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小さな会社員と校長教頭との会議生活

 タクシーを捕まえ、ある学校に向かっているメイドがいる。否、メイド服を着ている小さな人間がいる。

(それにしても、やはりメイド服は目立ちますね。)

 自分の装いに改めて羞恥の感情を抱き始める。とはいえ、自分から着た以上、そんな感情を抱き、恥ずかしがったところで、赤の他人には、

(あの小さな子、メイド服着ているわよ。今日は何かのイベントか?)

 と、今日の日程、近辺のイベントについて調べ始めるだろう。現に、

(なんでこんなメイドが学校に行くのに、わざわざタクシーなんか使うんだ?こいつの主はよほど金持ちなのだろうか?)

 タクシーの運転手は目的地に向かいつつ、小さなメイドに思考を繰り返していた。そのメイド服を着ている小さな会社員はというと、

(こう言われたらこう言い返して、と。ですが、もしもの場合を考えるとなると…。)

 会話に関する仮想訓練を行っていた。

 こうして、二人の交わらない思考はねじれの関係となっていった。


 目的地に着き、料金を払った小さな会社員、早乙女優はタクシーの運転手にお礼を言い、改めて学校を見上げる。

「ここがあの…、」

 さすが高校、でしょうか。小学校より大きく感じるような気がしますが…気のせいですね。きっと、自分が小さいから、ですね。・・・なんか、気が滅入りますね。っていけません!大事な時を前にして、こんな消極的では駄目ですよね!

「では、行きましょう。」

 私はついに、学校に乗り込む。

 といっても、時刻はまだ朝。それも9時ちょっと過ぎ。こんな時間だからなのか、高校生見える、なんてことはない。そして、

(これを鳴らすんですよね?)

 用がある人は鳴らしてください、と書かれた張り紙があるので、それに従い、鳴らす。

「・・・はい。」

 鳴らしてから約十秒。重い声で返事された。おそらく、お年をめされた男性でしょう。

「私は校長先生に緊急の話があって来ました」

 私は出来るだけ穏やかな口調で答える。単なる話であれば追い返される可能性がありますが、緊急とつければ、多少は話を聞いてもらえることでしょう。

「今から確認しますので、少々お待ちください。」

「はい。」

 しばし待ち、

「確認してみましたが、校長先生は把握しておりませんでした。本当に校長先生でお間違いないですか?」

「何分、緊急の話なので、連絡がすれ違ったかもしれません。ですが、間違いないです。」

「…分かりました。今行きます。」

 若干、口調が面倒くさそうな感じがしましたが、気にしないでおきましょう。入らせてもらえるだけで満足ですし。

 少し時間が経ち、声の主とは到底思えないような、若くて女性の方が来た。もしかして、すごい声が低い方なのでしょうか。

「では、案内しますね。」

「はい、よろしくお願いします。」

 あ、先ほど聞いていた声の主とは異なる声ですね。おそらく、代理の人に迎えさせた、ということでしょう。

 学校内に入り、職員室、看板?が掲示されている扉の前まで行き、女性の方が扉を開ける。開けたと思うと、それなりの先生が自分のデスクに向かい、仕事をしていた。だが、私を視界に入れると、私を二度見、三度見、中には四度見する人もいた。…そういえば、私って今、メイド服を着ていたんでしたよね。この服、かなり目立ちますなぁ。一応お辞儀をすると、先生方全員は私にお辞儀を交わしてくれた。やはり、先生という職業の方は礼儀正しいんですよね。それに比べあの担任は…。それより今のことに集中しましょう。

「こちらが校長室です。」

 といい、女性の方は奥の扉を開けてくれた。

「ありがとうございます。」

 私はお礼を言い、扉を軽く数回たたく。

「入り給え。」

 先ほどの低い男性の声、ここまで案内してくれた女性の方とも異なる声。この声の主がおそらく…。私はゆっくりと扉を開ける。

(スイッチを入れて、と。)

 私はとある電子機械の電源を入れ、準備を整える。そして、

「失礼します。」

 頭を軽く下げ、入室してから扉を閉める。校長室には、二人の男性がいた。

 一人は、先ほど見た先生方のデスクより少し豪華なデスクの傍に立っている男性。

もう一人は、デスクの近くにあるソファに座っている白髪の男性。

「ふむ…。」

 ソファに座っている男性は、私を見定めるかのように見つめている。人によっては、視るだけで何かわかる人もいる、と聞いたことがありますし、ここは早めに話を切り出すとしましょう。

