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男の新人社員から小さな会社員への悪口生活

 とある五月の中旬。

 新人研修も無事に終わり、徐々に新人さんにも仕事を回し始める先輩方。

 本来、働いた年月だけで言うのであれば、私の方が上なのだが、私が通勤している会社は年功序列制度ではないので、年下の上司、年上の部下、なんて形態もある。

 ま、私はこの会社に貢献出来ればそれでいいと思っている。

 こんな職場はそうはないだろうし。

 だが、

「ち。何であんなガキが職場にいるんだよ。」

「ほんとだよな。あのガキ、消えてくんねぇかな?」

 今年の新人さんは私に対するあたりがひどい。

 毎年、少し経てばみんな仲良くなっていくのだが、今年はそうじゃなかった。

 

 今年入ってきた新人は三人で、私、菊池先輩、工藤先輩は同じ課に所属している。

 そして、その課に、

「あ、あの!今日から配属されることになりました、桐谷杏奈(きりたにあんな)です。よろしくお願いいたします!」

 女性の新人さんが配属されたのである。

 同じ課の者は、

「「「よろしく!!!」」」

 と、挨拶した。

 でも、

「それじゃあ…優君?あなたが彼女の指導係になってくれないか?」

「ええ!??僕が、ですか!??」

「優君、く・せ♪出ているわよ?」

「あ。」

 まさか、私が指導係になるなんて…。

「主任!いくらなんでも私では…!」

「早乙女優君。君にしか頼れる人がいないのだよ。」

「と、言われましても…。」

「…優君が所属している課の中でも、優君が一番適していると、僕は思っているよ。」

「そんなことないと思いますけど…。」

 私も、他人に仕事を教えられるほど己惚れるつもりはない。

「…それじゃあ聞くが、君の課の者で、優君以上に適した人材はいるかね?」

「た、橘先輩とか…。」

「ああ。あの常に寡黙で、目つきのせいでなかなか馴染めず、室内でサングラスをかけている橘君ね。その橘君にまたやらせろと?」

「…それじゃあ、工藤先輩とか菊池先輩とか…?」

「工藤君は今、仕事でそれなりに立て込んでいるし、菊池君は…言わなくても分かるだろ?」

「そ、そうですね…。」

 菊池先輩は、私以外に興味ないのか、仕事が終わればすぐに私のところに来て、頭を撫でてくる。

 仕事もきちんとこなす立派なキャリアウーマンなのに、他の人とは最低限の話しかしないのだ。

 私は、会社で菊池先輩が他の女性社員と世間話している姿なんか見たことないし。

 でも、孤立しているわけではない。

 時折、

「菊池せんぱ~い。助けてくださ~い。」

 後輩からのSOSに応えるくらいは仲がいいと思う。

 

 そんなわけで、消去法で私が指導することになったわけだが、

「えっと、今日からあなたの指導係となりました、早乙女優です。今後、よろしくお願いします。」

 そう言って、私はお辞儀をする。

「…。」

 女性の新人さん、桐谷先輩は驚いていた。

 まさか、こんな小さい子が自分の指導係になるとは思わないよね。

 ちなみに、私は一応、大人の人への敬意を払い、全員の敬称を『先輩』で統一している。

 そっちの方が世間体的にもいいしね。

 ま、今更世間体を気にしてもしょうがないのですけど。

「えっと…。本当にあなたが、私の指導係、なのですか?」

「はい。私があなたの指導係です。」

 私は見栄を張る。

 一応、先輩らしく振舞おうかとも考えたが、身長差を考えても無理なので、相手の目を見て答える。

 そして、

「今日から、よろしくお願いいたしますね、桐谷先輩?」

 手をだし、握手を促す。

「はい!早乙女先輩!」

 桐谷先輩も私の意図に気付いたのか、私と握手を交わしてくれる。

「あ。私のこと、先輩なんて敬称はいりませんよ?」

「え?それじゃあなんて呼べば…?」

「普通に名前で呼ばれていますけど…。」

「それじゃあ、優さん、でいいですか?」

「…いいですけど、優さんって呼ぶことに抵抗とか感じませんか?」

「べ、別に私は構いませんよ!」

 そうなのかな?

