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小さな会社員と同級生達との遠足生活

 ゴールデンウィークという長期休暇が終わり、気怠い雰囲気を発しながら登校していく学生達。

 そんな雰囲気で学校を過ごすこと数日、私はこんなことを聞いた。

「は?遠足、ですか?」

「そ、来週あるらしいのよ。」

「はぁ…。」

「…もしかして、楽しみだったりする?」

「いえ。そんなことはまったくありませんよ。」

「そんな抑揚のない声で返さなくても…。」

 と、言われましても。

 本当に遠足なんか興味ないし。

「そもそもどこ行くのか知りませんし。」

「え?知らないの?」

「知りませんよ。」

 なんで私が知っていると思ったのやら。

「東京ドイツ村よ?」

「へ~。」

 東京ドイツ村か。

 確かに、あそこは行ったことが無い。

 だからといって、別に行きたいかと言われれば、そううでもないんだよね。

 疲れそうだし。

「…この知らせを聞いた時、あなたと同い年の子達、大喜びしていたのだけど…。」

「そんなの、人それぞれじゃないですか?」

 行きたい場所、行きたくない場所は人それぞれだろう。

 私だったら、東京ドイツ村よりアイスクリーム屋でアイスが食べたい。

「そもそも、なんでこんな時期に遠足があるのです?」

 ゴールデンウィークが終わった翌週にしなくてもいいのでは?

「さぁ?そんなこと、私に聞かれても知らないわ。ま、社会見学の一環として、楽しんで来なよ?」

「と、言われましても…。」

 あのクラスの人達と一緒に行けって言うのか?

 あんな嫌われている場所にわざわざ自分から乗り込もうだなんて…。

 私はそんなことはしたくないな。

「…そんなに行くのが嫌なの?」

「…え?何故です?」

「顔に出ているわよ。」

 そこまでだったか。

 今度から気を付けないとね。

「なんか、すいません…。」

「ま、気持ちはある程度、分かるけどね。それでも、全員から嫌われているとは思えないけど?」

「…どういう事ですか?」

「前来たあの子。君と同じクラスの子よ。気付かなかった?」

「え?そうだったのですか?」

 まったく気付かなかった。

 どうも、この学校のことになると、人の名前や顔が覚えづらい。

 …何故だろう?

 あんだけ馬鹿にされたからかな?

 それとも…?

