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小さな会社員の降誕祭料理検討生活

 優達が食べ放題の店に行った翌日。

「それじゃあ、いただきます。」

「「いただきます。」」

 とある家族は、朝食をいただいていた。

「それにしても、いよいよ来週だわ。洋ちゃんは元気かしら?」

「そうだな。ちょっと心配だから今から家に行って見てくるか?」

「もう~。お母さんもお父さんも心配性なんだから~。昨日も見たでしょう?」

 この3人、桜井一家は休日の朝、家族で団欒をしていた。その団欒の話のメインテーマとなっているのは、

「そうね。それにしても綾、もう誕生部プレゼントは決まったの?」

「ううん。今日の午前中の内に買ってこようかと思っていてね。」

「本当に、綾一人で行くのか?なんならお父さんも付いていこうか?」

「ありがとう。でも、私一人で決めたいから、ごめんね?」

「そう、か…。」

 桜井父は分かりやすく落ち込み、桜井母が励ます。

「それじゃあご飯食べたら行ってくるね。」

「気を付けてね。」

「うん!」

 こうして桜井綾は一人、風間洋子の誕生日プレゼントを買うために出かける。

 11月14日。それは、桜井綾と風間洋子の誕生日である。親が大親友で、子が同じ誕生日。ただでさえ仲の良い4人組がさらに仲良くなり、家族ぐるみの付き合いも頻繁になっていった。その例の一つとして、2つの家族同時に誕生日会を開くことである。そのことも相乗効果として出て、親友の子供達も無事に親友となったのだ。だから、この密接な家族観交流に誰も反対しないのだ。

 また、今回の誕生日会のプレゼントも、プレゼントの品がばれないようにするため、土曜日は綾が、日曜日は洋子が買い物にでかける、という独自のルールも設けている。これだけでも、2人がいかにこの誕生日会を楽しみにしているのかが伝わっていることだろう。もっと言えば、この家族間で行われる誕生日会は、綾と洋子が生まれてからずっと行われている。それくらい、この2つの家族にとって欠かせない通過儀礼であり、必須行事である。

「着いたー。」

 桜井綾は本日の目的地である、大型商業施設に来ていた。

「さて、洋子に贈る誕生部プレゼント、今年はどうしようかな?」

 桜井綾は今年に贈る誕生日プレゼントについて考えながら、大型複合商業施設の中へと入っていく。

「う~ん…。今年はどうしようかな?」

 桜井綾が大型複合商業施設に入ってから1時間近く。桜井綾は迷っていた。迷っていることはもちろん、風間洋子に贈る誕生部プレゼントである。何せ毎年毎年贈っているのだ。それも、誕生日だけでなく、クリスマスにも、クリスマスプレゼントと称し、プレゼント交換しているのだ。プレゼントする物も確実に少なくなってきていたのだ。そして、この時期になると毎年思い出す。

「そういえば毎年、洋子の誕生日プレゼントで迷っていたんだっけ?」

 桜井綾は今年も、誕生日プレゼントの選定に苦労を始める。だが、決して嫌悪感からくる疲弊ではない。悦楽からくる過剰な楽しさ、とでもいうのだろうか。そんな感覚が桜井綾の全身に流れ込む。その感覚のほとんどを頭に流し込み、風間洋子に贈る誕生日プレゼント選びにまわす。

 お手製のハンカチ、ワンピース、クリップ、アンクレット、マフラー、鉛筆等、実に様々な物を贈っていた。どれも愛らしくデコレーションしていた。だからこそ、毎年悩み、こんなぎりぎりまで贈る品をどうしようか日々思考してしまうのだ。

「う~ん・・・。」

 桜井綾は今日だけで様々な店を巡り、色々な物を見てきた。シャープペンシル、消しゴム等の文房具から、食器、コップ等の日常的に使う物等、色々なジャンルの物を見てきた。その結果として、

「今年もどうしようかな?」

 何も選ぶことができず、近くのベンチにて腰を下ろしていた。これも毎年行っていることである。

「出来れば洋子本人に聞きたいけど、それじゃあ意味ないし。」

 桜井綾は、風間洋子が喜ぶ顔を思い浮かべる。

“今年はこれにしてくれたんだ。ありがとうね、綾。”

