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小さな会社員と何でも出来るOLの商談生活

 翌日。

 私は社員寮に住んでいるみなさんに朝食を作り、会社に出勤し、メールの確認をしていると、

「・・・え?」

 メールが一通来ていて、そのメールの内容が、今日の予定を狂わせる。

「この情報は?」

 まさか、本当に?であれば、今日午前中に行われるプレゼンの内容が大幅に変更になってしまうのですが?とにかく、情報源を確認しないと!

「優君!大変よ!」

「どうしましたか、菊池先輩!」

「これを見て!」

 私は急いで菊池先輩のデスクに向かい、菊池先輩が指差している箇所を凝視する。

「これは、私のとこにもきていました。」

「これだけじゃないのよ。私にはもう一つ来ていてね。これがそのメールよ。」

「!?これって…!?」

「ええ。」

 そのメールの内容は、本日行われる予定の会議の内容変更を知らせる内容だった。内容変更、というより、取引先が誤って会議内容を送っていたらしく、会議当日になって送ってこられたらしい。いえ、正確な日時を見てみますと、昨日の夜遅くに送られていますので、是会議前日に送られていることになりますね。て、そんな呑気に構えている訳にはいきません!

 このメールによると、本当の会議は今日の午後となっています。なるほど。時間も間違っていたわけですか。一応、確認メールを先日送っていたのですが、取引先の方達がきちんと確認されていなかったみたいです。たまにこういうことはありますけど、こういう時に鍵って…!

「…優君、どうする?」

「え?」

 菊池先輩は一体、何に対して言っているのでしょう?

「優君、今日は学校に行きたいんでしょう?この会議の後に行っても間に合うか分からないし、私一人でも…、」

「菊池先輩。私はこう見えても社会人です。」

 確かに、会議の予定終了時刻を見ましたが、その通りの時刻に終わり、その後に学校に向かっても間に合わない可能性があります。それは菊池先輩の言う通りです。ですが、

「これは菊池先輩と私、計二人の仕事です。私一人が投げ出すわけにはいきません。」

 学校に行きたいがために仕事を放りだすなんて言語道断。大人にあるまじき愚行です。そんなこと、絶対にしません!

