会社員達の聖夜祭生活
クリスマスイブでも懸命に働いている女子小学生がいるが、
「優!例の書類は出来ているな!?」
「この書類であれば出来ています。先ほどの物を改良いたしましたので、再度確認をお願いいたします。」
「おう。・・・バッチリだな。流石は優。」
「工藤先輩、ありがとうございます。」
このオフィスにも、クリスマスイブで働いている小学生がいる。
「よし。後もう少しで今日の仕事が終わるな。」
「そうですね。私もこの書類を人事部に持っていくだけですし。」
「ゆ、優さん。それ、私が代わりに持っていきましょうか?」
「え?いいのですか?」
「はい。こういった雑務は私に任せて、優さんは他の仕事に集中していてください。」
「…ありがとうございます。それではその書類は、早乙女優から預かった書類です、と伝えてくれれば伝わるはずですので、それだけ言って渡してください。」
「分かりました。それでは失礼します。」
そう言って、桐谷先輩はこの場を後にした。…さて、少し時間が空きましたし、パソコンのデスクの情報整理でもしていますか。
「優く~ん♪」
・・・菊池先輩ですか。
「今は仕事中ですよ?」
「もちろん、仕事の件で伝えたいことがあって来たわ!」
正直、用件を言うだけであれば私に顔をこすりつける必要なんてないと思うのですが。
「分かりました。それで要件とは何でしょう?」
「明日の仕事なんだけどね。この書類を明日中に片づけて欲しい、とのことよ。」
菊池先輩はどこから取り出したのか、A4サイズの紙を私に渡してきた。
「・・・分かりました。確かに受け取りました。」
「えへへ♪今日じゃなくて明日、だからね♪」
と、私の膝をさすってきながら言ってきた。過剰な身体的接触は避けて欲しいのですが、いつになったら伝わるのでしょうか?
「「「!!!???」」」
そして、いよいよ終業時刻となった。
「さーて。今日はこれからが楽しみだな。」
「それな。今までクリスマスイブは独りでむなしく生きていたんだけどな。」
「今日は飲むわよ。」
先輩のみな様方は、本日のこの後の予定を大層楽しみにしていて、そのおかげでいつも以上に仕事に集中していたらしい。年末が近いはずですのに、残業する人はだれ一人残っていません。
「それじゃあ優。確か予定だと2時間後だったと記憶しているが、準備の方は大丈夫なのか?」
「はい。人数分の下ごしらえはほぼ完了しているので、後は焼いたり煮込んだり温めたりするだけです。」
「了解。俺も何か一品持っていくとするよ。」
「はい。先輩方も楽しみにしているので、しがいがあるというものです。それでは竿先に失礼しますね。」
「おう。俺も出来る範囲であれば手伝うからな。」
「その時はよろしくお願いします。」
「あ~ん!優君待ってよ~!私も行く~。」
さて、今日の食事の準備を始めますか。
社員寮に戻ってからというもの、
「優君、そっちの準備は出来ている?」
「はい。後はローストチキンを焼くだけです。」
「了の解よ!さて、食器の準備を…、」
「おう!邪魔するぜー。」
私と菊池先輩が準備をほとんど終えた直後、見知った先輩が私達に声をかけてくれた。
「ようこそ、工藤先輩。」
その人、工藤先輩は酒瓶と…白い袋?を持っていた。白い袋の中には何が言った入っているのでしょうか?