 妄想とはいえ、自信を褒めてくれた親友。その笑顔を見つけるため、

(頑張ろう。)

 桜井綾は今年も奮闘する。親友の輝く笑顔を見るために。


 さらに数十分経過。

「ど、どうしよう。」

 桜井綾はまたも悩んでいた。悩んでいたことはもちろん、風間洋子に贈る誕生日プレゼントのことである。そして、

「とりあえず、この店のヘアグッズの何かを贈ろうかと思ったけど、どれにすれば…?」

 誕生部プレゼントを選んでいる最中、風間洋子のある言葉を思い出していた。それは、

“最近、髪がまとまらない気がするわね。”

 そんな独り言のような言葉を思い出し、ヘアグッズをプレゼントにしようと決めたのだ。それまではよかったのだが、

「洋子が最も喜ぶヘアグッズって一体何だろう?」

 そこに行き詰まり、ずっと悩んでいた。

「こうなったら、真紀ちゃんにでも聞くしかないんじゃ…、」

 と、桜井綾は顔を上げる。するとそこには、

「え?…あの小ささって、もしかして…早乙女君!?」

 見知った身長の持ち主が、近くにいた。桜井綾はすかさず、

「さ、早乙女君!」

 その掛け声に、小さな者は、

「・・・?もしかして、桜井さん、ですか?」

 桜井綾の声に反応する。

 

 時刻は当日の朝にまで遡る。

「うん。爽やかな目覚めです。」

 あれから車の中も寝ていたためか、いつも以上に睡眠時間を確保でき、目覚めがよかった。それに気のせいか、口の中が幸せで満たされています。

(もしかして、寝ている最中にアイスを食べて…?)

 いえ、そんなわけがありません。家にはアイスが存在していないわけですし、帰ってから歯磨きもきちんとしましたし。だとすれば、私の意識が関係しているのでしょうか?私の幸せな気持ちが、口の中にアイスの味をださせたのでしょうか?…原理はよく分かりませんが、幸せなので深くは考えないようにしましょう。

「さて、朝食の準備をして、それからは…、」

 まず、これから食べる朝ごはんの準備を始めましょう。私は腕まくりをしながら献立を考える。

「・・・さすがに今日は来ませんか。」

 時刻は朝の8時。本来なら、この社内寮は慌ただしくなるのですが、それは平日の場合。今日は土曜日で会社がお休みなので、みなさんは思い思いに寝ているのでしょう。だから、こんな時間に起き、共同リビングに朝食を食べに来る人はいません。

「それでは、食べますか。」

 私は独り、朝食を食べ始める。今日はパンとサラダ、スクランブルエッグにベーコンと、簡単なものしか用意出来ませんでした。独りで食べるにしては、多く作りすぎてしまいましたし、自室に持ち帰ってアレンジを加え、昼ご飯や夕ご飯で食べるとしましょう。そのアレンジは後で考えるとしまして、

