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小さな会社員からある姉達への報告会生活

 タクシードライバーの方と何気ない会話をしていると、いつの間にか目的地に着いていたようだった。私は代金を払い、タクシードライバーの方にお礼を言う。

「それにしてもあの方、つい最近に父親を亡くしていたんですね。」

 まさか、初対面の方の家族事情を聞けるとは思いもしませんでした。しかも、亡くなったのは先月末。つまりはつい最近だ。それなのに今もこうして懸命にタクシーを運転しているなんて…。その上、私の表情を察し、辛い身の上話を私のためにしてくれるなんて、心が強い方です。本来、こういった言葉一つでまとめるのは失礼かもしれませんが、それでも凄いです。ああいった方も、この日本にはいるんですよね。当然といえば当然ですけど、改めて実感しました。今度、あの人の父親について聞いてみたいです。可能であれば話を聞きたいですが、今度はいつ会えるのでしょうか?次回が楽しみです。

さて、それに比べてほんと、美和さんは恵まれていますよね。両親は健在で、娘のために怒ってくれる素敵な…、

「て、私は何を…!?」

 まるで私が嫉妬している、みたいな…。いえ、自分は今でも嫉妬していますね。浅ましい限りです。気持ちを切り替えていきましょう。

 そして私は、ミーティングルームの扉を軽く叩く。

「どうぞ。」

 穏やかな声が返された。この声は…美和さん母、ですね。

「失礼します。」

 私が部屋に入ると、

「んー!むー!?むーーーー!!!???」

「…これは、何ですか?」

 思わず語尾が急上昇してしまった。何故かというと、

「ああ、これですか?あんまりにも騒ぐので、少し黙ってもらうためにも縛らせていただきました。気になさらないでください。」

 …え?これをきにしないでって、無理があると思うのですが?美和さんの方を向いていると、

「・・・。」

 ブルブル震えていた。きっと、こんな風に…怒っている?感情的になっている?美和さん母を始めてみたんでしょう。そうでなければ、あれほど美和さん母に怯える、なんてことはないですから。

「まったく。あれ以上騒ぐのであれば、次はもっときつく締めますよ?」

「む…。」

 美和さん父は、美和さん母の言葉を合図に黙り込んでいた。さきほどまで騒いでいた人と同一人物とは思えませんね。

「さて、これでゆっくり話ができますね。」

 と、穏やかな笑みを私に見せてきた。とはいえ、雀の涙ほどではあるが、恐怖を覚えた。気のせいであってほしいですね。

「分かりました。きちんと話します。」

 さて、これで終わりにしましょう。

「まずは、この件についての簡単な結末についてです。」

「「「・・・。」」」

 三人は黙って私を見続ける。…それにしても、美和さん父は縛られたままなんですね。ま、私が指摘することではないと思いますけど。

「学校側は今後、このようなストーカー行為に対し、全力で阻止すると誓ってくれました。これがその誓約書です。」

 私は美和さん母に2部、美和さん本人に1部渡す。

「?何故私に2部渡すの?」

「それは、片方がコピーで、もう片方が原本だからです。どちらも無くさないようにしてください。」

「え、ええ。」

「後、もしこの誓約書に違反する行為をしたりされたりしたら、訴えられる。もしくは訴える覚悟をしてください。」

「「「・・・。」」」

「あ、訴える時は正式な弁護士を挟んでください。もし伝手がないのであれば、この弁護士事務所を頼ってください。近場ですし、親身になって話を聞いてくれますよ?」

 私は名刺入れから名刺を取り出し、下田先輩の名刺を美和さん母に渡す。

「あ、ありがと…。」

 ちょっと怯え?恐怖?そんな感情を抱かれたような気がしますが、それくらいの覚悟はあります、よね?それとも、別の何かに怯えている、ということでしょうか…?

「一応、一週間以内には大丈夫にはなると思いますので、完全を期するのであれば、一週間は家にずっといるか、家族とともに外出するかして、美和さんから目を離さないようにしてください。」

「分かったわ。」

「・・・。」

 美和さん父も、声は出さなかったものの、全身で了承の意を示してくれた。だが、美和さん父は未だ、怒りの視線を私に向けていた。理由はおそらく、あれですね。

「後、ここでみなさんに貸していたインターカムを返してください。」

「あ、これね。はい。」

「ありがとうございます。」

 私はインターカムを受けとり、カバンにしまう。

「私からも一つ、いいかしら?」

「…どうぞ。」

 私は美和さん母に話を促す。美和さん母はその時、笑みはなかった。真顔で、

「あなたは、美和があんな屑に付きまとわれていると、最初から知っていたの?」

 やはり、その話でしたか。親であれば当然気になりますよね。何せ、いつ襲われていてもおかしくない様な、そんな危険人物に目をつけられた、なんて思いもしなかったでしょう。私も最初はビックリしましたしね。ですが、そんな言い訳は通じるのでしょうか。

「いいえ。」

「ではどこから?」

「あのストーカーについてある程度検討がつき、調べ始めた時です。」

「具体的な日にちは?」

「2,3日前です。」

「それが本当と言える証拠は?」

「…ないです。」

 そう。これが恐れていた事態だ。

 実際、このストーカーに補導歴があったことは2、3日前に知った事だ。だが、それを証明するすべが一切ないのだ。だから、

「つまり、あなたが私達に嘘をついている、ということもあり得るわよね?」

「…客観的には。」

 このように疑われてしまうのだ。そうなると、

「じゃああなたは、最初からあの屑を捕まえるために、わざわざ美和を危険な目に遭わせたというの?」

 その目には、さきほど穏やかな笑みを見せた人とは思えない、疑心暗鬼の目。その心配は、美和さんを心配しているからこそ考えられる事態であり、ここまで想定して動けなかった私のミスだ。さて、この御三方から信頼を得られるためにはどうしたら…?