「…ほんとに君は…ま、いいけど。」

「それで、その子はいったい誰なんです?」

「その子はね…。」

「その子は…?」

 私は先生に問いかける。

「…やっぱり言わない。」

「ええ!?」

「こういうことって、本人が直接言うべきものよ。私から言うのは野暮ってものよ。」

「そしたらこの私のモヤモヤした気持ちはどうすれば…?」

 そう言うと、先生は、

「ま、来週の遠足になれば分かるんじゃない?」

 と、投げやりな言葉で返してきた。

 私は、

「はぁ…。」

 と、力無い声で返事することしか出来なかった。



 遠足前日。

 私は近くの商店街で大量の食材を買い込み、自分が住んでいるマンションに帰宅する。

 このマンションは菊池先輩達の会社が所有している社員寮だ。

 ()()()()、私もここに住まわせてもらっている。

 ちなみに、この社員寮は元々、とある人が所有していたものを、会社に貸しているらしいのだが、その人物とは、

「優君。なんか今日はやけに多く材料を買っていたけど、こんなにどうするの?」

 そう。

 この菊池先輩である。

 経緯(いきさつ)は分からないが、菊池先輩が好意でこのマンションを社員寮として貸しているらしいのだ。

 それなりに豪華で、一階にやや豪華な共有スペースがあり、とても料理しやすい。

 私も、この共有スペースで調理させてもらっている。

 ま、今日は自室の台所で調理するんですけど。

「菊池先輩、わざわざすみません。ここまで運んでもらって…。」

「いいのよ!このくらい、どうってことはないわ!隣どうしなんだし!」

 ちなみに、私の部屋は三階の角にあるのだが、菊池先輩はその隣に住んでいる。

 なんでも、“このマンションを貸しているんだから、これぐらいいいでしょ?”と無理矢理部屋を決めたのだ。

 みんなの反応は、

「ま、それぐらいはいいか。」

とか、

「うん。ま、流石、だよな。」

 と、むしろ、菊池先輩の行動に納得?していた。

 …ま、別にいいけどね。

 それに、こうやって、手伝ってもらっているし、文句はないけど。


「明日は遠足らしいので、お弁当を作ろうかと思いまして…。」

「あら?それなら毎日作っているんじゃ…?」

「それはそうなんですけど、今日は試したいことが色々あるので、それらも作ろうかと思いまして…。」

 あのゴールデンウィークで料理を少し学んだから、その腕を試したいし。

「なるほど。それでこんなにたくさん買い込んでいたわけね?それで、他に手伝えることはある?」

「いえ。後は私一人でやるので大丈夫です。ここまでありがとうございます。」

 私は菊池先輩に向かって頭を下げる。

「いいのよ!そんなにかしこまらなくても!私と優君の仲じゃない!」

「…そうですね。」

「…優君?今の間は何?」

「いえ別に。」

 私と優君の仲って…。

「それでは、もう空も暗くなり始めているし、そろそろ…。」

「そうね。それより優君、一人で大丈夫?たまには一緒に寝ない?」

「いえ、大丈夫です。」

「もう~。即答しなくてもいいじゃない?優君のいけず。」

「どこがですか。」

 まったく。

 いい年なんですから、立派な淑女として、もうちょっと成長してほしいものです。

「…優君?今、失礼なこと、考えなかった?」

「…イエ、ベツニ。」

 何故分かった?

 とは、口に出さないでおこう。

「…そう。それじゃ、お休み、優君。」

 そう言って、菊池先輩は私をギュッと抱きしめる。

 …もう、何度言っても治らないな、先輩のこの癖。

 指摘するのも面倒くさい。

 私は甘んじて、菊池先輩の抱擁を受け入れ、

「はい、お休みなさい。」

 と、返事をした。


 自室に入り、大量の食材とにらめっこを始める優。

 そして、

(さて、どれから調理しようかな?やっぱり唐揚げからかな?今回はいつもよりボリュームを優先して作りたいから、肉は…これかな?)

 どの料理から作ろうかと悩んでいた。

(いやいやいや!やっぱり時間がかかる…パンから作ろう!今からでもクロワッサン、作れるかな?それとも普通のパンにしようかな?)

 そして、悩むこと数分。

「よし!取りあえず、片っ端から作ろう!時間が余ったら、パンでも焼こう!うん!」

 そう言い、私は調理台に向かい、エプロンを着て、手を洗う。

 …よし!準備完了!

「さて、始めますか!」

 満面の笑みで、手に持っていたキャベツをみじん切りにし始める。

 それから、優の長い料理が始まった。



 チュンチュンチュンチュン。

 朝を伝えんがために、スズメが鳴く。

 そのスズメの鳴き声を聞きながら伸びをしている少年がいる。

「ああ!?結局、こんな時間まで料理しちゃったのか…。」

 早乙女優である。

 あれから優は文字通り、色んな料理を作った。

 ヒジキの煮物、肉じゃが、唐揚げ、ホウレンソウのお浸し、卵焼き、ハンバーグなどなど、冷蔵庫の中には、それらを入れたタッパーで一杯になっていた。

 台所には、まだ洗い終えていないフライパンや鍋が無造作に置かれていた。

 そして、至る所に油がはねていた。

「そういえば、台所の掃除の時間、考えていなかったな。」

 そう。

 確かに、遠足に行くための用意も、試しに作りたかった料理も、用意は終わっている。

 だが、片付ける時間を考えずに、今の今まで料理していたことに気付く優。

「どうしよう?」

 眠い頭で悩むこと数分。

「…出来るところまでやろう。」

 そう決断し、洗剤とスポンジを手にし、残りの時間を掃除にあてた。

 用事も済ませ、なんとか遠足に間に合ったが優だが、多大な疲労が残っていた。

 そして、東京ドイツ村に向かう中、優はバスの中で、

「スーピー。」

 アイマスクをつけ、道中、ずっと寝ていた。

 

 そして、優は気付かなかった。

 今回のバスの席順は男女混合で、女子が隣に座っていたのだが、

(…はぁ。せっかく隣に座れたのに、こんなにぐっすり眠っているんじゃ、声かけられないよ…。)