「今日の予定は、と・・・。」

 さて、今日はあそこに向かって、あれについて考えるとしますか。私は独り、無音の中で食事を済ませ、食器を片付け、自室に戻る。

「必要なお金は…とりあえず多めに持っていくとしましょう。」

 いくら持って行っても困ることは…ありましたね。財布をすられた場合のショックが大きくなりますね。すられなければいい、という話ですが。

「一応、場所の確認をしておきましょう。」

 万が一、迷子にでもなったら大変ですからね。…よし、これで問題なくいけるはずです。

「さ、行きますか。」

 私は、

「行ってきます。」

 自室に一声かけ、カギをきちんと閉めて、ある場所へと向かう。あ、メールの確認を怠っていましたね。ま、帰ってからするとしますか。


 歩き始めて約数十分。着いた場所は、

「ここなら、私の目的に沿う何かが見つけられるかもしれません。」

 とあるデパートである。ここに来た目的は、

「では、来月に作るクリスマス料理のアイデアをどうするか、色々な食材を見て考えるとしますか。」

 決意を固め、デパートに入る。

 今回の目的は、来月のクリスマスパーティーの献立の考案である。毎年のクリスマスパーティーの料理は、毎年私が考え、私が作っている。もちろん、菊池先輩や、料理ができる先輩も手伝ってくれますが、正直なところ、自分一人で作りたいです。これは、私が好きでやっていることですし、何よりみなさんには楽しくて美味しいひと時を満喫してほしい、と考えているからです。だからこそ、こういった手間のかかる行為には参加しないでほしいです。これが私にできるクリスマスプレゼントなのですから。それに、毎年毎年、作る料理がかなり似てしまうんですよね。仕方がない部分もあると思いますが、だからといって、停滞していい理由にはなりません。私はこうしてクリスマス前に、クリスマスパーティーの料理を試作します。それがこの時期なのです。

 毎年作っているのは、ローストチキン、サラダ、シチュー、パンがほとんどです。もちろん、毎年異なるアレンジを加えているつもりなのですが、結局のところ、この4品に収まってしまうんですよね。デフォルト、とでも言うのでしょうか。なので、レシピの見直し、もしくは新たなレシピの考案をしようと、このデパートに来ました。何せ、このデパートには数多くの料理が並んでいます。それらを見れば、何かしらいいアイデアが浮かぶ。私はそう考え、このデパートに来たわけです。それに、この時期であれば、そろそろクリスマスということで、クリスマス料理の一つや二つあるのでは?と考えました。なので、今日はデパートにて新メニューを考案しようと、私はこうしてでてきたのです。

「さて、何かいい料理はないでしょうか?」

 もちろん、手っ取り早くネットを使うのが一番効率的ですが、出来るだけ使用したくありません。ネットに頼り切ってしまうと、いざという時に困ってしまいますからね。それに、実物を見ながらの方が、調理手順や、見栄えを想像しやすいですからね。ネットでも香りや質感までは再現できないでしょう。

「まずは、野菜から見ていきましょうか。」

 何かサラダに応用できるレシピ、野菜や案があればいいですけど。そう考え、私は野菜がある場所へと向かう。

 私はサラダに、ブロッコリー、トマト、キャベツ、キュウリを使っています。後はたまにタマネギ、ジャガイモ、卵等を用いります。なので、サラダにはかなりのテコ入れをする必要があります。もしくは、サラダとは別の料理を作り、みなさんを驚かせるのも一興なのかもしれません。とはいえ、サラダでクリスマスの色を補っているんですよね。赤がトマトで、緑がブロッコリー、といった感じです。なので、緑色の野菜と赤色の野菜は使いたいです。それで且つ、美味しくて、見た目にも新鮮な料理、ですか。かなりハードルが高い気がします。とはいえ、みなさんの笑顔のためなら、多少の苦労は構いません。みなさんの笑顔が見られるのであれば、頑張りがいがあるというものです。

「やはり、野菜だけを見ても、何もいい案が思い浮かびませんね。」

 野菜はいつも、あの商店街で見てきましたからね。あの方はいつも、美味しい野菜の見分け方を教えてくれていましたね。お♪これは美味しそうな大根です。とはいえ、大根は白い野菜なので、出来れば赤い大根があれば、なんて考えてしまいましたが、そんなこと考えるより、赤い野菜であるトマトを使った料理を模索した方が現実的でしょう。

う~ん・・・。こういう時、菊池先輩なら迅速に動き、今の私に最適なアドバイスをくれると思いますが、当の本人はいません。なんとか自力で考え抜きませんと。

「とにかく、まずはお惣菜コーナーを見に行きましょう。」

 野菜単体を見るより、野菜を使った料理を見た方がイメージも沸くでしょう。何故そのことに気付かず、野菜のところにいたのでしょうか。私はそんな疑問を自身に投げかけつつ、問いをださぬまま、お総菜コーナーへと向かう。