「優君・・・。」

「さぁ菊池先輩。時間はほとんど残されていませんよ。一から資料の作成し直しなのですから。」

「…そうね。それじゃあ優君はこの部分について作ってもらえる?私はこっちを作るわ。」

「はい。」

「出来次第、二人でプレゼンを作成するとしても、ほとんど練習時間を確保することは出来ないわね。ぶっつけ本番でもいけるかしら?」

「いけますよ。ここまで綿密に調べてきた菊池先輩と私なら。」

「ま、それ全部おじゃんになったけどね。」

「ほとんどが、ですね。こういうこともたまにはあるんだと諦めましょう。」

「そうよね。これが終わったら、後で優君を思う存分堪能させてもらうわ。」

「それじゃあ私は後でアイスを堪能させていただきますね。」

 そう言い、私と菊池先輩は自身のデスクに向かい、資料作成に精を出し始める。

「ふ~。今日も仕事頑張るか。おっと、やはりお二人は既に出勤していたか。それで、午前中に行われる会議の準備は万全か?」

「あ、その件なのですが…、」

 私は先ほどの出来事を簡単に説明する。

「はぁ!?取引先の人が会議内容や日時を誤送していたのか!?」

「はい。確認のメールも送ったのですが、」

「それも流れ作業のごとく見られていたのか。それなら後で文句でも言っておけよ。」

「それはまぁ、菊池先輩がいるので問題ありませんが、資料の方は一から作成しないとならなくなりました。」

「そ、そうか。それで本来の会議の日程は?」

「今日の午後です。」

「て、もう時間が無いじゃないか!?大丈夫なのか?なんなら俺も…、」

「いえ、大丈夫です。工藤先輩は工藤先輩の仕事をしてください。」

「でも、」

「本当にどうしようもなくなったら頼みます。それに、これは菊池先輩と私、計二人の仕事です。私達二人が責任もって全うしなくてはなりません。」

「…そうか、分かった。だけど、これだけは言っておく。」

 どうやら工藤先輩は私の考えを理解してくれたらしい。

「お前も菊池も、どうしようもなくなったら俺も、桐谷も橘も手伝うからな。」

「そうですよ!普段から色々教えてもらっている事ですし、私なんかでよければいつでも力をお貸しします。」

「俺も同意見だ。」

「先輩方…。ありがとうございます。では、どうしようもなくなったら頼らせていただきますね。」

「ああ。いつでも声をかけてくれ。」

 そして私と菊池先輩は昨日以上の速さで仕事を進め、急ピッチで資料を作成していく。

 午前中の休憩時間。

「優君。ここの資料なんだけど、ちょっと足りないと思うのよ。」

「この部分のことですか?やはりもっと詳細に記した方が…、」

 お昼休憩。

「後はプレゼンの調整よね。この時間だと、全情報の共有は出来そうにないわね。」

「ですね。なので、最重要の部分だけ互いにピックアップして、その部分を重点的に把握しましょう。」

「賛成だわ。」

 そして、プレゼンの時刻間近。

「それじゃあ工藤先輩、後はよろしくお願いします。」

「私は会議の後、優君を学校に送っていくわ。間に合えば、だけど。」

「オッケー。こっちは任された。」

「それでは、行ってきます。」

 こうして、私と菊池先輩はプレゼンの発表場所へと向かう。


「あいつら、本当にたった数時間で仕上げやがった。」

「相変わらずの早業ですね。」

「仕事の様子を横目で見ているのですが、優さん、本当に子供ですか?」

 一方、菊地と優が会議の場へと向かった時、残った3人はちょっとした世間話を始める。

「ああ。優は間違いなく子供だ。だが、我が社が誇る・・・エース、と言ったところかな。」

「確かに。今の優ならそう断言出来るほどの器があるからな。」

「そ、そこまで優さんは凄いのですか?」

「ああ。仕事の丁寧さ、早さはもちろんのこと、社内の事をほとんど把握しているし、俺達の仕事スケジュールもそれなりに把握している。なにより、これらの仕事の実績が、俺らだけでなく他の社員も一目置いているぞ?」

「そ、そこまでですか…。」

「確か、ゴールデンウィーク後の事、覚えているか?」

「ゴールデンウィーク後の事、ですか?」

「ああ。他の課が仕事を一つ丸々忘れていてな、それを優と菊池の2人でこなした件だ。」

「…そういえばそんな事がありましたね。」

「ああ。それも、優の仕事における信頼が堅かったから出来たことなんだよ。」

「他の課の先輩方も頼られるほど優さんは凄いのですか?」

「ああ。あの菊池に教わったからな。あの仕事能力は菊池譲りだ。」

「やはり、菊池先輩も凄いのですか。」

「まぁな。ただ、優と比べて菊池は性格に難があるからな。」

「それはまぁ、この半年以上一緒に仕事をして理解させられました。」

「言っておくが、あれが社会人の普通じゃないからな?なぁ、橘?」

「そうですね。俺もあそこまで公私混同している社会人を見たことがありません。」

「そうなのですか。」

 ここで、

「工藤君?世間話をする分にはいいが、仕事は捗っているのかね?」

 課長が横から声をかける。

「か、課長!?し、仕事でしたら、この見直しが終わり次第、次の仕事に移行しようかと。」

「そうか。進んでいるのであればそれでいい。ところで桐谷君。」

「は、はい!?」

 桐谷は課長の声掛けにより、席を立ち、課長がいる方角に顔を向ける。

「先ほどから話を聞いていたのだがね、早乙女君は、工藤君が言っていた通り、この課の、いや、この会社の未来のエースだよ。上層部の方々は、早乙女君の成長を願っている。だから、何かあったら早乙女君に聞くと言い。なんなら、私より会社の事を詳細に把握しているのかもしれないからね。」

「は、はい!」

「それじゃあ、私も…、」

「ちょ、ちょっと待って下さい。」

 桐谷は去ろうとする課長を呼び止める。

「何だね?」

「優さんが未来のエースだとしたら、今のエースは誰なのですか?」

 その桐谷の質問に、課長は静かに宣告する。

「菊池君だよ。」


「やっと着きました。」

 時間を経て、私と菊池先輩は会議場所へと到着した。と言っても、ここは他社持ちのビルなので、受付に用を言い、会議室にまで案内してもらわないとなりません。今日もらったメールにも、受付の事までは記されていましたが、その後は社員が案内する事と書かれているだけで、それ以外の事、どの部屋で会議をするのか等の情報は記載されていなかった。ま、案内があるのであれば別に記されていなくてもいいんですけどね。

