさんへの挨拶、忘れるなよ。」
「は~い。」
行きは走るためクディの体に荷車をくくりつけている。ジュティは野宿用の荷物を背負っている。
時刻は1時過ぎ何の問題も無く城下町の門に到着した。しかし、その門で問題が発生した。
「だから、大荷物になるから。この子の力が必要なんだってば。」
「そういわれましても。」
「小さいし良いじゃないのこのくらい。」
前回同様、もちろん門の前で止められた。しかし、前回もおとなしく寝ていたり、二人の言うことをしっかりと聞いていたということもあり、兵士側が上へ問い合わせた。
「ああ、わかりました。一つだけ条件があります。兵士を一人つけます、問題を起こしたら容赦なく殺しますからね。」
「おとなしいから大丈夫。」
兵士一人付き添いの下で買い物が始まった。
(さて、ドゥエンスさんの店に挨拶に行こう。いればいいんだけどな。)
ドゥミラ・モニトイに到着した。荷車を下ろして入口でクディには待ってもらう。
「いらっしゃいませ。」
「すいません。」
ジュティは店員の一人に声をかける。
「はい、何かお探しですか。」
「えーっと、以前亭主のドゥエンスさんにお世話になりまして、お時間ありましたら挨拶をと思ったんですけど、いらっしゃいますかね。」
「少々お待ちください。」
店員はどこかへ行き5分後ドゥエンスと共に戻ってくる。
「あちらのお客様です。」
「おお、この間のジュティさんじゃないか。」
「あの時は色々とお世話になりました。」
気さくに声をかけてくるドゥエンスにジュティは頭を下げ礼をした。
「いやいや、気にするな。あれ?クトゥー君はどうしたんだ。」
「ちょっと用事がありまして今は別行動をしています。ちょっと必要なものがありましたので町に戻ってきました。ついでに挨拶をと思いまして。」
「わざわざありがとう、何を探しに来たんだい。何か面白いことを考えているなら是非協力させてくれ。」
「そんな申し訳ないですよ。」
「いや、気にするな。君達の将来に投資をしたいと思ってね。それほどまでに君達には魅力ある。」
「それじゃあお言葉に甘えます。説明しますので一度外に良いですか。」
「外?」
ドゥエンスはジュティに促されて外に出た。
「これは見たことの無い生物だな。小さいが、この子に引かせるのか?」
「ええ、こう見えてかなりのパワーなので実証しますか?」
「見てみたいな。」
見せの裏へと周りドゥエンスさんの持っているもので一番大きな荷車にクディをセットした。
「ゆっくり歩くのよ壊しちゃ駄目だからね。」
「がぁあ。ぐぅぅうああ。」
クディの叫びと共に荷車が動き出す。
「おお、これは凄い。大型のヨンディでないと動かないのに。」
「ここまでじゃないけど住み小屋をつけて旅をする予定なの。」
「それで小屋の建築の依頼かい?」
「いえ、クッション材が欲しいなと思いまして。」
「クッション材?」
「バネとかですね。耐久性を上げるために必要なのです。」
「耐久性?快適なベッドじゃなくてかい。」
「耐久性です。この子足も速いんで走ったときに小屋が壊れないようにするためだそうです。」
「ああ、衝撃を吸収するためのものか。凄いもの捕まえたね。」
「そうですね。」
ふむむと顎を撫でながらじっくりと考える。ジュティはクディに付けた荷車を戻すように指示し取り外していた。兵士は驚きのあまり口を開けて固まっていた。
まとまったドゥエンスはジュティを呼ぶ。
「予算はどの位あるだろうか仲間も通じて安く集めよう。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
「その代わり、うちの依頼やこの生物がもう一匹見つかったら譲ってもらいたいかな。」
「私達もクディ以外見たことありませんし、本人の意思もありますので出来る限りになりますよ。依頼のほうはいつでも行ってください。色んなところ放浪しますが冒険者ギルドには逐一よると思います。」
ドゥエンスとジュティは固い握手を交わす。冒険者はいろいろなところに行く機会が多いためギルド同士での連携も強く、有名な人にお願いするときや特定な人への依頼が出来るようになっている。
「ありがとう。それで予算は?」
「あ、すいません。とりあえず直近で稼いだ100万ギューツですかね。足りなければもう100万ギューツくらいは出せそうです。」
ドゥエンスは目を開いて驚いた。ちょっと名の知れた商人のため予算額は妥当なものと考えていたが、ジュティのいった直近で稼いだ100万という部分だ。冒険者によっては一月で大商人以上を稼ぐものも出て来る夢のある仕事だがそれは強さが伴い相当な腕の一握りの人間でほとんどの冒険者がその月に生活できるか
どうかレベルの稼ぎしかない。
そんな冒険者のジュティがサッと100万ギューツを稼いだとなると相当な腕の冒険者に出会ったこととなる。その冒険者と関係が結べるということは商人としてかなりの利になる。
「直近で100万ギューツも稼いだのかい。」
「はい。ザサルエって知ってますか。それをこの間捕まえてギルドに渡してきたんです。」
