小さな会社員とある姉の初対面生活
先日、潮田さんとの写真撮影を終え、私は深く眠り、翌日となった本日。私は、
「ふぅ。」
社員寮の前を掃除していた。最近、落ち葉が多く見られるこの季節。見る分には風情があるかもしれないが、落ち葉が散らかっていると、どうにも落ち着かない。やはり落ち葉を一か所に集めて、利用方法を考えませんと。去年は焼き芋をしましたし、今年も焼き芋にしましょうか。それとも、アルミホイルの中にジャガイモとバターを入れて、ジャガバターにするのもありですかね。そんなことを早朝から考えていると、
「はっはっはっはっは…。」
とある女性が走ってきた。
身長は私よりあり、上下長ジャージ姿で呼吸を乱しつつ、社員寮前を通過する。
(綺麗なフォームですね。)
私は、走り姿についての良し悪しというものはよく分かりませんが、綺麗なフォームだな、と素直に思いました。猫背でぜぇぜぇ息を切らすのではなく、背筋を正し、一定のリズムで呼吸するその姿は、目に入れてもまったく問題ありません。朝から素晴らしいものを見れて、あんなに頑張っている人を見て、思わず、
「私も頑張りますか。」
自分にも気合いが入ります。環境によって、人は良くも悪くもなる、という話は本当かもしれませんね。現に、あんな頑張っている人を見て、私は力をもらいましたし。
「さて、今日はこれくらいにして、そろそろ…、」
朝ご飯の用意をしませんと。今日はうどんとそばの2種類。後は食べる人用に天ぷらと味噌汁。後は…、
「あ、あの!」
「…え?」
だ、誰でしょうか?て、先ほど社員寮を走って通過した人じゃないですか。わざわざ戻ってきたのでしょうか。
「な、なんでしょうか?」
私には、面識がほとんどないのですが。というか、最近見るようになったような気が…?
「えっと、あなたに話があるの。いい、かな?」
「…話、ですか…。」
その話がどれほどかかるのかは分かりませんが、こちらにも予定はあります。ですが、この人にもそれなりの事情や覚悟を持って、こうして話しかけてきているわけですし…。
(今の時間は…5時半ちょっと前、ですか…。)
まぁ、やることと言えば、部屋に戻って学校に行く準備くらいですし、朝食の用意も、天ぷら以外はあらかた終わっていますし、すぐに戻れば大丈夫ですかね。それにしても、
(この人は一体…?)
見たところ、悪い人ではなさそうですが、なにしから事情があるのでしょう。話しかけてからずっと、私の目を見ようとしません。そっちから話しかけてきたのに。ちょっと失礼な気がしないでもないですし、それがさらに不安を感を増やしていきます。本当、この人は一体…?
「え、えっと…。あ、私は美和って言うの!」
と言いつつ、ポケットからとある手帳を取り出し、私に見せようとしてきました。
(あれ?あれは確か…。)
私はとある文字に見覚えがあり、
(でしたら、問題ありませんね。)
「いえ。見せなくても大丈夫です。」
「え?あ、うん、ありがとう。」
と、手帳をポケットにしまう。
(あれは確か、近くの高校の校章、でしたね。)
おそらくですが、この女性は高校生。躊躇なく手帳、ではなく生徒手帳ですね。それを見せようとしたあたり、悪いことをしようとは企んではいないでしょう。企んでいるのであれば、自分の身元を自ら明かそうとなんてしませんし。ですが、挙動がちょっとおかしいんですよね。さきほど走っていた姿とは正反対です。どちらが本当の彼女なのでしょうか。
「それで、私に話、というのは?」
「えっと…、と、とりあえず!近くの店に入りませんか!?朝からやっているレストランがあるので、そこで一緒に、その…。」
と、何故かモジモジし始める美和さん。そういえば苗字を自ら名乗っていませんでしたね。やはり、生徒手帳を見せてもらった方が良かったですね。改めて言う、なんてことはしませんが。
「分かりました。ですが、ほんの少しだけ時間をください。」