「初めまして。今回、急な訪問にも関わらず、私を招いて下さりありがとうございます。」

 私はお辞儀をする。

「ふむ。さきほど聞いた話は本当だったようだな。」

「と、言いますと?」

「この教頭が言っていたのだ。さっき、小さなメイドさんが来た、と。冗談でも言っているのかと思っていたのだが、まさか本当だったとは。」

「いえ。いつもこの服装をしているわけではありませんので。」

「そうか。もっといえば、知り合いに君のようなメイド服を着るような子はいなかった、と記憶しているが?」

「その記憶は正しいかと思います。ですが、緊急の話でしたので。」

「…ふむ。まぁまずは座り給え。」

「はい。それでは失礼します。」

 私は席に座る。…へぇ。このソファ、かなりフカフカですね。もしかしたら、社長室にあるソファより高価なもの、でしょうか。今はそんなこと、どうでもいいんですけどね。

「ちょっと飲み物を用意してくれるか?」

「はっ。」

 数分後、教頭先生が黒い液体が入った三つのコップを持ってきた。おそらく、コーヒーでしょう。私もよく飲みますし。

「さ、ここに置いておくよ。」

「わざわざありがとうございます。」

 私は教頭先生にお礼を言う。

「校長の指示だったからね。」

 …どうやら、素直にお礼を言えない人、かもしれません。

「さて、それでは君の話を聞こうかね。」

「それより、一つ、確認してよろしいですか?」

「なんだね?」

「確認のために聞きますが、あなたが校長先生、で間違いないですか?」

「な!?君はなんて失礼なことを…!」

「まぁまぁ。」

 声を荒げた教頭先生を、校長先生はなだめて止める。確かに、聞き方としては失礼だったかもしれないですが、これは必要なことですし。そもそも、私もこの校長先生の顔はあらかじめ、拝見しているんですよ。ネットで、ですけど。だから一応、確認のために聞いたのですが、教頭先生には違って見えたようですね。私の自業自得、ですね。

「とにかく、落ち着きなさい。君もとりあえず座りなさい。」

「はい。」

 先ほど、教頭先生と呼ばれた男性も私と同じタイミングでソファに座る。

「それで、先ほどの質問の答えだが、」

「はい。」

「答えはハイ、だ。私が、この学校の校長である。それで、君の名前を聞いてもいいかな?」

「はい。私は優と申します。以後、優とお呼びください。」

 さぁ。これからです。気合を入れて臨みましょう。こうして、自分を鼓舞させて、会談に臨む。

「それで、急な話とは何だね?」

「はい。御校の生徒が、ストーカー行為をされているので、その件について、です。」

 瞬間、2人の時間は止まる。止まること数秒、まず声を出したのは、

「き、貴様!こともあろうに、この学校にそんな犯罪行為をする生徒がいる、そう言いたいのかね!?」

 教頭先生だった。まぁ、無理もないのかもしれません。学校にそんな犯罪行為をするなんて、信じたくありませんよね。ですが、これは事実です。

「はい。」

 私はしっかりと返事する。後ろめたいこともないので、誠実に、相手の目を見て。

「まぁ待ちなさい。」

「ですが…!?」

「この子にも、それなりの言い分があるのでしょう。まずはそれを聞いてみてからでも遅くはないんじゃないのかね?」

「…分かりました。」

 教頭先生は引き下がった。校長先生の威厳、凄いなぁ。

「君も、そう言い切る理由を教えてくれないか?もし嘘であれば、それ相応の覚悟はあるのかね?」

「もちろんです。」

 私はこのために取っておいた物をバッグから取り出す。

「まずはこれとこれ、ですね。」

 私はまず、ボイスレコーダーとパソコンを取り出す。

「まずですが、ストーカーされている方の音声データを入手しました。被害者の方の声にはもちろん、加工を加えてありますが、聞きますか?」

 二人の男性は黙って首を振る。私もその行為を黙視した後、ボイスレコーダーの電源を入れ、あのげすい会話が校長室に流れる。相変わらず、聞いていて気味の悪い会話内容です。

