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小学生達の予定計画生活

宝鳥小学校でも、合唱コンクールの練習はスパートをかけており、練習を終えるたびに、質の上昇が感じ取れた。もちろん、優が所属しているクラスも同様に練習を行っているのだが、

「相変わらず剛輝は練習には来ないのな。」

「だねぇ。岡本君、本当に本番だけしかやらないつもりなのかな?」

「だろうな。」

 太田清志と神田真紀は話していた。

「ところで、俺に何の用だ?」

 というのも、きっかけは、神田が太田に用があると言い、このような場が設けられたのだ。

「えっとね…、一カ月後にさ、クリスマスあるよね?」

「そうだな。その前に合唱コンクールがあるけど。それで?」

「うん。毎年クリスマスは忙しくて、猫の手も借りたいくらいなんだ。」

「ふ~ん。」

 と、太田は他人事のように頷く。

「それでさ、もしよかったらなんだけど…、」

 と、神田は言い辛そうにし、声を詰まらせる。

「?どうした?お腹でも痛いのか?」

「えっと…、クリスマスの時、手伝ってくれないかな?」

「・・・は?」

 太田は想定外の質問に驚き、硬直していた。

「…え?俺が?」

「…うん。」

 神田は控えめに肯定する。

「なんで俺なんだ?俺より早乙女の方がいいんじゃないか?」

「私は早乙女君より太田君の方がいいかな、と思って声をかけたの。」

「へ~。」

 太田は微妙に納得していなかった。太田は少ない時間とはいえ、優の料理姿を見ている。だからこそ、優が神田のケーキ屋を手伝った方がいいと考えたのだ。

「でさ、どうかな?」

「…あ?ああ、そうだな…、」

 太田は来月の予定を思い出す。

「…特に決まっていなかったな。」

「それじゃあ…!?」

「一応親にも聞いてみるわ。一応、毎年クリスマスケーキをみんなで食べているからな。」

「あ。そういえば、手伝ってくれたら、クリスマスケーキを一個、無料でくれるらしいよ。」

「え!?いいのか!?」

 太田はクリスマスケーキに食いつく。普通の小学生のお小遣いでは、何千円もするクリスマスケーキは、勢いで買えるようなものではない。それこそ、親に要相談ものである。

「細かいことは聞いていみないと分からないけど、バイト代?お給料?お礼?らしいよ。」

「ほぉ~。ずいぶんと太っ腹だな。」

「そうなの?」

「俺からすれば、ケーキなんて高級品だからな。それで、手伝いは具体的に何をすればいいんだ?」

「もしかして、やってくれるの?」

「いや、ただの興味本位だ。それに、親に説明する時、どういうことをするのか説明できていた方がいいかな、と思っただけだ。」

「そ、そうだね…。」

(手伝ってくれること確定じゃないのね…。)

 神田は内心がっかりしつつもお手伝いの内容を言う。

「と言っても、基本は品出しとレジだよ。大人なら大抵の人が経験しているってお父さんが言っていたから親なら理解あると思うよ?」

「レジって、スーパーやコンビニの会計の機械、だよな?」

「うん。といっても、私は基本的にレジにいるから、そのサポートをしてくれればいいと思う。一応簡単に使い方の説明はするよ。」

「おう。その時は頼むな。」

「それで、クリスマスは大丈夫、かな?」

「…ま、一応聞いてみるよ。」

「太田君、ありがと♪」

 神田は太田に笑顔を見せた後、この場を後にした。

(それにしても、何で俺、なんだろうな?)

 太田は今回の話に疑問が浮かんでいた。それは何故男である俺を誘ったのか、ということである。同性ならともかく、異性である自身を誘う理由が分からないのだ。そんな疑問を抱いていたのだが、

(これを機に、女子の部屋に入れるかも♪)

 と、疑問と同時に浮かれもした。やはり年頃の男子。異性の部屋に少なからず憧れを抱いているのだ。異性の部屋は自身の母親しか入った事が無い故、楽しみなのだ。

(あ、そういえば夏休みに一度入ったんだっけ?)

 太田は、夏休みの時の出来事を思い出そうとするが、

(…やべぇ。ケーキしか思い出せない。)

 異性の部屋より、ケーキのインパクトの方が勝っていた。所詮、色気より食い気だったのだろう。そして、

「・・・なぁ?清志のやつ、どうしたんだ?」

「さぁ?一人で悩んでいるみたいだが、何かあったんじゃないのか?」

 太田の友人が太田の悩む姿を目撃し、心配になっていた。


「うぅ…。やっぱり太田君、ちょっと困っていたな…。」

 一方、少し離れた場所で神田は頬を赤らめていた。

「いくら人手が必要だからって、何も太田君じゃなくてもいいのに…。」


 実は、神田が太田を誘ったのは偶然ではなく意図的であった。事の発端は毎年悩まされるクリスマス時の人手不足なのだが、今年に限り、

「今年も忙しくなりそうだから、同学年の誰かを手伝いとして誘って来てくれないか?」

 と、父親に言われてしまったのである。最初は断っていたのだが、

「その時期はバイトの募集をかけても集まらないんだ!頼む!!」

 と、父親に懇願されたのだ。その上、

「出来れば、夏休みに来ていた4人の内の誰かに来て欲しいな。」

 と、父親から無茶ぶりを要求される。

「無理じゃない?綾ちゃんや洋子ちゃん、太田君や早乙女君にだって用事があると思うし…、」

 もちろん、最初は断ろうとしたのだが、

「お手伝い呼んでくれたら、服を1着買うぞ?」

「・・・とりあえず、聞くだけ聞いてみるよ。」

 人への配慮より、物欲が勝った瞬間であった。だが実際、神田真紀にも服を買ってもらうという点以外の利点はある。

(やっぱ、一緒に働くなら見知った人の方がいいよね。)

 当日に、名前や住所等の情報しか知らない人より、気兼ねなく話せる人の方が話もしやすいし、何より職場環境も和やかになるだろう。そういった利点を見越しての発言であった。

(だけど、クリスマスに私達小学生が店のお手伝いをしてもいいのかな?)

