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小学生達の運動会生活~午後~

 運動会午前の部が終わり、お昼休憩が始まる。その時、主役の子供が存在せず、大人だけで座り、弁当を開こうとする男女のペアがいた。

「あ~あ。それにしても優君、今はどこにいるのかしら?」

「なんならメールしてみればいいんじゃないか?そしたら返信…あ、今優は学校にいるから連絡手段持っていないのか。」

「ほんと!学校って不便よね!」

 菊池と工藤である。

 あれから二人は午前中、優を探しつつ、優が競技に出ていないかを探していた。その結果は、

「あ~・・・。せっかく気合いを入れて作ってきたのに~~~・・・。」

 菊池の残念がる声が証明している事だろう。

 今は子供も大人も浮かれる昼食時。そんな場面にふさわしくない声質である。

「ま、こんなこともあるさ。することはしたんだし、ひとまず先に食っていようぜ。」

 と、工藤は菊池をなだめつつ、菊池が用意してきた弁当に箸をつけようとする。

 今、菊池の弁当の中には、子供はもちろんのこと、プロの料理人も一口食べれば驚くようなクオリティーの料理がカラフルに並んでいる。これも、菊池が優を思っての行動である。なので、

「駄目よ!優君にこのお弁当を見てもらって、それから、よ!!」

 菊池は蚊を叩き落すかのように全力で工藤の手の甲を叩く。さながら、行儀の悪い子のしつけをする母親の様である。

「いたぁ!?わ、分かったよ。それじゃあ俺は飲み物の追加と…、この周辺に優がいないか探してくるわ。」

「いってらっしゃい。優君だけ連れてきてね。あなたは一生迷ってなさい。」

「優を連れてきたら俺も来るからな!!まったく!」

 こうして工藤は、席を立ち、自販機の元へ向かう。

「さて。優は一体どこに…?」

 こうして、工藤の優捜索ミッションが、

「・・・あら?ゆ、優君から!?何々…え?急な用事でお昼、いらないの?」

 菊池のさらなる落ち込み開始とともに、始まることなく終了した。

「あ~あ。あ~あ!あ~あ!!」

 菊池はわざと周囲に不機嫌アピールを行う。その様子はさながら、構ってほしいからいたずらをする小学生男子の様である。

「一応、あの酒魔人にも連絡を入れておこうかしら。怠いわ。」

 そんな本音を口からこぼしつつ、菊池は工藤に連絡を入れる。

「・・・お?何だって菊池からかよ。一体なん…え?優、お昼要らないの!?」

 その連絡は、腹が減っている成人男性の食欲をさらにかきたててしまう、親にはあまり相応しくない食い意地まみれた考え、

「優のやつ、今日の運動会をそんなに楽しんでいるのか?それとも…?」

 ではなく、昼食を抜かれた子を心配する、親の鏡である考えを持たせていた。そんな考えを抱きつつ、

「それじゃあ、とりあえずはお茶も買ったことだし、ひとまずは戻るとするか。それから考えるとしよう。」

 左手にペットボトルを持ち、菊池が待つ場所に向かう。その様子は、隣にあるある像とよく似ている顔をしていた。

 一方、とある家族は楽しいお昼休憩をとっていた。

「それにしても、洋子の家のいなりずしはいつも美味しいよね♪」

「それを言うなら、綾の家のクロワッサンも絶品よ?」

「そう?ありがとう♪」

 その家族とは、風間家と桜井家である。

 この2家族は、娘の洋子と綾だけでなく、親の間にも、深い友情が結ばれている。その様子は、午前中に行われた応援の様子から判別できることだろう。だが、桜井綾、桜井家は、とある人がいないことに気付く。

「ねぇ?競技前にも思ったけど、洋子のお姉ちゃんはどうしたの?」

 桜井家の家族構成は父、母、娘の3人だが、風間家は違う。父、母、そして、娘2人の4人構成なのである。そして、今の風間家に足りないのは、洋子の姉に当たる人物である。

「うん。それがね、最近ずっと家に閉じこもっているみたいなの。」

「え!?だってお姉ちゃんは…、」

「うん。今年大学を受ける受験生なんだよね。」

 ちなみに、洋子はもちろんのこと、何故綾も洋子の姉の事を“お姉ちゃん”と呼んでいるのか。それは、二つの家族間の長くて深い付き合いにより、綾も血のつながった姉に大差ないほど親密になったからである。そんな仲の良い姉が小学生最後の運動会に来なかったのだ。気にしない方が変、というものだ。