「え?出来れば大人の人は勘弁してほしいんですけど…。」
「…いえ。ただ、ちょっとでかけてくると言ってくるだけですので、すぐ戻ります。」
本当は、菊池先輩を連れて行きたかったところですが、美和さんの希望を通すことにしましょう。ま、菊池先輩がこんな朝早くに起きているとは思えないのですが。
「あ、うん。分かった。」
と、先ほどとはうって変わって、安心したような表情を見せる。そんなに大人に聞かれたくないのでしょうか。
さて、社員寮の共同リビングに書き置きを残して、と。
“今日ですが、諸事情により、少し出かけてきます。朝食は置いておきますので、各自で食べていてください。”
予め用意しておいた朝食をテーブルに並べ、書き置きとともに置いておく。天ぷらをつい来る時間がなかったのが残念ですが、代わりにサラダと肉ジャガを置いておきましたし、足りるでしょう。金曜の夜、作っておいてよかったです。
「さ、行きましょうか?」
用意が終わり、私が声をかけると、
「…うん。だから、こっちの朝ご飯は無くていいから。」
先ほどとは全く異なる口調で電話をしていた。まるで、さっき走っていた凛々しい姿を正確に表したような、そんな感じで、である。
(もしかして、この人の本当の性格はこっちなのでは?)
私はそんなことを考えます。
「あ!ちょっと待って。それじゃあ。」
と、美和さんは電話を切り、
「さ、さぁ。行きましょう、か?」
そして、またおどおどとした立ち振る舞いに戻る。
「え、ええ。」
私はそのような光景を見て驚き、ついつい返事がどもってしまう。
こうして、初対面の女性と二人で、朝から店へと入っていく。
社員寮から歩き、ここは朝からやっているレストラン。そこに私達二人は来ていた。
「あ。ここはもちろん私の奢りだから好きなもの頼んでいいよ。お金も持ってきたし。」
と、一万円札を財布から見せた。ま、私もお金を持ってきているので問題有りませんが。
「そうですね…。」
朝食ですし…、
「このモーニングカレーのセットでお願いします。」
「それじゃあ私も同じものにしますね。」
そして、それらを店員さんに注文しようとしたのだが、
「ご注文は?」
「・・・。」
美和さんは、店員さんが着た瞬間、メニューで顔を隠し、目を合わせないようにしていた。これでは注文できないだろうと思い、
「モーニングカレーのセットを2つ、お願いします。」
「かしこまりました。」
こうして、店員さんが私の席から離れると、
「ふぅ~。」
あからさまに安堵の息をもらしていた。う~ん。一体どういうことでしょうか?謎が謎を呼ぶとはこういうことなのでしょうかね。
「それで、話と言うのは何でしょう?」
私は気になっていることを聞く。本当なら、もっと聞きたいことはある。
美和さんは何故、私に話しかけたのか。
美和さんは何故、あの社員寮前を早朝ランニングしているのか。
ですが、それらを今聞くのは野暮、というものでしょう。
「え、えっとね…。」
こんなにも、臆病?感情が不安定?なのですから。
「ゆっくりでいいです。ですから、ちゃんと話してください。」
私は出来るだけ優しく話を促す。慌てず、確実に、です。
「そ、それじゃあまず一つ目。」
「はい。」
「あなたはどうして、平日の昼間から外に出ているの?」
「え?」
私は思わず驚いてしまった。何せ、
「今は朝ですよ?」
今日は確かに平日ですが、まだ朝です。なのにどうして…?
「あ、いや。今日の事じゃなくて、何度も見たから、その…あなたが平日の昼間に買い物しているところを。」
「なるほど。」
先週はそういう暇がほとんどなかったので、見られたとするなら先々週ですね。まさか未成年の人に見られているとは…あれ?その時に私を目撃した、ということは、
「ということはあの時間にあなたもいた、ということですよね?」
「う、うん。」
と、美和さんは恥ずかしがりつつ、頷く。
おかしくないですか?