 でも、本人がそう言ってくれているし、その言葉に甘えようかな。

「それでは、まず私は何をすれば…?」

「そうですね。まずは…。」

 こうして私は、新人社員、桐谷杏奈先輩の指導を行った。


 結果として、この一月でメキメキとキャリアアップし、

「それじゃあ桐谷君。この企画を進めてくれないか?」

「これをですか!?わ、私一人だけでは出来ませんよ!??」

「大丈夫。いざとなったら優君が助けてくれるから。」

「…分かりました。頑張ってやってみます。」

「頼むね。期待しているから。」

「はい!」

(主任はほんと、人をやる気にさせるのが上手だよな~。)

 私はそんなことを考えながら、主任と桐谷先輩とのやりとりを見ていた。

 あの主任みたいな、人を勇気づける?元気づける?みたいな大人にもなってみたい。

 今の私ではそんなこと出来ないからね。

 そんなこんなで、私の新人指導は続く。

 だが、このころから、男の新人社員から、妙な視線を感じるようになった。

 それはやがて、悪口へと変わり、いつしか、

「ち。何であんなガキが職場にいるんだよ。」

「ほんとだよな。あのガキ、消えてくんねぇかな?」

 こんな陰口を言われるようになっていた。

 しかもたちの悪いことに、みんなが聞こえないように言ってくるのだ。

 私も言い返したいところだが、言い返したところで意味がないことは目に見えている。

 そして何より、菊池先輩や工藤先輩に迷惑をかけたくなかった。

 だから私は、

「…。」

 何も言い返さず、無視をすることにした。

 そうすれば、

「ち。このガキ、つまんねぇ野郎だ。」

「早く出て行けよ。気持わりぃ。」

 と、小言を言われる。

 これでいい。

 私が我慢すれば、全て済むことだ。

 そう思い、私は我慢し続けていた。

 

 だが、この時、ある人は聞き逃さなかった。

 たまたま優に聞きたいことがあったために、優を探していたところ、新人社会人が優へ悪口を言っている場面を見てしまったのだ。

 そして、

(…一体、どうなって…!??)

 その者は困惑する。

 そして、

(これは優のこと、よく見ていないとな!)

 こうして、その者、(たちばな)寛人(ひろと)が動き出す。

 

 平日の場合、私は学校が終わってから会社に向かうので、いつも夕方あたりになる。

 そして、会社に着き、

「お疲れ様です。」

「「「お疲れさま。」」」

 と、返してくれるのだが、

「「ち。」」

 新人社員の二名は私の出勤を快く思っていないのか、いきなり舌打ちをしてくる始末。

(…ここはいつも通り、我慢しなくちゃ。)

 と、私は思い、堪える。

「優く~ん。仕事で疲れた私の心を癒して~」

「うわ!?き、菊池先輩!??」

 びっくりした!

 もう、急に抱き着いてこないでほしい。

「もうやることもほとんど終わったし、後は優君と遊ぶだけよ。」

「…遊ぶ暇があるなら、俺達の仕事の手伝いでもしてくれねぇか?」

「あいたたた。急に、『優君と遊ばないと死んじゃう病』が発症してしまったわ。これはもう、優君と…。」

「遊んでいる暇なんかない!今から会議だ!さっさと用意しろ!」

「…ちぇ。優君、寂しくなると思うけど、元気でね。」

「おら!さっさと行くぞ!」

「まったく。そんなに急かさなくてもいいじゃない?」

「誰のせいだと思っていやがる!?」

「あははは。頑張って下さい。」

 私はそんな乾いた笑みを送る。

「優。お前の机に書類を置いといたから、それらの処理、頼めるか?」

「は、はい!分かりました!」

「…本来、新人指導させながら通常勤務させるなんて、今のお前じゃ辛いのではないか?学校も行っているし…。」

「い、いえ!そんな辛くありませんよ、工藤先輩!任せてください!」

「そうか。それじゃ、頑張ってくれよ?」

「はい!」

 こうして私は自分のデスクに座り、書類を片付け始める。

「はん!あんな奴がいっぱしに仕事なんて出来るのかね?」

「ガキはガキらしく遊んでいるっての。」

 そう捨て台詞を吐きながら、新人社員の男二人は去る。

 …さて、

(気持ちを切り替えていこう!)