(なんだかなぁ。)

 誤ったメールを送ったのに、謝罪の一つくらいあってもいいんじゃないか、なんて考えてしまいました。私も、こちらに非があったら謝罪するようにと、先輩方から教わりました。まぁ、人の目がある場所で謝罪をしたくない、そんな事を考えているのかもしれません。これまでも、そういった方々にお会いしたことがありますしね。

「お待たせしました。」

 数分待っていると、工藤先輩や橘先輩より若そうな男性社員がこちらに声をかけてきました。おそらく、この方が連絡をくださった方なのでしょう。

「まずは会議室に案内します。俺についてきてください。」

 と言い、男性社員は歩いて行った。

「・・・。」

 さきほど自分で納得していたのですが、やはり気になってしまいます。この人、今日のメールの件について、言うべきことがあるんじゃないでしょうか?別に間違った事に関しては仕方がないと思うのですが、間違った事を謝罪してもいいのでは?なんて自己中心的に考えてしまいます。

「なんだかなぁ。」

 どうやら菊池先輩も、何か不満があるらしい。ですが、私と同じ事を思っている、なんて考えるのは都合が良すぎるでしょう。

(って、今は仕事の事だけを考えましょう。)

 全く。今私は仕事をしにこのビルに来ているのです。これから行われるプレゼンの事だけを考えましょう。

 男性社員に案内されてきた場所は、とある会議室。その部屋に入ると、

「ようこそお越しくださいました。」

 工藤先輩や橘先輩よりお年を召している男性がこちらに向き、席を立って挨拶をしてくれた。

「いえいえ。こちらこそ、このような場を設けていただきありがとうございます。」

 私は社交辞令を交わした。

「…ありがとうございます。」

 気のせい、でしょうか?なんだか菊池先輩の機嫌が悪い気がします。言葉そのものに違和感はありませんが、言い方に棘を感じます。私の思い込み、でしょうか?これからプレゼンするというのに大丈夫でしょうか。いえ、それこそ愚問ですね。菊池先輩なら大丈夫でしょう。私はあまり気にせず、

「それではこれから会議を始めさせていただきます。まずはうちの若い者からプレゼンを行わせていただきます。」

 会議と称したプレゼンが今、

「それでは俺のプレゼンを始めます。」

 始まった。

 ・・・。この若い男性社員のプレゼンを聞いていましたが、

「え~、つきましてはまず・・・、すいません。」

 別に私は人を批評出来るほどの人間ではないと確信しているのですが、なんだか、昔の私を思い出させてくれる発表でした。言葉は詰まり、発表内容を十分に記憶していないのか、接続詞や感嘆詞ばかりで内容の薄さを感じてしまいます。発表態度も自信がないのか、なんだか挙動不審さを覚えます。これ、もしかしたら最初の練習で桐谷先輩が見せていたプレゼン発表より酷いかもしれません。まぁ、あくまでこれは私個人の率直な感想であって、この私の意見が全てではないので、私からは何も言うつもりはありません。それに、この場にいる最も小さい私が何か言っても、ほとんど聞き流されてしまいそうですし、言われている相手の方もよく思わないでしょう。それにしても、会議の場でこんなプレゼンをして、この若い男性社員の方は何を考えているのでしょうか?あの発表では、何を言いたいのかかなり伝わりづらいと思うのですが。それこそ、一緒にプレゼンを制作でもしないと、この若い男性社員が伝えたいことなんて分からないと思います。

「それでは次は、そちらのプレゼンをお願いいします。」

「あ、はい。菊池先輩、いきますよ。」

「・・・ええ、そうね。」

 …なんだか、このビルに来てからというもの、菊池先輩の機嫌が損なわれている気がしてなりません。それは、私も何も思わない、なんてことはありませんが、今くらいはプレゼン発表に集中してほしいものです。