 その女子は以前、家庭科クラブの件で保健室に訪ねてきた人、桜井綾(さくらいあや)であったことに。


「…どうしたの、綾?」

「…洋子。」

 桜井綾の後ろに座っている友人、風間洋子(かざまようこ)は綾の様子がおかしいことに気付き、声をかける。

「…今日も声、かけたかったんだけど、これじゃあかけられないなって。」

「もしかして、この子が例の…?」

「うん!早乙女優君って言うの!」

「この子って確か…カンニング魔って先生が…。」

「もう!洋子もそんなこと言うの!?」

「…じゃあさ、これ、解かせてみようよ?」

 と言い、風間洋子は一冊の本を取り出す。

「…何それ?」

「これは、姉が使っている参考書なんだ。なんでも、中学生レベルの問題が載っているんだ。」

 と言って、綾に見せる。

「…何これ?何やっているのか全然分からない…。」

「今はそれでいいのよ。いずれ、解けるようになるわ。お姉ちゃんも言っていたし。」

「でも、こんな問題、いくら早乙女君でも…。」

「だからこそ、試す価値があるんじゃない?」

 そう言ってウィンクをする様子は、まるで小悪魔のようだ。

「…でも、いつ、解かせようかしら?」

「…それなら、昼食の時間の時でいいんじゃない?多分、早乙女君?だっけ?独りで食べると思うし。」

「…そうだね。そうしようか。」

「ええ。」

 こうして、少女2人による作戦が計画された。

 そんなことは露知らず、隣にいる優は、

「う~ん。もう夢みたいだ~♪」

 夢を見ていた。

 その夢は、優にとって最良の夢だが、その夢の内容は誰にも分らないだろう。



 東京ドイツ村に着き、記念写真を撮り、辺りをある程度散策した後、

「それでは今から自由時間とします。午後の3時にはここを出発しますので、それまでにきちんと集まるように!」

「「「は~い!!!」」」

 優以外の生徒は先生の指示に大きな声で返事をする。

 一方の優はというと、

(…眠い。)

 眠そうにしていた。

 さすがに一晩中料理していたのが体に響いているのか、体が重く感じていた。

「それでは、解散!」

「「「わー!!!」」」

 一斉に散らばり始める生徒達。

 優もゆっくりではあるが、この場を離れようとする。

 その重い足取りで移動しようとした時、

「ねぇ?ちょっといい?」

 という声を聞く。

 優は、自分に声をかけたのかと最初は思ったが、

(そんな訳ないか。)

 あの教室のカンニング(やっていない)事件から、すっかり嫌われていると自覚しているので、そんな訳ないか、と自己解決し、その場を離れようとする。

 が、急に肩を捉まれ、

「ちょっと!?あなたに言っているのだけど!?」

 と言われ、ここでようやく、

(あ、私に言っているのか。)

 優は自分に言っているのだと理解し、後ろを向く。

 そこには、

「ちょっと話があるんだけど、これからいい?」

 二人の見知らぬ少女がいた。

 

「えっと…、何か?」

 私は今、困っている。

 何せ、急に見知らぬ女の子に声をかけられたのだから。

 もしかして、会ったことがあるのかと思い、必死に自分の記憶を遡っているが、そんな記憶はどこにも無い。

 なので、内心は、

(早く一人になりたいな。)

 なんて考えていた。

「あなた、早乙女優君、だよね?」

「ええ。そうですけど。」

 なんで私の名前を知っているのだろう?

 もしかして、同じクラスの子なのかな。

 でも、クラスの子全員から嫌われているし…。

 優が困っていると、もう一人の女の子が、

「あの!よかったら私達と一緒に!ご飯!食べませんか!?」

 と言う。

 私はどうしようかと思ったが、断るのも申し訳ないと思い、

「…私なんかでよければ、いいですよ。」

 と言った。

 その後、二人から、

「よし!取りあえず、第一関門突破ね!」

「うん!」

 という会話があったが、私にはその会話の意味が分からなかった。


 解散した場所から少し離れ、私達はレストラン近くの外テラスに来ている。

 その一席に私と女の子二人が向かい合うように座っていた。

(お腹空いたな。)

 そういえば、一晩中料理していて味見はしていたけど、まともな食事はとっていなかったっけ?

 そんなことを考えていた。

「あの…何か用、ですか?」

 私は申し訳なさそうに尋ねる。

 初対面の人と話す時って、いつも緊張するな。

「ええ。でもその前にお昼にしましょう?」

「うん!」

 と言いながら、二人の女の子はお弁当箱を取り出す。

 やはり年相応、と言うべきなのだろうか。

 二人とも弁当箱がピンク色でいかにも女の子っぽいデザインだった。

 私も弁当箱を取り出すかな。

 そして、私もリュックサックから弁当箱を取り出す。

「「ええ!!??」」

 ん?

