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それぞれの合唱会生活~大人達の合唱後~

(お、お、終わったー。)

 2曲目を弾き終えた最初の気持ちは、多大な達成感でした。ですが、その余韻に浸かっている余裕はありません。

(後は、と。)

 私は指揮者のお辞儀に続いて頭を下げ、後はもう流れに乗っかり、退場するだけです。

(この壇上から降りるまでが仕事です。きちんとやり終えなくては!)

 私は最後の力を振り絞り、感情を顔に出さず、壇上から去った。

 壇上から完全に降り、ほっと息をつこうとすると、

「花ちゃん!」

 毛利さんがかけってこちらに寄ってきた。確かに今の毛利さんなら足を怪我していないはずでしたので、走ることは可能だと思いますが、こんな場で走るのはどうなのでしょうか。マナー違反ではないのでしょうか。それに、周りに対する配慮も不足気味なのでは?そんな考えをしている途中で、毛利さんは私の背に片腕を回し、毛利さん自身の方へ引き寄せた。

(ちょっときつい、です…。)

 菊池先輩もそうでしたが、毛利さんも喜びを表現する時、抱き着いて自身の喜びを露わにするのでしょうか。それ以外の方法でお願いしたいです。

「あ、あの…。」

 そろそろ息が…。や、やばいです。

「あ!?ご、ごめんね!」

 毛利さんは私の体調の変化に気付いたのか、すぐに私を放してくれた。ふぅー。これでやっと正常に息が吸えます。

「それにしても花ちゃん、本当に凄いよ!まさか2曲とも無事に成功させるなんて!」

「は、はい。ありがとうございま…、」

 !?やばい!!??

「危ない!?」

 すると、毛利さんが私の体を支えてくれました。他の方々、特に先輩方が心配そうに見ています。

「…ありがとうございます。」

 申し訳なさで気持ちがいっぱいです。

「「「・・・。」」」」

 周囲の男性の目が若干強張った気がしますが、そんなことはあまり気になりませんでした。というより、気にすることが出来ませんでした。

(め、目が回ります…。体も少し、さむい…。)

 これはおそらく、自身の予測ですが、風邪の症状に近いです。そういえばここのところ、平日は仕事、夜はピアノの練習と、ほとんど寝ていませんでしたからね。夜間、ずっと毛利さんの演奏を幾重にも聞き、何度もイメージトレーニングを行ったのですが、そのツケがこの場で出てくるとは思いませんでした。出来れば、私が家に帰るまで頑張りたかったのですが、自身の体が先に悲鳴をあげてしまいました。この調子では、大人になれるのか怪しいところです。

「この子、もしかして熱があるんじゃない?」

 すると、合唱団に所属している女性の一人が声を発する。

「!?それってほんと!?」

 毛利さんはその人に顔を寄せる。やばい、視界がそろそろ…。

「私、子持ちだからなんとなく分かるの。あくまでなんとなく、だけどね。」

「それじゃあ今すぐ寝させないと!」

 そういえば、もう私の演奏は菊池先輩、工藤先輩に聞かせることが出来たんでしたよね。であれば、これ以上起きている必要性は無いですね。そう考えてしまった私は、即座に自身を久々の休息へと誘導した。

「私が運んであげないと!」

「待って!毛利さんは今怪我しているでしょう?」

「だから何!?それでも私が…、」

「だから、私が背負うわ。この子には色々助けてもらったもの。」

 今この場にいる人達のことを考えずに。

 そして、

「「「・・・。」」」

 多くの男性陣の怒りを買っていたことに。


「…ちゃん。」

 何でしょう?かすれていますが、何か聞こえてきます。

「…なちゃん。」

 少しずつはっきりとしてきますね。ですが、まだ目を開けたくないです。わがままかもしれませんが、もう少しこのまま目を閉じ、この安らぎを…、

「花ちゃん!」

「はっ!?」

 い、いけない!?

 ・・・あれ?

「私は一体…?」

 確か・・・。あれ?思い出せません。変ですね。もう一度、

「良かった!」

「うわ!?も、毛利さん!?」

 何故毛利さんがここに!?ここは私の部屋のはずで…。あ、思い出しました。そういえば私、演奏したんでしたっけ?その後の記憶が曖昧なわけですから、その後に記憶を無くした、ということですか。となると、ここは自宅ではなく、あの会場のどこか、ということになりますね。それにしても私、いつの間に横になったのでしょうか?私に覚えがないとなると…は!?まさか、毛利さんが?

「す、すいません!こんな私をわざわざここまで運んでくださり、申し訳ありません!」

 まったく!最後の最後で人に迷惑をかけるなんて、私はなんて子供なのでしょう!

