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小学生達の運動会目前生活

 学校での峠も超えて、後は先生だけで準備をやるということなので、今週は先週に比べて比較的楽ができます。ですが、今週末には運動会があるので、気は抜けません。

「優君、いよいよね!」

「そう、ですね。」

 最初は何のことについて言っているのか分かりませんが、きっとあれのことを言っているのでしょう。

「運動会ね。」

「…え?運動会って今週なのか?」

 工藤先輩がそう言った瞬間、菊池先輩は路傍の石を見るような目で、

「…はぁ。こんなんだから、アルコール依存症は困るのよ。」

 と、深い、それはもう深いため息をついておられた。

「はぁ!?そ、そりゃあ俺だって悪いとは思っているぞ?でもな、だからって俺を病人扱いするんじゃねぇよ!」

「そんなんだから、保護者としての自覚が足りないんじゃないの?それとも、脳に糖分がいっていないの?」

「…ち。」

「まったく。ねぇ、優君?」

「は、はぁ。」

 私としては、運動会に来ないでほしいのですが。来ても面白くないと思います。

「それじゃあ今週末は、優君が力を十五分に発揮できるよう、とびっきりの愛と味を込めた美味しいお弁当を作らなくちゃね♪」

「いえ。自分でお弁当を作りますので、お弁当はいりません。」

 最初から、お弁当は私一人で作る予定ですし、菊池先輩方に迷惑をかけるわけにはいきません。そのことを菊池先輩方に話したら、

「優君!?私から楽しみを奪うつもり!?冗談よね?冗談だと言って~。」

 すぐに泣きそうになり、私に縋りついてきた。私は工藤先輩にヘルプの視線を送ったが、

「ま、今回ばかりは菊池の言う通りにさせてやってやれ。というか、俺も優の運動会を見に行くぞ。」

 と、ヘルプどころか、状況が悪くなってしまいました。とはいえ、菊池先輩だけならともかく、工藤先輩も見に行くのであれば、私一人ではもう止めることは出来ないのでしょう。ですが、これだけは伝えておくとしましょう。

「見に来ても、あまりいいところは見せられませんよ?」

 菊池先輩や工藤先輩は知っているのかもしれませんが、私は学校で不遇の扱いを受けています。ですからきっと、運動会もろくに出させてもらえないでしょう。見せ場もなく、ただただ他の子達が楽しんでいる様子を近くで見ているだけ。そんな一日が容易に想像できます。ですから、見に行っても、何も面白くもないですし、来るだけ時間の無駄だと思います。その事を二人に伝えたら、

「そういうものは、面白いつまらないで判断するものじゃないわ!」

「俺達はな、お前の頑張りを見に行きたいんだ。だから優、お前は普段通りにやっていればいいのさ。」

 と、そう言われてしまった。こう言われてしまったからにはもう何も言い返せません。私にも言いたいことが結構あったが、何も言わず、

「…分かりました。」

 そう返すことしか出来ませんでした。しかし、大人とは妙です。

 普段は結果しか見ないのに、こういう行事ごとになると、結果よりそれまでの過程を優先するなんて。ですが、こうなってしまったからには、私も運動会、頑張らないと、ですね!

 私はそう意気込み、今週末の運動会で良い結果を残せるように考えた。


 翌日。

 私は運動会の最終チェックのため、学校に来ていた。

「ごめんね、早乙女君。本当なら早乙女君に手伝わせるなんてあまりしたくないんだけど…。」

「いえ。私、学校にいる時は基本暇ですので問題有りません。」

「それは小学生としてどうかと思うんだけど…。」

 そんな雑談を交わしつつ、運動会の準備を始めていく。

「ふぅ。」

「とりあえずはこんなもの、ですかね。」

 必要な備品も用意出来ましたし、後は前日に並べるくらい、ですかね。

「本当にありがとうね、早乙女君。」

「いえ。これくらいはどうってことありません。」

 それに、こういった雑用は得意ですし、あまり嫌悪感が湧きません。もしかしたら、会社でも進んで雑用を行っていたから、その時の名残り、かもしれません。ま、保健室の先生には関係ないことですね。

「?どうかした?」

「いえ。それよりもうお昼の時間です。ご飯でも食べましょうか?」

「そうね。」

 こうして私達は、休憩も兼ねて昼食の時間を堪能するとしましょう。

 お昼。

 その時間中に話題となったのが、

「ねぇねぇ、知っている?来月号にあの絶世の美少女が出るらしいの!」

「ぜ、絶世の美少女、ですか?」

「ええ。ネットでも話題になっているわ。えっと…これよ!」

 と、先生が若干興奮気味で私に見せてきた画面は、

「・・・え?」

 それは、かつて写っていた潮田さんと、女装した私とのツーショット写真があり、その下には、

“来月号に奇跡のツートップ再登場!絶対に見逃せない世代がここにある!!!”