 お総菜コーナーには、様々なお総菜が陳列なさっている。

 茄子のあんかけ、筑前煮、肉ジャガ、カボチャの煮物、切り干し大根、ヒジキの煮物等々、実に様々です。魚や肉を見てみると、サバの味噌煮、赤鮭、鳥の手羽先等、こちらも色々です。ま、今は野菜をメインとした一品を模索しているので、こちらを見てもあまり意味はありませんが。それにしても、やはり早く来すぎたでしょうか。陳列なさっている商品があまりクリスマスっぽくありません。クリスマスっぽさといわれても、私も正確には答えられませんが。それに、見た目だけを求め、肝心の味がダメになってしまったら元も子もありません。う~ん・・・。何かいい案はないのでしょうか。

 少し考えているとき、ふと、先輩方の笑顔が目に浮かび始める。先輩方が美味しそうに私の料理を食べてくれ、笑顔になっていく様子。その様子はまるであの時の…あの時?あの時っていつでしたっけ?確か・・・?

「あ!?」

 確か、今年、同学年の人達と遠足に行った時の翌週に行った草むしりで見た笑顔です。あの時は本当にみなさん、美味しそうに食べてくださいましたね。あの時作った料理は…アヒージョ、でしたね。

「アヒージョ、ですか。」

 前作ったときは確か、エビとマッシュルームを使った記憶があります。ですが、トマトを使ったアヒージョもあると聞いたことがあります。それに、ブロッコリーを使ったアヒージョも同様です。この2種類を混ぜ、トマトとブロッコリーのアヒージョを作れば・・・いいかもしれません。

「そういえば、アヒージョを作っていたとき、工藤先輩はアヒージョのことを知らないような反応をしていましたね。」

 ということは、見た目にもある程度驚きを与えることができるかもしれません。…いけそうですね。幸い、アヒージョであれば何度か作ったこともありますし。

 …結局、ここのお総菜コーナーを見に来た意味がありませんでしたね。

 次はシチューについて考えましょう。シチューについてはどうしましょうか?サラダをアヒージョに変えるとなると、野菜の摂取量が少し気になりますね。シチューには去年より野菜を多く入れるとしましょう。それと、野菜は細かく刻んで入れて、サラサラと食すことができるようにしましょう。そうすれば、より多くの料理を食べられますし。何より、栄養に偏りがなくなりますからね。ホワイトシチューが少しホワイトじゃなくなる気がしますが、これぐらいは許容していただきましょう。そういえば、去年のシチューには鶏肉をいれていましたね。今年はサラダがアヒージョになることですし、シチューに入れる鶏肉は無し、にした方がいいですね。ですが、シチューに鶏肉を入れないのは少し違和感を覚えます。…シチューに肉を入れるかどうかは、今は保留にしておくとしましょう。

 次はパンです。パンは毎年、出来るだけ簡素に、ラスクみたいにしていましたが、今年も同じ方向性でいいかもしれません。シチューに浸して食べていた人がいましたし、アヒージョに浸して食べる人もいるかもしれません。パンを作る量に関しては要検討ですが、パンの味、方向性は去年と変えなくてもいいでしょう。

 そして、メインディッシュ且つ最も悩んでいる料理、ローストチキンについて考えましょう。毎年、いつも簡単に鳥丸々一羽を調理して…それだけですね。調理といっても、塩コショウ、すりおろしたにんにくを鳥に馴染ませ、途中に何度か、鳥から出る油を何度か塗っていましたね。ですが、毎年毎年同じではいけません。ここで何かしら大きな工夫を施し、驚きの顔を晒させてやりたいです。

 お?この肉のコーナーにレシピが記載されている紙がありますね。少し見てみましょう。・・・。なるほど。鳥の腹の部分にもち米や野菜を詰める、という手もあるわけですか。このひと手間を加え、みなさんの前で切り、切り口を見せるとみなさんの笑顔が…。

「♪」

 なんだか、皆さんの笑顔を想像していると楽しくなってきました。みなさんの喜ぶ笑顔が見られそうです。ぜひ、この案を採用していくことにしましょう。

「この紙はもらっていきましょう。」

 見たところ、十数枚ありますし、一枚持って行っても問題ないでしょう。それどころか、自由に持っていってください、と書かれていますしね。

「ふぅ。」

 そういえば、今は何時なのでしょうか?時間を確認しましょう。…うわ。もう三十分以上経過しているじゃないですか。その間、私はずっと食材とにらめっこしながら考え事をしていたわけですか。なんか、はたから見たら変人に見られたのではないでしょうか?少し心配になりますが、過去の奇行?についてとやかく考えることはやめますか。それよりこの場を離れるとしますか。あまり変に目立つわけにはいかないですからね。私はこの場を去り、別の場所に移動を始めた。