「「・・・。」」

 二人とも、固まったままであった。

「これが、ストーカーと被害者の会話した時の音声データです。この男性の声に、聞き覚えはありませんか?」

 私から話しかけたにも関わらず、二人はまだ呆然としていた。ま、自分が教頭、校長として勤めている学校の生徒に、こんな犯罪紛いな行為をしているとは信じたくないですよね。そういえば、犯罪紛いな行為、ではなく犯罪行為ですね。

「う、嘘だ!!こんなことをうちの生徒がするはずがない!そうだ!合成だ!合成に決まっている!!」

 と、教頭は信じてくれなかった。今私が下手に口を出しても逆効果だと思いますし、口を慎みましょう。

「…私も、全校生徒の声を把握しているわけではないので、どの生徒かは判別できないね。証拠はこれだけかね?」

 それに対し、こんな風貌な私にも紳士に話を聞き、今も礼節わきまえて発言してくれている。こんな先生が私の担任になってくれたら、なんてことを考えてしまいます。ま、今更そんな考えをしていても、無意味なわけですが。

「いえ、まだあります。次の証拠はパソコンに保管している動画ですが、見ますか?」

「…その動画は、君が撮ったのかね?」

 教頭先生が訊ねてきた。本来、どのような手段を用いて情報収集したかなんて教える義務はないと思うのですが、聞いてきたからには答えるとしましょう。ある程度は濁すとして、

「…被害者の協力のもと、撮影しました。もちろん、被害者の了承も得ています。」

 撮影方法については一切述べませんでしたが、これぐらいで通じてほしいです。名前もこれまで一切出していませんし、問題ないでしょう。

「そ、そうか。」

 教頭先生が若干、態度が不安定になっていた気がしますが、気にしないでおきましょう。

「それで見ますか?それとも、私の緊急な話を信じてくれますか?」

「・・・。」

 校長先生は悩んだ末、

「見せて、もらえないか?」

 見せてほしいと頼んできた。

「分かりました。もちろん、被害者の声、姿には加工を加えてありますので、ご了承ください。」

 といい、私はパソコンに保存していた動画を見せる。音声はもちろん、オフにしてある。

「…この動画、音が聞こえないじゃないか!?さては捏造…!」

「いえ。ボリュームを0にしているだけです。会話内容は、さきほどお二人が聞いたものですが、また、聞きたいですか?」

 私自身、もう聞きたくないのでオフにしていたのですが。もしかすると、オフにすると証拠能力が著しく下がる、なんてことがあるのでしょうか?だとすれば、音声もオンにしておくべきだったのでしょうね。そういえば、声を加工したにも関わらず、音声をオフにしていたのは無意味でしたね。

「聞こう。」

「分かりました。」

 私は音声をオンにする。こういうことなら、ボイスレコーダーで音声データを聞かせた意味なんてありませんでしたね。二度手間です。

「「・・・。」」

 二人とも、動画に集中しているのか、私のことを一切見ず、動画の視聴に夢中です。そして見終わると、

「ふん。」

 教頭先生は馬鹿にしているような顔を私に見せつけてきた。

「あなたは盛大な勘違いをしていたようだね。」

「勘違い、ですか?」

「そうだよ!君が言っていたストーカーは、宝鳥高校の制服を着ているんだよ!」

「…それが何か?」

「君が今いるのは宝鳥高校ではなく、宝千高校。つまり、漢字が一字違っているんだよ!!」

 と、私を指さしてきた。確かに、私も最初はそこに悩まされたんですよね。

「そうだね。確かに男子学生の制服は宝鳥高校のものだね。これはどういうことかな?」

 と、優しく聞いてきているものの、目からは怒りを感じる。やはり、私が訪れる学校を間違えている、という認識のようですね。その認識も仕方のないことなのですが、これはこれで辛いものです。この場には、私の味方がいないのですから。

「これは、このストーカーの策略で、本人に話をせず、学校を通した理由の一つです。」

 話はまだまだ続く。

「?どういう、ことかね?」

「校長!そんなガキの言うことなんか気にしないでください!それより今すぐこの学校から…!」

「君はとにかく落ち着きなさい。まだ、彼女の話は終わっていませんよ?」

「…分かり、ました。」

 校長先生の一声で、上げていた腰を下ろす。やはり、ここは気になりますよね。私も、菊池先輩に言われるまで気づけませんでしたから分かります。

「で、もちろん説明はあるんだよね?」

「もちろんです。まず、このストーカーの顔に見覚えはありますか?」

 私は改めてストーカーの顔を見せる。今回見せた動画は、ストーカーの方にモザイクをかけていないので、見覚えがあるなら反応するはず。ですが、先ほどの反応から察するに、高望みはしない方がいいと思いますが。

