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小さな会社員から恩人二人への報告会生活

 午後。私は事前に知らせていた通りの時間に入り、仕事を始めた。もちろん、課長にも報告済みだ。橘先輩や桐谷先輩には、私情で遅れました、と伝えたので、これ以上の詮索はないでしょう。後は、

「「・・・。」」

 目線で何かを訴えている二人ですね。そういえば、二人に対しての説明を忘れていました。このまま忘れていてくれればよかったのですが、そんなわけにはいかないですよね。

「仕事が終わったら話しますので。」

 そう言うと、二人は仕事に集中してくれた。とりあえずは先延ばしに成功しましたが、話すことが辛いなぁ。

 そんなことを考えていたら、終業時間があっという間に終わってしまった。

「「お疲れ様でした。」」

 橘先輩、桐谷先輩が定時帰宅するなか、

「さて、残っている仕事を片付けないと…、」

 と、張り切っていると、二人が私の仕事を取っていった。

「これは俺がやる。」

「私はこれを。」

 意志ではなく報告を受けた気分だ。本来なら喜ぶところでしょうが、後に聞こえてしまった言葉で全てかき消されました。

「これが終わったら話し合いな。」

「楽しみにしているわね。」

 と、全然嬉しくない報告をされてしまいました。仕事をするモチベーションが…。

「ほい。終わったぞ。」

「こっちもよ。」

 二人は仕事を終わらせたかと思うと、次は私の帰宅準備をしてくれていました。ですが、目が終始笑っていませんでした。これは…確実に怒られますね。嫌だなー。怒られたくないなぁ。

「こちらも無事終わ…、」

 言い終える前にカバンを持たされ、

「「さ、帰ろうか??」」

 目が笑っていない笑顔を向けられ、私は大人しく、

「はい。」

 としかいうことが出来ませんでした。

 社員寮に着き、自室に入ろうとしたら、菊池先輩と工藤先輩も付いてきた。

「…あの。お部屋、間違っていませんか?」

 確か二人とも、部屋は隣ではありませんか?

「これから大事な、それはもう大事な話があるからな?」

「そうね。」

 …どうやら、忘れてくれる、なんて都合の良い考えは捨てた方がよさそうです。私は観念して二人を部屋に入れる。

「どうぞ。飲み物はいります?」

「そうだな。それじゃあ水を一杯。」

「私も。」

「分かりました。」

 これは…話が長引きそうな予感です。

「はい、どうぞ。」

「サンキュ。」

「ありがと。」

 と言い、少し口に含んだ後、

「それで、きちんと話、してくれるんだよな?」

「ちゃ~んと、話をしてね?」

 私は観念して、話を始めた。


 事のきっかけは、美和さん本人が口を滑らせ、ストーカー被害に遭っていることを聞いたこと。正義感のある人なら、そのストーカーから美和さんを守るために動いたんであろうが、私は違った。私は、自分一人でどこまで出来るかが知りたくて、引き受けた。ようするに、自身の能力がどこまで通用するか試したいばっかりに、美和さんのこの件を利用してしまったこと。結果としては大失敗。美和さんの両親に不快な思いをさせ、美和さんには危険なこともさせてしまった。本来なら、ストーカーしている本人の宅に伺うべきだっただろうが、理由を色々つけ、学校で話をしたこと。その際、校長先生や教頭先生に許可なく、会談時の音声や立ち振る舞いを録音、録画していた。つまり、盗聴盗撮を働いていたこと。そして何より、菊池先輩達をこんなにも心配させてしまったこと。

 こういったことをゆっくり、ゆっくりと自分の言葉にして話していた。話していると、本当に自分の無力さを感じてしまう。菊池先輩なら、もっとスマートで、完璧に出来たんじゃないのか。弁護士の下田さんに全部任せればよかったんじゃないのか。そんなことが頭によぎってしまう。きっと、菊池先輩に対する妬みだと思う。あんなに完璧に出来る菊池先輩と違い、自分はがむしゃらにやって、周りの人達を不快にさせてしまった。結局、自分のしたことが無駄だったんじゃないか。そんなことを口走っていたと思う。途中から自分は何を言っているんでしょうね。今回の件に関する報告だけするつもりでしたのに、自分の無力さをわざわざ二人に言うなんて…。いくら自分が無力とは言え、先輩方二人に愚痴をこぼすような真似をしていたのかもしれません。ほんと、私ってつくづく心が弱いですね。自分も子供で、未熟者です。

「優君!」

 え?何故急に菊池先輩が抱きついてきたのでしょう?