「それなんだけどね…、」

 と、洋子は言い辛そうにする。その様子に、桜井の両親も注目する。

「?どうしたの?もしかして、何かあった、の?」

 と、あってほしくない、という期待を込めて洋子に言う。その発言に洋子は、

「・・・(こくり)。」

 ただ、頷くことしか出来なかった。

「え?」

 その様子に、ただただ綾は驚く。綾の両親も、二人の子供の話に聞き耳を立てる。

「何が、あったの?」

 その綾の言葉に、洋子の両親は、これまで使っていた箸を置き、

「それが、私達にも分からないの。」

 と、子供二人の会話に乱入する。その発言に、

「それは本当なのですか?」

 桜井の母親も心配した発言を述べる。この発言からも、いかにこの2つの家族が深くつながっているのかが分かることだろう。赤の他人であれば気にしないはずなのだから。

「理由とかは聞いても、大丈夫ですか?」

 この二つの家族はかなり仲が良いが、ちゃんとした線引きも行われている。それ故、こうした繊細なことに関しては、詳細に聞いても良いのかと事前に聞いているのである。

「それが、私達にも話してくれないんだ。」

 桜井父の発言を、困った声質で風間父は返す。

「え?それじゃあ…、」

「ええ。なんでお姉が外に出たがらないのか、誰も分からないのよ。」

 洋子はここにいる6人に確信を突いたような言葉を発する。

 こうして、お昼時にしてまだ数分。空腹にも関わらず、全員の箸が行動を止めていた。

 時間は数秒経過し、空気と体がクールダウンし始めていく中、話を切りだしのは、

「でも、最近は家事も手伝ってくれて、母も助かっているって。ね?」

 風間洋子である。そんな洋子の振りに、

「え、ええ。そうね。このいなりずしも大半がそうなの。良く出来ているでしょう?お一つどうぞ。」

 と、風間母はさりげなく桜井の両親にいなりずしを一個ずつ渡す。桜井父と母はそれを受け取り、同時に食べる。

「う、美味いな。」

「そうですね。確かに美味しいです。この味は母親譲り、でしょうかね。」

 と、桜井母は風間家全員に微笑み返す。桜井父も美味しさ満点のいなりずしを食べ、笑みをこぼしている。

「何か困ったら、いつでも相談してくださいね。」

「そうね。私達はいつでもウェルカムだから。」

 と桜井両親は声を高くして発する。

「そう、ね。今ジタバタしていても、何も解決しないのかもしれませんね。」

「もしかしたら、時間が解決してくれるかも、なんてな。」

 自分の娘のことなのに、どこか他人事な発言を風間父と母はする。

 だが、心境は違った。

(本当にどうしたらいいの!?)

(今の俺達に何か出来ることは無いのか!?)

 日夜、自身の娘のために何か出来ることは無いか。そのことを考えていた。

 朝起きて、仕事に行って、仕事して。帰ってきて、家族団らんして、就寝する。

 そのサイクル内に、娘の事を考えない時は1刹那もなかった。それを悟らせないよう、気を張っていた。そんなこととは知らず、

「わ、私に何か出来ることがあったら言ってね。いつでも手伝うから!」

 桜井綾は風間洋子の手を取り、励ます。

「…うん。ありがと、綾。」

 風間洋子は素直に桜井綾に感謝の言葉を告げる。その2人の様子に、4人の成人はなごみ、食事を再開する。

 だが、ここにいる六人は気付きもしないだろう。その問題は今、とある小さな少年の手を借り、本人が今、解決への道を歩み始めていることに。


 お昼休憩が終わり、最初の競技が始まろうとする数分前。優が所属しているクラスは、ほとんどの者がテント内にいる。何故かというと、午後からはまず始めに、学年別に行う競技を行う。その順番は、1年2年3年…そして最後に6年、というものである。なので高学年の人達は、食後の激しい運動をしなくて済んでいるのだ。もっとも、保護者による期待値は、低学年のものとは比較にならないほど高まっているため、完全に気が引けない。むしろ、いいところを見せようと、最終調整をしている者もちらちら伺える。