 何かおかしいものでも見たのかな?

 私は周囲を見渡す。

 …うん。何もおかしいものはないね。

 私は改めて二人の視線の先にあるものを見る。

 それは、私の弁当箱だった。

 もしかして、私の弁当箱に何か変なものが?

 そう思い、私も自分の弁当箱を見てみる。

 …あれ?

 別におかしいものなんて何もないな?

 それじゃ、二人は一体何に驚いているのだろうか?

「あなたのお弁当、凄くない?」

 と、一言。

 その一言に首を縦に振る女の子。

 まぁ確かに、今日のお弁当はゴールデンウィーク中に試したかった料理等色々作ったからね。多少多くなったかも知れないな。

 でも、

「確かに今日は多めですけど、そこまで驚くほどですか?」

「「いやいやいや!!そんな訳ないから!!」」

 と、私の言葉を全否定。

 そこまでかな?

 あ。

 そういえば、このお弁当、先輩達も食べているかな。




 場所はとある会社。

 時刻はお昼休みを迎え、みな、何を食べようかと悩んでいた。


「はぁ~。今日も優君、いないのね…。」

「…お前な。毎日毎日それ言うのをやめろ。俺達の気が滅入るわ!」

「ええ~?だって~…。」

「だっても、へったくれもあるか!いい加減慣れろ!」

 今日も相変わらず、菊池と工藤は仲良く?話していた。

「あの~。みなさん、ちょっといいですか?」

 菊池が振り返ると、そこには大荷物を慎重に運んでいる受付員がいた。

「何?」

「優君から預かり物があるんですが…。」

「預かり物?」

「はい。お昼時になったら渡して欲しいと頼まれましたので、渡しに来ました。」

「優君が!??」

「え、ええ…」

 菊池は目にも止まらぬ速さで、受付員の前に行く。

「菊池、興奮し過ぎだ。」

「あら、失礼。それで中身は?」

「お弁当って聞いていましたけど…。」

「でかいな。」

「ええ。」

 渡された重箱は五段ほどあり、重箱だけでなく、タッパーも入っていた。

「それでは私はこれで…。」

「あら?あなたはこれ、一緒に食べないの?」

「え?いいのですか?」

「もちろんよ。優君ならきっとこう言うわ。」

「あ、ありがとうございます!」

「お礼は優君に言いなさいな。」

「はい!」

 と、持ってきた受付の人は菊池に笑顔を送った。

「…さて、とりあえず。この弁当箱?開けるか。」

「そうね。こんなにたくさん何を作ったのかしら?」

「き、気になります…。」

 代表で工藤が重箱を開ける。

 パカ。

 そこには、

「な、何これ…!」

「さっすが、優君ね!」

「これ、さすがってレベルか?」

 大量の料理の数々が、所狭しに並んでいた。

 決して綺麗な並びをしているわけではないが、そんな些細なことはどうでもいいと思えるほど、数多くの料理が並んでいた。

 少し見ただけでも、オムレツ、グラタン、唐揚げ、ナポリタンから、ほうれん草のお浸し、トンカツ、アジフライなどなど、実に色々な物が彩っていた。

「おいおい!ピーマンの肉詰めって普通、緑色のやつで作るんじゃなかったか?なんでこんなにカラフルなんだよ?」

「これってパプリカだね。優君、見た目も重視したのね!」

「見て下さい。下の段には…。」

「…優の奴、頑張り過ぎだろ。なんでシュウマイや肉まんとかも入っているんだ!?」

「あれ?この肉まん、中身魚肉じゃない?」

「なんだと!?というか、もう食っているし!!」

「あの…。そのお弁当、どうしたのですか?」

「ん?」

 菊池達が騒いでいること気になり、近寄ってくるお弁当組。

 そして、

「な!?な、なな、ななな…!?」

「落ち着きなさい。」

 言葉にならない悲鳴を上げていた。

「そのお弁当箱、もしかして菊池さんが!?」

「違うわ。優君が私達にって。」

「優君が一人で、ですか!?」

「ええ。」

「あいつ、将来は料理人だな。」

「「「うんうん。」」」

 工藤の一言に、会社員一同全員の意見が一致した瞬間だった。


「それじゃ、ここにいるみんなでいただきましょうか?」

「「「「「「はい(((おう)))!!!!!!」」」」」」

 残っていた社員一同、優が作ってきた料理を楽しく食べていた。

 そして一言、

「「「「「「美味っ!!!!!!??????」」」」」」

 こうして、社員一同、満足いくお昼を満喫していた。

