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それぞれの合唱会生活~各々の準備~

 優がもう一曲の練習を始めた頃、大人より一段と小さい集団が別の箇所で出来上がっており、

「それじゃあ声出しするわよ。」

「「「はーい。」」」

 声出しを始めていた。この集団は、午前中に発表する人達で、早いうちから喉の準備をし始めている。そして、

「あーあ。声出しなんて面倒くさいことしなくてよくね?」

 この岡本がクラスの雰囲気を乱していた。理由は、

「ちょっと岡本君!?練習に出なかったんだから、せめて当日の声出しくらいは参加してよ!」

「はー?俺ならこんな声出しなんかしなくたっても、いつでも声なんか出せるんだよ。」

 と言いつつ、岡本はこの場から立ち去ろうとする。

「お前らも行こーぜ。」

「「「おう。」」」

 岡本は他の男子小学生を引き連れ、その場から去ってしまった。

「あ~あ。まったくあいつらは…。まぁいいわ。あんなカンニング魔よりはましだろうし。」

 と、仕切っている女子はここにいない小さな小学生と岡本を比べつつ、ため息をつく。

「それじゃあ残っている人達だけで声出しするわよ。」

「「「はい。」」」

 こうして、少なくなった人数で声出しを始める。


 声出しを終え、

「それじゃあみなさん、そろそろ準備を始めて下さい。」

「「「はい。」」」

 担任が桜井達に声をかける。

「そろそろ本番だね。」

「そうだけど。そのセリフ、もう5回目じゃない?」

「えへへ、そうかなぁ?」

「そうよ。そんなにこの合唱コンクールを楽しみにしていたの?」

「うん!だって、小学生最後の合唱コンクールだもん!絶対に成功させたい!」

 このことは桜井や風間だけではない。神田や太田等、この場にいる小学生に言えることである。

「でも、出来れば全員で参加したかったなぁ。」

「全員ってもしかして…?」

「うん。出来れば早乙女君にも出て欲しかったなって。」

 と、桜井は儚げな顔を見せる。桜井の心境を理解した風間は、

「きっと、見ているわよ。」

「でも早乙女君、今日は学校を休んだって連絡が…、」

「でも、京都の修学旅行の時は来てくれたじゃない?」

「あ。」

「でしょう?例え一緒に歌えなくても、きっと近くで見守ってくれているわ。そんな気がしない?」

 と、風間は小悪魔めいた顔をし、空気を軽くする。

「…そうかも。」

 桜井はその風間の言葉に、少しずつ軽くなっていく。

「…うん。だって、早乙女君だもん!」

 こうして、桜井と風間は準備を進めていく。


「それにしても、男達は大丈夫か?」

 少し離れた場所でとある男子小学生、太田が今回の合唱コンクールに不安を覚えていた。理由は、

「岡本達、ろくに練習もしていなければ、声出しすらしていないのかよ。」

 太田は、女子に混じって合唱練習をしていた数少ない男子の一人である。だからこそ、歌の練習に関する重要性も知っているし、声出ししないと声がろくにでないことも実体験として把握している。

「それにあの委員長、早乙女がいないからって、早乙女と岡本を比べるか、普通?」

 太田は先ほど、声出しをする前に仕切っていた女子小学生に不満を垂れていた。太田は自身の事を正義の味方だと自称することは無いが、知り合いが悪く言われ、何も思わないほど、無情な人間ではなかった。

「早乙女のこと、何も知らないのにな。あいつ結構優しいし、京都のこと結構知っていたし、小さいし。」

 と、太田は早乙女の特徴を述べつつ、

(あ、自販機におしるこ売っているじゃん。一度でいいから飲んでみてぇ。)

 自販機のおしるこにある種の憧れを抱いていると、

「?何見ているの?」

「!?な、なんだ、神田かよ。ビックリさせんなよ。」

 ちなみに、何故太田が驚いたのかというと、単に不意をつかれただけではない。先ほど口を言っていた女子小学生と鉢合わせしてしまったんじゃないかと、最悪の遭遇を想定したからである。所謂、噂をすれば影、といったところだろう。

