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誕生日が同じな小学生達の誕生日贈答品授受生活

 休日を過ごし、平日となった。会社で仕事を行いつつ、私は桜井さんと風間さんに用があるので、学校に行くことに決めました。

「これを持って、と。」

 先輩方には言っておきましたし、まだ忙しくならない11月の内に、出来るだけ学校に行っておかないと。

「それじゃあ行ってきます。」

「行ってらっしゃい♪」

「・・・菊池先輩。私は先輩にではなく、自室に言ったのですが?」

 何故横から私の言葉を聞いているのでしょうか。まぁ、聞いちゃいけないような内容ではないので今回はいいですけど。

「だって優君、今日は会社にいないじゃない?それじゃあ私が寂しいから、今のうちに優君から愛をもらわないといけないわ!」

 と、何故か熱く言われてしまった。最近寒くなってきたので、温度的にはちょうどいいのかもしれません。メンタル的にはさらに寒々しくなりましたが。

「それでは行ってきますね。」

「…行ってらっしゃい。」

 あからさまにがっかりされてもどうしようもありません。なので、私はそのまま、

「行ってきます。」

 菊池先輩の顔を見ることなく、社員寮を後にした。後で何かした方がよろしいでしょうか。社員寮に戻るまでに考えておきましょう。


 学校に着き、

「おはよう。」

「おはようございます。」

 保健室との挨拶を交わし、まず言った言葉が、

「先生、これを預かってくれませんか?」

 保持の依頼であった。

「預かるって何を?」

「これです。」

 私はカバンから白い袋を取り出し、机の上に置く。

「・・・何これ?」

「簡単に言いますと、食べ物です。」

 私が食べ物、と発言した瞬間、先生の眉が動く。

「ねぇ。学校には食べ物を持って来ちゃいけないこと、知っているわよね?」

「ええ。ですが、」

「確かに、例外もある。例えば君の弁当、とかね。それで、どういった理由で持ってきたの?」

「渡したい人が校内にいるので、学校帰りに渡したいと思ったので持ってきました。」

 隠す気が全くなかったので、私は正直に言った。

「君。一応、校則を破ったことになるんだけど、自覚ある?」

「そうですね。確かに、校則は破ったと思います。」

「・・・私が君のその白い袋の中にある物を没収しても、早乙女君は何も言えないの。それを承知で言っているの?」

「ええ。」

 これで駄目なら、別の案を考えるだけです。

「・・・普通の子なら、こういう食べ物は隠すんだけどね。」

「そうなのですか。ですが、私は先生がそんなことをする人には思えません。」

 先生ならこのくらいのことは、軽く説教して、それでお終いだと思います。別に先生のことを軽視しているわけではないのですが、こういうことでは、先生は本気にならない。私はそう思います。これでも半年近く一緒にいましたからね。なんとなくですが、先生の性格は把握できている、と思います。合っている断言は出来ませんが。

「君は痛いところを突いてくるね。そう言われたら、没収なんてできないじゃないか。」

 そう言った後、先生はため息をつき、

「分かった。その袋は一時的に預かっておく。次からはこんなことがないようにするんだぞ、いいな?」

「はい。次からは事前に相談して決めようと思います。」

「…そういうことじゃないんだけど…。まぁいいわ。今日も名ばかりの授業を始めるわよ。」

「はい。」

 こうして、私と先生の授業が始まる。

 といっても、授業の内容そのものはすぐに終わった。なんでも、私が授業の要点を覚えていたために、教えること、やるべきことが速攻で終わってしまったらしい。早く終わるのはいいことですね、と考えますか。

「そういえば、倉橋君から手紙を預かっていることを思い出したわ。確か…、」

 そう言って、先生は席を離れ、机を漁り始める。それにしても、倉橋君、ですか?その子は一体誰でしたっけ?同学年でそんな人はいなかったような…?ですが、私の記憶力はあてになりませんからね。きっと、私が忘れているだけでしょう。学校が関わると、どうしても人の名前が覚えづらくなってしまうんですよね。何故でしょう?