「あれ?一番下の段、デザートが入っているわ。」

「「「「「「まじか!!!!!!??????」」」」」」

 一同、最初から最後まで驚きっぱなしだった。




 場所は東京ドイツ村。

 女の子二人が優の言葉を全否定したところまで遡る。

「ねぇ?このピーマンの肉詰め、なんで色とりどりなの?私のは緑一色なのに」

「え?それはピーマン使っているからなのでは?」

「へぇー…。」

「あの!これってもしかして、早乙女君が全部作ったの?」

「まぁ。」

 信じてくれるか分からないけど。

「す、すごい!私なんか、全然出来ないのに!」

「これ全部手作りなの!?信じられない!??」

「そ、そうですか。ま、毎日作るのはさすがに無理ですけど。」

 毎日一晩中かけてお弁当を作るなんてしたら体壊すし。

「うちのお母さんでもここまで凝ったもの作れないわよ。」

「早乙女君って一体…?」

「?とりあえず、食べていい?」

 寝起きに近い状態で、昨晩からあまり食べていなかったからもうお腹が…。

「あ!なんかごめんなさいね。もちろんいいわよ。」

「そうだよ!元々早乙女君の物だし。」

 ま、そうなんですけど。

 そんなにジロジロ見られながらだと食べづらいのですが…。

「…よかったら、味見します?」

「「いいの!!??」」

「!??」

 ちょ!?

 食いつき過ぎじゃないですか、お二人とも。

 それから私は、先ほどから気になっていたであろうカラフルなピーマンの肉詰めを少し分けてあげた。

 味の方はどうだろうか?

「「美味しい!!??」」

 よかった。

 美味しく食べてもらえて。

 そういえば、学校で同学年の人達とワイワイ楽しくお昼食べたことなかったな。

 こんな感じ、なのだろうか。

 優はそんなことを考えながらお昼を過ごした。


 お昼を食べ終え、弁当箱を片づける私達。

 だが、二人の女の子の前に、とある冊子が置かれていた。

(あれって、問題集?なんで今、ここに置いたんだ?もしかして、ここで解くのかな?)

 と、そんなことを考えていると、

「そういえばあなた、あの抜き打ちテストで満点取ったじゃない?」

「抜き打ちテスト?」

「そうよ。」

 何のことだ?

 あ、あのテストのことか。

 みんな私のことをカンニング魔って呼ぶ原因となったあのテストか。

 でも、

「あなた達は信じていないのでは?」

 私としては、あんな教室に行かなければもうどうでもいいのだけど。

「だからこれを解いてほしいのよ。満点取ったのなら、出来るでしょ?」

 と、私に勝ち誇った顔を向けてくる。

 私は差し出された冊子を手に取り、パラパラめくる。

 あれ?

 これって確か…前にやったことあるな。

 確か、連立方程式についての問題集、だったかな。

 解とか、グラフの形とか、そういったものを計算して求めたような気がする。

「答えを書けばいいのですか?」

「え?え、ええ…。」

 とりあえず、私は持ってきていた筆記用具と白紙の紙を取り出し、問題を解く。

 ・・・。

 よし、これでいいかな。

 一応見直しもしておこう。

 …うん。問題ないね。

「はい、これが答えです。」

 と言って、解答を記した紙を女の子二人に渡す。

「え!?もう出来たの!?早くない!??」

「え?そうですか?」

 念入りに見直ししたから、むしろ遅いと思ったけど、違うのかな?

「それでどうなの?答え、合っているの?」

「…嘘。合っている。」

「でしょ!だから言ったじゃない!早乙女君は頭がいいんだって!」

 …なんであなたがそれを偉そうに言うのですか?

「…たまたま。そう、たまたまよ!偶然よ!」

「ちょっと洋子!早乙女君に失礼でしょ!?」

「違うわ!これはきっと偶然よ!だからもう一回解かせれば化けの皮を剥がせるわ!さぁ、次はここをやりなさい!」

 と、洋子と呼ばれた女の子はやる問題を指定してくる。

 私は指定された問題を見てみる。

 …うん、さっきと問題のパターンが似ているな、

 これはやりやすい。

「ちょっと洋子!いくらなんでもその言い方はひどいんじゃない!?」

「綾だって、あの男?に騙されているのよ!目を覚ましなさい!」

 私は二人の喧嘩を聞きながら問題を解く。

 そういえば、男の後、なんで疑問形だったんだろう?