 少し離れ、休憩できる場所に座り、

「・・・。」

 今まで考えてきたアイデアをメモ帳にまとめていた。やはり、自身の思いつきはメモしないとすぐに忘れてしまいますからね。

 ・・・。

「ふぅ。」

 ようやくメモが終わりました。さて、後は家に帰り、必要な食材を調べ、商店街で食材調達するため、再び外に出ないと、ですね。少し面倒くさいと思ってしまいましたが、思い付きで買い物して、買い忘れがあってしまったら二度手間になってしまいますからね。物事は慎重に且つ確実に、です。とはいえ、足にそれなりの疲れがあるようですし、少し休んでから歩き始めるとしましょう。

「・・・。」

 なんか、休んでいる時間が無駄に思えてきました。こういう…何もしない時間、とでもいうのでしょうか?そういった時間も必要だと聞きますが、今の私には不要みたいです。足はそれなりに痛みがありますが、それより、早くみなさんの笑顔が見たいです。ま、笑顔が見られるのはクリスマス、なんですけどね。そのためのリハーサルみたいなものです。リハーサルとはいえ、手を抜くつもりは毛頭ないですが。

「さ、行くとしますか。」

 今は疲れより楽しみが勝ってしまいました。早く料理を作りたいです。そのためにはまず必要な材料を…、

「さ、早乙女君!」

 突如、そんな声が聞こえてきました。

(?誰でしょう?)

 社員寮に住んでいる方々、ではなさそうですね。声が幼過ぎるように感じます。それに、なんだか上、というより横から声が聞こえてきたような…?私が聞こえた方角を向いて見ると、見知った顔が存在した。

「・・・?もしかして、桜井さん、ですか?」

 間違っていなければいいのですが、合っているでしょうか?間違っていたら、とんでもなく失礼ですからね。これがもし、取引のやりとりであれば、今後の雰囲気、対談に差し障るレベルです。

「うん!」

 どうやら合っていたみたいです。よ、よかった…。

「早乙女君はどうしてここに?」

「私は…、」

 素直に、

“クリスマス料理を考案していました。”

 と言うのは何だか気が引けます。ここは何か言い方を変えましょう。

「何の料理を作ろうかなと考えていまして。」

 これでクリスマスのことは伏せることが出来ました。これでばれることはないでしょう。

「へぇ~。休日でも料理のことを考えるなんて、早乙女君は偉いね!」

「あ、ありがとうございます?」

 これって偉いこと、なんでしょうか?私はただ、みなさんの笑顔を見たいがためにやっていることなので、偉いことなのかどうか分からないんですよね。単に自分が無知だからこういう判別ができないだけ、なんでしょうね。何に対して無知なのかは分からないですけど。だからこそ、自分が無知、といえるのでしょう。…私が一体何を考えているのか分からなくなってきました。

「桜井さんはどうしてここに?」

 私は今まで考えていたことを放棄し、桜井さんに質問を投げかける。

「わ、私は…、」

 と、桜井さんは何故か、言葉を発さなくなった。急に発声器官が故障した、なんてことはないと思いますけど、一体どうしたのでしょうか?