「あったわ!これよこれ。」

 と言って、私に渡してきた。渡された物は、白い紙だった。これは、

「ルーズリーフ、ですか?」

「ええ。倉橋君、これを書く時、自分のノートを1ページ破って書こうとしていたから、自前のルーズリーフを1枚あげてそれに書かせたわ。」

「なるほど。」

 自分のノートの一部を破こうとしてまで、一体何を書こうとしていたのでしょうか。それに、そうまでして私に伝えたかったこととは一体…?ルーズリーフの上部を見てみると、

“果たし状”

 と、書かれていた。

 ・・・え?

「これ、私の目が間違っていなければ、果たし状、と書かれているのですが。」

 何度見ても果たし状と書かれていますね。ですが、果たし状を渡されるようなことをした記憶がまったくないんですよね。学校に来てそこまで目立ったことは・・・していましたね。カンニング(本当にくどいようだが、やっていない)や、あの修学旅行の行き先決めの件、合唱コンクールの件、本当に色々やっていますね。であれば、こういった脅迫をされるのも納得です。知らないうちに不特定多数の方から恨みをかっていたのでしょうね。今からカンニングの件について訂正すれば少しは恨まれることも減りますかね。…無理かな。同級生達の間ではもう、私がカンニングしたことは確定事項になっているみたいですし、訂正する手間も無駄に終わりそうです。そういった努力も本当はすべきなんでしょうけど、それより自身の能力向上に力を注いでいきましょう。と、考えが逸れてしまいました。

「ええ。君が見た通り、それは果たし状よ。」

「やっぱりそうですか。」

 ちょっと目の前の出来事から目を背けてしまいましたが、目を背けても現実は変わらないですね。当たり前のことですが。

「読んでごらん。」

「…はい。」

 気は進みませんが、仕方がありません。読んで内容の確認をいたしましょう。


 数分かけて読み、

「・・・。」

 何も言えなかった。それと、倉橋君、という人の正体が分かりました。あのかつ丼大好き男だったのですか。何故分かったかというと、果たし状にこう記してあった。

“俺とかつ丼で勝負をしろ!”

 と。その後も読み続け、なんとか果たし状に書かれていた内容を理解することが出来ました。果たし状を読むことが初めてだったから、読むのに手こずってしまったのかもしれません。それで、書かれていた内容を簡単にまとめると、



 ・12月の初めのクラブで、かつ丼で料理勝負をすること

 ・今回は2対2のタッグマッチで、2人で1つの料理を作ること

 ・こちらは、俺ともう一人、幼馴染である高倉を出す。そちらももう1人人材を確保しておくこと

 ・今回の材料費の半分は先生がだしくれるので、買った時のレシートを取っておくこと

 ・前みたいに楽に勝てるとは思わないこと

 ・今度こそ絶対に勝つからな!!!



 そんなことが書かれていた。最後の方は何か気合いとか気持ちとか色々込められているのか、筆圧がかなり強かったようで、文字がかなり濃くなっていた。

「・・・。」

「色々言いたいことはあると思うけど、あの先生は既に了承済みよ。後はあなたができるかどうかだけ、みたいよ。」

「そこまで話が進んでいるのですか?」

 本人のいない場で話を進めないでほしいのですが、私自身、あまり学校に来ていなかったので文句は言えないのでしょう。

「大丈夫よ。私が代理で話を聞いておいたから。その果たし状も私が監修したんだから。」

「え?そ、そうなのですか?」

「ええ。最初、何が書いてあるのか全く分からなくて、何を伝えたいのか分からなかったくらいひどい文面だったのよ。」

「へ、へぇ。」

 これでもましになった方なのですか。先生が言っていたことが本当であるなら、その倉橋君、という方は文章を書くことが苦手なのでしょう。今回は果たし状なので、文章とは少し異なる部分があるかもしれませんが。

「それで大丈夫なの?」

「え?」

「え?って、日にちのことよ。」

「あ。」

 そういえば最初の分に記されていましたね。確か、12月の最初のクラブ、ですか。

「このクラブがあるのはいつですか?」

「そうね・・・3週間後のこの日ね。」

 先生はカレンダーをめくり、日にちを確かめ、予定の日にちを指さす。

「なるほど。ありがとうございます。」

 まぁ、12月は毎年忙しくなりますが、上旬であればなんとか時間は作れると思います。それに、前日や後日に当日の仕事をカバーすれば大丈夫でしょう。先輩方にはあまり迷惑をかけたくないですが、これを断ると、これ以上に面倒くさそうなことに巻き込まれそうですね。消去法で了承するのが妥協でしょうが、この場で決めるのは…。であれば、