 ま、別に気にしなくてもいっか。

 ・・・うん、これでいいかな。

 見直しは…、うん、バッチリだな。

「はい、出来ましたよ。」

 そう言って、先ほどと同じように渡す。

 洋子、さんは渡そうとしていた紙をひったくるように取り、答え合わせを始める。そして、

 同年代の人の呼び方ってこれでいいのかな。

「…嘘でしょ。合っているわ。」

「ほら!だから言ったじゃない!」

 と、先ほどと似たような受け答えをする二人。

 違う点があるとするなら、

「は、はは、ははははは…。」

「ちょっと洋子!?どうしたの!?」

 洋子さんが、乾いた笑みを浮かべながら固まったことぐらいだ。

 …私、何もおかしいことしていないよね?


 少したって、洋子さんが落ち着いたのか、先ほどのような声を発しなくなった。

 そして、

「…ごめんなさい。あなたの事、疑ったりして。」

 開口一番、謝罪を言われた。

「いえ。そんなことはないです。」

 ま、私も自分の容姿について、かなり誤解されてきたので、もうそれほど気にしていない。

 …気にしては、いない、と思う。

 多分…。

「そうよ!やっぱり早乙女君、頭いいんだ!」

「そうよ!なんであの時言わなかったの!?」

 あの時?

 …ああ。テストの時か。

「あの時言おうしましたが、みなさんは一切私の話を聞こうとはしませんでしたよ?」

「「ごめん……。」」

「もう気にしていないのでいいですけど。」

 ま、大概の人は誤解だと分かっても、謝罪すらしなかったので、謝罪があっただけでもちょっと嬉しい。

「…それで、これからどうする?」

「これから、とは?」

「この後の自由時間だよ!」

 そういえばそうだな。

「私はこのままゆっくり休もうかと…」

「ええー!?遊ばないの!?」

 なぜそこで驚くんだ?

 私は疲れているから休みたいのだが?

「そうよ!ここまで来て遊ばないのはもったいないわ。」

 と言い、手を引こうとする洋子さん。

「あ。そう言えば私達のこと、憶えている?」

「そうだよ!私の事は覚えているよね!?ほら、家庭科クラブの時の…!」

 確かに、家庭科クラブの時は覚えている。

 そして、得意料理が焦げた目玉焼き、ということも憶えているのだが…。

 名前が…でてこない。

 聞いた覚えもなかったし、名乗られた覚えもない。

「えっと…、すみません。覚えていません」

「「ええ!??」」

「同じクラスなのに!??」

「自己紹介したよね!??」

 確かに、初日にみんなの自己紹介はあった。

 だけどその時私、聞いていなかったんだよね。

「はぁ…。分かった。改めて自己紹介するわ!いいわよ!よく覚えておきなさい!」

「はい」

 そして洋子さんは私に向かって指を差し、

「私は風間洋子!好きな食べ物はクレープよ!」

 それに続かのように、

「えっと…、私は桜井綾。好きな食べ物はお好み焼きです。よろしく。」

「よ、よろしく。」

 ガシィ!

「あの、何故手を掴むのでしょう?」

 これではゆっくり休めないのですが…。

「「遊ぶためだよ!!」」

「ええ!?」

 そんな!?

 今はゆっくり休みたいのに…。

 そんな私の思いを踏みにじるように、遊びに連れ出そうとする二人。

「わ、分かりましたから!手を放してくださ~い!」

 こうして、私は無理矢理連れられる。

 その後、二人のペースで行動したため、ただでさえ疲れていた体に鞭を打って動かしたため、帰りのバス内でも、

「スー。ピー…。」

 夢の世界へ旅立っていた。


「洋子!きょうは楽しかったね!」

「ええ。それにしても…この子、もう寝ちゃったのね。」

「ねぇ。疲れていたのかな?」

 バスでの帰り道、優が寝ているなか、二人は話していた。

「それにしても、なんで早乙女君。あんなに疲れていたのかしら?」

「さぁ?早乙女君って普段、何しているの?」

「それは私が聞きたいのだけど…。」

「それじゃあさ!後で、二人で聞きに行こうよ!」

「…そうね。後で、行こうか?」

「うん!」

 こうして、優への誤解が解けていった。

 だが、まだ二人。

 クラス内での優の扱いは、未だ改善されない…。

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