 そんな中、担任、小野口春が生徒に話し出した件は、

「それでは、みなさんがきになっていることでしょう、クラス対抗リレーのメンバーについてです。」

 本来なら、優もこのクラス対抗リレーに出場するのだが、

(早乙女君、どうしたのかな…?)

 優は一向に、クラスのテントに顔を出していない。何せ、運動会を円滑に行うために、裏の裏の雑務を行っているため、競技に裂く時間など存在していないのだ。だが、

「代理の人は立てません。」

「「「え???」」」

 担任の発言に全員が驚く。それもそうだろう。全クラスは4人で出場するというのに、家のクラスだけ3人での出場。それでは3人にかかる負担が重くなるのでは?と、考えていたからである。だから、誰かしら代理の人を用意しているのかとクラスの者達はそこまで考えを伸ばしていたが、担任は先ほど、代理の人は立てない、と公言した。

「それはですね、あれは既に学校に来ています。ですので、代理の人を立てず、そのまま行きます。」

「「「え???」」」

 またも担任から生徒にとって驚きの発言が飛び出す。 

 ここにいる生徒全員が、優は欠席だと確信していたからである。だから、優が来ていたことに驚き、

「なんだよ。それじゃああいつ、学校に来ているのに、足が遅いから競技サボっているのかよ。」

「まったく!最低だよな!これで負けたら全部あいつのせいだな。」

「「「賛成!!!」」」

 ほとんどの者は優を罵る。ちなみに、何故優は午前中、出るべきだった競技に出なかったかというと、

(ま、あれに関しては私の伝達ミスだけど、むかつくし、訂正しなくていいや。)

 担任の伝達ミスが全元凶である。その上、カンニングの罰と称し、小学生には負担の大きい雑用を大量に押し付ける。その大いなる負担と、優は今も戦っているのだ。そんな頑張りを嘲笑うように、

「なんであいつなんかをクラス対抗リレーに推薦したの?」

「ああ。それはな…、」

 クラス内では、ある作戦が練られていた。

 それは、

(さて、これでひとまずは完了ですね。次の場所へ向かうとしましょう。)

 今も頑張っている優を、陥れる作戦であった。


「ふぅー。」

「ごめんね、早乙女君。本来なら私達先生がやるべきことなのに…、」

「別に構いません。どうせ私は運動会に出ないわけですし。」

 お昼、というには時間が過ぎていますね。どうやら私はお昼を食べ損ねたみたいです。ま、こんな忙しいわけですし、別にご飯の一つや二つ抜いたところで死ぬ、なんてことはないですし、問題ありませんが。とはいえ、

(少し、空きましたね。)

 午前中にあれほど体を動かし、水分を摂取している。少なくとも、平日での仕事より明らかにカロリー消費量が多くなっています。そんな状況下での食事抜き。やはり、くるものがあります。ですが、この空腹感を満たしてしまうと、次は睡眠欲に襲われそうです。

(やはり、我慢しか手段はありませんね。)

 と、一人で食欲と睡眠欲との葛藤をしつつ、雑務をこなしていく。

「それにしても、みなさん、よく踊れますね。」

 作業の合間合間で運動会を見てみると、多くの生徒が何か息の合っている…踊り?舞?をしていますね。出来上がりのクオリティーに関してはよく分かりませんが、息が合っている、ということに関してはすごいと思います。私と菊池先輩なら…菊池先輩が合わせてくれそうですね。それにしても、ああいった踊り?舞?ができることはすごいことなのでしょうか?私にはよくわかりませんね。私はそれより家事のスキルアップや資格取得を目指したいです。