「い、いいのよ!それに今の花ちゃんは絶対安静よ!」

 と、体を起こした私に、再び横になるよう言われてしまい、私はそのまま横になった。

「す、すいません…。」

「謝らなくていいわ。それよりこっちこそごめんね。あなたの体調も気にすることが出来なくて。」

「いえ。これは自身の怠慢が原因ですので、気にしないでください。」

 本来なら、家に帰ってからすぐに寝ることで今までの不足分を補おうとしていたのですが、その考え自体が甘かったようです。

「…それじゃあ、少し飲み物を買ってくるから、ここで待っていてね。」

「私も行くわ。今の優君にピッタリな飲み物をチョイスしないと!」

「それじゃあ俺が花の事を見ているわ。」

 そんなことを言った後、毛利さんと菊池先輩はすぐに部屋を退出した。

 他の方々は…いない、みたいですね。もしかして、病人であろう私に気を遣い、毛利さん達と私の4人だけにさせた、ということなのでしょう。今は私と工藤先輩の2人なのですが。いずれにしても、

(私、また大人に気を遣わせてしまいました…。)

 あんなことで倒れるなんて。倒れるだけならまだよかったかもしれませんが、それにより、不特定多数の大人達に迷惑をかけてしまうなんて!

(これでは、毛利さん代理として失格です!)

 せっかく、後もう少しで気持ちよく終えることができましたのに。これではみなさんに気を遣わせてしまいます。本当に私、何をやっているのでしょう。この調子で本当に大人になる事が出来るのでしょうか?後十年足らずで大人になってしまうというのに。

「・・・ち。」

 扉が開いた瞬間、てっきり毛利さんが戻ってきたのかと思ったのですが、別の人が入ってきました。この人は確か、今回一緒にイベントをしてくれた方ですね。そういえば、この方にも気を遣わせてしまいましたね。ですので、目の前で舌打ちをされても仕方のないことなのでしょう。私は横になっていた体を縦に直し、

「あの、本日は心配をかけて申し訳ありませんでした。」

 私は頭を下げる。私が頭を下げた程度でこの方の苛立ちが収まるとは思いませんが、何もしないよりはましなはずです。

「本当だよ。お前みたいなガキのせいでいい雰囲気が台無しになっちまったじゃねぇか。」

 と、男性の方は私に言葉を浴びせてきます。確かに、演奏はミスせずに出来た、と思いますが、その後に倒れてしまっては雰囲気を悪くしてしまいますよね。そんなこと、何度も経験していますし、言われなくとも重々理解しているつもりです。その上で倒れているので、説得力も皆無ですけど。

「…すいません。」

 そんなことを考えつつ、私は男性の言葉に耳を傾けつつ、謝罪の言葉を述べる。こういう時、下手に言い訳しないほうがいい、そういう暗黙の鉄則が存在していること、私は知っていますからね。後で菊池先輩に…いえ。この愚痴は自身の墓場まで持っていくことにしましょう。でなければ、菊池先輩が気持ちよく帰られないですからね。

「ったく。大体よー。おめーみたいなガキは…、」

 こうして、男性の方による説教が始まると思った。

「おい。さっきから聞いていれば、それはあんまりじゃねぇのか?」

 話の途中に工藤先輩が入ってきたのだ。

「そもそも、てめーらみたいな初心者を、どうしてあの毛利さんが推薦したのかほんっと、理解に苦しむんだよ。今回の演奏だって・・・、」

 まるで誰かさんの長話みたいに、延々と話、愚痴を言われ続けた。その愚痴に対し、工藤先輩は言い返していましたが、それでも愚痴がとまることはありませんでした。そもそも私にとって今回のイベントは、あくまで菊池先輩と工藤先輩に少しでも恩を返したくてやったことです。こういった音楽業界で仕事をするのであればともかく、私の将来はあの会社で働き、社員の皆様に恩を返すことです。ですから、今回のイベントの反省点を言われましても困るんですよね。

 とはいえ、

(全てを聞き流すわけにはいかないですよね。)

 毛利さんや、それまで手伝ってくれた女性の方々とは異なる視点で色々ためになる話をしてくれるのでは?そんな期待を密かにしつつ、私は頭を下げ続けました。工藤先輩がところどころ、

「お前は一切悪くないんだから、頭を下げなくてもいいんだぞ?」

 と言ってくれましたが、おそらく工藤先輩より今愚痴を放っている方の方が音楽に詳しいでしょう。であれば、工藤先輩が悪くないと思っていても、プロ目線から言えばどこか悪かったのかもしれません。

「・・・大体、お前みたいな何も出来ないガキなんか、世間に必要とされていないんだよ!」

 とはいえ、だんだん、私に対するあたりがきつくなってきました。

「お前みたいな無能は、精々俺様みたいなエリートの踏み台になるべきなんだよ!」

「おい!子供相手に無能とか言っているんじゃねぇよ!」

 ・・・なんだか、頭がまたクラクラしてきました。そういえば私、疲労で倒れたんでしたっけ?まだ完全に疲労が…、

「そういえば1月前、強姦未遂の事件が起きたよな?」

 …これはもしかしなくとも、私に聞いているん、ですよね?なら答えるのが正解でしょう。

「はい。」

「お前が被害者ならよかったのにな。」

(!?)