この人は高校生。であるなら、平日の昼間に授業があってもおかしくない。というより、なければおかしいくらいです。いや、もしかしたらその時間帯に授業を入れてなかっただけかもしれません。
と、推測するのは後にするとして、今は美和さんの質問に答えるとしましょう。確か質問内容は、
“あなたはどうして、平日の昼間から外に出ているの?”
でしたか。
答えは…、
「その時に買わなければならなかったものがあったからです。」
私はそのまま言った。詳しいことはあまり覚えていませんが、外出する時は大体、こういう用件が多い。だからそう答えました。
「でも、怖くありませんか?」
「?どういうことですか?」
私は美和さんの質問の意図が分からず、聞き返す。
「だって、あなたは一人で外に出るんだよ?怖くないの?」
「??何に、でしょうか?」
美和さんの言う通り、外に出るのが怖いというのであれば、外に出られなくなってしまいます。それでは、義務教育である小学校中学校が通えないと思います。ま、高校は通信制、仕事は在宅業にすれば問題ないかも…?それだけなら問題ないですね。それだけなら、ですが。
「大人の男とか、いやらしい目つきで見てくるんだよ?そんなの嫌じゃん。」
「…まぁ、それは嫌ですね。」
最も、私を性的な目で見ている人がいるなら…菊池先輩ぐらい、ですね。確かに、一種の恐怖を覚えますね。根はやさしいと知っているのですが、どうも…、
「でしょ!?それなのにあなたは、それを平然とあしらっている。」
「そう、でしょうか?」
そんなことは無いと思うのですが。
「それに、平然と大人の男の人と会話出来ているし。」
「まぁ、必要な事ですし。」
おそらくですけど、工藤先輩や橘先輩のことを言っているのでしょう。
「どうやったら、そんなことが出来るの?」
「と、言われましても…、」
私の場合、必要だったからしただけで、参考にはならないと思います。ですが、
「まずは、同年代の異性と話をして、慣らしてみるのはどうでしょうか?」
今の私に出来るアドバイスを言った。ちょっと無責任かもしれないが、それぐらいしか出来ることがありません。
「でも!ストーカーされ…!?」
ここで美和さんは自身の口を塞ぐ。そして、何度も周囲を確認した後、顔を俯き、
「な、何でもない、です…。」
と、竜頭蛇尾のように、語尾が段々と小さくなっていった。
いや、先ほどの発言はどうあっても聞き逃すことなんて出来ないでしょう?
何を聞きたいのか全く分からなかった質問。
先ほどから他の人、特に成人男性に対する恐怖。
そして、ストーカー発言。
出会ってからずっと様子がおかしいと思っていましたが、もしかして…?
「ストーカー、されているのですか?」
私は周りに聞こえないよう、出来る限り少量の声量で美和さんに聞く。
「・・・。」
声は一切出さなかったが、首を縦に振った。
なるほど。それでここまで…。
私は、ストーカーされることの恐怖を知っている。何せ、その人を実際に見たことがあるから。その件については、もう解決している。相談を受けた菊池先輩が色々協力し、最終的には、多額の賠償金と接近禁止令までだしていたことを記憶している。
だが、被害を受けた女性の方は本当に危なかった。医者曰く、ストレス性の胃潰瘍一歩手前だったらしい。それに、うつ病も発症し、とても職場で仕事している場合じゃなくなっていた。幸い、その課に所属していた全員で、その女性の穴を埋め、女性も職場復帰をした。だが、後遺症なのか、今も成人男性に対して、少しばかりの恐怖心があり、今も暗く細い夜道を独りで歩くことが出来ないらしい。
たった一人の女性の人生をここまで狂わせるのだから、本当にストーカーは恐ろしい。だから、そんなことは絶対に許せないし、許される行為ではない。
だからといって、目の前の女性をそのストーカーから助けたいかと言えば、答えはハイ、と返事はできない。私だって、見ず知らずの人を無償で助けられる力はないし、責任も持てない。感情はあるが、技術が追い付かない感じだ。前はよく、味わっていました。最近はあまり、こういったもどかしい感情を抱いていた記憶はなかったのですが…。
そうですね。この感情は忘れていてはいけないものです。この感情に名前を付けるとしたら…向上心、と言ったところでしょうか。
今の自分には出来ないから、出来るように自分を向上させる。うん、合っていますね。
だとしたら、これはもう決断しなくてはなりません。
目の前の美和さんには少し悪いかもしれませんが、この機会に自身を向上させましょう。
目の前で、今も困っている人を助けるため。
そして、あの会社で私を助けてくれた人達に恩を返すため。
例え自信が無くても、
(この人を助けましょう。)
そう考えた。
ですが、これはあくまで独りよがり。美和さんが一人でも解決できるならそれに越したことは無いはず。一人で解決できないから、こうして誰かに相談しているのでは?と、容易に想像できるが、あえてそこは突っ込まないことにしましょう。とにかく、今は美和さん自身の気持ちを聞かなくては!
