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会社員達の万聖節前夜祭仮装生活

給料日のひと悶着が終わった月末。

 本来であれば、大半の社員が給料をもらえたことに一喜一憂しているなか、場違いに小さいメイド服姿の人物は一人、浮かない顔をしていた。そんな表情の子供に対し、慰めの言葉をかけようと、一人の成人男性が歩み寄る。

「…ま、なんか、ドンマイだな。」

 その成人男性はメイド服姿の人物にそう声をかけ、その場を後にする。

 そのメイド服姿は、いつも以上に奇異に目立っていた。


「はぁ~♪今年は私の願望が叶って本当に嬉しいわ~♪もう、眼福!!!」

「そう思うなら、さっさと仕事してくれないか?」

「え?仕事ならもう終わったわよ?だから残りの時間全てを使って、あのハロウィン仕様の優君を見るわ!」

「はぁ!?おま、まだ始業時刻から1時間経っていないんだぞ!?」

「ええ。それが何か?」

「はぁ。」

 そんな常軌を逸した仕事の速さに工藤は呆れ、

「「・・・。」」

 橘と桐谷は驚きつつも、心の中で納得していた。

“まぁ、この人なら出来るか。”

 と。そして、

「…あの。」

「ん?なぁに?」

 本人、優が菊池に聞く。

「これって、本当に付けなくてはならないのですか?」

「当たり前でしょう!?ハロウィンにハロウィンを楽しまないで、いつハロウィン優君を楽しめって言うの!?」

「だからと言って、この装いはおかしいのではないのかと思うのですが…。今までことしてこなかったわけですし…。」

 優には、いつものメイド服に付け加え、ある装飾品が付けられている。その装飾品の存在に、誰もが二度見をしてしまうほどである。場合によっては、

「おい。ここって仮装してOKの場所だったか?」

 と、席が近い人に聞いた人も出没するくらいである。

「何言っているの!?一部とは言え、私の要望が通ったわけなんだし、これはもう歓喜ものだわー!!」

 と、かなり喜んでいた。不安げなメイド服姿の優には、今も疑問が残っている。

「これって、本当に付けなくてはならないのですか?」

「ええ!」

 そして菊池は、

「優君のネコミミメイドはこの時期でしか見られない、超超素敵でレアモノですもの!!!」

 高らかに宣言した。


 事の発端は、菊池先輩が長年課長に提出してきた企画である。その企画を簡単にまとめると、

“優君に色々な衣装を着させて、私ハッピー、みんなハッピー!”

 というものである。もちろん、そんなものは却下である。却下だった、はずなのだが、事情が変わった。というより、課長が折れたのだと思う。もちろん、課長も上層部の方々に確認を取っているのだと思うが、そうまでさせた菊池先輩の執念は褒めるべき点なのでしょう。私個人としては、まったく喜ばしくないのですが。だが、課長もいくつかの条件を提示していた。



・ハロウィンとは言え、華美な衣装もとい、大幅な衣装の変更は認めない

・その代わり、華美でなければ、アクセサリーの装着を認める

・また、社内の一部をハロウィン仕様にすること



 簡単に言えば、以上の3つのことを言われたらしい。衣装については…いうまでもありませんね。いくらハロウィンとはいえ、仕事の妨げになるような華美な衣装を着ていては本末転倒になること確実です。二つ目は…課長、もしくは上層部の方々の妥協点、といったところでしょう。何年も似たような企画の詳細な説明を何度も聞きたくはないでしょう。その上の苦悩の決断、かもしれません。そうまでさせるなんて、菊池先輩はよほど厄介な人材なんでしょうね。このまま転職、なんて事態にならないといいのですが…。3つ目に関しては…どういう意味なのでしょう?・・・もしかして、簡易とは言え、仮装を目立たせないための処置、なのでしょうか?それとも、季節感を大切にしようという試み、なのでしょうか?後者の方が、意味合いが強そうです。

 まぁ、会社で決めた方針に大きく反対する気はありませんが、そのアクセサリーに、これを含むのはいいのでしょうか?

「これって、本当にアクセサリーと言えるのですか?」

 他の方々は、ハロウィンっぽいペンやネクタイ、ネクタイピン等を使っている。付けているとしても、胸のあたりに小さなかぼちゃのアクセサリーをつけている程度です。それなのに私だけ、

「何言っているの!?優君のアクセサリーはそれ以外にないし、それこそ最強よ!!!」

「これが、ですか?」

 先ほど菊池先輩が言っていたネコミミ?付きのカチューシャを外してみてみる。今日ばかりはいつものカチューシャではなく、このネコミミ?付きのカチューシャをつけている。菊池先輩のいうことを鵜呑みにするわけではありませんが、会社にこれを付けてきてよろしいのでしょうか?会社に来て言う言葉ではありませんが。

「…ま、会社がいいならそれでいいんじゃないか、うん。」

 …なんか、工藤先輩の返しが雑に感じるのは気のせいなのでしょうか。心なしか目の焦点が合っていないような…。

「…ま、ご愁傷様だな。今日を乗り切れば、きっといいことがある。」

 と、橘先輩は小声で話をしてくれた。一体何故小声で?誰かに聞かれたくなかったから?だとすれば一体誰に…?

