小さな会社員と社員寮一同の草むしり生活
遠足が終わった週の週末。
優は、
「ふぅ~。」
社寮周辺の草むしりをしていた。
だが、草むしりをしているのは優だけではない。
「は~。草むしりしている優君も素敵♪」
「…お前、優にゾッコン過ぎじゃないか?」
社員寮の住人全員で草むしりをしているのだ。
最初、
“管理人がやれよ”
とか、
“それも含めて管理人の仕事だろ”
と、否定的な意見もあったが、
「やらないなら出てって。出ていくならやらなくてもいいわ。ここに住んでいる限り、私の命令には従ってもらうわ。」
と、菊池先輩がオーナーの特権?を使って草むしりを強要したのだ。
この社員寮は他の賃貸物件より安く、交通網も整っているので、みな気に入っている。
これ以上いい物件はそうはないだろう。
そしてなにより、
「は~い。みなさんお疲れ様です。お昼休憩しましょうか。」
「お♪」
「いよっ!待っていました!!」
「今日も楽しみだわ♪」
みな、草むしりの合間のご飯を楽しみにしていたのだ。
私も、みんなの期待に応えようと、ついつい頑張ってしまう。
「優君の手作り、じゅる。」
「おい、涎涎。」
「あらいけない。」
菊池先輩がきれいに涎を拭いてから、
「「「いただきまーす!!!」」」
みんなでお昼を食す。
「お♪この炊き込みご飯、美味いな。」
「ふっ。お前はまだまだだな。このサンドイッチの方が絶品に決まっているじゃないか。」
「…両方とも気に入ってもらえてよかったです。」
本当はご飯とパン、どっちにしようか悩んだけど、両方作っておいてよかった。
「それにしても、一日草むしりするとお昼が無料で食えるって最高だな。」
「ああ。だけど、優は大丈夫か?負担になっているようなら…。」
と、工藤先輩が私に聞いてくる。
「あ。いえ、私にも後でご褒美があるので大丈夫です。気にしないで食べて下さい。」
それに、みんなの笑顔が見られただけで嬉しいですし。
ま、恥ずかしいから言わないけどね。
「そうか?ならいいが…。」
「はい。ちゃんと食べて、午後も頑張りましょう?」
「ああ。そうだな。」
「はい優君。サンドイッチよ、あ~ん。」
「…菊池先輩。私は一人で食べられますので、大丈夫です。」
私は皿の上にあるサンドイッチを手に取り、食す。
「そんな!??優君はいつからそんな子に…!??」
「元からです。」
まったく。私をいつまでも子供扱いしないでいただきたい。
子供ですけど。
「うふふ。そうやって、見栄を張っている優君も素敵♪」
「…菊池。お前は今日もいつも通りだな。」
みんなが、
「「「ご馳走様でした!!!」」」
と言い、
「お粗末様でした。」
ご飯を食べ終える。
私はそのタイミングで、
「はい。お茶をどうぞ。これを飲んだら、引き続き頑張りましょう。」
「そうだな。」
「あともう一息だし。」
「優君。片づけ手伝うわ。」
「あ。それじゃあお願いします。」
「了解よ♪」
さて、それじゃあ、片づけをして、軽く夕飯の準備をしよう。
そう思い、私達は寮の中に入り、準備を始める。
あれから、夕飯の準備を終えた私達も草むしりを再開し、気がつけばカラスが鳴いていた。
「…ん、んぁ~。もうこんな時間か。なんか一日があっという間だったな。」
「でも、今日の成果がこのゴミ袋に…。」
「そうだな。今日はよく働いたな」
工藤先輩の言葉を皮切りに、重い腰を上げ、伸びをする人が続出する。
…確かに、かなり腰に来ているな。
私は最初、ご飯の用意をするために途中抜けたけど、それでも腰にきているのだ。
なら、最初からほとんどぶっ通しで草むしりを続けていた工藤先輩達の腰はどうだろう。
きっと私とは比較にならないくらい、痛いのだろうな。
あ~あ。
こんなことなら、マッサージの勉強でもしておけばよかったな。
そうすれば、疲弊している先輩達の腰を楽に出来るのに。
そんなことを思いながら、
「みなさ~ん!手を洗ってから、共用リビングに来てください!これから夕飯ですよ!」
「「「おう!!!」」」
夕飯の準備を始めようかな。
「うふふふ~♪今日の優君、素敵♪」
「…相変わらず、お前はほんと、優が好きなんだな。」
「当ったり前よ!優君は私の全てよ!」
「あはは…。」
菊池先輩は今日も平常運航だな…。
そんなことを考えていた。
みんなが軽くシャワーを浴び終え、共用のリビングに集まり始める。
そしてその頃には、
「お♪これは…何?」
「あ。これはアヒージョです。」
「アヒージョ、だと!?」
「はい、そうですけど…?」
もしかして工藤先輩、アヒージョが苦手とか?