「俺は当然酒とこれだ!」
工藤先輩が袋から取り出したのは、枝豆でした。枝豆、確かにお酒のつまみとしてよく合いますからね。
「あんたも芸がないわね。」
「うっさい。俺は毎年これを持ってくると決めているんだよ!それにこんなにたくさん持ってきたんだからいいだろ!?」
「はいはい。」
工藤先輩を先頭とし、
「お、お邪魔しまーす。」
「今日はみんな大好きハンバーグを持ってきたよ!電子レンジで温め直したいから電子レンジ借りていい?」
「俺もその後でいいから使っていいか?ちなみに俺はグラタンな。」
今日参加するであろう人達が続々とこの共同リビングにやってきます。あ、橘先輩に桐谷先輩もきてくれたみたいです。
参加人数が揃い、
「そ、それにしても、すごい料理の数々ですね。」
「だな。被っている品もあるが、それを考慮してもかなりの量だな。」
料理もテーブルに並べ終えたことですし、
「それじゃあみなさん、いただきましょうか?」
「そうだな。それじゃあ乾杯するか!」
その工藤先輩の言葉に、周囲の方々はガヤガヤと賑やかになる。
「それじゃあ乾杯の音頭を優君、お願いね?」
「ええ!?わ、私ですか!?」
菊池先輩の言葉を合図に、先輩方の視線が私に集中してしまいした。菊池先輩、余計なことを…!ですが、こんなことを言っていても意味がありません。ここは菊池先輩の言っていた通り、私が乾杯の音頭をとらなくては、この場をおさめることが出来ないでしょう。ですが、何を言えば…?ここは私の思ったことを好きに言わせてもらいましょう。どうせこういう場でのルールを知らないですし。
「先輩方。今日はわざわざこの場に集まっていただきありがとうございます。」
私のこの一言で、周囲に静けさが嵐のように強襲する。
「本日は仕事の話は無しにして、無礼講というわけで、この食事を目いっぱい楽しんでもらえたら幸いです。そして、これを私のクリスマスプレゼントとさせていただきます。乾杯。」
言葉が拙くなってしまいましたが、これでいいでしょうか?私の日頃の感謝も少し混ぜて言ったつもりですが、大丈夫でしょうか?
「「「かんぱ~い!!!」」」
よ、よかった。みなさん、元気で嬉しそうに乾杯していますね。
「ほらほら優君。優君も一緒に乾杯しましょう♪」
「そうだぞ。何一人だけ外れているんだよ。あの橘でさえこの輪に混ざっているんだからな。」
「…工藤先輩?それ、どういう意味ですか?」
「あ。い、いや~。この場を和ますジョーク的なもので…、」
「あの酒、最低。」
「…すいませんでした。」
こうして、楽しくて楽しいクリスマスイブが始まる。
「かぁー!それにしても今日は本当に酒が美味い!」
「これもどれも、優の企画してくれたこのクリスマスイブの食事会のおかげだな。」
「美味しいご飯はいっぱいあるし、種類は豊富だし、最高♪」
「私、今日で数キロ太っちゃうかも♪でも幸せ♪♪」
「「「分かる~♪♪♪」」」
時間が経過し、社員寮には酔っぱらいが増産され始めた頃、みんなはお腹を満たすことより、酒のつまみを楽しみ始め、ゆっくりじっくり酒を飲み始めていた。その影響があってか、社員寮にはアダルティーな雰囲気が広がり始めている。
「…あれ?優は?」
ここで優の不在に気付いた工藤は、近くにいた橘に話を振る。
「分からないです。俺も今気づいて少し探していたのですが…。」
「そうか?菊地なら何か知っているかもしれないな。菊池は…、」
「えへへ~♪優君が私のあれをしゃぶって、えへへ♪♪♪」
「「・・・。」」
菊池は上を向き、何か見えてはいけない者でも見えているのだろうか。所々危ない発言が聞こえる。
(は、話づれぇ。)
工藤はそう思いながらも菊池に近づき、
「おい。優がどこに行ったか知らないか?」
「…まず人を呼ぶときはおい、なんて言葉は使わないで欲しいわね。」
「あ。わりぃ。」
「…まぁ、次から気をつけてくれればいいわ。それより優君ね。優君は今、大切な人のところに行っているわ。」
「「大切な人??」」
工藤と橘が誰の事か分からないでいると、
「そう。優君にとってとても、とても大切な人のところよ。それに、じきに戻ってくるわ。」
「…分かった。それじゃあ橘、優に渡すクリスマスイブのプレゼントは、優が帰ってきた時に渡すとするか。」
「ですね。」
社員寮から少し離れ、
(やはりこの部屋の前に立つと緊張します。)
とある扉の前に、早乙女優は直立していた。いつもより緊張しているのか、汗が手の中にあらわれる。
(では、いきますか。)
優は意を決め、扉をノックする。
「入り給え。」
その社長の言葉に、
「し、失礼します。」
声に浮つきが見れるものの、しっかりと入室する。
「君からこの部屋に来るとは。一体何事かね?」
優は今対面している人物、森徹也社著に話を振る。