「そうね。あ、それはそのままでいいわよ。」

「あ、はい、分かりました。」

 私は雑務をしつつ、

「さて、この画像データをこのパソコンに読み込みますね。」

「お願いね。私は近況を聞いてくるわ。」

「よろしくお願いいたします。」

 そう言って、保健室の先生は教室から出て行った。さて、私の方の仕事を、と。

「あ、メールが来ていますね。あ、」

 菊池先輩に工藤先輩だ。

 内容は…私を心配している内容だ。あのお二人に心配させるなんて、私もまだまだです。それにしても、来なくていいとあれほど言ったのに無視してきたのですね。あ、お弁当には美味しそうな料理が数々と…。う、羨ましいです。

「と、いけない、いけない。」

 今は仕事に集中しないと、ですね。私は引き続き雑務をこなす。

 数十分経過。

「・・・ふぅ。」

 これで午前中の分は読み込み完了、ですね。

 そういえば、

「先生、遅いです…、」

「呼んだ?」

「!?」

 せ、先生!?きゅ、急に驚かさないでほしいです…。こっちがビックリです。

「そ、そんなに驚かないでよ。こっちが驚くじゃない。」

「す、すいません。」

 私のひとりごとに反応されたのでビックリしたのですが…。

「と、その左手に持っている物は一体何ですか?」

 見たところ、どこかで買い物してきたような白いレジ袋を持っていますね。その中身は一体…?

「あーこれ?これはね…、」

 と、先生が白いレジ袋から取り出したものは、

「じゃん!」

「…おにぎり、ですね。」

「そう!これは早乙女君、あなたに差し入れよ!」

 と、先生は私におにぎりを渡そうとする。

「え?いいのですか?」

 私、先生に対して何もしていませんよ?それなのに、こんな施しをいただいてよろしいのでしょうか?

「別にいいのよ。私がおにぎり一個でどうこう言う大人に見える?」

「…それでは、ありがたくいただき…、」

 私はもらったにぎりをいただこうと、包装紙を破こうとするが、

“早乙女優君、早乙女優君。至急、ゲート前に来てください。もう一度言います。早乙女優君…。”

 そんな連絡が校内に流れ込む。その校内に私達もいるので、当然聞こえ、

「な、何事でしょうか?」

「さ、さぁ?私もよく分からないわ。事態が悪い方にでも転んだのかしら?」

 と、二人で考えてみても、この場では最善の手が思いつきません。

「ここは、アナウンスの通りにしましょう。私は他の先生方に聞いてくるから、早乙女君はそのままゲートに向かってくれる?」

「分かりました!」

 こうして私は急遽、外のゲートに向かうことになった。さて、ゲートが破損したとか、悪い知らせでなければよいのですが…。


 私が走って着くと、

「遅いぞ、チビ!」

 と、怒鳴ったかのように言った直後、ニタニタと気持ち悪い笑みを私に向けてくる。この人は確か、初日に絡んできた…、

「先生!早乙女君が来たみたいです!」

「そうか。これで競技が出来るな。」

 と、何やら先生二人が会話をしていた。はて、競技とは一体何のことでしょう?

「それでは、クラス対抗リレーに出る人はここに並んで入場してくれ!」

 そう先生が言うと、一言アナウンスが入り、そのまま他の生徒達が入場していく。

(私も、これに続いて行った方がいいですよね。)

 自分にそう言い聞かせ、周りの人の見よう見まねでついていく。

(後ろの人の靴、でしょうか?何故私の靴を何度も踏んでいるのでしょう?偶然、とは考えにくいですし、となると…。)

 と、足に違和感を残される。

(さ~て。このチビをこの場で蹴落としてやる!)

 それは、早乙女優の後ろにいる、岡本(おかもと)(ごう)()の策略であった。見えない位置から、周りに見えないように攻撃する。まるで、体に不可視化を付与しつつ、相手を攻撃するような、そんないやらしい攻撃を、入場の間、続けていた。

 入場が終わると、次は軽い説明だった。そんなことより、

(これは一体、どういうことでしょうか?)