「優君は、自分が思った以上に頑張っていたわ!この私が保証するわ!!」

「お、俺もだぞ!現に、俺なら出来ないし。」

「え?私が、ですか?」

 そんなわけありません。だって、上手く出来なかったからこそ、美和さん両親があそこまで不快になったわけですし。

「…優君、覚えている?数年前、ストーカー被害に遭っていた子。」

「はい。確か、菊池先輩が相談に乗って、解決していましたよね。」

 私より上手に、完璧に。

「あの子、今どこにいるか覚えているわよね?」

「…北海道、でしたっけ?」

「そうよ。そして、今も精神科に通っているらしいの。」

「そう、なのですか?」

 私はそこまで知らないのですが。工藤先輩に目を向けると、頷いてくれた。どうやら本当らしい。

「それがどうかしたのですか?」

「優君はさっき、私は完璧に解決した、みたいなことを言っていたわよね?」

「そうですね。」

 私みたいに、被害者や被害者家族を不快にさせることなく完璧に解決出来ていた、と記憶しています。

「もし完璧に解決しているのであれば、その子が精神科に通う必要なんてない、と思わない?」

「そう、なのかもしれません。」

 確かに、そう考えると菊池先輩も完璧に解決できていなかったのかも。

「それに比べ、優君が担当した女の子、えっと…名前、何だっけ?」

「美和さんです。」

「そうそう。その美和って子は、精神科に通院していないから、精神面において、優君は完璧にこなしていたんじゃないかしら?」

「ですが、結局は不信感を与えてしまいました。」

 自分があんな危険な男に付きまとわれ、さらにそれを承知で危険な賭けをさせてしまったわけですし。私はさせた後で気づいたんですけどね。そんなこと、美和さん達から見れば関係ないことでしょうけど。