「あ、あの!よく似合っていると思います!とっても可愛いです!」

 一方、桐谷先輩はウキウキし、

「でしょう!?あなたは分かってくれるのね!?」

「もちろんですよ!?まさか優さんがこんなにネコミミメイドが似合うなんて…!」

 目が眩しいくらいに輝いていました。何だか菊池先輩に似ているような気がしますが、気のせいですよね。そういえば、

「・・・。・・・。・・・?」

 周りの女性社員から視線を感じるような…?ですが、私が視線を左右に動かすと、サッと逸らしてしまいます。う~ん…。女性会社員からの視線は私の勘違いなのでしょうか?

「…とにかく、仕事を始めましょうか?」

 ま、いつまでもそんなあるかないか分からない視線のことより、今は仕事です。

「それじゃあ、今日の朝礼を始める。」

 …なんか、課長さんが私を凝視していたような気がしますが、それは気のせいでしょう。きっと、人の視線に敏感になっているからでしょう。

「はぁ~~~♪♪♪優君のネコミミメイド、素敵♪♪♪」

 みんな、菊池先輩の奇行には目をつけず、朝礼を行った。

 さ、今日も一日頑張りましょう!


 昼休み。仕事は順調に進み、今は全員お昼休憩をしている。

「はぁ~~~。やっと、やっと優君のネコミミをいじれるわ~♪」

 と、菊池先輩は、私が今身に着けているネコミミのアクセサリーをいじってくる。そんなにこのアクセサリーを触りたいのでしょうか?

「そんなに触りたいのであればどうぞ。」

 と、私はこのカチューシャを取り、菊池先輩に渡そうとするが、

「取っちゃ駄目よ!」

「!?」

 な、なんだ!?急に菊池先輩が大声を…!?

「今日はずっとつけておくの!いいわね!?」

「は、はぁ…。」

 何故そんなにも怒っているのでしょうか?

「それにしても、優のその姿、よく似合っているな。」

「ですね。」

「優さんですものね。」

 と、工藤先輩、橘先輩、桐谷先輩までも私のこの姿を褒めてくれた。この姿が似合わない人ってどんな人なのでしょう。

「!?そ、そうだわ優君!にゃん、よ!」

「・・・はい?」

 にゃん?今菊池先輩は今、にゃん、と言ったのでしょうか?

「えっと…、どういうことですか?」

「優君みたいな恰好の人なら、誰もが通る道よ。」

「はぁ。」

 菊池先輩の言っている意味がよく分からないのですが。

「確かに、猫耳獣人の可愛い子なら言われたい気もするが…、」

 工藤先輩は言いどもりつつ、橘先輩に視線を移す。

「そういう憧れはあり…ますね。」

 と、歯切れがよくない返事をしつつ、昼ご飯にかぶりついていた。

「まさかこの場で、私のやってもらいたいことの内の一つが叶うなんて…。」

 と、桐谷先輩はサンドイッチを手に持ちつつ、そんなことを言っていた。

「…そんなに言ってもらいたいのですか?」

 自分としてはよく分からないのですが。この場合ってやはり私が妥協するべきなのでしょうか。それとも、そんなにその言葉、にゃん、が聞きたいのでしょうか?でしたら、自分で勝手に言えばいいのに。

「うん!あ、後!手はこうよ、こう!」

 と、まるで私が言う前提で話が進んでいる。

「確かにそれは必須ですね。」

 その菊池先輩の行動に、桐谷先輩は賛同している。この二人、実はけっこう似ているのでしょうか…?

「あらあなた!?話が分かるじゃない!」

「菊地先輩こそ!」

 と、何故か二人は息ピッタリの双子の様。

「「・・・。」」

 一方で、工藤先輩と橘先輩は黙々とモグモグしている。

「じゃあ優君。いっちょ言ってみよう。」

「・・・え?」

 もしかして、私に振ったのですか?