「…君は見覚えあるかね?」

「本校の生徒でないので、覚えなどありませんね。」

 と、教頭先生は私に勝ち誇った顔を見せる。確かに、自分が勤めていない学校の生徒であれば、覚えていないので仕方ないと思いますが…本当に見覚えがないようですね。

「どうなのかね?」

 校長先生も不安、というより、私の話を信じていないようだ。もともと身元不明でメイド服を着ていきなりやってきた人の話なんて、急には信じられないですよね。

「これは正真正銘、御校の生徒です。」

 私は断言する。

「では、そう思う根拠を聞いても?」

「もちろんです。まず、所属している高校と異なる制服を着ているのは、被害者に錯覚を起こさせるためです。」

「「錯覚??」」

「はい。お二人は、このストーカーを見て、宝鳥高校の生徒、だと思っていますよね?」

「だな。」

「もちろん!」

 教頭先生は私に対して強気のようです。

「それこそが、このストーカーの策略です。」

「つまり、わざと宝鳥高校の制服を着て、この被害者の方と接触してきたと?」

「はい。被害者の方も、確かに宝鳥高校の校章が見えた、と証言しました。ですが、そこで一つの疑問が出てくるのです。」

「「疑問??」」

「はい。ストーカーは何故、身分が分かるような服装で被害者と接触してきたのか、です。」

 二人は黙って話を聞いている。

「それは、わざと手掛かりになるような物を見せ、私達を錯乱させるためです。」

「「・・・。」」

 まだ、静かに聞いていますね。なら、もっと話すとしましょう。まだ話していないこともあることですし。

「そのようなことを企てていると分かったら、後はもう簡単で、すぐに身元が割れました。もちろん、名前も分かっていますが、知りたいですか?」

「「是非!!」」

 …どうやら、真剣に言っているようですね。冷やかしで言っているのであれば、別の方法も考えたのですが、大丈夫そうですね。一応、念押しはしておくとしましょう。

「他人に口外するのは禁止ですよ。」

「…分かった。」

 私は返事をしなかった教頭先生に視線を移す。

「分かったよ。口外しない。」

 渋々納得してくれたようだ。

「あ、教頭先生にお願いがありますが、よろしいですか?」

「な、何かね?」

「今在籍している生徒の名前と顔が載っている物を持ってきてくれないですか?それがあれば、確認しやすいと思います。」

「…なるほど。」

 校長先生は教頭先生に視線を送る。校長先生の意図に気づいたのだろうか。首を縦に振った後、校長室を出た。

「パソコンにも保管していますが、控えとして、紙にも残しています。どちらで見たいですか?それとも、両方見たいですか?」

「…教頭には紙を。私にはパソコンで見させてくれ。」

「名前を口に出すのも禁止ですからね。忘れないでくださいね。」

「分かった。」

 教頭先生が来た。左手には、大きなファイルを抱えていた。その中におそらくストーカーの…!おっと。少し興奮してしまいました。冷静に、落ち着いて話しませんと。

「では、こちらがストーカーの詳細な情報です。教頭先生には紙の資料をどうぞ。もちろん、パソコンに記載されている情報とまったく同じですので。」

「分かった。」

 こうして、二人の確認作業が行われた。

 最初、

「まさか本当に…!?」

 とか、

「見間違い…ではないようです。ですが、自分も信じられません。」

 さて、私も少しだけ休息、

『おい!聞こえているんだろ!?そのストーカーの住所と名前を教えろ!今すぐ行って俺が制裁を…!』

『いけませんよ、あなた!彼女が今もこうして頑張っているのだから!』

 インターカムを通して、美和さん両親の声がさっきからずっと聞こえてくるんですよね。インターカム、渡さない方が良かったかもしれません…。一方で、菊池先輩と工藤先輩からは、何も言ってこないんですよね。これが逆に不気味で少し怖いです。ま、何も言われることがないのであれば、このまま話し合いを続行するといたしましょう。まだまだ話し合いは長引きますからね。