「た、誕生日プレゼントを買いに来たの。」

 誕生日、ですか。

「それはめでたいですね。」

「うん。」

「それでは頑張ってください。それでは私はこれで、」

 失礼します、と言おうとしたところで、

「待って!」

 桜井さんに呼び止められてしまった。

「?どうかしました?」

 私を呼び止めて一体何を…?もしかして、私に用がある、とか?ですが、この出会いは偶然のはずです。偶然出会った人に用があるなんて…もしかして、前々から私に聞きたいことでもあるのでしょうか?であれば、私に声をかけてきたことにも納得がいきます。

「ちょ、ちょっと相談したいことがあって、それでちょっと…、」

「・・・。」

 おそらく、前々から聞きたいことがあるが、いざ本人を目の前にすると緊張してしまい、声に出せなくなった。こんなところでしょう。そんな質問をしてくるとなると、私もそれなりの覚悟をきめなくてはならなそうです。聞く本人があそこまで挙動が正常じゃなくなっているくらいですから。

「洋子の誕生日プレゼントを選ぶのに協力してくれないかな!?」

「・・・え?」

 なんか、予想とは大きく異なったことを聞いてきましたね。いえ、この場合は頼んできた、と言う方が適切でしょう。

「え?」

 私が返事しなかったことに戸惑っているのか、桜井さんは私をみてどうしようかと悩んでいそうです。これは、返事をしなかった私が悪そうです。

「すいません。返事、ですよね。手伝える範囲でよければ、お手伝いさせていただきます。」

 こんな返事になってしまいまいたが、問題なかったでしょうか?一応了承する、という意味で返させていただいたのですが、おかしなことは言っていないはずです。

「うん!ありがとう!!」

 よかった。私の発言は間違っていなかったみたいです。

「それで、何か候補はあるのですか?」

 こうして、私と桜井さんによる、風間さんに送る誕生日プレゼントの選定が始まる。


 桜井さんとともに来た場所は、とある小物店。それも、髪に関するグッズ中心に扱っているらしく、ところかしこに色んなカチューシャ、シュシュ、ヘアゴム等が存在している。女性であれば、こういうアイテムも必須なのでしょう。私もたまに使います。女装で、ですけどね。

 ・・・。

「それで、候補はどれですか?」

 ちょっととおいところを見つめてしまいましたが気を取り直し、私は桜井さんに聞いてみる。

「えっと・・・これと、これ。」

 と、差し出してきたのは、2つのシュシュ。ですが、色が違いますね。右手に乗せられているのは赤色に対し、左手に乗せられているのは青色、みたいですね。なるほど、シュシュを渡したいところだが、何色にすればいいか困っている、そんなあたりでしょう。

「それで、桜井さんはどっちを渡そうと思っているのですか?」

「えっと・・・これ?」

 と言い、右手を私に近づけてきた。どうやら桜井さん的には、風間さんには赤色のシュシュが似合うと思っているみたいですね。まぁ、そのことに関しては否定も肯定もしません。私には、風間さんが似合う色なんて分からないですし、私より桜井さんの方が、風間さんをよく理解しているはず。それを踏まえて決めたのでしょう。ですが、これを決めるためだけに協力してほしい、なんて言うのでしょうか。もっと別のことを求められているような、そんな気がします。

「であれば、それを風間さんに渡せばいいのでは?」

「ううん。これだけじゃあダメ。」

「?駄目、というのは?」

「これだけじゃあ毎年やっていることと同じなの。だから今年は、ちょっと違ったことを追加でしてみたいの。」

「なるほど。」

 本命はそちらでしたか。プレゼントはどうやら赤色のシュシュに決めたところだが、それだけじゃあ誕生日プレゼントとして不足しているので何か付け加えたい、こんなところでしょう。さて、どうしましょうか?

「どう?何かある?」

「と、言われましても…。」

 急に話を振られても、アイデアなんて早々思いつくものではありません。ですが、早々に諦める、なんてことをするのはよくないでしょう。なので、少し考えるとしましょう。

 まず、桜井さんは誕生日プレゼントとして、赤色のシュシュを渡す。だが、桜井さんはそれ以外でも風間さんに何かしたいらしい。であれば、物に何か細工、というより綺麗にラッピングするのはどうでしょうか?まずは見た目を綺麗に華やかに、というものです。その他に機能性を重視して、他の機能を追加してみる、というのはどうでしょうか?この方法を実行するとして、まずはどんな機能を赤色のシュシュに付与するか。また、どのような手段を用いて、付与するか。それらを考えなくてはなりません。確か風間さんの誕生日はもう1週間切っていましたね。そんな短期間でそこまでの作業を完遂できるとは思えません。となると、赤色のシュシュに機能を1つ追加するのは無理そうです。