「少し相談したいので、時間をもらえませんか?」

 これは持ち帰って先輩方に要相談ですね。先輩方であれば喜んで行ってらっしゃいと言ってくると思いますが、報告くらいはすべきでしょう。

「…それはいいけど、出来るだけ早く返事がほしいって言っていたわよ。」

「分かりました。出来るだけ早く返事します。」

「それならいいわ。」

 そう言った後、先生は、私が持っているルーズリーフの紙に視線を一瞬移した後、

「それで、さっそくだけどかつ丼のアイデアはあるの?」

 目を少し輝かせながら言う。

「そんなこと急に言われても困るのですが…。」

 申し訳ありませんが、急には思いつきませんね。ですが、あの人との再戦、ですか。少し急な気がしないでもないですが、同時に少し楽しみでもあります。あの人がどんなかつ丼を作るのか、今から楽しみです。

 時間は経過し、放課後。

「それでは私は失礼します。」

「ええ。ちゃんと青春してくるのよ。」

「?はい。」

 先生が何を言っているのかがよく分かりませんが、私は保健室を後にする。

「あ、そのタッパーは黙っていてくれたお礼、ということで受け取ってください。」

「…なんか、賄賂を受け取った気がしないでもないけど、ありがたくいただいておくわ。」

「ええ。是非とも美味しくいただいてください。」

 私が試作したクリスマス料理の一つ、シチューを渡していた。先生の言う通り、賄賂感も否定できませんが、ここは黙っておきましょう。


 帰り道。

 私は今、とある人の家付近で待機している。そのとある人とは、

「・・・。」

 桜井綾である。

「あ~あ。早乙女君が作ってくれた料理、食べたいなー。」

「そうね。あの子、本当に上手だし。」

 今も楽しそうに話している桜井さん、風間さんにある贈り物を渡すためである。この2人が話しているのは、おそらく先日行われたクラブについての話だと推測した。


 私は先日行われたクラブに参加出来なかったが、保健室の先生から少し話を聞いていた。何でも、先日のクラブではチャーハンを作ったらしい。半分近くの人がチャーハンを作ることに成功していたのだが、半数近くは失敗してしまい、焦がしてしまったのだとか。おそらく、炒める時間を長くし過ぎたのでしょうね。その調理光景を直接見ていないので断定は出来ませんが。そんな話をした後、

「…なんだかチャーハンの話をしていたらチャーハンが食べたくなってきたわ。」

 保健室の先生は昼食時、どこかに出かけていった。すぐに戻ってきたかと思ったら、手には白い袋が。

「買ってきちゃった。」

 どうやら、今日の先生の昼食はチャーハンになったらしい。保健室の先生は笑顔のままチャーハンを食し始めた。

「次は早乙女君、あなたの作ったチャーハンが食べたいわ。もちろん、材料費は負担するわ。なんなら謝礼として上乗せするわよ?」

 なんて言ってきました。私としては別に構わないのですが私、一般的なチャーハンしか作ることが出来ませんよ?私が作ると全ての料理が美味しくなる、なんて考えていませんよね?まぁ、作ってごちそうするくらいいいですけどね。とりあえず、明日のお弁当のご飯はチャーハンに決定ですね。

 

 学校終了後、私はこうして帰宅しているお二人をつけ、贈り物を渡すタイミングを伺っているのだ。伺っているとはいえ、渡すタイミングは既に決まっている。それはお二人の自宅付近、である。その時に渡せば、学校に不審な物を持って行ったという疑惑はかけられません。後は…まぁ、渡される人にとって、ちょっと恐怖を覚えてしまう可能性も否定しませんが、そこは声のかけ方次第、ということで頑張りましょう。というわけで、こうして最初から先回りしているのである。

「それじゃあ綾。またね夜に、ね?」

「うん!それじゃあプレゼント、期待しているからねー♪」

 どうやらお二人は自宅に着いたみたいです。それにしても、風間さんの家ってこの付近だったのですね。初めて知りました。

(おっと。このまま見ているだけではいけません。)