「太田君こそ、自販機の前に立って何しているの?」

「何でもねぇよ。ただちょっと、」

「ちょっと?」

「…早乙女のこと、考えていたんだよ。」

「早乙女君、か。」

 神田は自販機の横に位置しているソファに座る。

「家の親によると、早乙女君は大人に頼らな過ぎるらしいって。」

「頼らな過ぎる?どういう意味だ?」

 神田は、自身の親が何故そういう発言をしたのか、夏休みの自由研究のことを交えて話した。

「はぁ~。あいつ、俺らに隠れてそんなことしていたのかよ。」

「うん。家の親も驚いていたよ。短時間で片づけたのもそうだけど、誰にも言わず、そして気付かれずにやり遂げたことに違和感を覚えたっぽい。」

「あいつ、本当に色々謎だよな。」

「だよね。あんなに京都の事を知っているし、あんな凄いケーキを思いつくし、本当に凄いよね。」

「本当だよな。だけど、保健室の先生によると、ほとんど学校に行っていないんだよな。」

「一体どこで勉強しているんだろうね?」

「だな。」

 そんな会話をしつつ、太田は神田の隣に座る。

「そういえばさ。」

「ん?」

「クリスマスの件、手伝ってくれるって本当、だよね?」

「こんなことでいちいち嘘をつくほどひねくれているように見えるのか?」

 神田の言うクリスマスの件とは、クリスマスに、神田の店の手伝いをすることである。太田は一度、両親に相談し、

「あちらのご両親がこんな愚息でいいのならいつでも使ってくれて構わないわ、だってよ。」

 と、太田清志がじゃっかんイラつく発言をされたものの、神田にこの件を報告したのだ。報告した際、神田のご両親にも、ほんとうにこんな小学生でいいのか確認してくれないか、という確認をお願いした。後日の返事として、

「え!?あの時の大きい方の男の子が来てくれるの!?オッケーオッケー!むしろウェルカムよ!」

 と、神田の両親、特に母親が乗り気であった。きっと、信頼関係を構築しやすい人材が確保できた、という意味だけではなく、別の意味が含まれているのだろう。それを神田真紀達が知るのはもう少し先になるが、それはまた別の話で。

「それにしても、本当に俺でいいのか?俺、働いた経験なんてまったく無いんだけど?」

 きっと太田だけでなく、ほとんどの小学生が勤務体験をしたことがないだろう。

「うん!実家で一緒に働いてくれる同学年の子がいてくれるだけでもかなり心強いよ!」

 神田は太田に身を乗り出しつつ力説する

(ち、ちか!?)

 太田は、神田の力説に後退しつつ、

「そ、そういうものなのか?」

 と、反撃を繰り出す形で質問する。

「うん!」

 太田の質問に、神田は笑顔で答える。

「だから、クリスマスの時はよろしくね!」

 神田は笑顔で太田言葉を渡す。

「だな。まずはこの合唱コンクールを無事に終わらせないとな。」

「だね。時間もそろそろだし、戻ろうよ?」

「おう。」

 長らく座っていたためか、立ち上がるのに少し時間がかかったものの、二人は、みんながいる場所に向かう。

「あ、真紀ちゃん!」

「…あら?太田君も一緒だったの?」

「うん!ちょっとクリスマスのことを話していたの。ね?」

「ああ。」

 集合した4人は、クリスマスのことで盛り上がった。


 一方。同時刻の職場では、

「桐谷君。あの書類の進捗状況は?」

「既に出来ています。後はチェックだけです。」

「分かった。それじゃあ私が代わりに書類をチェックするから、その書類を私に渡して。」

「あ、はい。どうぞ。」

「ありがと。それで橘。あの件で先方とのコンタクトは取れた?」

「いえ、まだです。」

「それじゃあ午前中にコンタクトを取っておいてね。後は先方との商談は…任せてもいいか?」

「…分かりました。」

「今日は工藤君、菊地君、早乙女君がいないからね。3人だけで今日はきついが、頑張って乗り越えるぞ。」

「「はい。」」

 その職場では、とある会社員達が仕事に奮闘していた。その様を見て、他の社員達は、

「「「・・・。」」」

 驚きのあまり、仕事なんて身に入らないほどである。

「それにしても優さん達、今頃あちらで頑張っているのですかね。」

 桐谷が橘に話を振る。

「ああ。」

 橘は短い返事だけ行い、仕事中の手を緩めない。桐谷は、そんな橘の仕事風景を見習い、口だけを動かすのではなく、手も動かしていく。

「優さんの演奏姿もですけど、先輩方の歌声も聞いてみたいですよね?」

 桐谷の問いに、

「そうだな。」

 橘は淡々と答える。こんなやりとりを続けながらも、桐谷、橘、課長の3人はいつも以上に仕事をこなしていく。

 そんな大人達が苦闘している中、

「・・・。」

(優ちゃん、ファイト!)

 佐藤花こと早乙女優が、新たな曲を弾けるようになるため、毛利蓮華とともに特別練習をしていた。

次回予告

『それぞれの合唱会生活~小学生達の合唱~』

 合唱コンクール当日。いよいよ桜井綾達小学生達がこれまで練習し続けてきた成果を発揮する。その後の午後から、プロによる合唱が始まる。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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