「そこは私を信じてもらうしかありません。」

「ふ~ん。あなたを信じる、ね。」

 と、急に私を品定めするような視線を私に向けてくる。

「今どきメイド服を着ているあなたに言われても、ね~。」

 うっ!?正直、そこを突かれると何も言えません。私だって好きで来ているんじゃないんですよ!これしか似合いそうな正装が無くて、仕方がなく…。なんて言い訳言っても、美和さん家族には信じてもらえませんよね。

「…そうですか。」

 肝心の美和さんは…目を泳がしていますね。どっちにつくべきか迷っている、というところでしょうか。

「美和さんは私の話、信じますか?」

「え?」

 想定していなかったのか、美和さんは言葉に詰まっていた。

「え、えと…、」

 その様子を、二人はただ何も言わず見守っていた。

 ・・・。

「ところで、必要なこととはいえ、捜査情報を漏らしてしまいました。」

 答えに迷っている美和さんから、話し始めた私に視線が集中する。

「なので、自分に対するけじめとして、1つ、提案させていただきます。」

「何なの?」

「私がもう、美和さんと会わないことです。」

「!?」

 美和さんが驚いていますが、話を続けましょう。

「私と会わなければ、今回の嫌な出来事も想い出さなくて済みますし、親としては、こんな危ない人物は娘に近づけさせたくありませんよね?」

 この振りに、

「「・・・。」」

 二人は、何も言わなかった。

 おそらく、二人もそろそろ脳内に浮かんでいるのでしょう。

 私のことはもう信じてはいるものの、もしかしたら、という最悪の可能性を考えてしまい、完全に信じることが出来ないのでしょう。ですから、さきほどの発言をしてしまったのでしょうね。親であれば、こんな危ない人間と一緒にいて欲しくない、と考えてしまうんですね。今の私には、親心なんて分からないのですが。イラつきはしないですが、なんだかモヤモヤします。

「…いずれにせよ、もう私は失礼します。それではみな様、お疲れ様でした。後、出しゃばった真似をしてしまい申し訳ありませんでした。次はきちんと弁護士を挟むようお願いします。」