 神田真紀であれば、家業の手伝いで~や、親から経営の勉強を教えてもらっていて~等のごまかしが効くだろう。だが、赤の他人、それも十五にも満たない小学生ならどのように説明すればいいか?そういう点で色々と不都合が生じるだろう。労働基準法の観点から言ってしまえば違法そのものだろう。そういった話をちらりと聞いていた神田真紀は疑問に思った。

(ま、父さんが言ったことだし、まずは…。)

 こうして、神田は同級生の4人に声をかける。

 最初は、早乙女に聞こうとした。しかし、

(そういえば早乙女君、いつも教室にいないんだよね。)

どこにいるのか少し考え、前、保健室に行っていたことを思い出し、先生に優の所在を確認したところ、

「早乙女君?早乙女君なら今日は学校に来ていないわよ?」

ということだったので、優は候補から外れる。

(そういえば早乙女君、結構学校を休んでいるみたいだし、クリスマスに来てもらうのは難しいのかも。)

次は桜井と風間の2人に聞いてみる。

「…ごめん。クリスマスは毎年欠かせない用事があるんだ。」

「私も用事があるの。だからごめん。」

 今度は来てもらえるかどうか聞けたのだが、2人とも用事があるらしく、誘いを断られてしまう。

「気にしないで。それより、綾ちゃん達の誕生日は再来週だよね?誕生日プレゼント、楽しみにしていてね?」

 神田はそう言い、二人の元から去った。

(後は太田君だけ、か。)

 正直、聞きたくはなかった。別に嫌悪感を抱いているからとか、生理的に無理だとか、マイナス方面の理由ではなかった。ただ、

(…なんか、太田君のことを考えると、変になるんだよね。)

 神田は太田と話すことにより、体に変化が生じる。その変化がどういったものなのかは本人にも分からない。だからこそ聞きたくないのだ。その不安定な何かを恐れていたから。

(ま、一応聞いてみよう。)

 というわけで、感情が乗らないまま聞いたのだ。

結果は了保留だったが、前向きに検討してくれそうだった。その返事を聞いた瞬間、神田は公衆の面前でタップダンスを踊りたくなるくらい気持ちが高揚し、

(!?いけない、いけない!まずはリラックスして…。)

 こうして、神田は落ち着くまで時間をかけ、

「さて、正式な返事が聞けるまではお父さん達には内緒にしておこうかな?」

 神田は止めていた歩みを再開させた。


 一方、

「そういえば私達の誕生日って、再来週だったね?」

「?そうだけど、毎年のことなのに忘れちゃったの?」

「ううん。でも、今年は違うと思う。」

「…もしかしなくとも、早乙女君からの誕生日プレゼント、期待しているの?」

「…うん。」

 桜井は若干、頬を赤らめる。桜井が言う私達とは、桜井綾本人の他に、桜井綾の目の前にいる風間洋子も含まれている。実はこの二人、親が大親友、というだけでなく、娘が同じ誕生日なのである。だからこそ、ここまで親も娘も仲良しなのだろう。現に毎年、誕生日だけでなく、クリスマスも桜井一家と風間一家双方が集まり、夕食を食べながら親交を深めているのである。

「でも早乙女君、私達の誕生日とか知っているのかな?」

「え?・・・ああ!!??」

 ここで桜井は、優に自身の誕生日を伝えていないことに気付く。

「洋子は自分の誕生日、伝えた?」

「ううん。」

「そうか。早乙女君、知っているのかな?」

「知らないと思うわよ?私達からも、早乙女君からも話振ってこなかったし。」

「そう、だったね。」

 ここで二人は改めて考える。自身がいかに、優のことを知ろうとしなかったこと。さりげなく聞いても、話を逸らされてしまったこと。実際、休日に何をしているのか聞いたところ、

「別に普通に過ごしていますよ。そんなことより…、」

 と、詳細をはぐらかされてしまっていたのだ。

「私達って、早乙女君のこと、何も知らないよね。」

「成績とか、普段の服装、というわけじゃないわよね?」

「うん…。」

「なら、今回の誕生日に聞いてみたらいいんじゃない?」

「え?」

 桜井は顔を上げ、風間の顔を見る。

「そうすれば、早乙女君のことも知ることができるんじゃないかしら?」

「…そうね。そうだね!私、誕生日の特権を使って聞いてみるよ!」

「それがいいと思うわ。なんなら、私も一緒に聞いてあげるわ。」

「いいの!?」

「私も気になることがあるから、構わないわ。」

「ほんと!?ありがとう、洋子!!」

 桜井は洋子に抱き着く。

「ちょっと!?そんなことしないでよ!?恥ずかしいじゃない!?」

「ダメ?」

「う。べ、別にいいけど…。」

「ありがとう!」

 さしもの風間洋子も、純粋な桜井綾に勝利することはできなかった。

 合唱コンクールの翌週に、桜井綾と風間洋子の誕生日がやってくる。二人は互いの誕生日プレゼントを静かに楽しみにしつつ、合唱コンクールを乗り越えようと、今日も練習に励んでいった。

次回予告

『それぞれの合唱会生活』

 ついに合唱コンクール当日。それぞれがそれぞれの足で、合唱コンクール会場へと向かい、歌う準備を始めていく。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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