「お願い優君。そうまでして、自分の行いを否定しないで欲しいの。少なくとも、その美和って子にとって、優君は最善の策を取っていたと思うわ。」

「そう、でしょうか?」

 弁護士に任せるとか、ストーカーが住んでいるお宅に突撃するとか、最善の策が今更のように考えつきます。

「少なくとも、年上の人とあそこまで冷静に話せることは誇っていいと思うぞ?」

「工藤先輩…。」

「優君は本当に、本当に頑張っていたし、よくしていたわ。だから、誇っていいのよ。」

「誇る…。」

「そうだ。もっと自分の行いに誇りを、自信を持て、な?」

「…やはり、出来ません。」

 そこまで言ってくれたのは嬉しいですが、やはり無理です。

「…もしかして、途中でインターカムの電源を落としたことと関係ある?」

「!?」

 さ、さすが菊池先輩。鋭いです。

「そんなこと言えません!」

「つまり、俺らには言えない何かをしたってわけか。」

「!!??」

 う!?墓穴を掘ってしまいました。

「…。」

「なるほど。無言を貫く気ね。」

 ですが、これを言ってしまえば、お二人にドン引きされてしまいます。ですから、

「絶対に言う訳にはいきません。」

「…そんなに、なの?」

 あ、つい口にだしていました。

「…はい。これを言えば、お二人は私にドン引きされますよ?」

 正直、あのことは自分の心の内に秘めておかなければなりません。それほどまでに、危険なことなんです。

「いいよ。」

 私がそう断言したにも関わらず、工藤先輩は私から離れようとしなかった。

「な、何故、ですか?」

「確かに、それを聞いたら俺は驚くかもしれない。心境が変わるかもしれない。」

「でしたら尚の事…!」

「だからといって、お前が一人で抱え込む必要もないんだ。だから、」

 工藤先輩は私の頭に手を置く。

「話して、くれないか?」

 ・・・。ほんと、工藤先輩はずるいです。そう言われれば、断るわけにはいかないじゃないですか。

「私も同じよ。そんな辛いこと、優君一人に抱え込ませるわけにはいかないわ。だから、お願い。」

「・・・分かりました。ですが、聞いて後悔しないでくださいね。」

「ああ。」

「ええ。」

 私は、話さずに秘めておこうと思っていたこと、あの二人にしか話していないことを離し始める。

「…インターカムの電源を落とした後、私は校長先生と教頭先生に、あるお土産を渡しました。」

「「お土産?」」

「はい。」

「何を渡したんだ?」

「…赤黒いボイスレコーダーです。今は手元にありませんが。」

「赤黒いボイスレコーダー?何故そんな物を渡したくらいで秘密にしないといけないんだ?」

 工藤先輩が悩んでいると、菊池先輩が気付いたみたいだ。さすが、というべきでしょう。出来れば、察して欲しくなかったですが。

「そのボイスレコーダーには、どんな音声データが入っていたの?」

「は!?そうか!それが優の言っていた…!」

「秘密にしていたかった事、でしょうね。」

 そんなことを話した後、私に視線が向かれる。

「・・・ある宣言をされた音声データです。」

「どんな宣言なの?」

 私は、動かなくなってきた唇を動かし、秘密事項を伝える。

「・・・強姦予告です。」

 その私の発言に、

「「!!??」」

 二人は驚いていた。

「どういう、ことだ?」

 工藤先輩はうろたえつつ聞いてくる。

「…あのストーカーは、美和さんとは別の女性を強姦しようとしていたんです。そして、私が渡した音声データには、その強姦が行われる日にちや時間、場所の情報が入っていました。」

「「・・・。」」

 二人は黙って私の話を聞く。

「そのデータを、私は交渉材料に使いました。本来、真っ先に警察や弁護士に伝えるべきだったでしょうが、そんな考え、私には思いつきませんでした。」

 ほんと、自分で自分が嫌になります。

「私は、他の女性の貞操より、自身の交渉を優先させてしまいました。最低ですよね?」

 何でこんな判断が出来たのか、自分でも分かりません。ですが、今の私は無情な最低です。少なくとも、菊地先輩や工藤先輩とともにいる資格なんてありません。

「こんな最低な自分…、」

「ありがとう。」

「え?」

 ただでさえ今も抱きついている菊池先輩の締め付けが強くなる。

「辛いことを言ってくれて、話してくれてありがとう。もう大丈夫よ。」

「私なんかが…、」

「言わせない。」

 菊池先輩は私の目を見て、

「それ以上は言わせないわよ。」

 私は、菊池先輩の眼差しから目を放すことが出来ませんでした。

 そして、急に辛そうな顔をし、

「私には優君が必要なの。だから、どこにも行かないで。」

 菊池先輩は泣きそうな顔で再び抱きついてきた。

「優君は、私が優君と同じことをしたらどう思う?屑だと思って軽蔑する?」

「そんなの、もちろん…、」

 しません!と言おうとしたところで、

「うん。だから、私も優君のこと、見限ったり見捨てたりしないわ。」

「俺も同じだよ。優の性格を知っているからこそ、見捨てる、なんて真似はしない。」

 ほんとに、本当に、私には勿体ない人達です。

「ありがとう、ございます…。」

 駄目だ。二人の優しさに…、

「頑張ったわね、優君。」

「お疲れ様、だったな。」

 この言葉が聞けただけでも、頑張った甲斐がありました。美和さん家族にも言われた記憶はありますが、やましいことを隠していたので、本心では喜びを感じていなかったのかもしれません。ですが、このお二人に労いの言葉をもらっただけで、自分の頑張りが評価された、と実感できます。ほんと、私って単純です。

「う、すみません。」

 思わず、菊池先輩の抱擁に便乗してしまいました。その便乗に気付いても、菊池先輩は文句一つ言わず、

「いいのよ。優君こそお疲れ。よく頑張りました♪」

 しばらく時間が過ぎ、私は菊池先輩から離れ、

「今日はありがとうございました。色々と楽になれました。」

「構わないわ!いつでも私を呼ぶのよ!」

「俺も、優の助けになるようがんばっていくつもりだ。」

 この二人には、いつになったら恩を返しきれるんでしょうか。そ

「本当にありがとうございます。では今日はこれで…、」

「いや、まだ肝心のことが残っているぞ、なぁ?」

「ええ。とっても大事な用件がね。」

 …ん?何でしょう?先ほどとは異なる類の嫌な予感が…?

「はい、優君♪」

 菊池先輩は、後ろの紙袋から服を取り出す。

 トップスは、落ち着いた桃色で、シャツみたいにカジュアルな服だった。その上に着るであろう落ち着いた赤のカーディガンがあった。

 ボトムスは、茶色のスカートで、膝にかかっているくらいの長さであった。これらを見てみると、なんだか普通の私服、という感じがします。ですが、菊池先輩が着るにはサイズが小さすぎる気がしますし…。まさか、え?嘘です、よね?

「工藤先輩、まさか…!?」

「そう。」

「ええ!?それ、工藤先輩が着るんですか!!??」

 まさか、工藤先輩に女装趣味があっただなんて!!これはものすごい発見です!