 と、大きな見出しが載っていた。

「…?どうしたの?顔、青いよ?」

「・・・いえ。それでこの記事はどうされたのですか?」

 色々と出所が気になりまくりなのですが。まさか、あの潮田さんが…なんてことはなさそうですね。となると、あのプロヂューサーさんが一枚噛んでそうです。私の今の生活に悪影響が出なければいいのですが…。

「この記事?確か昨日の夕方に、来月号の話があって、その時に告知されたのよ。」

「なるほど。」

 告知、ですか。まぁ確かに告知は重要ですし、そんなことでいちいち私に許可を求める、なんてことはしないでしょう。ですが、どんな写真を載せるつもりなのでしょうか?一応、撮られた写真全部を拝見し、全部大丈夫だったのでOKを出したのですが。まさかそれが裏目に…?

「確か予告に出てきた写真も一枚あったはず…あった!」

「ど、どれですか!?」

 いち早く確認しないと!

「!?ちょ、ちょっと!」

「…あ。す、すいません。」

 ついあせって、先生の迷惑を考えずに行動してしまいした。反省しなければ…。

「別にいいわ。随分焦っているのね。そんな早乙女君、珍しいわね。」

「お、お恥ずかしいです。」

 つい周りが…。

「で、写真とは?」

「これよ。はい。」

 と、渡された写真は、

「・・・ああ、これ、ですか…。」

 その写真は、

(まさか、おふざけで撮ったこの写真が載せられているなんて…。)

 ちなみに、おふざけで撮った写真とは、メイドとご主人様、という設定の写真だ。

 ここでいうメイドとは私の事で、ご主人様が潮田さん、という設定である。


 撮ったきっかけは、私達二人が少し休憩している間、次の撮影衣装についての相談をされていた。そして、その話し合いに、

「ねぇねぇ。私は、この服を優ちゃんに着て欲しいんだけど?」

 しゃしゃり出てきたのが菊池先輩である。

「今までの撮影衣装を見てきたけど、こういった類の衣服は今まで着てこなかったじゃない?だから、この服を着て新規開拓を行い、新たな読者層を獲得するのもいい手だと思うの。」

 とかなんとか言っているが、私にはそうは思えない。

 私には、

「優ちゃんにはこのメイド服を着せたいから、この子に執事服を着てもらう事でちょうどよくなるんじゃないかしら?」

 と、自己満足でしかない発言に聞こえる。ま、そんなふざけた意見に耳を傾けるほど、この業界の方々は甘くないはず、と高を括っていたら、

「新規開拓…、新たな読者層の獲得…、いいかもしれないな。」

 と、何故かカメラマンの目が輝き始め、

「だが、そうなると衣装が…、」

 プロヂューサーさんに至っては、私達に衣装を着させる前提で話を進めていた。もしかしなくとも、私の意志は尊重され…なさそうですね。本人に確認を取らずに話を進めているくらいですし。

「大丈夫よ!こんなこともあろうかと、ちゃんと用意してきたわ!」

 と、菊池先輩は少し席を外し、数分。戻ってきたと思ったら、服を2着、両手に持っていた。

(まさか…。)

 そう。私が想定していた通り、執事服とメイド服を持ってきていた。おそらく、菊池先輩の私物、なのでしょう。菊池先輩、一体いつの間に持ってきていたのでしょう?

「これを二人に着せてみたらどう?」

 と、執事服とメイド服を全員に見せた。ま、あんな趣味全開のものを着せるわけにはいかないでしょう。持ってき損、ですね。

 さて、休憩もそろそろ終わりますし、準備に…、

「・・・悪くない、な。」

「…え?」

 この声を皮切りに、

「いいでしょ?いいでしょ、この服!?」

 菊池先輩が服を褒め、

「…うん、うん…。」

 周りの人がその服に好印象を抱いていた。私としては、なんだか嫌な予感が…、

「潮田君。君はどうする?」

 ここで、プロヂューサーの方が潮田さんに話しかける。私には聞かないのでしょうか。ま、聞いてきたとしても、着たくありません、の一択ですけどね。それにしても、ああいった類の服に関して、潮田さんはどのような認識をお持ちなのでしょう。少し気になります。

「別に着てもいいわ。面白そうだし。」

 と、潮田さんまで着る気満々のようです。この場には、私と同意見の方はいないのでしょうか。

「ね?」

 そして、潮田さんは私に同意を求めるように言葉をかけてくる。私としては、まったく魅力を感じないのですが。かといって、そのまま伝えるわけにもいきませんし、ここは、

「そ、そうです、ね…。」

 一応、同意しているような否定しているような、曖昧な返事をしておくことにしましょう。完全に否定しまうと、その人、潮田さんを完全否定しているようで気分を害されてしまうしまう恐れがあります。あくまで恐れがあるだけ、なんですけど。