 この状況に、頭がまだ追い付いていなかった。いや、客観的にはある程度理解できるが、どうして私が?という気持ちが不安感を強くさせる。

 おそらく、このクラス対抗リレーのメンバーに、私は選ばれたのでしょう。だからこうして、私はこの場にいるわけである、と容易に推測できます。ですが、何故私なのでしょう?私、学校で足が速い、なんて自慢はしたことないですし、そもそも、自分の足が速い、なんてことも考えたことありません。こんな私がクラス対抗リレーに出場?どう考えてもベストな案とは思えません。とはいえ、今の私では思いつかない様な考えがあり、その上で私をこの競技に出場させた、ということなのでしょうか?ふ~む・・・。考えれば考えるほど謎です。

 ですがまぁ、とりあえず勝てばよいだけみたいですし、頑張るとしましょう。

「おいチビ。お前はアンカーだからな。1位じゃなきゃぶっ飛ばすからな。」

 …やはり、人選を間違えているのではないでしょうか。

 他の学年が競技しているところを見ている感じ、大切なところはバトンを渡すところですね。バトンを渡す際、大きなタイムロスをしてしまうと、例え足が速くとも優勝することが難しいのでしょう。となると、事前にどれだけバトンの受け渡し練習が出来ているか。これがこの競技のポイントなのでしょう。

 ・・・あれ?となると、まったく練習していない私はやはり、この競技に不向きなのではないでしょうか。もしかして、私に足の速さを期待して、ということなのでしょうか?さっきから見ていると、足が速いからといって、その組が優勝、なんてことはなさそうですし。やはり、足の速さより、バトンの受け渡しでいかに時間短縮が出来るか、にかかっていそうな気がします。

 それにしても、バトンを落とす学年、組は一つもありませんね。どのクラスも入念に練習したのでしょうか。流石です。それに比べて私は、ぶっつけ本番、という感じです。ちょっとした緊張感が私の全身をよぎりますが、これぐらいであれば問題なさそうです。これ以上のことを毎回のように経験している事ですし。さて、

(そろそろ私達の番、ですか。)

 脳内仮想訓練でもかなりの頻度で成功していますし、大丈夫、と思いましょう。全く練習していない今の私にできることは、脳内仮想訓練しかありませんから。

「さて、最後は六年生の部です。」

 もしかしたら菊池先輩だけでなく、工藤先輩も見ているかもしれません。となると、下手なことは出来ませんね。全く練習していませんが、今の私に出来る最高のパフォーマンスを発揮することにしましょう!

 こうして、優を含めた4人で行うクラス対抗リレー6年の部が始まる。

 その競技には、

「…お?あのちっこいの、この競技にはでるんだ。あいつには俺のカツ丼の偉大さを…。」

「はいはい。そういうことは後で言おうね。」

 下級生や、

「あいつは…!」

 同級生。そして、

「ねぇ?もしかしてあの子が例の…、」

「ええ。あんな子には育てたくないわね。」

 間違ったうわさを信じぬく保護者が見守る。

 いずれにしても、この場に優の見方は1割もいない。そんな中、

「それでは位置について。よ~い、ドン!」

 クラス対抗リレー6年の部が始まった。

 さて、最初はどうなっているのでしょう?最初は3位スタートのようですね。この学年は4クラスあるわけですから、下から2番目。出だしは快調、とは行きませんね。ですが、まだ始まったばかりです。逆転の機会はいつでもあるわけですから、諦める時ではありませんね。

「頑張れー!」

「諦めるな―!」

 だって、同学年の子達が、今走っている子を応援しているわけですから。それにしても、今走っている子はかなり人望あるのですね。みんなから応援をもらえるなんて、なんだか少し…。いえ、これは余計なことでしたね。今は自分の事に集中するとしましょう。

 さて、いよいよ1回目のバトン受け渡しです。上手くいくのでしょうか?