「今日はクリスマスイブという事なので、私から森社長にクリスマスプレゼントをお持ちしました。」
「ほぉ。」
「あ、もちろん、森北秘書にもご用意しておいります。これを。」
優は持ってきた袋からさらに袋を二つ取り出し、その二つの袋を、
「申し訳ありませんが、この机に置かせてもらっても構いませんか?」
「構わんよ。」
「ありがとうございます。」
机の上に置く。森社長と森北秘書は、袋の中身が気になり、袋に近寄っていく。
「それで、この袋には何が入っているのかね?」
「はい。本日作らせていただいたローストチキンが入っておりますので、よかったらお召し上がり下さい。」
「ありがたく受け取らせてもらうよ。」
「私からもありがとう。」
優は森社長と森北秘書両者からのお礼の言葉をいただき、
「いえ。こちらこそ常日頃から感謝しています。これで少しでも恩を返すことが出来たら幸いです。」
「そうか。」
「それでは私はこれで失礼させていただきます。本日は私のために時間を汚割いていただきありがとうございました。」
優は頭を下げると、
「待ちたまえ。」
森社長が私の事を引き止めてきました。
「?何でしょう?」
「…用件はこれだけ、かね?」
「そうですが。」
「…このためだけにわざわざ会社に戻ってきたというのかね?」
「はい。」
「何故かね?」
その何故、という言葉の意味が分かりません。何故今の時期に渡したのか、ということを聞きたいのでしょうか。それとも、森社長だけでなく、森北秘書にもプレゼントを渡したのか、ということを聞きたいのでしょうか。どっちか分かりませんので、どちらの質問にも答えられるような形で答えましょう。
「森社長と森北秘書には、返しきれない恩があります。なので、このような時期に少しでも受けた恩の一部を返そうと思い、本日のクリスマスイブを利用し、プレゼントを贈らせていただきました。」
このような返しでよかったでしょうか?言った意味が伝わっているとありがたいのですが、私が二人の顔を見てみると、二人とも驚いていた。
「ですので、美味しくいただいてもらえるとありがたいです。」
私は追加で言葉を添える。先ほども似たような言葉を述べた気もしますが、気にしないでおきましょう。
「そうか。それじゃあ美味しくいただくとするか。」
「ですね。」
よかった。取り敢えずは質問の受け答えが出来ていたみたいです。的外れな回答をしていないみたいでよかったです。
「それでは、よいクリスマスイブをお過ごしください。」
私は一礼し、
「それでは失礼しました。」
そう言い終え、頭を上げ、そのまま退室していった。
「それにしても優ちゃんは本当にいい子に育ちましたね。」
「うむ。それでいて仕事もかなり出来るときたものだ。」
早乙女優が退室した後、二人は会話を始める。
「昔、学校の先生が言っていたことを思い出します。」
「学校の先生が言っていたこと?」
「ええ。子供には無限の可能性を秘めている、と。普通の子がそうなら、優ちゃんはどのような可能性を秘めているんでしょうね。」
「それはおそらく、その無限の可能性を己の能力として昇華したかしていないか、の違いではないか?」
「?どういうことですか?」
「うむ。本来、何年、何十年かけて自身の可能性を見つけ、時間をかけて華を咲かせ、社会に貢献していくが、早乙女優は短い期間で可能性を見つけて華を咲かせた。」
「・・・。」
「つまり、優はあの年齢にして、社会人と呼べる程の責任感やスキルを習得したと言える。こういった面では、日本中のどの子供より社会に貢献しているだろうな。何せ、普通の子供は親のすねをかじっているだけだからな。」
「…少し言い方が悪いですよ。それに例外もあります。」
「…失礼した。確かに、小学生でモデルをやっている子もいるだろう。」
二人は優の話題で持ちきりになり、
「さて、今日の食事はこの動画を見ながらローストチキンでもいただこうかね。」
「この動画、とは?」
「これだよ、これ。」
「…これって、優ちゃんの女装…いや、演奏?」
「うむ。前に菊池君からこの動画をもらってね。優君の演奏姿が見られるんだ。」
「確か…11月上旬でしたね。」
「ああ。」
「素人の私が聞いても分かります。この演奏は響きます。」
「だな。思わずウルっときてしまうよ。」
「もう、社長ったら。」
二人は、優の勇姿を見て、夕飯を食べ始める。
「「メリークリスマス。」」
静かに言葉を合わせて。
「ふぅ。」
なんとか社長にクリスマスプレゼントを渡すことが出来ましたし、これで今日のやることは全部終わりましたね。
「あ!優遅いぞ!」
「工藤先輩。」
私を呼んだ工藤先輩がこちらに駆けつけ、
「ほらほら。今日の主役様はこっちに来い!」
「主役、様?」
一体どういうことでしょう?