…そういえば、ここはレストラン。当然、他の人の目や耳があります。大きな声で話すことはもちろんのこと、もしかしたら会話の内容を盗聴される恐れが…。あ。そういえば確かあれがカバンの中に。よかった。あったみたいです。私はカバンからメモ帳を取り出し、
(こちらもありますね。)
テーブル上を見渡してみると、ペンがありました。おそらく、一緒に置かれているアンケート用紙に記入するための物でしょうが、別件で借りさせていただきます。
(さて、と。)
私は、
「ところで美和さん。美和さんの家族について聞きたいのですが、よろしいですか?」
と、思いっきり話題を変える。この際、私はペンを見ずに文字を書き始めていく。
「え?えっと…。」
私は、美和さんが悩んでいる隙にペンを書き進め、書き終えた分を美和さんに寄せる。
「え?」
美和さんは若干、いえ、かなり戸惑っているようですが、それでも構いません。
「え?…え?」
「?どうしました?私の質問に答えてくれませんか?」
私はこの時、口頭だけでなく、筆談でも質問していた。その質問内容は、
“ストーカーはいつからされているのですか?”
と。
そう。
私は二つの質問を同時にしたのだ。その意図を美和さんに分かって欲しいのですが、伝わったでしょうか?
「わ、私は…。」
こうして、私と美和さんの二つの会話が始まった。
口頭と筆談で会話している内、色々と美和さんの事が分かってきた。
まずは、口頭で分かったことについてまとめましょうか。
口頭で分かった事は、美和さんはとても家族想いである、ということです。
美和さんは、家族の事について話している時、猫背で怯えるのではなく、背筋を正し、目を光らせて、楽しそうに話してくれた。そして、美和さんの家族構成は、父親と母親、そして妹の4人家族らしい。本来、美和さんは近場にアパートを借りて一人暮らしをしているらしいのだが、今回のことがきっかけで、今は実家に戻って家族4人で生活しているらしいです。一人暮らしの際、使用している部屋に行くことは今も一人で行けず、時折妹とか、母親とかと一緒に行っているらしい。そして、一人暮らしをし始めたおかげで料理や洗濯が上達し、今では家族に任されるほどの信頼を獲得しているらしい。
一方で、次は筆談によって聞けた情報をまとめてみよう。
まず、本格的に男性の視線を感じ始めたのが、今年の夏休みから、らしい。それからよく友達と一緒に帰るようにしていたのだが、一人になったところを狙ったかのように、一人のところをストーキングされているらしい。だが、今の美和さんでは確固たる証拠を掴めないので、どうしたらいいのか分からず、今も無理言って学校を出来るだけ休み、家事に従事しているのだとか。だが、深夜や早朝にはそのような視線を感じないので、外に出るリハビリがてら、ランニングをして体を動かしているらしい。
そして、私を目撃した場面も詳細に教えてくれた。
最初は、母やと一緒に買い物をしていた時、近くの商店街で買い物をしている姿を目撃したらしい。目撃したのがほんの一瞬だったので、幻影かと最初は思っていたらしいが、その後、私を商店街近くや、会社近く、寮近くで目撃したらしい。ただ目撃しただけならそこまで気にならなかったのだが、見た時、様々な成人男性に囲まれつつも、平気な顔して話をしているところを見て、凄さを感じたらしい。それで住居はどこなのかと、ランニングコースを頻繁に変えながら私の住居を特定しようとしていたらしい。