「これは…本当、なのか?」

 校長先生は、さっきまでとは打って変わって怯えていた。

「はい。」

 教頭先生も手が震えていた。

「それで、御校に来た理由ですが、最悪の事態を回避させるため、です。」

「「最悪の事態?」」

「ええ。これは私にとって、ではなく、御校にとっての最悪の事態、ですが。」

 この一言で、二人の顔色は悪く変色させていく。

 さて、ストーカーの件も信じてもらいましたし、次はこちらの番です。

「最悪の事態とは、宝鳥高校が、この宝千高校に対し、名誉棄損で訴えられる可能性です。」

「「!!????」」

 さ、話を続けましょう。

「な、何故!?」

「それは、この宝千高校の生徒が宝鳥高校の名誉を毀損したからです。」

 私は話を続ける。

「まだ話が拡散されていないのでよいですが、このストーカーの件が広まると、教頭先生や校長先生のように誤解なされる方が多くなります。」

「つまり、宝鳥高校にはストーカーがいる、ということか?」

「はい。その噂が飛び交うことで、宝鳥高校にはよくない印象を持たれ、その学校に行きたい、と思う人が少なくなることでしょう。その後、実はストーカーが宝鳥高校ではなく、宝千高校にいると判明したら、どうなるか?」

「「・・・。」」

「宝鳥高校の方達はこう考えるでしょう。宝千高校のやつらがでまかせを言い、こちらの評判を計画的に陥れた、と。」

「そんなこと…!?」

「確かに真実は違います。ですがあちらには、こう考える人もいる、という可能性を踏まえてください。」

 私はこう言い終えると、顔を二段階で青くさせていった。

「ほ、本当にそんなことが…?」

「必ず起きる、とは保証致しません。ですが、最悪の事態を想定するのであればこれぐらい考えるべきかと。後は、学校側としては、こんな問題ごとを公にはさせたくないですよね?」

 手の震えがさらに大きくなっていくのが目に見える。

「ですので、解決するための手段としては2つ。」

「「2つ??」」

「1つは、あなた方が職員の先生方に連絡を行い、全校生徒に非道徳的行為を辞めさせるよう、もしくは永遠にしないよう強く、長く言い聞かせることです。その行為が抑止力になるでしょう。」

 …あれ?さっきと様子が変わりませんね。それでは、手を一つ見せるとしましょう。

「もし、これによってストーカーのストーキングが収まったのであれば、この場で誓約書を書き、この会談を終わりにします。」

「…ほんと、かね?」

 先ほどのような強い感情はなく、脆くなっている。さっきの名誉棄損、が強く効いたのでしょうね。被害届を出されたり、訴えられたりする可能性がある、ということを匂わせてしまいましたし。

「条件付きであれば、ですが。」

「「!!??」」

 二人はテーブルに手をつき、身を前に乗りだす。私は思わず、少しだけ後ろにのけぞってしまいました。

「まずはテーブルの上にあるコーヒーを飲んで落ち着いてください。」

 私は二人に落ち着くよう言い、落ち着くまで待った。さて、これからは私有利で話を運ばせていただくとしましょう。

「それで、条件というのは?」

 落ち着くなり、校長先生が聞いてきた。ま、もちろん気になりますよね。当然、答えさせていただきますよ。

「はい。条件というのは、ある誓約書を書いていただくだけです。」

「「誓約書??」」

「はい。誓約書の内容は…、」

 私は出来るだけ簡単に説明した。

 誓約書の内容は、



・今後、宝千高校から、ストーカー行為を行う人を完全に根絶すること

・それが守られている限り、今回のストーカー行為については公にしないことを確約する

・守られなかった場合、貴校を訴える



 簡単にまとめると、こんなところですかね。この誓約書がいつ有効になるか、は記載していませんでしたね。…ま、屁理屈をいい、約束を違え、ストーカー行為を目視出来たら、容赦なく訴えるとしましょう。

「・・・これを見る限り、あなたの利点がないように見えるが…?」

「今回依頼された方は、条件付きではありますが、できるだけ公にしないことです。」

「なら…!」

「ですが!誓約書に書かれている決まり事を破るようであれば、こちらにも考えがありますので。」

「「・・・。」」

 二人とも黙ってしまった。…そういえば私、さっきからずっとこの人達を脅しているような…?…気のせいですね。気のせい、ということにしましょう。

「…それで、どうしますか?この内容で良ければ、校長先生自らサインをしてください。あ、もちろん、あれも忘れないでくださいね。」

「あ、ああ。」

 と言いつつも、校長先生は動かず、ずっと誓約書を見ていた。もしかして、何か不備があったのでしょうか?