 う、上手いです。この芸当を今の私に求められても困るのですが…。かといって無責任に引き受けた訳でもないですし、今からでも辞退できますかね?と、こんな弱音を吐いている時ではありません。今の内に吸収できることはしておきませんと!おっと。今もこうしてみんなのバトン受け渡しシーンを見ているうちにもう2回目のバトン受け渡しが!私が所属しているクラスは…2位、ですか。さきほどより順位を上げていますね。やはり、バトンの受け渡しが勝利の鍵、と考えてよいでしょう。しかし、何度見ても上手くやれる自信がありません。脳内仮想訓練では上手くいっているとはいえ、油断大敵ですし。

(手の構え、動きは…、)

 もっと正確に分析する必要があります。ですが、慎重さまで考慮するとなると…やはり無理、なのでは?と、またも弱気になってしまいました!これでは出来るものも出来なくなってしまいます。それに、今の私を菊池先輩に見せるわけにはいきません!

(例え多少無様でも…!)

 今の私に出来る最大限のパフォーマンスを発揮するとしましょう!

 さて、3人目のバトン受け渡しも終わり、順位は…1位。この場合ですと、私がこの順位をキープし続ければよいわけですね。コースも構えもさきほど見て把握しましたし、後は、

(精一杯やりきるだけ!)

 さぁ!行きますよ!

 その時、早乙女優は気付いていなかった。

 バトンを受け渡す人が岡本剛輝、早乙女優を陥れようと画策していた人であることに。そして、何か企んでいる不気味な笑みを隠していたことに。

 私は今までの人がやっていた通りにバトンを受け取ろうとする。

(確かこのあたりで、走り出す!)

 私は走ってくる人に合わせつつ、速度を上げていく。だが手は後ろに構え、いつでもバトンを受け取れるようにして、と。これで後は、

(さぁ来い!)

 バトンを受け、取った!

 後は、

(全力で走り、1位でゴールするだけ!)

 私はすぐにギアを上げ、全力で駆け抜けようとする。

 だが、

「あ。」

 そんな腑抜けた声が聞こえた。

(え?)

 最初は後ろを振りかえようと思ったが、今は競技中。なので、後ろを向かずに走り始めようとした。それがいけなかったのかどうかは分からないが、急に背中から圧力をかけられる。

「え?」

 それは、さっき走ってきた人が、私に向かって倒れようとしていた。というより、今現在進行形でこちらに向かっている。

(や、やばい!)

 そう考えるも、時は既に遅かった。私はその人の下敷きになってしまい、

「いっ!?」

 思いっきり転び、バトンを手放してしまった。

「キャー!?」

「ちょっとあの子達、大丈夫かしら?」

 と、周りがざわめき始める。

 だが私は、そんな周囲の反応より、

(いっ!?急にあ、足が…!)

 私の左足に激痛が流れ始めたのだ。おそらく、転んだ拍子にひどく足を地面に打ち付けたのでしょう。すごい痛みが…。

(で、ですが…、)

 私は、上に乗っていた人がどいたところで体をあげる。

(いっ!?この人、まさか…!?)

 上の人がどいた瞬間、痛みが強くなった。見てみると、上に乗っていた人の足が乗っていた。

その人の顔を見ると、顔が、笑っていた。

(思いたくありませんが…。)

 可能性としては低いですが、この人、わざと転んだのではないでしょうか。理由は皆目見当がつきませんが、計画的にやった可能性を完全に否定することは出来ないでしょう。ですが、そんなことに思考を割いている余裕はありません。今もこうして抜かれているわけですし、例え順位が最下位でもゴールしなくては!

 私はその思いで立ち上がる。

(!?まだ足に痛みが…!?)

 これでは走ることが…!?順位は最下位でも、逆転できる可能性はあります。これなら、いける!私は、片足で走る。

 クラスのテントは、かなり静かですね。私を心配して、というわけではなさそうです。

「いやーねー。あんな走り方で。」

「私だったら絶対に走らせないのに。」

 ですが、例え周りの人から何を言われても構いません!今の私の精一杯を、見せます!

「ご、ゴール。」

 やはりというか確定と言いますか、私のクラスは最下位のようです。

「えっと、ただいまの結果ですが、最下位の3組はバトンを落としたため、失格となります。なので、獲得できるポイントは0ポイントです。」

 ・・・え?