武器盗りのザサルエと呼ばれ、打ち合えば華麗な技術で武器を盗られ、身包みをはがされる。その辺の冒険者じゃ足元にも及ばないと言われている強者だ。
この町の人なら誰でも知っているお尋ね者だ。
「君が捕まえたのかい。」
「いえ、クトゥーが捕まえました。」
(あの小さな男が100万の首を取ったというのか。私は今、すばらしい出会いとチャンスを掴んでいるのかもしれない。)
胸の高まりを抑えながら平静を保ち、商談を続ける。
「わかった、とりあえず100万ギューツだな。仲間の下に話をつけておくよ。紹介状も書くから翌日私の店によってから各店を回ってくれ。」
「わかりましたありがとうございます。」
一礼をしてクディと共に店を離れていった。
(ギルドで賞金首リスト再確認してこようかしら。前にまた、この町に用が会って戻ってくるとか言ってたから依頼とかも確認してみようかな。)
ギルドに入ると周囲が静かになりざわめきだす。
「あれが噂の女か。」
「ああ、三人相手で一傷も与えられず逆に無傷で屈服させたらしいぞ。」
「しかも、女好きだが装備はしっかりして高い依頼をこなすあの三人だろ。」
「100万の首を取ったのも頷けるな。」
(めんどくさいわね。ただの冒険者が入ってきただけじゃない。)
クディはその持ち前の怪力を見せたら兵士が黙っていなく、町の外へ連れて行かれ門の真横で兵士に拘束されている。
ジュティは依頼板と賞金首リストを眺める。
(特に面白そうなのは無いわね。無理に受けるほどお金に困って無いし、とりあえずスルーかな。クディには悪いけど一服させてもらおうかな。)
ギルドには集会所ということもあり酒場も併設している。カウンターでお茶とサンドイッチを頼み空いている席に座る。
(保存食以外の食べ物も久しぶりに感じるわね。)
舌鼓を打ちながら新聞を読み素材の相場や国内の出来事を確認しながらゆっくりとした時間を過ごす。
(王権の交代はまだ通知されて無いのね、もうすぐみたいな煽りの記事が出てきてるからそう遠くは無いのかしら。
それにしても混んできたわね。この時間って結構がらがらだったと思ったけど。)
時刻は午後4時まだ日も暮れていないのであまりギルドに戻ってくる冒険者は少ない。集会所の席も半分も埋まることは珍しい。日が落ちれば食事や飲みに来る人で満席になる。
今の時間の満席に違和感を覚えているとジュティの前に一人の男が立つ。
「相席してもよろしいですか。」
40過ぎの小太りで軽装だがしっかりとした生地を使っている服に身を包み丁寧な物腰でジュティに話しかける。
「ここ使って良いわよ、私もう行くし自由に使って頂戴。」
新聞をたたみ席から離れようとするジュティを男は止める。
「いえいえ、お気になさらずにゆっくりしてください。先に座っていたのはあなたなんですから。もしよろしければ何かご馳走しましょうか。」
「生憎お金に困ってるわけではないので。」
「100万ギューツくらい簡単に稼げるからですか。」
にやりと笑うおじさんを見て大きくため息をしてジュティは話し始める。
「言わなきゃわかんないかなおっさん、露骨に席を立つのはあなたが商人で私をスカウトに来ているからよ。こんな時間にこんなに人を集めて、ごめんなさいねどこかと契約する気は無いの自由な旅を満喫したいのよ他を当たって頂戴。」
「一回大きな額を手に入れたところで天狗になって落ちぶれていく冒険者をよく見ます。安定した給料の元で働いたほうが将来のためですよ。」
「・・・。」
無言になったジュティを見て食いついたと内心喜ぶ。
「ちょっとトイレに、おじさんそこにいてね。」
「ええ、もちろん。お待ちしてますよ。」
食器を片付けながらジュティトイレに入る。それをしっかりと確認する。
「やりましたね。」
「ああ、あんな優良物件を逃す手はありませんからね。」
一人の男が近づき静かに笑いながら声をかける。
「あのぉ、情報提供料なんですけど。」
一人の冒険者がおどおどと近づきおじさんに要求する。
「まだ、商談は終わっていませんが良いでしょう。はい、5000ギューツ。」
「え、あの、1万ギューツは?」
「商談が成功したら出します。前金をもらえるだけありがたいと思ってください。」
「はぁ。ちゃんと払ってくれるんですか?」
「払いますよ。まずはこの商談に集中したいんです静かにしていてください。」
依頼できていた冒険者達も全員おじさんのほうを向き怪訝な顔で聞く。
「俺達も貰ってないが払う気はあるんだろうな。」
「も、もちろんありますよ。」
「もう、ばれてるんだし、お金貰って帰りたいんだが。」
「依頼した時間はまだ残ってます。彼女が急に暴れたら私だけじゃ憲兵が来る前に処分されてしまいます。証人の意味でもここにいて下さい。」
「まあ、それもそうか。」
全員は納得して向き直り他人の振りをした。
(これだけの人数を雇うのにも結構かかってるんですから、絶対に成功させないと。私の威厳を上げるためにも彼らにはいてもらいますよ。契約書さえ結べばこっちのものですからね。)
真剣な目をしなおして、おじさんは人生を大きく変えるだろう商談に集中した。
しばらくはまったりした展開が続くと思いますが、ほのぼのとやっていきますのでよろしくお願いします。