「!?てめぇ・・・!!」

 瞬間、私の頭部に液体状の何かが付着したのを感じました。もしかして、この人の唾液、でしょうか?こんな対応していては、会社の営業なんて務まりません。いえ、私が子供だからこういう対応をしているのかもしれません。それに、

(私があの事件の被害者だったら、ですか。)

 あの事件は本当なら防げたものです。私が善意で行動を起こしていれば、被害も、被害に遭われた方もいなくなっていたはずです。私があの情報を善意としてではなく、交渉材料の一つとして利用しました。その時の私は、それが最適な行動だと判断していましたが、今では迷いが生じ、被害に遭われた方に罪悪感を覚えています。今日までできる限り思い出さないようにしていましたが、この方の発言により、思い出してしまいました。

(やはり、私の軽率な行動が、)

 私の思い込みが、行動が、感情が、一人の女性の心に傷をつけてしまいました。そういう意味であれば、確かに私が代わりに強姦されるべきだったのでしょう。私がもしあの時、もっと仁徳を備えていれば、あんな事件はきっと起きなかったはず。であれば、私みたいな害悪が全ての罪を受けるべきなのです。ほんと、最低な行動をしてしまったんですね。何度も考え、思いつめた結果があの事件なのですから、私に救いなんてありませんね。自分のしたことの大きさを考えれば、当然の報いです。

「お前みたいな貧相な体でも、マニアな奴には需要があるらしいからな。なんなら、」

「ねぇ?今の発言、ほんと?」

「「え??」」

 この声、もしかして…?

「お、お前は誰だよ!?」

「私?私は、」

 その発言直後、私に視線を送り、笑顔を見せてくれた。

(すいません。)

 私は申し訳なさで、胸がいっぱいになった。何せ、

「そこにいる花君の保護者よ。それよりさっきの言葉、絶対に許さないわ。」

 先輩方を喜ばせたくてしたことですのに、結局菊池先輩を不快にさせてしまったのですから。

「ねぇ!?さっきふざけたことを言っていたみたいだけど、本当なの!?」

 どうやら、菊地先輩だけでなく毛利さんも戻って来たらしい。毛利さんも不快にさせて申し訳ないです。

「あ?こいつがレイプされればよかったのになって言ったんだよ。」

 男性の方がそう言うと、

「「!!??」」

 菊池先輩と毛利さんの目が満月になる。そして、菊池先輩が男性に歩み始めようとしたとき、

「菊池。」

 菊池先輩の肩に、工藤先輩の手が乗っていた。

「…何?あんなことを言われて黙っていられるほど、私は甘く…、」

「今日はゆ、花の演奏を聴きに来ただけだろう?だから、頼む。」

「・・・。」

「言っておくが、毛利も矛を収めてくれ。今日はもう、たくさんだろう?」

 菊池先輩と毛利さんは工藤先輩を僅かに見た後、

「・・・そう、ね。」

「…昔からの友人のお願いだもの。これぐらいは、ね。」

 瞬間、菊池先輩周辺の空気が柔和になった。さすが工藤先輩です。

「でも、1回だけよ。」

「ああ。それ以上は言わせないつもりだ。俺も聞いていて心底気持ち悪いからな。」

 そう言った後、工藤先輩は男性の方を睨み付ける。

「あ?なんだお前?お前なんかに音楽の何が分かるんだよ!?」

 その睨みに男性は異を唱え、言葉を強める。

「俺はあくまで、花の演奏を聴きに来ただけだ。」

「ふん!あんな乱雑で子供じみた演奏なんか、子供の戯言にも劣るだろうが!あんな演奏で俺達に恥をかかせやがって!俺に慰謝料を払え!」

「…それじゃあ花君。行きましょう?」

「はい。」

 良かった。菊池先輩が冷静で、本気で相手にしなくて。これでもし本気で相手にしていたとしたらと思うと…ぞっとします。

「毛利。俺達はもう帰るわ。帰りは他の奴に送ってもらえな。」

「うん。私こそ、こんなことになっちゃってごめんね。」

「別に。お前が悪いわけじゃないから気にするな。」

 と、工藤先輩は毛利さんに声を明るくして言っているのですが、顔が若干ひきつっていますね。本心で笑えていないことがバレバレです。

 私は菊池先輩の言葉に従い、男性の方に背を向け、出入り口に向かって歩き出し始めた時、

「…あんな演奏するくらいなら、強姦魔に犯されろっての。」

「ちょお!?あなた、何言って…!?」

 先ほどの男性の方に、強烈な反論をしようと毛利さんが声を荒げた。ですが、

「き、菊池。分かっていると思うが…、」

「・・・。」

「?菊池、先輩?」

 私と先輩方は、もう帰ろうとしていた。

 あの発言を聞かなければ、このまま車に乗り、家に戻り、睡眠をとるはずであった。

 だが、

「…花君、ごめんね?もう私、無理。」

 私に向かって満面の笑顔で言われた。その笑顔はとても見ていて清純さを体現しているかのようなものでした。ですがその後、無表情を男性の方に見せ、

「…もう許さない。私の優君を…!!」

 両腕の血管が浮き出始めた。もうこれは…。私は無言で工藤先輩の方へ向ける。すると、工藤先輩も私の方を向いていたらしく、目が合った。

(ありゃあ無理だ。)