「何か問題がありましたか?」

「いや、追加で書き加えたいことがあるんだが、いいかね?」

「?何でしょう?」

「2文目の誓約だが、出来れば公、だけではなく、噂にも、しないでほしい。」

「・・・言いたいことは分かりますが、情報はどこで漏れるか分かりません。私達も情報漏洩しないよう努めていますが、限度というものがあります。」

「なら、この出来事は今、何人知っているのかね!?」

「そうですね…、」

 え~っと…。まずは、私、菊池先輩、工藤先輩の3人。

 次は美和さんの家族で3人。

 そして、校長先生と教頭先生の2人。

 最後に、その他2人。

 となると、

「計10人ですね。」

「それは、我々も含んでの人数、ということかね?」

「はい。あ、加害者は数に含んでいませんよ?いずれも身内や口の堅い方、相談した方、ですね。」

「…なるほど。その中に、大人は何人いるかね?」

「大人、ですか…。」

 大人となると、私は当然の如く除外。後は…美和さんだけですね。あれ?こうしてみると、子供って結構少ないですね。偶然、でしょうか?

「8人です。」

「そうか。その大人には、子供はいるかね?」

「?」

 確か、菊池先輩と工藤先輩は二人とも独身だったはずです。

 美和さん家族は、高校生と小学生の計二人。

 その他は…知りません。

「確か、その被害に遭われた方以外はいないかと思います。私も全員の家族構成を把握しているわけではありませんので分かりません。」

「そうか。」

 さっきから校長先生は何を聞き出そうとしているんだ?事情を知っている大人の人数を聞き出したり、子供の有無を確認したり。何かを確認しようとしている?ですが、いったい何を…?

「校長!そんな回りくどいことをしなくてもよろしいんじゃないでしょうか!?」

「き、君!?」

「?どういう意味ですか?」

「我々はね、君達みたいに弱みを握った人がすること。それは、脅しだ!そして、情報漏洩だ!!」

「…はぁ。」

 脅し?情報漏洩?

 …もしかして、このネタをゆすりの材料にしようと企んでいるのでは?と、向こうは考えているのでしょうか?

 情報漏洩の方は…もしかして、ふとした拍子に、誰かの口から今回のことが漏れ、それが拡散され、学校の評判が落ちることを気にしている、ということでしょうか?

 ・・・まぁ確かに、想定する事態ではありますね。私も向こうの立場であれば、考えていたのかもしれません。

「…とはいえ、さすがに噂の類を完全に起こさないようにするのは…、」

 噂の類はどうしようもないと思う。

その最たる例が、痴漢冤罪だと思う。やってもいないことをでっちあげられ、周りの人もその場の空気に乗っかり、無罪な人を捕まえる。前科という厄介なものが残ってしまう分、悪意ある噂よりたちが悪いと思う。ま、元となる話がなければ噂もたたないと思いますが、なくてもありもしない噂話を広める人もいますからね。

となると、

「そ、そうか…。」

 明らかにガッカリしていた。・・・ふむ。このことは後で言うとしましょう。今は事の収束に励むとしましょう。

「ですので、申し訳ありませんが、」

「ああ。書こう。」

「校長!本当に書くつもりですか!?」

「ああ。何故ならこちらはただ、ストーカー行為に対し、厳重に注意をし、二度とさせないようにすればいいのだろう?」

 と、校長先生が確認をとってきたので、

「はい。御校はただ、このような非道徳行為に対し、絶対的な抑止力となっていただきたいのです。」

「き、期間は!?」

「期間、ですか。一週間、ですね。」

「「は??」」

 二人は驚くことを聞いたような顔をしていた。

「一週間も猶予を与えているんですよ?」

「だ、だが…!?」

「こ、これはあんまりにも横暴ではないかね!?」

 教頭先生はおろか、校長先生も、今回提示した期間について、異議を申し立ててきた。

「勘違いしないでいただきたいのですが、こちらはかなり譲歩しています。」

 私の一言で、二人は鎮まる。

「すぐに訴えてもよかったのですが、訴えた場合、学校の名誉が地に落ちる場合があるので、それを避けるためにこうして会談をもちかけています。それに加え、一週間もの猶予。そちらは実質、なんのお咎めもないのではありませんか?」