後は、それ以外の手段を用いて、風間さんの誕生日プレゼントとして加える、といったところでしょう。肝心の手段ですが、色々あると思います。例えば、赤色のシュシュと一緒に、日頃の感謝を綴った手紙を添える。一人で料理を作り、作った料理を風間さんにプレゼントする。おそろいのシュシュを買い、一緒に身に着ける。

 これぐらい、でしょうか。もっと深く考えれば無限に近いアイデアが浮かびあがるでしょうが、今回はこのくらいでいいでしょう。とりあえず、今考えたことを桜井さんに伝えてみた。

「・・・へぇ。」

 何か、とっても他人の事情を聞いているような、そんな感じが桜井さんから感じました。もしかして、案を出し過ぎてしまったのでしょうか。であれば、いくつかに絞って話した方がいいかもしれません。では、今まで出した案をまとめ、絞ってみますか。

 ・・・。

 よし。この2つにしましょう。

「先ほどはお喋りがすぎたようですみません。私からは2つの案を出させていただきます。」

「2つ?」

「はい。1つはプレゼントにデコレーションすることです。2つ目は桜井さんと風間さん二人のお揃いにすることです。」

「デコレーションにお揃い…。」

 桜井さんは何やら悩んでいるご様子。やはり、最初に言った案の数々は頭に入ってこなかったみたいです。やはり案は2,3個に絞るべきでしたね。それ以上求められたら随時出していく、という形式にすべきだったですね。今度からはそうしましょう。

「・・・うん、決めた。」

 私が少し考え事をしている間に桜井さんが何かを決めたらしい。何か、というのはおそらくプレゼントの件に間違いないです。

「それで、どうしますか?」

「私も同じ物を買ってお揃いにする!」

 そう桜井さんは言い切った。よかった。これで頼み事は終わりましたね。後はここを立ち去るだけです。

「それはよかったです。これで私は失礼します。」

 私は軽く会釈をし、背を向けた。

「あ。」

 向けた瞬間、そんな間の抜けた声が聞こえた。声の主は向き直すまでもなく判明した。だが、何故その人が声を出したのか、その理由までは不明です。

「?どうしました?」

 頼まれごとは既に終わったはずです。ここで出会ったことも偶然ですし、要件も済ませたはず。それなのに何故あのような声を?もしかして、まだ私に何か用があったとか、でしょうか?

「他に要件がありますか?」

 考えていても分からないので、正直に聞いてみた。

「えっと・・・。」

 何故か、濁りきった返事をされてしまった。要件がなければないときっぱり言えるはず。それをしないということは…もしかしてまだ私に何か用事が?

「私に何か要件があったのですか?」

「・・・私、洋子と誕生日が同じ、なんだよね。」

「?そうですか。おめでとうございます。」

 私がそういうと、体を一瞬だけ震わせ、

「そ、そうなんだよね。私誕生日だから、ちょっとだけ我儘言ってもいいかな?」

「いいんじゃないでしょうか?」

 私の時も、数多くの先輩方に祝ってもらいました。その中でも異をてらっていたのは菊池先輩でした。こんなことだけではなく、あんなことまで…。と、少し思い出に浸ってしまいました。

「じゃ、じゃあさ、」

 そう言うと、桜井さんは私を指さし、

「さ、早乙女君からた、誕生日プレゼントが欲しいな、なんて。」

 と、口早に言った。

 ・・・。

「別にいいですよ?」

 まぁ、誕生日はめでたい出来事ですし、祝うことぐらいは構いません。それに、祝ってもらう人が多い方が嬉しいですからね。私の実体験に基づいた意見、ですけどね。

「え?」

 私が了承の意見を出すと、桜井さんは驚愕の顔をこの大型商業施設内で晒していた。何故そんなに驚いているのでしょうか。そんなに驚くことなのでしょうか。

「い、いい、の?」

 何故そんなに動揺しているのでしょうか。私、誕生日を祝わないほど無慈悲なンインゲンにでも見られていたのでしょうか。そういえば、同学年の人にそこまで笑顔を見せた覚えがないような、あるような・・・?こ、今度から笑顔でい続けるよう努力しましょう。