 目でこんなことを言っていたと思う。そういう諦めの感情が伝わってきました。確かに、工藤先輩の気持ちはよく分かります。何せ菊池先輩は良くも悪くも、私に依存?夢中?です。それが良い意味であればそれほど困らないのですが、今回は悪い意味のようです。

 ですが、

(私をそこまで想ってくれている点については、菊池先輩の愛を感じます。)

 こんな状況ですのに、菊池先輩の気持ちを実感できて嬉しく思ってしまいます。

「あ?誰だお前?」

「あんたこそ、あんな歌を公衆の面前で晒すなんて、プロとして恥ずかしくないの?」

「・・・あ?」

 こうして、菊池先輩と男性の方との言い合いが始まる。

 菊池先輩、どうか暴走しないようにお願いしますね。


「お前、もしかしなくとも、俺の歌のことを言っているのか?」

「ええ。本当は言うつもりなんて天変地異が起きても無かったけど、花君の演奏を理不尽に馬鹿にして頭にきたわ。」

「はっ。下手な奴に下手といって何が悪い?」

「下手な奴、ねぇ。具体的には何を指すの?」

「ああ?何でお前ごときに言わなくちゃならねぇんだよ?」

「つまりあなたは、花君を理不尽に罵り、その悦に浸っていたと。」

「…ち。仕方ねぇな。こいつはなぁ…、」

 そして、男性の方は、私の改善すべき点をつらつらと並べ始める。

「ふ~ん。」

 菊池先輩は上の空で、聞き流している感じであった。ま、私の改善点を言っているので、菊池先輩には関係ありませんよね。今後、ピアノを弾くかどうかは分かりかねますが、参考程度には聞いておくとしましょう。それにしても、それなりに出来たつもりでしたが、かなり改善点を言われてしまいましたね。よほど、私の演奏がひどかったのでしょう。

 それに対して菊池先輩の方は、私が酷評されるたびに、なんかイライラしているように見えます。私の気のせい、だと嬉しいですが…。

「・・・まぁ、本当は後二、三十個言いたいところだが、今回はこれくらいにしておいてやるよ。」

「・・・要約すると、花君は最初から最後までずっと、音はずれな演奏をし続け、合唱団の方々と調和どころか、歌を妨害し、今回の合唱を台無しにさせた。そういうこと?」

「だいぶ端折った気もするが、概ねそんなところだ。」

 と、男性の方は言い終えると、満足したような顔を菊池先輩の前で晒していた。菊池先輩はというと、

(・・・菊池先輩、あの方に手を出さなければいいですけど…。)

 話し相手の方が心配になるくらい。静かに、静かに怒っていた。この中で気づいているのは、私と工藤先輩ぐらいでしょうね。

「ちょっと!いくらなんでもそれは…!」

 毛利さんが横から口を挟もうとしましたが、

「毛利。」

 工藤先輩が止めてくれた。

「なんで止めるの!?ここはやっぱり、音楽の専門家である私の方が…!」

「普通はな。だが、花が関わった時のあいつは例外だ。だから、あいつに任せていればいいさ。それに、」

 工藤先輩は少し遠い目をして、

「二人もいると、オーバーキルになるからな。」

 若干棒読みで言ってきた。普段の菊池先輩の所業を知っているので、反論のしようがありません。今回だって、菊池先輩がやり過ぎないか、内心ハラハラなんですよね。男性の方は大丈夫でしょうか。菊池先輩がやり過ぎないといいですけど。

「…あなたの言い分は分かったわ。兆が一、あなたの意見が正しいと仮定しても、さきほどの発言は謝罪してくれる?」

「さっき?」

「忘れたの?花君が代わりに犯されればいいとか、性犯罪に遭えばいいとかよ。」

「…ああ。そんなことも言っていたな。」

「!?」

 工藤先輩。お願いですから、落ち着いてくださいね。工藤先輩まで怒り狂い始めたら、いよいよ収集がつかなくなってしまいます。

「それで、花君に謝罪してくれる?」

「はいはいすみませんでした。これでいいか?」

「…謝罪する気がないの?」

「あ?お前、耳が遠いのか?俺はきちんとこのガキに謝ってやったじゃねぇか。これ以上どうしろって言うんだ?」

「・・・。」

 と、男性の方は勝利を確信したかのような顔をしていた。おそらく、菊池先輩が何も言わず、ただ黙っていたからでしょう。

「…本当に、無いのね?」

「あ?だからさっきから謝っているだろう?耳が聞こえなくなったのか?」

 出来れば、双方何かしら妥協して和解してもらいたいのですが、叶わないそうですね。

「・・・そう。分かったわ。」

 菊池先輩はそう言うと、服のポケットから複数のUSBメモリーとタブレットを取り出し、いじりはじめた。・・・あ、もう男性の方の将来は菊池先輩にかかってしまいましたね。菊池先輩次第で、あの方は終わりです。

「まず、花君の伴奏についてだけど、」

 菊池先輩はUSBメモリーをタブレットに挿入し、ある音楽を流し始める。あれ?この音楽に聞き覚えが?というより、この音楽って、

(もしかして、さきほど私が弾いた曲では?)