「は?違うぞ?」

「え?だって工藤先輩、さきほどそうだって言ったじゃないですか。」

「いやいや!俺が着るわけないだろ!?そもそもサイズが合っていないし!」

「…言われてみれば。」

 元々、菊地先輩でもサイズが小さいと思えるような小ささです。そんな服を工藤先輩が切れる訳ないですよね。つい早とちりをしてしまいました。え?となると…、

「菊地先輩が着るんですか?」

 サイズ的に着られるのでしょうか?

「ううん♪」

「え?それじゃあ他に誰、が…?」

 言いながら気づいてしまった。まだ聞いていない人が一人いることに。ですが、そんなこと、あるわけないですよね?そんなこと…。

 だが、現実は非情であった。

「優君よ♪」

「優、お前だ。」

 …聞き間違い、ですかね。聞き間違いだと嬉しいなぁ。

「さ、まずは着替えてみて。いざとなったら私が…!」

「結構です!それより、何故私がこれを…!」

「「お仕置き。」」

「…もしかして、これがお仕置き、ですか?」

 菊池先輩が加担しているのに、なんだか今回は拍子抜け、な気がします。いつもはチャイナ服だったり水着だったりと、過激な服や、用途が不明な服を着せたがっていたのですが、今回は外に出ても恥ずかしくない様な服ですね。

 ま、どれもこれも全部女性服ですので、私は着たくないのですが。ですが、今回はお仕置き、ということですので、着ないと駄目でしょうね。着たくないですけど、着なきゃ、ですね。

 私は二人を部屋に追い出し、着替えた。いつも着せられている服より落ち着いたデザインなのか、それとも慣れなのかは分かりませんが、すんなりと着ることが出来ました。それにしても、やはりサイズはばっちり合っていますね。どうやって私のサイズを測ったのでしょうか?いえ、そもそもこの服が菊池先輩のお手製とは限りませんよね。となると、どこかに売っていた可能性が…、

「優君、入っていい?」

 おっと。つい考え事をしていて、二人を待たせてしまいました。

「どうぞ。」

 二人は私の姿を見るなり、二度三度驚いた。それほど驚くことでしょうか?…驚くことですね。男の私が女性服を着ることは驚くべきことのはずです。なんだか感覚が麻痺してきました。

「どうですか?おかしなところはないですか?」

 自分では何度も確認したものの、やはり客観的にも見てもらった方が確実でしょう。

「い、いや。おかしなところは特にない、はず。」

「鼻血ものよ!」

 相変わらず、菊池先輩の返しはよく分かりません。それにしても、これがお二人の言っていたお仕置き、ですか。なんか、裏がありそうで怖いんですよね。菊池先輩がこれだけで済ませるとは今までの経験上、無いと思うんです。

「それで、お仕置きはこれでお終いですか?」

 正直、早く脱いでいつものジャージを着たいのですが。

「ううん。」

「え?それじゃあいつ脱げばいいのですか?」

「そうだな…今月、できるだけ着ておくように。」

「…は?」

 え?今月ずっと?

「もちろん、寝る前とか、出勤とかは着替えてもいいが、部屋着はもちろん、休日はジャージではなく、それを着るように。」

「・・・。」

 つまり、今月の休日はずっと、これを着ていろと?平日も、ジャージの代わりにこれを着ろと?

「何ですかその罰ゲーム!!?」

「うん。だからそうしたんだ♪」

 と、工藤先輩は笑顔で言ってきた。もしかしなくても、菊地先輩も一枚噛んでいますよね?私が少し、憎しみを込めて視線を送ると、

「優君がまたしないように、ね♪」

「ね、じゃありませんよ!これじゃあ誤解されるじゃないですか!?」

 商店街の方々に何て言えば…!?

「あらいいじゃない?似合っているんだし。」

「そんな称賛もらっても嬉しくないですよ…。」

 とはいえ、決まった事ですし、きちんと守りますか。破れば何されるか分かったものではないですからね。

「じゃあ優。俺はもう部屋に戻るが、大丈夫か?」

「?大丈夫、ですけど?」

 工藤先輩は何を気にしているんでしょうか?

「なら私は今日、優君の部屋に…、」

「そんなことは俺がさせないからな!」

「そ、そんな!?」

 と、工藤先輩は菊池先輩を連れ出そうとした。

「あ。」

 し、しまった!?つい声が出てしまいました。ですが何故声が…?