「だったら、何故直接言わない!?直接言った方が聞くのではないか!?」

「直接言うのも一つの手でしたが、難しいと判断し、学校を通させていただくことにしました。」

「何故!?」

 できれば、言いたくなかったんですけど、仕方ありませんね。

「…そのストーカー、補導されたことが過去に何度かありますよ。」

「「…え??」」

 あれ?もしかして、知らなかったのでしょうか?

「さらにいえば、暴力沙汰を起こしています。被害者の方が前に相談を受けていまして、接近禁止令をだされたほどです。」

「「・・・。」」

「本当なら、過去の出来事に関係なく判断したかったですが、こういう過去があるため、本人に直接言い聞かせるのは難しいと判断し、学校を仲介させていただきました。」

 私がそう言い終えると、二人は見つめあっていた。視線だけで会話でもしているのでしょうか?

「ですので、学校の評判を落とさないよう配慮したうえで、こうして学校に話を持ち掛けたのですが、余計なお世話、だったですか?」

「…い、いや!お気遣い感謝する!!」

 校長先生は焦ったように見えますね。本当に知らなかったようですね。

「でしたら、こちらにサインをお願いします。」

 私は誓約書にサインをするよう促す。それにしても、インターカム越しの会話がうるさいなぁ。美和さん父なんか、「そいつは今どこにいる!?今すぐ教えろぉ!!」と言っていますし。詳しい情報を口頭で言わなくて正解でした。

「わ、分かった。」

「校長!さすがに危険です!!」

「では、君はこれ以上の案を今すぐ提示できるのかね?私には何も出来んよ。」

「そ、それは…。」

「それに、彼女の言っていることを嘘だと言い切る根拠はあるのかね?」

「それを言うなら、彼女が本当だと言える証拠なんてないはずです!」

「今しがた私達に見せてきた画像、動画がその証拠、ではないかね?」

「・・・!」

 あの、こっちを睨んでも何も変わりませんよ。ですが、フォローを入れておくとしましょう。

「もちろん、問答無用でそのストーカーを訴えてもよかったですが、御校にも風評被害に遭う可能性があると思い、こうして会談の場を設けさせていただきました。」

「「・・・。」」

 なんだか、まだ疑いの目を向けられていますね。

「もちろん、先ほど言ったことを守っていただけるのであれば、こちらとしても助かります。なので、双方にとって悪い話ではないはずです。」

 これ以上の譲歩は、要検討しないとですからね。これで折れてほしいものです。

「…分かった。」

 どうやら、ようやく重い手を歩かせてくれるようだ。教頭先生も渋々ではありますが、校長先生の意見に賛成のようです。

「・・・これで、いいかね?」

「拝見します…大丈夫です。」

 私は呼吸を整える。

「これにより、誓約完了となりました。なので、誓約をきちんと守っていただくよう、お願いします。」

「あ、ああ…。」

「・・・。」

 なんだか、悪いことをした気分です。

「後、これのコピーを…5部ほどお願いしますか?」

「何故かね?」

「御校が忘れないように、です。」

「そんなこと…!」

「あくまで念のため、です。ご気分を不快にさせてしまい申し訳ありませんが、お願いします。」

 私は頭を下げてお願いする。

「…教頭。」

「…かしこまりました。」

 教頭先生はまた校長室を出る。どうやらコピーしてくれるようだ。よかったです。

 数分後。

「はい。」

「ありがとうございます。」

 私に原本と、コピー5部が渡された。

「ではこちらの2部をどうぞ。」

「?1部で構わないのだが?」

「念には念を、というものです。」

「…分かった。」

 こうして校長先生コピーを2部受け取ってくれた。

 さて、学校でやるべきことは、これで終わり、ですかね。

「それでは最後にいくつか聞いてもよろしいですか?」

「まだ何かあるのかね!?」

 教頭先生は私に強く言ってくる。

「えっと…。申し訳ありませんが、トイレはどこにありますか?」

「「・・・は??」」

 あれ?そんなにおかしなことは聞いていませんよね?トイレの場所を聞いただけですのに。トイレに行くタイミングはここしかないと思ったので言ってみたのですが、変だったでしょうか?