 ですが、何か違和感を覚えます。

「は?」

「あら?あなたも気づいた?この歌はね、ある人から音声データとして、一時的に借りたの。」

 まったく。菊池先輩の行動はいつも破天荒で周囲の人間を困らせます。

「それで実際に聞いてみてどう?」

「・・・。」

 菊池先輩の問いに、何故か男性の方は黙秘していました。どうしてでしょう?

「…やはり、聞くに堪えない伴奏だな。やはり、こんなガキに代理を頼むこと自体が間違いだったんだ。」

「聞くに堪えないのは花君の演奏じゃなくて、あなたの歌そのものでしょう?」

(え?)

 そうだったのですか?確かに、自身の演奏に必死で、他の方々の歌声なんか気にもしていなかったです。今度からは周囲の人の歌声を聴くようにしましょう。

「全体的な良し悪しはこの際どうでもよいとして、あなたの歌は控えめに言って、音痴ね。」

「はぁ!?」

 男性の方は声を張り上げ、菊地先輩を威嚇するように吠える。

「俺が音痴だと!?そんな訳なぇだろ!?何せ俺には…、」

「絶対音感がある。そう言いたいのよね?」

「!?あ、ああ。」

(・・・え?)

 ぜったいおんかん?それは一体…?

「だから、一度聞いただけで歌を完璧に歌える。」

「ああ。それをてめぇは…、」

「はぁ。」

 菊池先輩は男性の方が話を遮り、大きなため息をつく。

「…何だよ?」

「あなた、小さい時は音痴だって言われてきたでしょう?」

「!?どうしてそれを…!?」

「?どういうことだ?」

 ここで工藤先輩が話に割り込んでくる。

「簡単な話よ。」

 菊池先輩は工藤先輩の方を一瞬向いた後、また向き直し、息を整える。

「父親が自分の子供をあやすため、嘘をついたのよ。」

「はぁ!?そんな訳ねぇだろ!?現に、」

「誰もそのことについて言及しないって?馬鹿じゃないの?そんなこと、普通の人は出来る訳ないじゃない。」

「なんだと!?」

「だってあなたのお父さん、この合唱団のスポンサーでしょう?誰も権力には逆らえなかったのよ。」

 え?そうだったのですか?というか菊池先輩、いつの間にそんなこと調べて…、

「そしてあなたは、自身が絶対音感を持っていると信じ込み、意味不明な指摘を周りにしまくり、結果、あなたの間違いを目立たなくするような合唱になってしまった。」

 菊池先輩はタブレットを見ながら呆れ顔になっていた。

「大体、てめぇに歌の何が分かる!?どうして音程の違いが聞いただけで分かる!?」

 男性の方は激昂し、菊地先輩を指差す。

「何でって、あなたが偽物で、私が本物だからよ。」

「何がだ!?」

「何がって、この流れで分からないの?」

 菊池先輩は煽るように、

「私、絶対音感持ちだから。」

 宣言した。

「「え??」」

 菊池先輩、ぜったいおんかん何ですか?そもそも私には、ぜったいおんかんが何なのか分からないので、凄いのか凄くないのかが判別できません。知識不足です。

「はぁ!?てめぇみたいな奴が持っている訳ねぇだろ!」

「なら証明しましょうか?近くにピアノがあるし、二人で絶対音感の所有について検証してみましょう?」

「・・・。」

 一方、男声の方は、ぜったいおんかん?を持っているかどうかの検証をしよう、という話から、一気に気持ちが沈んでいるように見えます。

「無理よね?だってあなた自身、既に気付いているんじゃないの?」

「…やめろ。」

「だから私が実際にあるかないか検証しようと言った時、不安になり、決断を渋った。」

「やめろ。」

「だけど今更になって絶対音感がありませんでした、なんて言えないから、そのまま言い続け、どんどん横暴になっていった。違う?」

「やめろって言ってんだろ!!」

 菊池先輩の口撃に、男声の方は声を荒げて遮断させた。

「止めるわけがないでしょう?あなたは私の命以上に大切な存在を理不尽に罵ったのよ。これだけじゃあ終わらせないわ。そしてあなたにはこれから、」

 そう言いながら、菊池先輩はタブレットを動かし、

『こいつがレイプされればよかったのになって言ったんだよ。』

「「「!!!???」」」

 さきほど男性の方が言っていた言葉が空気に晒された。おそらく、先ほどの言葉を録音していたのでしょう。

「あなた達、随分とドア近くで話していたものね。おかげで動画といっしょに確保出来たわ。」

「な、何をだよ。」

「証拠よ。あなたの暴言という確かなものを、ね。」

 そういうと、菊池先輩はタブレットを男性の方に渡そうとした。