「それでは私、早乙女優と、こちらにいる菊池美奈による発表を始めさせていただきます。」

 さて、これから短時間とはいえ、私達が尽力して作り上げたものを発表させていただきましょう。

「・・・これにて、私、早乙女優と菊池美奈による発表を終わりにします。」

 よし。これで無事に発表が終わりました。ですが何だか違和感を覚えた発表となりました。

お年を召した男性社員、おそらく若い男性社員の上司の方でしょう。その方は真剣に聞いていたのですが、若い方の男性社員は、聞いている雰囲気でありませんでした。心ここにあらずとは、先ほどの若い男性社員のためにあるような言葉でした。それにしても、先ほどのプレゼンの質と言い、プレゼンを聞く態度と言い、何かこう、違和感を覚えます。社会人とは思えないような、そんな対応をしている気がしてなりません。ですが、これはあくまで私の主観です。私がそう見えているだけで、菊池先輩には違って見えていることでしょう。それに、あのメールの誤送の件から、あの若い男性社員の悪い点ばかりに目がいってしまったのかもしれません。

「いやー。さすがは菊池君と早乙女君だ。実にいい発表だったよ。おかげでいい会議になりそうだ。」

「いえ、そんな、ありがとうございます。」

「…ありがとうございます。」

「それより、急に会議内容の変更を強制してくるなんて、一体どういう風の吹き回しですか?」

「「・・・え?」」

 私と菊池先輩は互いの顔を見合う。

 あれ?急に会議内容の変更を強制した?一体何の話をしているのでしょうか?私、そんな話をした覚えは微塵の欠片も無いのですが。それじゃあ菊池先輩がしたのでしょうか?ですがみたところ、私と同じ反応をしていたあたり、菊池先輩も知らなかった出来事だと判断していいでしょう。となると、

(もしかして、あの若い男性社員が…?)

 大体の見当はつきました。ですが、証拠がありません。それにしても、あの上司は本当に私達が会議内容の変更を強制した、なんて思っているのでしょうか?それなりに付き合いがあるので、そう易々と信じるなんて…、もしかして、それを頷ける証拠でもあったのでしょうか。

「・・・え?」

 上司は私達の雰囲気に戸惑いを体外に放出し始める。

「もしかして、菊池君達じゃ、ないのかね?」

「・・・。」

 私は反応に困ってしまい、思わず菊池先輩を見てしまいました。こういう時、きちんと言えてこそ大人なのに!私はまだまだ甘えたがりな子供、ということなのでしょう。

「そうね。私は、初めて聞いたわ。こちらは大体見当がつくけどね。」

 と言い、菊池先輩は若い男性社員の方を見る。私も思わず若い男性社員の方を見てしまいましたが、仕方がありませんよね?

「まさか、君が?」

 ここで私達の視線に、考えに気づいたのか、上司は若い男性社員を問い詰め始める。

「・・・いいえ、俺じゃありません。第一、俺がやった、という証拠がどこにあるんですか?」

 と、何故かこちらを高圧的に見ながら発言してきました。

「「・・・。」」

 …まぁ、確かにこの若い男性社員が会議内容の変更を強制したメールを送った証拠なんて存在しません。ですが、何故そんなにも高圧的に言ってくるのでしょうか?

「だが・・・、」

 一方、上司の方は、私達と若い男性社員どっちの言う事が正しいのか判別がつきませんよね。私が戸惑っていると、

「ふっ。」

 何故か若い男性社員が勝利を確信したかのような笑みをこぼしていました。

「そんな奴らの言う事なんて信じていけません。あいつらは自身の間違いを隠すため、隠蔽行為を働いたんですよ。」

 と言い、さらなる笑みをこぼして指を差してきた。

「間違いを隠す?隠蔽行為?」

 上司の方はあの男性社員の言葉に疑問を浮かべていました。まぁ、それもそのはず。上司の方とは数回だけとはいえ、仕事上の付き合いで何度も討論を交わした仲です。たかが数回ですが、その数回で、どのような思考を持っているかくらい、想定出来るはずです。ましてや相手は昇進している方。人を見る目は養われているはずです。