 私は一礼をし、美和さん両親の横を通り、美和さんの横を通り過ぎようとしたが、

「待って!」

 服を持たれ、止められてしまった。

「私は、信じる!」

 言葉とともに、衣類を持つ力が強まる。

「母さん父さんは信じていなかったかもしれないけど、私は信じるよ!!」

 私と美和さんの目が合う。その目には、強い覚悟が感じられた。

「そうですか。ですが、親御さんのことを悪くは言わないで上げて下さい。」

「え?」

 余計な事だと思いますが、後のことを考えると、今言うべきでしょう。

「あのお二人は、美和さんを思ってあのような発言をしました。なので、お二人をそこまで攻めてあげないでください。」

「え?…う、うん。」

 親御さんは…赤面していた。やはり、余計なことを言ってしまいましたか。

「ではこれで。」

 私は優しく美和さんの手を剥がし、

「後はご家族でゆっくり、話し合ってください。」

 目を見て、きちんと言う。今後の対応は必須事項ですからね。

「う、うん。」

「ではそろそろ、ミーティングルームから出て、家にお戻りください。代金は払ってあるようなので、鍵だけ気を付けて下さい。」

「わ、分かった。」

 …なんか、喋り方が変わっているような…?もしかしなくとも、これが本来の喋り方、なんでしょうね。

「では私は先に失礼しますね。」

「あ。」

 私が部屋を出ようとすると、美和さんの声が聞こえた。

「?どうかしましたか?」

「う、ううん。何でもない。」

「そうですか。では。」

 私が再びドアノブに手をかけようとしたところで、

「待って下さい!」

 急に声をかけられた。美和さん、ではないようですね。女性の声ではありましたが、美和さんより少し低かったような…。となると、

「…何の御用ですか?」

 私は声の主、美和さん母に疑問をぶつける。

「…今回は、娘を助けて頂いてありがとうございました。」

 美和さん母が直角な謝り方をしてくれた。ちょっと意外です。

「それに加え、さきほどの無礼な発言、申し訳ありませんでした。」

 それと、先ほどの発言について謝罪してくれた。確かに私も気にしていましたが、

「…気にしていませんので、気にしないでください。娘さんのことを思っての発言、なのでしょう?」

 私がそう言うと、

「え、ええ…。とはいえ、本当にごめんなさい。」

 と、照れながらも謝罪された。

「ほら、あなたも謝りなさい。」

 と言いつつ、美和さん母は、美和さん父の縄を解く。

「ぷはー。お、俺は絶対、」

「謝りなさい。私もあなたも、優ちゃんに失礼な事言ったんだから。」

「だ、だが…、」

「謝りなさい。」

「お、俺は美和のことを思ってだな…、」

「ほー?娘のせいにして謝らないと?素晴らしい精神ですこと。」

「…悪かった。」

「誠意が足りないんじゃなくて?」

「今回は失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした。」

 と、美和さん母に促されたものの、しっかりと謝罪をしてくれたようだ。

「いえ。先ほども言いましたが、私はそこまで気にしていませんよ。」

 と、少しだけ見栄を張る。

「…すまなかった。まさかここまで器が大きいとは…。それに比べ俺は…、」

 なんか勘違いされてしまいましたね。訂正する必要がありますね。

「私だって、何も正義感だけで引き受けた訳じゃございません。なので、あなた方がそこまで悲観する必要が無いと思います。」

 もちろん、引き受けた理由については言いませんが。

「…そうか。」

 だが、美和さん父は、私が引き受けた理由について聞かなかった。これがおそらく、大人の気遣い、というものなのでしょうね。

「では本当にこれで失礼しますね。」

「…ねぇ?本当に私、会っちゃ駄目なの?」

「…はい。」

 一瞬、何の事かと思いましたが、先ほど自分が言った罰のことですね。

「…本当に?」

「はい。これは自分に課した罰、ですので。それに美和さんは受験生、ですよね?」

「うん。」

「なら、私に時間を割く余裕なんかないはずです。いずれにしても、しばらく私に会う時間などないはずです。ですので、これでお別れです。」

 せっかく出来た縁をこれで断ち切るのは忍びないですが、美和さんの将来を考えるのであれば妥当な判断でしょう。もっと同年代の方と楽しい思い出を作るべきです。私といるのではなく。

「…そう。それじゃあ、これ、受け取って。」

 と言われ、何かを渡された。

「…これは?」

 見たところ、数字の羅列のようです。これは一体…?

「私のLEALのID。受験が終わったら、一緒に話そうね。それじゃあ!」

 言いたいことを言い終えたのか、美和さんはこの部屋をダッシュで出ていった。

「あなた!」

「おう!お前もすぐ来いよ!」

「ええ。」

 美和さん父はすぐに後を追いかけ、

「…ありがと。今回は美和が世話になったな。礼は必ずする。」

 る途中でお礼を言ったかと思えば、すぐに走り去っていった。一応ここ、室内なのですが…。

「…あなたは追わなくてよろしいのですか?」

 一方、美和さん母は急ぐ様子が無かった。もうそろそろ時間ですし、出ていくのであれば早く出ていってほしいのですが。

「ええ。一つだけ聞きたいことがあって、ね?」

「?何ですか?」

「…あなた、高校生じゃないわよね?」

 …やはり、気付いたのですか。出来れば、そのことには触れないでいただきたかったのですが。誤魔化すこと、できますかね。

「…何故、そう思うのですか?」

「女の勘よ。」

「勘、ですか…。」

 勘だけで言い切ることは難しいと思うのですが…。

「別に探ろうなんて真似はしないわ。だけど、これだけはハッキリさせて欲しいの。」

 どうやら、おふざけで言っているつもりはないようですね。ごまかそう色々案を練っていたのですが、やめましょう。

「ええ。私は高校生ではありません。」

「そう。」

 ・・・え?それだけですか?もっと私に聞きたいこととかあるのでは?

「ふふ♪そこまで引き腰にならなくていいわよ?」

 ばれていたんですか。

「例えあなたが何者でも、私は、いえ。私達家族は、いずれあなたにお礼をするわ。だから、娘のID,大切に保管しておいてね?」

 もしかしなくとも、美和さんのIDから連絡するつもりなのでしょう。

「忘れていなければ、ですが。」

「それが聞ければ十分です。では。」

 美和さん母は言い終えると、ゆったりと歩き、そのまま部屋を出ていった。

「ふぅ。」

 これで事態が収束致しました。

 さて、ミーティングルーム室の鍵を返して、私も出るとしましょう。

「まずは家に帰って着替えて、それから…、」

 まだ今日は終わっていません。むしろこれからです。やるべきことが詰まっている私には休息はありません。

「頑張りますか。」

 部屋を出て、ゆっくりと向かう。道中、

「あ。」

 お腹の音が鳴ってしまった。そういえば、朝ご飯は早かったうえ、そろそろ昼食の時間帯。お腹が減っていてもおかしくありませんね。

 さて、お昼はどうしましょうか。

次回予告

『小さな会社員から恩人二人への報告会生活』

 美和達との話を終えた優は、午後から仕事を始める。無事に仕事を終え、優は帰宅しようとするが、大切な人である菊地と工藤二人が付いてきて、3人で社員寮へ戻ることになった。その後優は、今回のストーカーの件について、話せる範囲で話し始める。そして優は、校長と教頭にしか話していなかったことを内密で伝える。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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