「ほら、あなたが敬愛するお父様からのコールよ。」

「!?・・・。」

 男性の方は一瞬驚いた後、少し迷ってから、菊池先輩のタブレットを受け取る。それにしても、あの男性の方のお父様と電話を繋げるなんて、この短時間でどこまで調べ上げたのでしょうか。

「もしもし。」

 男性の方はというと、

「は?・・・え?う、嘘だろ!?お、親父!頼むよ、見捨てないでくれよ!頼むよ親父!親父!!」

 男性の方は菊池先輩を憎たらしく見た後、タブレットを上方に掲げる。あれはおそらく…。

「それ、壊してもいいけど、器物破損で警察呼ぶわよ?」

 菊池先輩の発言で、男性の方の動きが止まる。

「!どうしてくれるんだ!てめぇのせいで親父から絶縁を言われ、婚約も破談になったんだぞ!」

「当たり前じゃない?子供にあんなこと言える人が夫になるなんて、そんな不幸はないわ。それこそ、あなたのお父さんは正常な判断をされたんじゃない?」

「冗談じゃない!貴様がいなければ…!」

「それより、今後の心配をした方がいいんじゃない?」

「…何だと?」

「あなたのクズイ発言が今頃親を通し、親戚、近隣の知り合いに伝わっているんじゃないかしら?それに、この合唱団も首。働いた経験がろくにない三十路近い男を雇ってくれる職場があるといいわね。」

 こう発言した瞬間、男声の方の顔が青くなった。

「…おい。まさか、本当に…?」

「本当なら、どんなにクズイ発言をしても、あの時謝ってくれればある程度見逃すつもりだったけど、もう許さないって決めたから徹底的にやったわ。後はあなたが勝手に堕ちていくだけよ。」

「そ、そんな…。」

 ・・・。

「お、おい。頼むよ。何とかしてくれよ。」

「何とか?全部自分で蒔いた種でしょう?それに、合唱団の中にはある被害報告があったとか。」

「!?お、おい。まさか本当に…、」

「あなた、過去に女性に対して性的暴行を加えたから、うちの花君にもそういったことが言えたのね。もう何も言えないわ。」

「「「!!!???」」」

 この方はそこまで…。

「あら?間もなくあなたのお父様がこちらに来るらしいわよ。良かったじゃない♪」

「何がだよ!?」

「絶縁したのに、また会いに来てくれたんだもの。きっと、素敵なものをくれるわ。」

 菊池先輩は、声も目も笑わず、

「絶縁状、とかね。」

 そう言い残し、私を連れてその場を去った。


 あれから私達はというと、多くの人から謝罪を受けたらしい。らしい、というのも、会場から車に乗るまで、私の意識がほとんど朦朧としていたためだ。たかが2曲弾いただけでここまで体力を消費するとは思いませんでした。

 後から聞いたところによると、会場を出る前、私はあの合唱団の男性陣から謝罪をいただいたらしい。菊池先輩は、

「邪魔。どいて。」

 その二言だけ話し、男性陣をどかしたらしい。工藤先輩はその際、私が持ってきた荷物を持ってきてくれたらしい。女性陣の方々も、かなり謝罪をもらったらしく、

「ごめんね、力になれなくて。」

 この言葉だけが脳裏に覚えていた。誰が言ったのかまでは覚えていませんが、私は一言伝えたいです。

 そんなことありませんよ、と。

 その後、あの男性の方の親御さんも来たらしく、慰謝料を幾ばくかもらったらしい。その際、「いえ。私もついカッとなり、手順を踏み間違えてしまったので、お互い様です。」と、菊地先輩は分かるような分からない様な返事をかえしていたらしい。手順を踏み間違えたって、あそこまで周到に用意しておいて、どこで手順を踏み間違えたのでしょうか?それにしても、何日も寝ずに練習するのは後日に響きましたね。まさか発表が終了した直後にダウンしてしまうとは。今後、このようなことがないよう、体調管理も自分で完璧に出来るようにしなくてはなりません。

 そして、車の中。私はというと、どうやら熟睡していたらしいです。熟睡していたためか、私の記憶にまったく心当たりがありません。それで、車内ではどのような話をしていたのか聞いてみたところ、

「な・い・しょ♪」

 と、菊池先輩が答え、

「今週中には分かるさ。」

 と、工藤先輩もこれまた答えを濁されてしまいました。

 ???私にはよく分からないですが、悪いことが起きる、というわけではなさそうですので、ひとまずは安心です。

 こうして私は、車に乗られ、そのまま運ばれ、いつの間にか自室のベッドへと運ばれていました。私、いつの間に着替えたのでしょう?ですが、寝起きなためか、時計で時刻を確認すると、