「・・・なるほどね。」

 菊池先輩はおそらく、全てを察したのでしょう。そこには、怒りを噛み殺すかのように拳を握り、紙資料にはっきりとしわが残ってしまうほど強く握りしめた。

「それであなた?さっき言っていた証拠の件だけど、今日の朝送られてきたこのメールアドレス。一体誰のものなのかしらね?」

 そういうな否や、すぐに誰かの携帯が鳴った。

「!?」

 その音は、若い男性社員の携帯からであった。

「それで、これが今日の朝に送られてきたメールがこちらです。」

 と、菊池先輩が上司にメールの内容を見せた。おそらく、今日の朝に送られてきたメールを見せているのでしょう。

「これは・・・!?」

「さっき、このメールアドレスにメールを送ったんです。で、そしてその人は、言われなくても分かるわよね?」

 と、上司も若い男性社員を見ていた。おそらく、若い男性社員の方を全員見ていたのでしょう。

「まさか、本当に…?」

 上司の方は、若い男性社員を信じられないような目で見始める。

「・・・。」

 若い男性社員は顔を下に向ける。そして、

「ああそうだよ。俺がやったんだよ。それが何か?」

 若い男性社員は開き直ってこう発言する。

「だって、まだ何も作っていなかったから、お前らのせいにしようと画策したのに、まさか捨てのメアドを使わずに送っちまうとはな。」

 この発言に、

「な、な、な・・・!?」

 上司の方は声にならない何かを発していた。それにしても、まさか何も作れていないから、こちらのせいにしようとしていたのですか。

 ・・・。

「何をしでかしてくれたんだ君は!?」

 上司の声が会議室中に響く。

「だって、こんなメイド服を着ているチビが仕事なんて出来るわけがないだろう?」

 そして、この後の発言が、菊池美奈にとって、早乙女優を最も大切にしている人物にとって、言ってはならない発言をもたらす。

「どうせそいつは、自身の小ささを使って体でも売っているんだろう?そんな小さい時から売春とか、マジでごくろうだよな。」

 その発言が、

「「!!??」」

 上司と、菊池美奈の怒りを爆買いしてしまうことになる。

 本人が、

(・・・まぁ、こう思っている人もたまにいますよね。私が口を挟むと事態が紛らわしくなるので、黙っていましょう。)