「・・・あ、いや、何でもない。そこの扉を右に曲がり…、」

「分かりました。それでは一時、失礼します。」

 私は一時退席し、トイレに向かった。


 優が退席した瞬間、

「「ふぅーーー。」」

 二人は席に深く座り、体内に残っている空気を全て吐き出す。

「それにしても、あのメイドは一体何者なのかね?」

「私にも分かりません。ですが、こちらが悪意を向けない限り大丈夫かと。」

「それは私も同意見だ。だが、」

「?どうかしましたか?」

「あんな弁護士が本当にいるのかと、つい考えてしまってな。」

 二人は未知なる存在に恐怖を覚える。


 一方、トイレに向かった優はというと、用を足している、

「…ひとまず、これでやるべきことは終わりました。」

 ことはなかった。

 優は独りになって連絡を取るため、トイレに向かった。もちろん、周囲に人がいないかは確認済みである。

『優君!?本当に終わったの!?よ、良かったー。』

『そうか。お疲れさま。』

 どうやら菊池先輩と工藤先輩は平常ですね。さて、

『おい!何故ストーカーが補導されていることを言わなかった!?教えろ!!』

『あなた!とにかく落ち着いて!』

『うるさい!お前は黙っていろ!』

 美和さん両親は、ちょっとバイオレンスな雰囲気がでていますね。仕方がないのかもしれませんね。だって、ストーカーしていた方に補導歴があったわけですから。

「それについても後で説明します。」

『はぁ!?今すぐだ!今すぐ説明しろ!!』

『だからあなた、落ち着いて!!』

 これは…駄目ですね。これ以上刺激しても逆効果でしょうし。

「それじゃあもう少し経ってからミーティングルームに戻りますので、一旦電源を落としますね。」

『ちょお!?優君、そんな話聞いてな…!?』

『そうだ!!ちゃんと説明し…!!』

 私は何も聞かずに電源を切る。ふぅ。これでようやく静かになりましたね。さて、

「今回、話を聞いてくれたお礼として、これを聞かせるとしましょう。」

 私は、赤黒いボイスレコーダーを手に持ち、トイレから出た。


「失礼します。」

 私はまたもこの校長室に入室し、改めてソファに座る。なんか、私をジロジロ見ているような…?まさか、私を性的な目で…!?ま、そんなわけありませんよね。菊池先輩とはまったく異なる視線ですし。菊池先輩はもっとこう…と。つい思考が逸れてしまいました。集中しませんとね。

「で、他にあるかね?できれば、もう無いことを祈りたいのだが?」

「そうですね。今日はもうこれでおしまいです。」

 そう言うと、ほっとした表情と、漏れ出てしまったであろう吐息が聞こえた。そ、そんなにですか。

「ですので、これで失礼しようと思います。」

 私はソファから立ち上がり、退室しようとする。

「あ。」

「ん?何かね?」

「お礼の品を渡し忘れていました。これです。」

 私はポケットから赤黒いボイスレコーダーを見せる。

「?これは?」

「ボイスレコーダーです。これには、ある声が録音されています。」

「「ある声??」」

「はい。それは…、」

 私は、この赤黒いボイスレコーダーに録音されている音声データに関羽る情報を口頭で説明しつつ、実際に流した。

 結果、

「「・・・。」」

 二人とも、頭を抱えていた。

 ま、それほどの品、ですからね。

「どうするかはあなた方二人にお任せします。嘘だと思って放置するのもよし。事前に密な連絡をとり、行為に及ぶ前に確保するもよし。」

 …なんか二人とも、私の来訪直後よりやつれているような…?ま、確かに聞いていて気分はよくありませんよね。

 だって、爆弾を持たされたようなものですし。

「では私はこれで失礼します。」

「「・・・ああ。」」

 二人同時に了承してもらったので、私はそのまま校長室、校舎を出た。

「さて、タクシーを呼んで、と。」

 タクシーを停め、

「すいませんが…、」

 私は報告を済ませるため、ある場所へと向かう。

次回予告

『小さな会社員と夫婦な弁護士の報告会生活』

 学校での話を終えた優は、ある弁護士に報告するため、ある場所に向かい、報告する内容を脳内で整理し始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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