「はい。」

 私はできるだけ笑顔、のつもりで返事をする。口角は上げたつもりですが、笑顔に見えたのでしょうか。ちょっと心配です。

「そ、それじゃあ、楽しみにしていい、かな?」

「まぁ、一般的な物しかあげられませんが、それでよければ。」

 と、念押ししておく。できるだけハードルは下げておきたいですからね。あ、後聞いておきたいことがありましたね。

「桜井さんや風間さんはアレルギーとかありますか?」

「あ、アレルギー?」

「そうですね・・・。そのアレルギーのものを食べると、最悪死に至るので注意が必要なんですよ。」

「し、死ぃ!?」

 あれ?もしかしてアレルギーのこと、把握していないのでしょうか。いえ、それは違いますね。きっと、私が発した、“死”という言葉に過剰に反応したのでしょう。

「最悪の場合、ですけどね。それで、アレルギーはありますか?」

 一般的に聞くのは、蕎麦や卵、牛乳がありますね。自分の知識が全てではないので何とも言えないのですが。

「・・・ない、はず。少なくとも、お父さんやお母さんからはそんな話、一度も聞いたことがないよ。」

「そうですか。ありがとうございます。」

 そうであれば、アレルギーのことを気にせず料理ができます。そういえば、桜井さんには色々と料理を作り、食べていましたね。アレルギーのことを聞くのは今更って感じですね。

「あ、あの。誕生日プレゼントって、食べ物なの?」

「?ええ。それが何か?」

 もしかして、私の料理が気に入らないとか?であれば、高級なお店で何か商品を買い、綺麗に梱包して贈ってもらいましょう。それであれば文句は言われないはず。はず、ですよね?大丈夫、ですよね?

「ううん!早乙女君の誕生日プレゼント、楽しみにしているから!」

 そういって、桜井さんは私に笑顔を向けた後、

「じゃあね!」

 桜井さんは駆け足で行ってしまった。施設内を駆けって移動するなんて大丈夫でしょうか。よそ様と衝突、なんてことにならなければいいのですが。

「…さて、私も帰りますか。」

 少し、帰る時間が遅くなってしまいましたが、問題ありません。この日のために今日という日を丸々一日空けたわけですから。

(まずは家に帰り、マイバッグを持って商店街に行きましょう。そして必要な食材を買い、それから・・・。)

 私は今後の動きをシミュレートしながら社員寮に戻った。食材を買い、4分の1日近くかけ、クリスマス料理の大半が出来上がった。ローストチキンはまだ下準備にてこずっているが、まぁ問題ないだろう。それ以外は試作品を完成させることに成功した。ちょうど夕飯時だったので、誰に試食を頼もうかと考えていたところ、お酒を片手に程よく酔っている工藤先輩がきたので、工藤先輩にお願いした。正直、工藤先輩は酔っているので、人選をミスしてしまったのではとちょっと心配になりましたが、かなりアドバイスをもらえた。だが、全般的に“美味しい”という言葉をいただいたので、ちょっと嬉しくなってしまった。これを機に助長することなく、兜の緒を締め直し、クリスマス料理の仕上げにかかろうと思った。

「?今回は試作、なんだろう?なんで2つも作っているんだ?」

「これはちょっと別件で、」

「ふぅん。」

 そんな会話を交わしつつ、私は言われたことをメモし、改善策を考えつつ、汚れた食器等を洗った。

 さて、クリスマス料理を楽しみにしている方々のためにしっかりと向上させませんとね。私は今回作った料理と書かれたメモを見つつ、レシピを記し始める。そういえば、メールの件を確認していませんでしたね。確認をしなければ、と。おや?この方は?それに、この用は一体・・・?

次回予告

『誕生日が同じな小学生達の誕生日贈答品授受生活』

 11月14日。それは、桜井綾と風間洋子の誕生日である。同学年の子はその2人に誕生日プレゼントを贈る。その中には小さな会社員も含まれていた。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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