 黙秘を決め込むなか、

「き、君はなんてことをいっているのだ!!??」

「私の優君に・・・。そう。」

 二人の大人が立ち上がる。

 片方は、

「こ、この度はうちの部下が大変、大変失礼なことを発言してしまい、申し訳ありませんでした!!」

 自身が所属する会社を守るため。

 もう片方は、

「もういいわ。そんな意識しかない社員と取引なんかしたくないから、この話どころか、今行われている取引も全部中止させてもらうわ。」

 目の前にいる若い男性社員の発言に嫌気がさし、一つの会社の莫大な損失を促そうとする。

「・・・は?え?」

 一方、若い男性社員は、この状況についていけず、ただ一文字だけを発することしかできなくなっていた。

「それにしても、まさか御社にこういうふざけた社員がいるとは思わなかったわ。自身の過ちを謝罪するどころか人のせいにし、あまつさえうちの大事な優君を…!」

 菊池美奈は最早、怒りの隠蔽を辞めていた。

「ど、どうか!その怒りをお鎮めください!」

 上司の男性社員は必死に頭を下げ、許しを請う。

「ほら!君も謝りなさい!さぁ早く!!」

 上司が謝罪を強要するが、

「え~?なんで俺が女とガキに頭を下げなくてはならないのですか~?俺、悪くないですよ?」

 と、語尾を若干伸ばし、上司の男性の怒りを加速させていく。

「!?君は何も分かっていない!とにかく!君の発言に菊池君だけでなく、早乙女君も傷ついたんだ!早く謝罪しなさい!!」

「え~?でも~~~。」

 このやり取りに、

「・・・。」

 早乙女優はただ何もせず、静観していた。

「つまりあなたは、こんな子と話をしたくないから、今回の事を仕掛け、あわよくばこの機会をこちらのせいにして潰したかった。そういうこと?」

「ああそうだよ。悪いかよ!?」

 若い男性社員は逆切れし、菊池美奈に言葉を投げつける。

「そりゃあ悪いわよ。なんたってあなたは、私が最も大事にしている存在を、自分を守るために、理不尽に罵倒したのだから。」

「ふん!大体、こんな場にガキがいる時点で大間違いなんだよ!ガキはガキらしく幼稚園にでも行っていろよ!それとも、ママのおっぱいでも飲んでいろよ、このエロガキが。」

「!?」

 ママ、ですか。私にはもう・・・。

「そう。それがあなたの判断ね。よ~く分かったわ。」

 そう言うと、菊池は端末をいじりだす。

「あ、あの。何をしているのですか?」

 上司は失礼のないよう、最善の注意を払いながら菊池美奈に聞く。

「ん?それは、この会社の社員の質の悪さを見たから、その証拠の音声ファイルを各所に送って、取引を中止させようと…、」

「ちょ、ちょっと待ってください!そんなことをされてしまっては我が社が潰れてしまいます!」

「え?そんなことは知らないわよ?」

「彼もまだ新入社員で右も左も分からず、つい暴走してしまったのです。」

「ええ。そんなことは見て分かるわ。」

「なら・・・!?」

「私は過ちを犯した後のそいt、彼の行動に怒っているのよ。間違っても謝らない。それどころか私達のせいにしようとして、愛しの優君を見た目だけで理不尽に罵る。こんな人が将来、人の上で働けるなんて思えないわ。それどころか社会人、いえ。大人としての最低限度のマナーも身に着けていないんじゃない?そんな社員がいる会社なんて、吸収合併した方がいいと思うの。」

「・・・では、どうすればこの会社を存続出来るでしょうかうか?」

 この上司の発言に、菊池美奈は笑う。まるで、待ち望んでいた言葉を聞くことができたかのような。

「そうね・・・。まずはそちらの誠意を見せてくれないかしら?」

「誠意、とは?まさか…!?」

「ああ、お金じゃないわ。もちろん、分かっているわよね?」

 この時、菊池美奈は魔王の親族ではないかと疑われるくらいの笑みを男性社員二人に見せていた。

「…分かりました。それではこの男はただいまをもちまして解雇、クビにさせていただきます。」

「はぁ!?なんで俺がクビにならなくちゃいけないんだよ!?おかしいだろ!?」

 上司のクビ宣告に、若い男性社員は抗議を始める。

「そんなの当たり前だ。理由は言わなくても分かるだろう?」

「そんなの分かんねぇよ!だって、」

 若い男性社員は早乙女優を指さし、

「正社員の俺より他社在中のあいつらの方を優先するっておかしくねぇか!?」

 と、言ってきた。その若い男性社員の発言に、

「馬鹿者!あの者達が我が社にどれほど貢献したか把握したうえで言っているのか!?」

「え?」

 上司の言葉により、若い男性社員の方は驚いていた。まぁ、経緯はともあれ、自分がこれまでしてきたことを本人の前で言われるのは少し恥ずかしくなります。なので、

「そいつを解雇にしたら、そいつがうちの優君に何するか分かったものじゃないわ。だから、そっちできちんと再教育して欲しいわね。それで今回の件は水に流してあげる。」

 その菊池先輩の言葉に、

「はっ!寛容な処置に感謝します!」

 上司の方は上半身を直角に曲げ、ハッキリと声を発する。

「は?な、なんで…?」

 そういえば、あまり詳しいことは把握していないので何とも言えませんが、御社の新人教育プログラムはかなり厳しいと評判でしたね。それなのに、どうしてこのような人がこの場に来たのでしょうか。最低限の対応は出来ていると思っていたのですが。

「それじゃあ優君。今日はもうこれで失礼しましょう。」

 私は菊池先輩に何か言おうとしましたが、菊池先輩の目が本気でしたので、何も言わずに、

「…はい。これで私達は失礼します。会議はまた後日、ということで。」

 私が会議室を出る。

「あ、そうそう。一つ言い忘れていたわ。」

「?な、何でしょう?」

「今回の事があったわけですし、今回の企画はうちの会社を有利に進めていくけど、いいわよね?」

「は、はい!もちろんです!」

「ならいいわ。それでは失礼するわ。会議の詳細な日程はこちらから、後日メールで送らせてもらうわ。異論はない?」

「もちろんです!」

「そう。それじゃあ。」

 菊池先輩が何か話していましたが、私には詳しく聞こえませんでした。

「あの、一体何を…?」

 私が何を話しているのか聞こうとしたところ、

「優君にはあまり聞かせたくない話だから、ごめんね?」

 菊池先輩が悲しそうな目で私を見てきたので、

(これは、深く聞いてはいけないみたいですね。)