なお、ほとんどに、らしいがつくのは、美和さんから話を聞いただけなので、事実かどうかが分からないからである。まぁ、これらの話が本当だと仮定して、まずは一つ言わせて欲しい。
ストーカー行為をされているのに、自らストーキングしてどうするのですか?私の住居を特定するためとはいえ、見た目年齢が自身より低い子供をストーキングするなんて…。ですが、そんなことにも気付かないほど、正しい判断能力が落ちているのでしょう。これ、私が証拠を持って美和さんを訴えたら、美和さんは確実に負けるだろうな。
ま、そんなことは後で考えるとして、今は美和さんのことです。
話を聞いてみる辺り、詳細な打ち合わせをするなら、この時間帯が最適みたいですね。ストーキング事態にも何か対策をする必要が…。そういえば、身内には話していないのでしょうか?私がそのことについて筆談で聞こうとしたとき、
「お待たせしましたー。こちら、モーニングカレーのセットとなります。」
「!?あ、はい。ありがとうございます。」
危ない、危ない。ちょっと挙動がおかしくなっていたでしょうか?これで店員さんに目を付けられなければいいのですが…。さて、返事は、と。
「お。このカレー、美味しそうですね。」
「う、うん。」
と言って、渡された紙には、
“身内には話したくない。私一人で解決したい。”
と書かれていた。う~ん。これはちょっと危ないですね。
これはあくまで個人の見解ですが、このままいくと、家族を人質に肉体関係を持たれる可能性も考えた方がいいかも、ですね。ただ、これはあくまで可能性の一つですし、考え過ぎといえばそれまでですが、少し不安です。後気になることは…そういえば、そのストーキング男の詳細な情報を聞いていませんでしたね。
「このカレーに添えられているラッキョウ、美味しいですね。」
「う、うん。」
そして、渡された紙には、
“分からないです。”
と返ってきた。なるほど。見た目は不明ですが、視線だけ感じる、ということですか。これだけですと、美和さんの勘違いだけで片づけた方が楽といえば楽ですが、
「・・・。」
今もこの美味しいカレーを美味しく食べられていないようですし、これを勘違いで片づけるのは愚かな気がします。
さて、これまでの情報を整理すると、
・ストーカーの見た目は不明
・ストーキングされる時間帯は朝~夜
・身内には出来るだけ頼りたくない
こんなところでしょうか?
後は、出来ればストーカーがいつ、美和さんをストーキングするのか、具体的な時間帯が分かればいいのですが…。それを聞いてみたところ、夜はほとんど出かけないので、夕方までではないのか、という返しが来た。でしたら、多少時間が絞り込めましたね。とはいえ、油断は禁物です。
「このカレーの具材、程よくトロトロで、朝にピッタリですね。」
「そ、そうですね。」
さて、どうやってストーカーを特定しましょうか。
私は既に浮かんでいる考えを紙面にまとめ始めた。
(こんな、ところでしょうか?)