「…アヒージョって何?」
「まったく。あんたも少しは優君を見習って料理の一つでも覚えたら?そんなんだから、この料理がなんなのか分からないのよ。ちなみにこれはスペイン料理よ。」
「うっせーな!俺はな、楽しく酒が飲められればそれでいいんだよ!」
プシュ。
と言いつつ、もう缶ビールを開けて飲み始める工藤先輩。
…それにしても、工藤先輩は本当に美味しそうにお酒を飲むよなぁ。
一度、一度でいいから飲んでみたい。
「はいはい。あんたは全員がここに来るまでそこのツマミでも食べてなさいな。もう少しでみんな来るだろうし。」
「分かった。」
「…ほんと、酒が関わると恐ろしいくらいに理解が早いわね。」
さっきまで言い合いしていた工藤先輩はいつの間にか自分の席に着き、テーブルの上にあるツマミを食べ始めていた。
「さ、優君?後少し、頑張って作りましょ?」
「はい!」
こうして、私と菊池先輩は料理を再開した。
料理が出来上がり、リビングのテーブルに持っていったら、
「いや~。やっぱ、労働の後のビールは格別だな!」
「おい。それじゃあまるで、俺達が普段仕事していないみたいじゃないか。」
「ちげぇよ。俺が言う労働は、肉体労働のことだよ。」
「確かに。昨日のビールより今日のビールの方が美味いな!」
「「「あっはっはっは!!!」」」
…男性陣は、もう既に出来上がっていた。
まぁ、楽しんでいるみたいでよかったよ。
お通夜空気よりましだよね。
一方、女性陣は、
「でねでねー。占いによると明日はね…。」
「やっぱり私も今後のために料理の一つや二つ、三つは…。」
「今日のニュースで見たんだけど、あの人、事故ったらしいよ。いやなご時世よねー。」
「「「ねー。」」」
世間話に花を咲かせていた。
…なんか、双方とも、楽しそうでよかった。
「さぁみなさん!夕飯食べましょう?」
そして、
「「いただきます。」」
私と菊池先輩は号令をかけ、
「「「「「「いただきます!!!!!!」」」」」」
その後に続いて、みんなも手を合わせ、箸を持って夕飯を食べ始める。
「「「「「「美味っ!!!!!!!」」」」」」
そう。
私はその言葉が聞けただけでも、料理したかいがあったよ。
私はみんなと夕飯を食べる。
今日の夕飯は、いつもより美味しかった。
「それにしても優。今日はやけに嬉しそうだったけど、何かあったのか?」
「いえ。これからあるんですよ♪」
「はぁ…。」
「はい。今日頑張ってくれた優君にご褒美よ♪」
「いよっしゃ!!」
思わずガッツポーズをとってしまう。
「おお!これは、洋ナシ味のアイス!」
前から探していたけど、なかなか見つからなかったんだよね。
「…なるほど。要は菊池に買収された、というわけか。」
工藤先輩は一人で納得している。
そんなことより、
「さ。優君、あ~ん♪」
「あ~ん♪」
う~ん。美味い!!
やっぱ、アイスは最高だ!
「…普段はあの“あ~ん”も嫌がるのに、アイスのことになると、優は子供になるよな。」
そんな周りの声を無視し、私は引き続き、菊池先輩に食べさせてもらう。
私としては、一人でじっくり食べるのもいいが、食べさせてもらうのも悪くない。
「うふふ。私は今日、このためだけに生きていたのね!これはもう、死ねる!」
「「「いや、死ぬなよ。」」」
全員から突っ込まれたが、
「優君。はい、あ~ん。」
「あ~ん♪」
そんなのお構いなしに、菊池は優にアイスを食べさせている。
みんな、親鳥がひな鳥に餌を与えている風景を想像するが、それは言わなかった。
優と菊池、二人とも幸せそうな顔をしている。
その光景を壊さぬよう、
「…さて、片付けぐらいやるか。」
工藤は席を立ち、二人の新婚ホヤホヤカップルの雰囲気を壊さぬよう、その場を去ろうとする。
「水臭いですよ、先輩!」
「そうです!俺達も手伝いますよ。」
「そうね。みんなでやればすぐに終わるもの。」
「「「ねー。」」」
夕飯の片づけを始める。
片付けが終わり、
「おーい。片付けが終わったぞー。後は…。」
「しぃ!!」
「?おい、どうし…。」
工藤は菊池を見て、菊池の行動に納得する。
それは、
「スー。スー…。」
菊池が、寝ている優に膝枕しているからである。
「…ずいぶん、気持ちよさそうに寝ているな。」
「ね。こんな寝顔を何億枚も取れるなんて、神は実在するのね。」
「…そうか。」
工藤は突っ込む気もなかった。
優の寝顔を見て、そんな気も失せたのだ。
「先にみんなは部屋に戻った。後は俺達三人だけだ。俺も部屋に戻るが、お前はどうする?」
「もちろん、優君を部屋に寝かしつけてから、私も寝るわ。」
「それじゃ、後は任せるぞ。」
「ええ。」
そう言い、工藤はその場を後にする。
そして、教養リビングには、菊池と優の二人だけとなった。
菊池は優の頭を撫でる。
そして、そんな菊池の行動に反応するかのように、優の表情も変わっていく。
「やっぱり、優君は最高ね。こんなに可愛くていい子、この世界に存在しないわ。」
菊池はそんなことを言いながら、再び優の頭を撫でる。
「…この国宝級の笑顔、絶対に守らなきゃ。」
そう意思表示する菊池であった。
今日の投稿で、今月の投稿は終了です。
思った以上にPVが伸びないので、更新する頻度を変えようかと考えています。