それぞれの合唱会生活~大人達の合唱~
一曲目が終わり、
(凄い!優君凄い!!)
菊池は心をときめかせ、
(流石というか、尋常じゃねぇな。)
工藤は無言で首を上下に振る。どうやら、二人とも納得したらしく、
(後で優君にアイスを食べさせよう!今月の期間限定アイスは何味があったかしら?)
(今日ぐらい、優の自由にアイスを食わせてやるか。優は何味のアイスが好きだったかな?)
二人とも、小さな伴奏者を甘やかす気満々であった。それほどまでに、小さな伴奏者は、聞かせたい二人に満足いく演奏を届けることが出来た、と考えていいのだろう。現に、
「ねぇ?あの子、相当上手いけど何者?名前、一切聞いたことが無いんだけど?」
「だよね。確か名前は佐藤花、だっけ?」
「こんなに上手いなら幼少期から注目されていてもおかしくないよね?」
菊池と工藤以外の人達も、かつて見たことが無いその少女の伴奏に感銘を受け、素性を知っている者がいるか詮索しているほどである。
(とはいえ、優の奴、本当に大丈夫なのか?)
(優君ならきっと出来る!出来る、わよね?)
二人が気にしているのは、この催しの成功の有無ではない。小さな伴奏者の体調である。二人は、小さな伴奏者には今、多大な精神的負荷がかかっていると察し、もしかしたら倒れるかもと心配しているのだ。小さな伴奏者の事なら何でも知っている菊池ですら、心配してしまう程である。
そして、指揮者が指揮棒を上げる。
(いよいよ2曲目か。)
(優君、無理はしないでよ?)
二人は小さな会社員と同じステージに立ちながら、小さな会社員の事を考えながら、2曲目の合唱へと臨む。
2曲目が終わり、
(すげぇ。)
工藤と、
(すごい。やっぱり優君はすごい!!)
菊池双方は顔に虹がかかっていた。それほどまでに、二人が予想していた以上に満足いく演奏であった。二人の心配が杞憂へと終り、
「あの子、二曲目も上手かったわね。」
「だね。本当、あんな逸材、どこに埋まっていたのかしら?」
周りの反応も、小さな伴奏者への称賛が止まらない。
一方、少し離れた場所で、大人と比べると小さい人達がまとまって見ていた。それは、
「それにしても、プロの人達って本当に凄いよね。」
「そうね。それに比べると、私達の歌って本当に下手くそだったって思うわ。」
「でもしょうがないじゃん。私達、まだ小学生なんだから。」
「それもそうよね。」
その内の二人、桜井綾と風間洋子は先ほどの演奏を聞き、感銘を受けていた。
というのも、午前中に合唱を終えた小学生達は後学のため、こうしてプロの歌を聞いているのだ。そして、桜井と風間は、
「それにしてもあの伴奏者、他の大人達に比べて、だいぶ小さかったよね。」
「そうね。もしかしたら、私達より小さかったかも。」
とある小さな伴奏者のことについて注目していた。
「確か、二曲やることが大変だから、一曲毎に伴奏者を変えたと思うけど、さすがプロは違うね。」
「そうね。二曲弾いてもあの余裕そうな顔、さすがだわ。」
「・・・。」
そんな会話を続けていく内に、桜井はとある違和感を覚える。
「?どうしたの、綾?」
風間は、桜井の僅かな様子にすかさず反応し、様子を直接聞く。わずかな変化にも気付けるあたり、二人の信頼関係の強さの一端が垣間見えただろう。
「あの伴奏者、どこかで見たことあるような気がしてね、ちょっと考えていたんだけど…、」
「そうなの?私には見覚えなんてないわよ。」
「…だよね。そう、だよね。ごめん。私の気のせいみたい。」
「そう。」
こうして桜井は、さきほど見ていた小さな伴奏者になんとなく惹かれつつ、
「それじゃあみなさん、そろそろ帰る準備をしてくださいね。」
「「「はーい。」」」
担任から帰る準備をするよう言われ、帰る準備を始める。その間ずっと、
(あの伴奏者、どこかで見たような気がするんだけどなぁ…。)
あの小さな伴奏者が引っかかり、何度も思い出していた。
会場内から会場外へと移動した桜井達は、
「それじゃあこれから予定通り、みなさんにはこのバスに乗り、学校に戻りましょう。」
「「「はーい。」」」
担任の案内により、担任含めた生徒一同は全員バスに乗る。バスに乗った後、
「それにしても、プロの人達ってすごいよねー。」
「ねー。私達よりあんなに歌が上手いなんてねー。」
「あああいうの、声が澄んでいるって言うのかな?」
「分かる!」
一同、先ほどの歌に関する感想を述べ、話し合っていた。担任の話なんか、右から左へと受け流している人もそれなりに混在している。
「それではみなさん。今日のプロの演奏を聞いての感想を原稿用紙1枚以内にまとめて提出してください。」
「「「・・・。」」」
「分かりましたね?」
「「「…はーい。」」」
担任の二度目の発言でようやく反応したくらいである。こうして、小学六年生達の、最後の合唱コンクールが終わり、いよいよ、
(そろそろ卒業式の練習だ。頑張らくっちゃ!)
卒業式の練習が開始されようとしていた。
次回予告
『それぞれの合唱会生活~大人達の合唱後~』
合唱コンクール当日。大人達の合唱が終了し、早乙女優達は控え室に戻る。合唱は成功したかに見えたが、早乙女優に理不尽が襲い掛かる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