私は自身でまとめたことを出来るだけ客観的に分析する。
(この方法ですと、どうしても本人、美和さんに負担がかかりますね。)
その方法は、美和さんに監視カメラを持たせ、自身で撮影してもらう事である。もちろん、普通のサイズのカメラを持って撮影、ではない。小型の高性能監視カメラを使ってもらうつもりだ。それをペンやズボンのボタンに隠し、出来るだけ目立たないように細工してもらう必要があります。後は仕込む場所ですね。ストーカーは、美和さんを後ろからストーキングしているわけですし、後ろからでも撮影できるようにしないと、です。もしくは、後ろに設置するか、ですかね。充電の残量等を気にすると、出来る限り短期間で決着つけたいところです。ま、充電が切れれば充電すればいいだけなんですけど。その手間は出来るだけ省きたいです。幸か不幸か、大体の道具は自宅に揃っている事ですし。というより、私の事を盗撮している専門家がいるわけですし、機材を貸してもらうくらいいいでしょう。理由を聞かれたら…でっち上げて答えるとしましょう。ばれたら謝るだけです。後の事は深く考えないようにしましょう。そう、後の事を考えると、憂鬱になってしまうので…。
おっと。今は美和さんのことが最優先です。
とにかく私は、解決策の事、それに伴い、美和さん自身がある程度危険にさらされてしまう一種の賭けであることも説明した。本当なら探偵に頼めば一発かもしれないが、美和さん本人には、そんな財力は無いのでしょう。あれば最初から頼っているはずです。だから私は筆談で聞いた。
そして、その返事は、
“はい。”
短い返事だった。
この短い返事には、長い葛藤、自身にかかる危険、家族にも降りかかるかもしれないという恐怖、この案に失敗した場合のリスク等、長々と考えたのでしょう。筆跡から見ると、迷って書かれたような、文字が不安定になっていた。
私はこの返事に、
「分かりました。」
覚悟を決めた女性に、私も覚悟を決めた。さて、まずは菊池先輩に相談して、必要な機材を借りると致しましょう。
「あ、会計は…、」
「あ、もう私が事前に建て替えておいたので安心してください。」
これなら、美和さんが無理して男の店員さんと話さずに済むことでしょう。
「え?でも…、」
「お代は、これが解決した後でいただきますので、それ以外は受け付けません。」
「でも…、」
「受け付けません。」
私は強引に押し切る。私自身、奢られることに少し抵抗があるので、無理にでも払っておいた。無理に分かってもらおうなんて思っていない。何て言ったって、これは私の我が儘なのだから。
「それではまた明日、同じ時間に来て下さい。それでは、」
私はそれだけ言い、レストランを後にする。
「おっと。間もなく7時ですか。」
みなさん、もう起きている時間帯ですね。少し急ぐとしましょう。
「あ、優君!おかえり!」
「ただいまです。朝食はもう食べ終えましたか?」
「ううん!優君と一緒に食べたくて待っていたの!」
「そうですか。」
いつもなら何かしら裏があるのではと勘づいていたところですが、今回は助かります。
「ちょっと話があるので食べながら聞いてくれませんか?」
「もちろんいいけど、どうしたの?」
「はい。あるものを貸していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「?あるものって?」
「それは…、」
こうして朝食を食べ終えた私達は、それぞれの目的地へと向かう。
学校から帰ってきた後、私は菊池先輩から機材の使用方法、取り扱い方法を聞き、取扱説明書も熟読し、知識を深めていく。
そして、
「このカメラがもっとも小さいので、隠しづらくても、顔がはっきり判別しやすいところに仕掛けるべきですかね。」
作戦を一人で立てていく。
翌日。
またお会いした美和さんに詳細な使い方、簡単にまとめた取扱説明書等を袋に入れて渡し、2週間後に会うことを約束した。
これでひとまずは様子見ですね。ま、何かあれば連絡するか、ご両親に相談するよう言いましたし。気にはなりますけど、今の私に精いっぱいのことはしたつもりです。後は美和さん次第です。
「頑張ってください。」
独りで呟き、今週末に控えた運動会に向け、最終調整を続ける。
次回予告
『小学生達の運動会目前生活』
そろそろ小学生生活最初で最後の運動会を目前としているこの頃、保健室の先生からある記事について話題を切りだす。その話題は、絶賛大人気の女子小学生モデル、潮田詩織と、その隣に写っている絶世の美少女の事であった。その少女とは、女装した早乙女優であった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