「ほら。みんなからのクリスマスプレゼントだ。」
工藤先輩に見せられたのは、
「・・・何ですか、これ?」
見たこところ、大きなクーラーボックスがあります。何か要冷凍で大きなものでも入れて保管しているのでしょうか。
「いや、見て分かるだろう?」
「クーラーボックス、ですよね?」
私は恐る恐る確認する。
「ああそうだ。そして、」
「これが私達の、」
菊池先輩が大きなクーラーボックスを開けるとそこには、
「「「クリスマスプレゼント!!!」」」
そこには、数々のあ、あい、
「アイスだ!!!」
一口サイズからワンホールサイズまであるなんて…!
「す、すごい…!!」
感銘です!感動です!!奇跡です!!!よく見たら、期間限定の味のアイスが何個もあるなんて…!!!
「すごい、すごい!!」
確かこれ、もう製造されておらず、事実上、売買不可能とされていたアイスも見られます。それにこれは…見覚えがありませんね。まさか…!?
「そうよ。この日のために、アイス製造会社に問い合わせて、没になったアイスをいくつか分けてもらったのよ。ま、味の感想を条件に言われたけどね。」
な、なんて神がかっているのでしょう。こ、これが、私の今年のクリスマスプレゼント。正直、もらえなくてもいいと思っていましたが、ここまでのものがもらえるのかと思うと、クリスマスもいいものです。
「ま、俺達は普段、仕事でも生活でもお世話になりっぱなしだからな。これぐらいは奮発しないと。」
「「「ねーーー。」」」
「あ、ありがとうございます。」
い、いけません。これ以上目を緩めてしまうと、感動のあまり、涙がでてきてしまいそうです。私は涙をこぼさぬよう必死にこらえ、
「みなさん、こんな素晴らしいクリスマスプレゼントをありがとうございます。」
きちんとプレゼントをくださった方々にお礼の言葉を述べる。
「いいってことよ。」
「それでは、今から大事に一つずつ食べさせていただきますね。」
この優の発言に、この場にいる全員が違和感を覚える。
「…なぁ、優?もしかしてそのアイス、この場で全部食べるつもりか?」
その場を代表し、橘が優に問いかける。
「?そうですけど、何か?」
この優の返しに、
(((嘘でしょ!!!???)))
全員が驚く。何せ、アイスの個数は1や2ではない。余裕で二桁を超えているうえ、アイスケーキも数個入っている。つまり、常人が一晩で食べきれない量が、この大きなクーラーボックスに入っているのだ。それを優は、
「ちなみに聞くが、どれぐらいで食べきれそうだ?」
「そうですね・・・せっかくいただいたアイスですし、しっかり味わうとして・・・一晩ですかね。」
一晩で完食すると言ったのだ。常人が一晩中アイスを食べ続けることなんて出来ないことを、この場にいる優以外の全員は把握しているため、
(((それは駄目でしょ!!!???)))
みんな、心の中でつっこんだ。声に出して突っ込まなかったのは、
「うわ~。どのアイスから食べましょう。やはり王道のバニラ、でしょうか?それとも、この下に眠っているヨーグルトも美味しそうです。隣のチョコレート、ストロベリーも必須ですよね。あ、もうそろそろクーラーボックスを閉めませんと。もっと見ていたいのに残念です。」
こんな嬉しそうにアイスを見ているのだ。駄目、なんて言えないだろう。
「いや、一晩で全部なんて食わせないからな!?」
だが、ここで工藤が声をあげて優の意見を否定する。
「えええ!!!???」
工藤の否定に優は心底驚く。
「ええって、それはこっちのセリフだぞ…。」
(((うんうん。)))
工藤の言葉に、この場にいる大人達は全員頷いた。
「せめて一日一個とか、もっと現実的に味わってくれ。」
優は反論を言おうとしたが、
(せっかく先輩方々のいただきものですし、ここは素直に先輩方の言う事に従いましょう。)
「分かりました。」
渋々、という気持ちが伝わってくるが、
「おう。そりゃあ良かった。」
成人達は満足したのか、顔色を元に戻す。
「それでは、今日はどの味から食べましょうか?まずは・・・。」
こうして夜はふけ、クリスマスイブの食事会は終わりを迎え、それぞれの家へと帰り、お腹を満腹にして今日を後にした。
次回予告
『会社員達の最終出社生活』
12月24日のクリスマスイブが過ぎ、間もなく年末年始に突入する。会社員達も、新年早々仕事をすることにならないよう仕事していく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