「「??」」

 二人は止まった後、

「やっぱり、いた方がいいか。」

「は?」

 工藤先輩は何を言って、

「とはいえ、二人いてもな…、」

「ここはやっぱり、私がいるべきでしょう!」

「…いや、一応俺もいるか。」

「はぁ!?私と優君の愛の巣の邪魔をする気!?」

「俺はリビングで床に布団敷いて寝るよ。お前らの邪魔をするつもりは毛頭ないから安心しろ。」

「分かっているじゃない。一応言っておくけど、勝手に入ってきたら…、」

「はいはい。俺はお前に興味がないから大丈夫だ。」

「ちょ、ちょっと待って下さい!何勝手に話を進めているんですか!?」

 私は了承していないのに、勝手に話を進めるなんて…!

「俺はな、優を見捨てるつもりは無いんだ。だから、あんなに寂しそうな顔をした優をほっとくなんて、俺には出来ねぇよ。」

「俺は、じゃなくて俺達、だけどね。ちゃんと私も数に含みなさいよ、この酒魔人が。酒で溺死でもするといいわ。」

「誉め言葉として受け取っておくよ。さて、俺は着替えを持ってくるから一時的に部屋に戻るが、それくらいは大丈夫だよな?」

「ですから!二人が来なくても私は大丈夫ですって何度も…!」

 私の言葉を聞かず、二人は自身の部屋へと行った。

「ほんと、話を聞かない人達ですね。」

 まったく。本人が大丈夫だと言っているのに。それなのに、

「ありがとう、ございます…。」

 そんなことを小声で言いながら、私は部屋を簡単に掃除し始めた。

 その後、菊池先輩と工藤先輩が本当にお泊りに来てくれて、いつもとは違う楽しさを感じました。ちょくちょく菊池先輩と工藤先輩が言い合いになっていましたが、そんな光景を見て、楽しいと思えてしまいました。やっている本人達は楽しくなかったかもしれませんが、聞いている限りでは楽しめました。何気ない日常とはいえ、いつもと違った感覚でした。その感覚を体験する度、私はこう思います。

 ほんと、二人がいてくれてよかった、と。



 二日後の水曜日。

 宝千高校内では、とある高校男児が捕まっていた。それは、ある法を犯したからである。

 その法とは、強姦未遂。強姦に遭った女生徒は、親の介抱を受けていた。唯一救われたことは、未遂であったこと、であろうか。だが、学校はそんなわけにはいかない。精一杯の謝罪を行い、土下座も惜しげもなくした。すると、

「あなた方に、そんなことをしてほしくありません。」

 被害者の家族がそんなことを言ってくる。頭を上げた校長に、

「あなた方も、学校の名誉を汚された被害者ではありませんか?」

 そんな言葉をかけられていた。校長は一瞬、

(この女性は天使か!?)

 なんて思ってしまう事だろう。

「確かに、あんな屑が放置されていたことも問題ですが、私の娘を助けてくれたのもあなた方です。ですから、」

 女性は少し下がり、

「この度は、私の娘を助けていただきありがとうございました。」

 この一連をきっかけに、宝千高校は、二つの名誉を受けることとなった。

 1つは、性犯罪に巻き込まれた哀れな学校。

 1つは、巻き込まれたにも関わらず、柔軟な対応をしたこのご時世には珍しい学校。

 賛否両論はあったが、ある専門家が言った。

「確かに、性犯罪が行われてしまいましたが、あれほど柔軟対応をとった行動は評価すべきでしょう。」

 だが、そんな発言にも、否定的意見が飛ぶ。

「ですが、そんな場所で学びたいと、学ばせたいと保護者の方々は思うのでしょうか?」

 それでも、

「このご時世、どんなところにも不祥事が起きてしまうことがあります。事前に防ぐのが最善ですが、それでも最小の被害で済ませたことに、私は敬意を示します。私に子供がいたら、是非とも通わせ、そういった柔軟な対応を学ばせたいですね。」

 その発言を機に、宝千高校への入学希望者が激しく変動し始める。

 その柔軟な対応というのも、あるメイドからの情報によるものだったが、学校側はそのことを一切漏らさなかった。何故なら、あのメイド服の女性を恐れていたから。

 校長と教頭は、今日もあのメイド服の女性を考えながら仕事に励む。

次回予告

『小さな会社員の違法追跡者撃退方法後悔生活』

 美和のストーカーの件を終えた優は翌日、とある事件のニュースを見る。そのニュースの内容は、女子小学生の強姦未遂に関する事であった。優はそのことに関して思うところがあり、自身の心が蝕まれ始めていることに気付かないでいた。その時、一人の会社員が優に話を持ちかける。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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