「じゃあ、着ましょうか?一緒に。」

「・・・え?」

 う、嘘、ですよね?私はそんな服、着たくないのですが。ですがさきほど、曖昧な返事をしてしまったが故に、表立って否定することが出来ず、

「…よし!ちょっと休憩時間を延ばし、その間に撮るか!」

 と、急遽撮ることとなってしまったのだ。

 最初、私が執事、潮田さんがメイド服で撮っていたのだが、

「・・・う~ん…。なんかしっくりこないなぁ…。次は逆にしてみようか。」

 ということで、私がメイド服、潮田さんが執事服を着ることとなったのだが、これが…なんというか…その…、

「うん!二人とも似合っているね!特に早乙女ちゃんは最高!」

 と、私と潮田さん双方べた褒めだった。そこでさらに調子が乗ってきたカメラマンさんは、

「詩織ちゃんにはこれ以上似合う服があると…、」

 ここで、私の姿(メイド服)を見て、

「ちょっと来て。」

 潮田さんのマネージャー、峰田さんを呼び、何かを話した後、潮田さんを連れてどこかに行ってしまった。

 一方、私はというと、

(たった一人でメイド服を着て待機ですか。かなり気まずい…。)

 と考えていると、菊池先輩と視線が合い、菊池先輩が何か口パクしているのが見えた。おそらくですが、

“優ちゃん!そのメイド服、とっても似合っているわよ!もう最高!!”

 と、言っていたと思います。口パクだけで何を言っていたのか予測出来るあたり、私にも読唇術、でしたっけ?そういったものが自然と向上されている様です。まさかこんな場面で自身の能力向上を実感するなんて思いもよりませんでした…。

 そんなことを考えていると、潮田さんが戻ってきました。ですが、服はさきほど着ていた執事服とは大きく異なり、ゆったりと歩く様がよく似合い、まるで…何て言うんでしょう?こういう時、ピッタリ当てはまる言葉があると思うのですが、今の私には、その言葉が何なのかが分かりません。自分の語彙力の無さに悔しさがこみあげてきます。

「うん!やっぱりメイドにお嬢様は鉄板だね!」

 お嬢様。なるほど。確かに、今の潮田さんの服装、振る舞い。それらを表現するのにふさわしい言葉です。それにしても、やはり私がメイドなのですね…。

「よし!それじゃあこれで一枚撮ってみようか!」

 カメラマンさんはさらにやる気になり、

「次は小道具を取り入れてみようか!」

 そして、もっともっとやる気になった。

 おそらく、カメラマンさんが今までで最も気合いを入れた部分でしょう。私はそう感じました。

 こうして、メイド姿の私と、ご主人様姿の潮田さんの写真が撮られました。


「それにしても、この服には驚きだったわ。」

「そ、そうですね。私も驚きです。」

 私も着る予定はなかったのですが、菊池先輩の差し金により、急遽着ることになってしまったんですよね。ほんと、菊池先輩を恨んでやりたいです。ですが、どうにも憎めないんですよね。

「ふ~ん。なんか、こういうことに関しては早乙女君、無関心よね。」

「そ、そうですか?」

 無関心どころか、今後の行く末にとてもとても興味があります。ですが、自分から情報を進んで仕入れようとしない辺り、そこまで真剣に考えていないのかもしれません。

「…ねぇ?」

「はい。」

「早乙女君って、何が好きなの?」

「好きな物、ですか…。」

 例えばアイスとか、そういったことなのでしょうか。

「具体的には、早乙女君の趣味、かしらね。」

「私の趣味、ですか。」

 そうですね・・・。

 アイスを食べること、は趣味ではないと思いますし、仕事…、も違う感じがしますね。後は…何でしょうか?趣味とは難しいものです。多少できることはあるのですが、趣味なのかと聞かれると、少し違う気がしますね。それこそ仕事や家事、それと…、

「・・・あ。」

 ここで、学校のチャイム音が学校中に鳴り響く。このチャイム音は、給食時間終了の合図を知らせるものだ。つまり、

「…本当は、早乙女君の趣味とか聞きたかったけど、給食の時間が終わっちゃったし、それじゃあ再開しようか。」

「そうですね。」

 正直、あのチャイム音には助かりました。私の趣味、ですか。今後、自身の趣味を胸張って言えるよう、しっかり考えておかないと、ですね。自身への課題を発見しつつ、私は午後も運動会の準備に励んだ。

 さ、後は運動会を待つだけです。

 こうして、運動会目前となっていった。

次回予告

『小学生達の運動会生活~午前~』

 いよいよ宝鳥小学校の運動会が始まる。午前は同性二人三脚やかけっこが行われ、順々に競技が行われる中、優は当日も雑務に追われることとなっていた。そして、優を陥れる作戦がクラス間で練られている。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?

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