「言うというのは、先ほどの…?」

「ええ!」

「一回!一回だけでいいですから見てみたいです!」

 菊池先輩だけでなく、桐谷先輩までも賛同し、懇願してくるとは…。

「あ!もちろん声だけじゃなくて、こう、ね?」

 と、何故か当然のように仕草まで追加でやるよう追及されてしまった。私、まだやるなんて言っていなかったのですが、やることが確定の様に言われましても困るのですが。少し困ってしまったので、工藤先輩や橘先輩に視線を送ると、

「ま、一回くらいならいいんじゃないか?減るもんじゃないし。」

「工藤先輩の言う通りだな。」

 どうやら、私が一回言えばこの二人が落ち着くようです。少し恥ずかしい気もしますが、

「「・・・。」」

 二人とも、凄い期待している目を向けてくるので、理由を言わずに拒否、というわけにはいかなそうです。理由を言おうにも、この二人を納得させられるような理由を思いつきませんし…。

「分かりました。」

 私は言う覚悟を決め、さきほど菊池先輩が行っていた行動を思い出す。

 そして、実行に移す。

「・・・ニャン?」

 こんな感じでよろしい、でしょうか?なんだか恥ずかしいことをしている気がしてきました。今後は言われてもしないようにしましょう。

「「「「「「ぶべらぁ!!!!!!??????」」」」」」

 私がそんな経験を積んでいると、今も持参しているお弁当を食べている先輩方は机に突っ伏した。

「?みなさん、どうか…!?」

 あ、あれ?全員が何だか下を向いて体を小刻みに震えさせています。様子を見る限り、先ほど見た先輩社員方と同じような反応をしている感じですね。私、もしかして何か失敗したのでしょうか。一応菊池先輩の真似をしたのですが…。やはり、所詮は猿の真似事。何かしら不具合が生じた、ということでしょうね。

「何か失敗したみたいですいません。」

「…ううん。優君は実に、実に最高で素敵な言葉だったわ。」

 と言いながら、菊池先輩は顔を上げる。

「!?き、菊池先輩!?」

 何故鼻から血を!?今すぐ止血しませんと!

「はい!まずはティッシュをどうぞ!」

「え?急にどうし…あ。私、鼻血出ていたのね。」

 え?もしかして、流血事に今更気付いたのですか!?とはいえ、そんな事実確認より止血が優先事項です。私は菊池先輩の鼻血を止め、

「ふぅー。」

 やっと止まりました。それにしても、何故菊池先輩は急に鼻血をだしたのでしょう?よく聞くのが、チョコレートの食べ過ぎで、とは聞きますが、ここ最近、菊池先輩がチョコレートを馬鹿食いしているところなんか見ていません。もちろん、菊池先輩が自室でしている、という可能性も考えてはいるものの、菊池先輩がそんなことをするとは思えません。となると一体…?

「ところでみなさんは何故下を向いているのですか?」

 まさか全員が全員、菊池先輩みたいに鼻血を出している訳じゃあるまいし…。何故でしょう?

「みんな、優君の魅力にときめいたのよ。」

 と、菊池先輩はよく分からないことを言ってきた。私の魅力というより、私が奇異なことをしたからでしょう。その奇異な行為に対し下を向いた、というところでしょう。それにしても、

「何故工藤先輩まで…?」

 恥ずかしながら、工藤先輩ならこういう私の恥ずかしいところを一杯見ているので、見慣れていると思ったのですが。

「…あれは正攻法でも耐えられねぇよ…。」

「工藤先輩の言っている事、よく分かります。」

「菊地先輩の気持ち、少し分かります。」

「・・・?」

 そんなに私の行為がおかしかったのでしょうか?…みなさんの反応を見ていると、なんだかおかしなことをした、という感覚に陥ってしまいます。これで言わない決意がより固まりましたね。

「とにかく、早くお弁当を食べないと、お昼休憩が終わってしまいますよ?」

 私がこんな状況にしたみたいで言い辛いですが、一応言っておきませんと。

「…おう。」

「…ああ。」

「は、はい…。」

 ゆっくりと顔を上げ、3人は残りの昼食を平らげる。

「あ~あ。優君のネコミミメイド姿はずっと見ていても飽きないわ~♪」

「おい。そろそろ仕事を再開するぞ。」

「え~?私、優君のネコミミをメンテするから無理。」

「そんなこと言うと、優のネコミミは廃止されるぞ。」

「えぇ!?それは嫌だから、それなりに頑張るわ!」

「はぁ~。それなりって…。」

 そして、私達の仕事は再開する。


 仕事を終え、

「今日の夕食は、カボチャのシチュー、カボチャコロッケですよ。」

 今年も今日はカボチャ尽くしな夕食となった。

「さて、今日はこれで終わりですね。」

 今月はこれで終わる。

 気温が低くなり、年末の忙しい時期が近くなる。そんな忙しさに耐えるよう、今年も入念に準備し、忙しい時期に備えなくてはならない。そんな11月が始まろうとしている。

次回予告

『会社員達の合唱練習生活』

 11月始め。優は合唱コンクールに向けて練習を始めていた。工藤と菊池も、ひょんなことから合唱に参加することになり、優の練習にも一層身が入る。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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