 そんなルール、言っていましたっけ?そういえばルール説明の時に色々考え、詳細な説明を聞いていなかったような…?だとすれば、バトンを落とした時点で、私達の失格は確定していた、ということになりますね。もっといえば、さきほどの私の努力は全くの無駄、ということになります。

「いやーねー。あんだけ無様に走ったのに、評価されないなんて。」

「しょうがないじゃない。だって彼はカンニング…、」

「こらこら。そういうことはこういう場で言ってはいけません。」

 優を非難する声が飛んでいるなか、

「これで、クラス対抗リレーを終わりにします。」

 クラス対抗リレーが終わる。

 ケガした上で懸命に走った優の姿を称える者は、誰もいなかった。

 数名を除いて。


「優君!」

「優!」

 一方、この競技を見ていた菊池と工藤は、入場ゲートに向けて走っていた。行き先は千%優である。二人とも、優の怪我を心配し、優の元へ出来るだけ早く行こうと、足を速く動かしているのだ。その道中、

「あ。」

 二人はとある先生を道中に発見する。優の担任、小野口春である。

「あら?」

 小野口が急ぐ二人を見つけ、笑みをこぼす。その笑みに見覚えあった二人は視線を一瞬だけ交わし、

「菊池。お前は先に行け。」

「ええ。」

 以心伝心な行動をし、工藤は菊池を行かせる。

「あら?あの方は先に行かれるので?」

「ええ。急用ができましたので。」

「そうですか。あの方にも挨拶したかったですが、残念です。」

 という小野口の発言に、

「ええ。今度、ゆっくりお話しできると思いますよ。」

 と、口で言いつつ、

(くそったれが!自分の生徒が危険な目に遭っているというのに!)

 心境では悪態をつく。そう、この二人には、小野口の笑みに見覚えがあった。

(優を利用しやがって!)

 それは、優を悪時利用しようとする時の笑みであった。

「今はそんなに時間がないので、これで失礼しますね。」

「ええ!?もっとお話しして下さらないのですか!?」

 今、とても焦っている工藤にとって、小野口のリアクションは悪意の塊にしか考えられなかった。

「ええ。私もあいつに付き合わないと、なので、」

 と、思ってもいない言葉を言い、下げたくない頭を下げる。このスキルはきっと、会社員として過ごし、身に付けたものであろう。

「失礼します。」

 と、工藤は小野口の横を通り過ぎる。

 その瞬間、

「とろい上にカンニング魔とは…、いやはや、これだから問題児は。」

 実際は、工藤に聞こえるか聞こえないかの声量であった。だが、工藤はしっかりと聞き取れてしまった。自分の大切な人がそんな風に言われ、

「!!!???」

 工藤は自身の爪を食いこませ、赤くにじませるが、それで終わった。工藤は、小野口が離れるのを待ち、

「くそが!!」

 近くにあった大木に、思いっきり怒りをぶつける。ただでさえ赤くなっていた拳がさらに赤く色づく。

「こら優君!暴れないの!」

「だって!恥ずかしいんですもの!降ろしてください!」

「駄目よ!優君はけが人なんだから!」

 そんな中、とても聞き覚えのある声が聞こえる。その声は、先ほどまで話題となっていた人物と、その人物の保護者である。

「あ、工藤先輩!?こ、これはですね、菊池先輩が勝手に…!」

「へっへーん♪どう?羨ましいでしょう?」

 その声を聞いて、

「ああ。そうだな。」

 工藤は落ち着きを取り戻す。

「もう!…あれ?工藤先輩、その手は一体…?」

「ん?これか?これは…何でもないさ。」

 そう笑い飛ばす。そして、

「さ、車を今から出すから、もう少しだけ我慢してくれよ、優?」

「は、はい。」

 工藤はいつものように振る舞い出す。

 だが、怒りは鎮まっていない。静かに、その心を支配していった。優への理不尽な対応が消えるよう願って。

次回予告

『小学生達の運動会生活~終了~』

 いよいよ宝鳥小学校の運動会が終わる。その運動家にはハプニングがあったものの、早乙女優の悪評が広まっていたため、そこま大事にならなかった。自身の行いの悪さが自分に返ってきた、そう判断する人が多かったのだ。そんな状況のなか運動会が終わり、それぞれの生徒、保護者は帰路につき、美味しい夕飯にありつく。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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