 私は仕事に専念する。

 

「ふぅー。こんなものかな。」

「よ。お疲れ、優。」

「うわ!?く、工藤先輩!??」

「優くーーん!会いたかったわー!」

「菊池先輩まで!??」

 だから、急に後ろから抱き着くのはやめてほしいんですけど。

「ほら、飲み物の差し入れだ。」

「あ、ありがとうございます。」

 そう言って、私は缶コーヒーを開け、一口飲む。

 うん。やっぱ美味しい。

「…ところで、仕事の方は順調か?俺達も何か手伝おうか?」

「そうよ優君!困ったらいつでも頼ってね。」

「いえ。後もう少しで終わりますから大丈夫です。ありがとうございます。」

「そうか。それじゃあ俺達はまた出かけてくるが、引き続き頑張ってくれ。」

「はい!」

「それじゃ工藤。さっさと行った、行った。」

「…言っておくが、お前も一緒だぞ、菊池?」

「は?何でよ?仕事は全部終わらしたでしょ?」

「まだもう一件残っているんだよ。言わなかったか?」

「言っていなかったわ。よって私は行かなくていいのよ。」

「そんな屁理屈が通じると思っているのか!??いいから行くぞ!」

「えぇ~。優君、またね。いい子にしているのよ?」

「あははは。いってらっしゃい。」

 私はそんな二人を見送った。

「さて、」

 続きを始めようとしたところで、

「…優。何故、あのことを話さなかった?」

 近くにいた橘先輩から声をかけられる。

 突然の声掛けに、

「え?な、何のことです?」

 私はつい慌ててこんな返事をしてしまう。

「何って、お前、新人の男性社員から悪口言われているだろ。俺はたまたま聞いちまったから分かるんだよ。」

 そ、そうだったのか。

 もしかして、悪口を言われていたとき、偶然その場所に居合わせていたのか。

 でも、

「…大丈夫です。私一人が我慢すればいいことですから。さ、そんなことより、橘先輩も残りの仕事、頑張って終わらせちゃいましょう?」

 と、明るく返した。

 こうして、優と寛人は無言のまま、カタカタとキーボードを鳴らす。

 だが、

(だったら、なんでそんな辛そうな顔で仕事しているんだ!?)

 橘寛人はイライラしていた。

 まるで、過去の自分を見ているかのようだった。


 そして、その後の優を誹謗中傷する悪口は言われ続ける。

「いい加減死ねよ。」とか、「来るなよチビ。」等、毎日言われ続ける悪口。

 それに対し優は、

「…。」

 ただただ無言を貫き通していた。

 もちろん、何の反応も示さなかった。

 そして、それを面白く思わなかったのか、

「ち、反応が薄いチビが。行こうぜ。」

「そうだな。俺達もこいつと同類と思われたくないしな。」

 と、散々罵られる始末。

 それを、

(もう少し。もう少し耐えれば、きっとやめてくれるよね?)

 と、わずかな希望に縋っていた。

 優自身、この人達を悪い人だと思っていない。

 もしかしたら、私が会社にいるからこんな風に悪態つくような人になったのかもしれない。だから、私一人が我慢すれば、全て丸く収まるのだと思っていた。

 だから、

(これで我慢すれば、大人の一員なのかな?)

 と、少し現実逃避しながら考えていた。


 だが、どんどんエスカレートしていく新人社員の言動に、

(もう無理だ。これ以上、見て見ぬふりは出来ない!)

 橘は立ち上がる。

 優を、かつての自分を助けてくれた恩人を助けるために。

次回予告

 『目つきが鋭すぎる会社員のかつての生活』

室内でもサングラスをかけて業務を全うする橘寛人。

室内でサングラスしているわけは、小さな時から、自分の体のある一部がコンプレックスであったためである。そのコンプレックスは橘寛人という人格に大きく影響する。


こんな感じで次回予告してみましたが、どうでしょうか?

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