(まだ4時、ですか。ならもう少し寝られます…。)

 意識が不安定なまま、体を一切動かさず、寝息を静かにたてた。


 時は少し遡る。

「「「・・・。」」」

 佐藤花改め、早乙女優達一行が、会場から社員寮へ向かっている頃。車内の空気は、行きの車内とは比べものにならないほど重くなっていた。

「それにしても毛利、なんでこっちに乗ったんだ?確か、あいつらと一緒に歌うのが最後だったんだろう?」

「うん。でも、もう別れの挨拶は済ませたから。それより、頼まれたから。」

「頼まれた?一体何をだ?」

「花ちゃん、ううん。優ちゃんへの謝罪。」

 そう。この車内には、運転している工藤と菊池、そしてもう一人、毛利がいた。少し前、工藤は毛利に、他の人に帰りを送ってもらえと言ったのだが、それを断って頼み込み、工藤が運転する車に乗らせてもらったのだ。

「・・・今更謝罪されたところで、優君の心の傷は、完全に癒えはしないのよ?それを分かって言っているの?」

「菊池!だからといって、毛利に当たることは無いだろう!?毛利は無関係どころか、あの時優を庇っていたじゃないか!?」

「・・・そう、だったわね。毛利さん、ごめんなさい。」

「別にいいのよ。元を辿れば、私が優ちゃんにお願いしたからこんなことになったんだから。」

 瞬間、空気が重たくなる。通夜、とまではいかないが、かなり重くなってしまった。それくらい、小さな伴奏者のことを想っていたのだ。例え、あの場にいる全員が敵になろうと、一切の躊躇なく人を堕とす。それほどの覚悟が、菊地にはあった。そして、覚悟の大きさは異なるが、工藤や毛利も優のために立ち上がったのだ。

「それにしても菊池。お前、絶対音感なんて持っていたのか?」

 ここで工藤は、すっかり重くなってしまった雰囲気を変えるため、話題を変える。

「ああ。それは私が確か…小中学生の時、ふとしたきっかけで分かったのよ。」

「へぇ。それはすごいな。俺なんか小中学生の時なんか、リコーダーが吹けず、音楽の授業が嫌いになりかけていたな。」

「てことは、菊池さんは楽器をやっていたの?」

「いいえ。私は特に何も?」

「そう、なんだ。」

「それを言うなら、優君も酷似しているものを有しているけどね。」

「「!!??」」」

 菊池の発言に、工藤と毛利は驚く。工藤なんか、驚きのあまり、ハンドル操作が乱れ、危うく事故になりかねたほどである。

「え?え??ええ!?だって優、楽器はもちろん、音楽のおの字も知らなかったじゃないか!?それがどうして…!?」

「そうなのよねぇ。でも、練習の時、覚えている?」

「練習の時?何かあったか?」

「はぁ。酒ばかり飲んで脳が委縮したのね。もう死期が近いのかもね。毛利さんなら分かるんじゃないかしら?」

「おい。何気に俺を殺すんじゃねぇよ!」

 工藤の突っ込みは、誰にも届かなかった。

「う~ん・・・。優ちゃん、私の演奏を1,2回、見て聞いただけでほぼ習得していたから、それといって…、」

 ここまで言いかけて、毛利は気付く。

「まさか…!?」

 毛利が言いたいことを理解したのか、菊地は無言で首を縦に振る。

「・・・おい。俺にも分かりやすく説明してくれないか?今のやり取りで何が分かったんだ?」

 この状況の中、工藤だけが分からないでいた。菊池は若干呆れつつも、説明を始める。

「いい?優君には知識の偏りがあるけど、初見の作業を一度見せただけである程度出来るようになったでしょう?」

「そうだ、な。もしかして…?」

「そう。それを今回、ピアノの練習にも応用していたのよ。」

「そいつぁ凄いな。プロから見て優は凄いと思うか?」

「う~ん・・・。プロ視点で言うと、なかなか出来ないことだと思う。優ちゃん、ただの真似だけじゃなくて、私の細かな癖?弾き方?も再現していたわ。ある程度なら聞くだけで弾けるけど、人によって異なる癖まで再現できるのは凄いと思う。」