 私は、桜井さんが1人になったところを見計らい、

「桜井さん。」

 声をかける。

「さ、早乙女君!?」

 桜井さんはとてつもなく驚いたらしく、それなりに後ろに引かれてしまった。驚かせるつもりはなかったのですが、結果的に驚かせてしまったようです。どう言えば桜井さんを驚かせずに済んだのでしょうか。

「ど、どうしたの!?」

「誕生日プレゼントを渡しに来ました。」

「え?ほ、本当に?」

「?本当ですが?」

 何故ここで嘘をついたと思ったのでしょうか。それとも、人に誕生日プレゼントを贈らない無情な人、とでも思ったのでしょうか。私って一体…。

「え、えっと…その白い袋の中にあるの?」

「え?え、ええ。」

 危ない。自己嫌悪に陥ってしまったせいで、桜井さんの話を聞き逃してしまうところでした。

「はい。」

 私は白い袋ごと桜井さんに手渡しした。

「誕生日、おめでとうございます。」

 祝辞を述べながら。

「あ、ありがとう。」

 桜井さんは照れながらも受け取ってくれた。良かった。受け取り拒否されたらどうしようと思っていたのですが、それは杞憂だったみたいです。

「これって何?」

「それは、」

 今ここで言うのもいいと思ったのですが、

「ご自身の目でご確認してください。」

 楽しみは後にとっておいた方がいいと思い、この場では言わないことにしました。こういった考え方は菊池先輩に似たのだと思います。こういう時、菊池先輩に似たんだなと自覚します。

「そう?今見てもいい?」

 まぁ、今見ても問題ないのでいいのですが、個人的には私が帰った後で見てもらいたいです。て、今すぐ自分が帰れば解決しますね。

「はいどうぞ。それでは用件は済みましたので、私はこれで失礼します。」

 私はお辞儀をした後、桜井さんに背を向け、距離を離していった。離れる直前、「洋子さん含めたみなさんで召し上がってください。」と付け足しておいた。そういえばさきほどまで風間さんと一緒にいたので、一緒にいる時に渡せば良かったかも。まぁ過ぎたことを言っても仕方がないので諦めますが。

 その後、私は社員寮に戻り、仕事を急いで片付けていった。


 早乙女優が桜井綾から距離を話した後、

「それで、この袋の中身って何だろう?」

 桜井綾は袋の中身を見てみる。

「・・・え?」

 見た本人も、目に映った物が信じられなかった。その中には、鳥の丸焼き、ローストチキンが入っているのだから。もうすぐ中学生になるとはいえ、未だ小学生。驚いて声が出なくなったのも無理はないだろう。テレビの中や、特別な日でもほとんど食べたことがない料理が、今自分の手元に存在しているのだから。

「・・・は!?とりあえず、お母さんに渡さないと。」

 桜井綾は自分の手元にある重たい物を持って家に入り、

「おかーさーん!これ、夕食に加えてくれない?」

「うわ!?ど、どうしたのよ、これ!?」

「えっとね、誕生日プレゼントでもらったの♪」

「これを?」

「うん♪」

 桜井綾の母は、娘が持ってきた食べ物に驚きを隠せなかったが、

「そう。もらった人にはきちんとお礼を言うのよ。」

「うん!」

 これしか、言えなかった。

(これを誕生日プレゼントに渡すって、家の娘はどんな人から誕生日プレゼントをもらったのかしら?)

 娘の友人関係を気にしながら、娘本人から預かった食料を袋から取り出す。

「さて。これはメインディッシュにしようかしらね。食べごたえがかなりありそうだわ。」

 その後、桜井一家と風間一家を交えたお誕生日会は大いに盛り上がったという。綾と洋子とのプレゼント交換会、保護者同士の会談も大変盛り上がり、例年より活気のある催しとなった。その際、風間洋子の姉、風間美和から将来の進路について報告があったのだが、それは別の話で。

次回予告

『小さな会社員と女子小学生モデルの統一試験生活』

 無事に誕生日プレゼントを贈れた早乙女優。その後の週末、事前に連絡をもらっていた女子小学生モデル、潮田詩織と約束を果たすため、潮田詩織と峰田不二子の二人と合流する。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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