 菊池先輩の意向を汲み取り、

「分かりました。それでは今日はこれで、」

「ええ。気分は最悪かもしれないけど、これから学校ね。」

「はい。」

「買い物は済ませてあるのよね?」

「はい。もう準備は万全です。」

「なら、途中まで送ってあげるわ。」

「ですが、菊池先輩のお仕事が…、」

「私はお仕事より優君の身の安全が大切よ!」

 私は菊池先輩の断言に、

「お願い、します。」

 甘えることにした。自分に甘いと思ってしまっても、私の事を思ってくれての発言、心遣いが嬉しくなってしまいました。私も結局、まだまだ人に甘えたい年頃、なのでしょうね。菊池先輩の親切さに心の中で喜び、私は学校に向かった。


 一方、

「この馬鹿者が!!」

「!?」

 先ほどまで4人いた会議室が2人に減り、怒号が飛んでいた。

「何故あんな馬鹿な発言をした!?何故あんなことを口走った!?」

「だ、だって…、」

「だってもへったくれもあるか!!」

 上司の男性社員は怒号を飛ばした後、

「何でよりにもよってあの人の時に…。」

 怒鳴り疲れたのか、会議室にある椅子に座り、顔を曇らせる。

「とにかく、君は明日から再教育だ。もちろん、一からな。」

「は?はぁ!?」

「今日のところはもう帰ってくれ。明日から再教育できるよう、私が上に話を通しておく。」

「ちょ、ちょっと待って下さい!俺、そんなにやばいことをしたのですか!?」

 若い男性社員の言葉で、上司の男性社員は睨みをきかせる。

「当たり前だよ!あれほど、あれほど会議の前に注意していたというのに…、」

 と、上司の男性社員はがっかりしていた。

 会議の前に注意していた事というのは、菊池美奈と早乙女優二人の人格と、こちらに非があったら必ず謝るように。そして、

「たしか、早乙女優、というガキに関しては、きちんと礼節をわきまえて接する事、でしたよね。」

「ああ。その二つを君は本人の前で破ってくれたよね!それに危うく、絶対に敵にまわしてはならない人までまわすところだったよ。」

「敵にまわしてはならない人物?それって一体…?」

「菊池君だよ。菊池君の機嫌が良い日にこうやって会議をし、上手いこといけばこちらが有利で進められたというのに…!」

 話をしていく上で段々と言葉を強めていく。

「…もしかして俺、かなりやばいことを…、」

「今更そんなことをのたまうのかね?反省しようがしまいが、どっちみち君は一からだが。」

「何故俺がこんな目に遭わなければ…!?」

 今になって若い男性社員は、自分の置かれた立場を理解し始める。その様子を、上司の男性社員は冷たい目で見ながら、

「彼女が言っていただろう?理不尽にあの子を罵ったからだよ。それに、あの二人は我が社にとっても重要だからね。」

「そういえばさっきも何か言っていたような…?」

「そう。彼ら二人は、我が社のセキュリティー面に著しく貢献してくれた名誉ある二人だからね。」

「は?でも、」

 若い男性社員は聞きたかった。

 何故他社の社員がそこまで頭を突っ込んでいるのかと。

「我が社のピンチにいち早く駆け付けたのは、あのメイド服を着た早乙女君だよ。そして彼だけでなく、菊池君も手伝ってくれて、なんとか立て直したんだ。そこまでの人物なんだ。それを…はぁ。」

 最早怒る体力も残っていないのか、次は呆れてしまう。

「あの二人はこの会社の危機を救ってくれた。だから、この会社の上層部も気に入っているんだ。だからこの会議は重要に、綿密に行うよう、上から再三言われていたのに…、」

「・・・。」

 若い男性社員も何も言えなかった。

「それほどの技術と強い思いがあるからこそ、我が社もどうにかして引き抜けないか考えていた時もあったくらいなのに。」

 その言葉を聞き、

(会社の一大事を救える人がいるのに、それに対して俺は・・・。)

 若い男性社員は自身の無能さを、自身がとった行動に今更後悔し始める。上司の男性社員は、今後どのように進めるべきか、そのことを熟考する。

次回予告

『小さな会社員とかつ丼大好き男の二人組かつ丼対決生活』

 ひとまず商談を終えた早乙女優は、服を着替え、学校に向かう。学校に着いた早乙女優は、クラブに参加する。そして、カツ丼大好き男と早乙女優が、お互い二人組で二度目のカツ丼勝負をする。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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