「へぇ~。優、そこまで再現していたのか。相変わらず凄いな。」

「それでね。もちろん、優君のやる気や能力もあるんだけど、その能力の一つにあると思うの。」

「つまり、優にも絶対音感があると?」

「・・・多分、ね。」

「もしかして、相対音感かもしれない、なんて考えているの??」

「?相対…何それ?」

「相対音感。基準の音を聞きながらであれば、音を比べつつ音が分かる能力。そうね…、簡単に言うと、絶対音感の下位互換、といったところかしら?」

「なるほど。つまり優は、その相対音感を持っている、ということか?」

「多分。だけど優君、絶対音感にしろ相対音感にしろ、優君はある決定的な欠点があるのよ。」

「?どういうことだ?」

 菊池の発言により、工藤だけでなく、毛利も首をかしげる。

「確かに絶対音感は、聞いただけでその音が分かるわ。でも今の優君は、その音階を知らなかった。」

「「!!??」」

「そう。だから優君は、音がどれくらいずれているのか分かっていても、それを言葉にするのが難しかった、というより出来なかったはずよ。」

「なるほど。確かに絶対音感は、音階が分かる前提だからな。菊池の言い分も分かる。」

「でも、そんな能力が何故、優ちゃんにあるの?優ちゃん、音階が分からないんでしょう?」

「うん。だから、」

 菊池は一呼吸を置き、今も眠っている小さな伴奏者の髪を優しく撫でる。

「過去に音楽関連の何かをしていたんだと思う。」

 落ち着きつつ、少し怯えたような声で言った。

「過去に?それじゃあ優ちゃんは一体…?」

「毛利。家に着いたぞ。」

 どうやら工藤達はいつの間にか、毛利宅に着いていたらしい。

「…工藤君、ありがとう。」

 さすがにこの状況で聞けるわけにもいかず、渋々車を降りようとする。

「優ちゃんは寝ている?」

「ええ、熟睡中よ。」

 菊池は寝ている小さな伴奏者の髪を撫で続ける。

「なら、これだけ言わせて。」

 毛利は息を整え、

「今回は、私のお願いであんな目に遭わせてしまい、大変申し訳ありませんでした。」

 と、怪我している腕を気にせず、頭を深く、深く下げる。

「「・・・。」」

 工藤と菊池は、何も言わなかった。何せ、毛利の謝罪対象は、あくまで小さな伴奏者その人。だから、保護者とは言え、大人二人はただただ言葉を聞かせていた。

「…家の中まで荷物、持っていくよ。」

 工藤は川に流れる魚のようにスイスイと体を動かし、車内に積んである毛利の荷物を持つ。

「…ありがとう。」

 工藤の言葉を皮切りに毛利は頭を上げ、家の中に向かう。

 工藤が毛利の荷物を家屋に入れ、帰ろうとすると、

「待って。」

 毛利が工藤の足を止めた。

「何だ?」

 工藤は歩みを止め、毛利の方へ体を向ける。

「…これ、受け取って。」

 毛利は1枚の紙を工藤に差し出す。

「これは…名刺?」

「うん。そこに、私の電話番号が書いてあるの。工藤君もだけど、菊池さん、そして優ちゃんにも大きな恩が出来たからね。音楽関連で困った事があればいつでも相談してきてね。力を貸すから。」

 と、毛利は工藤に軽くお辞儀をした後、車内で小さな伴奏者のお守りをしている菊池にも軽く会釈をし、家の中に入った。

「さて、帰るか。」

 名刺を受け取った工藤は車に乗り、そのまま運転を再開する。

「ええ。」

 そして三人は、自身が住む社員寮へと向かった。

「ところで、」

「ん?何?今優君のいと麗しき髪を触っているので忙しいんだけど?」

「帰ってからどうする?俺は一応会社の様子を見てみるが、その状態の優を放っておくわけにもいかないし。どっちかが優の傍にいなくちゃならないだろう?」

「そんなの、私が優君の傍にいるに決まっているでしょう?あんたは仕事でも何でもしてきなさいよ。」

「…まぁそれでもいいけどさ。それなら夜は俺が見ることになるぞ?」

「は?何でよ?」

「もし仕事をしてほしいと要請があったが、俺とお前は仕事をしなければならなくなるぞ?もちろん、その要請がある可能性はほとんどないと思うが、万が一あるかもしれないからな。その仕事を俺が戻ってきた後にやる。そういうことになるんだが?」

「は?私、もう仕事は終わらせたわよ?」

「それは朝一のことだろう?もしかしたら午前中に、もしくは午後に緊急の仕事が舞い込んでいるかもしれないだろう?」

「…そうね。」

「だから、お前が取れる選択肢は2つ。1つは、俺が会社に連絡をするから、それまで優の面倒をお前が見ること。もう1つは、お前が会社に連絡し、それまでは俺が優の面倒を見る。どっちがいい?」

「後者よ!」

「了解。それじゃあ会社への連絡、頼んだぞ。」

 優の分まで仕事を頼んだ理由は、現在の優が、仕事が全う出来るほどの体調ではないと判断したためである。

「さ、緊急の仕事がないことを切に、切に願うわ。」

 菊池は席を外し、会社に電話を入れる。

「優。今日は本当、お疲れ様。」

 工藤は優に膝枕をし、優しく髪を撫で続けた。

次回予告

『小さな会社員達の会食満喫生活』

 合唱コンクールが終わり、優の頑張りに菊池と工藤はお礼をするため、金曜の仕事終わりにある場所へ連れていく。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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