会社員達の短期的休日生活
9月の休日。この日は学校も仕事もお休みとなっているこの日。その日なら、多少の怠けは許されるだろうこの日に、
「・・・zzz。」
早乙女優も、怠けを堪能していた。
早乙女優はこの休日がくるまで、ろくに睡眠、休みも取らず、必死に体を動かし、頭を働かせた。その結果として、普通の学生なら経験しないほどの疲労を得ていた。その結果、
「・・・zzz。」
普段の生活態度からは想像できないくらい、爆睡していた。ちなみに今は昼時。前日の深夜からずっとこの調子なのだ。さしもの早乙女優も、休養をとらないと体がもたないらしい。休養を取る様子はまるで、日頃疲弊した疲れ切ったサラリーマンの様である。
「…ふへ。ふへへへ。」
…だが、少年が休んでいる中、危ない人が危ないことをしていた。
「ゆ、優君の寝顔。あ~最高!」
菊池美奈が早乙女優の寝顔をカメラで捉えていた。ちなみに、そのカメラは一眼レフで高価な品物である。買った動機は、“優君の最高でベストな場面を最高画質で捉えたいの♪”と、邪でしかない理由であった。そのカメラの扱い方はプロにも引けをとらない。だが、
「おっと、大きな声をだすと優君が起きちゃうわね。でも、この顔は反則よ~。」
早乙女優の寝顔を前にして一人、身もだえていた。客観的に見れば、色々とまずい光景である。
「今なら、優君の服を剥ぎ取っても問題ないかしら?」
さらにまずさが増した発言を菊池美奈は発言する。だが、この場には寝ている早乙女優と興奮しまくっている菊池美奈の二人しかいない。よって、暴走している菊池美奈の言動、行動を止める者は誰一人いないのだ。早乙女優が不憫でならない。
「でも、優君が起きたら言い訳出来ないから、下着は脱がさないでおこう。汗を拭くついでに優君の体を…ふへ。」
どうやら、早乙女優の服は、菊池美奈によって剥かれること確定らしい。菊池は優にゆっくり近づき、優の服を一枚一枚丁寧に脱がしていく。
「こ、これが優君の肌。興奮しすぎて鼻血をださないようにしないと。」
こうして菊池は、出血の恐れと戦いながら、優の汗をタオルで拭き始める。
「このタオルは私の専用金庫に保存しておきましょう。」
菊池の変態度がこの上なく上昇していった瞬間であった。
同じ時間帯の同じ社員寮にて、休みを謳歌している会社員がここにもいた。
「かー!この会社のビールは苦みが際立っていてさいこー!目覚めの一缶にふさわしいぜ!」
その男、工藤直紀は今日も缶ビールを飲み、自堕落な休日を送ろうとしていた。
「とはいえ、優の事が気になっているせいか、ビールが不味く感じるな。」
工藤はこのところ、優の体調に出来るだけ気を付けていた。言葉には出し亭はいなかったものの、出来るだけ優のことから目を離さないようにしていた。その様子は、小さな子が迷子にならないよう気を付けている新米パパのようである。
「だがまぁ、あいつがいるから大丈夫だろう。」
工藤が言うあいつとは、菊池美奈の事である。菊池美奈は工藤とは違い、優に過干渉なくらい干渉し、優に訪れる危機をいち早く察知し、なんとかしているので、工藤がそこまで気にする必要はないのだ。ないのだが、
「あいつ、優が絡むと頭のねじが全部外れるからな~…。」
工藤が心配していることは、菊池が優に何かやましいことをしていないか、である。確かに、菊池は優秀である。その事に関しては、工藤は認めている。だが、優が絡むと大きなムラが発生し、酷い時には仕事、私生活、態度等全てのことに対し悪影響を及ぼすのだ。その面倒ごとを押し付けられ、工藤は日夜、仕事とは別に疲弊する要素があるのだ。その日頃の疲れを癒すため、休日に好きな酒をこうして堪能している。とはいえ、
「そういえば、今週の優は一段と頑張っていたな。」
優のことがどうしても気になっていた。いつもなら気にしないのだが、今回は仕事の事で優から融通して欲しいと頼まれたからであった。それだけならまだいいが、今週の仕事風景を見ても、いつも以上に頑張っている様子が見受けられた。別に頑張っていることに不安を感じていたわけではない。いつも以上に頑張っていたからこそ、その反動をきにしているのだ。もちろん、今回も菊池が把握していると思うので、そこまで心配する必要はない。そのはずだが、
「初日のあれを見ているからな…。」
工藤は、優のことを知っている。だからこそ、優が人知れず無茶していたのではないのかと、そう推測していた。その結果を何度も見ているからこその心配だった。今回は初日で気づいたが、菊池に委任した。その理由は、初日と2日目で早乙女優の様子が大きく異なったからである。早乙女優の様子が変わった時は、大抵菊池が絡んでいる。工藤直紀の経験談である。そんなこともあり、なんとなく気にしているような、気にしていないような、中途半端な気持ちにとどまっていた。缶ビールを飲み、つまみに手を出し始めたところで、
「やはり、あいつ任せにするのはよくねぇよな。」
頭をポリポリかきながら呟く。工藤はとあることに気付く。普段から、優に多大な負担をかけていたことに。優には平日だけでなく、休日もご飯を作ってもらい、時にはワイシャツのアイロンがけを頼んでいる。最早夫婦か、というくらい頼り切っているのだ。いつも頼り切っている、ということではないが、深層心理のどこかで、優を頼っている部分が顕在しているのだろう。優が工藤に恩義を感じているように、工藤もまた、優に恩義を感じているのだ。だとしたら、
「やっぱ、だよな。」
答えは既に、
「ちょっと、様子だけでも見に行くか。」
導き出されていた。導き出された答えから、工藤は少し着替え、優の元へと向かう。
「優のやつ、新しいビーフジャーキー、じゃなかった。元気にしているだろうか。」
…決して、優が作るビーフジャーキー目当てではないだろう。例え口にだしたとしても、涎がしたたり落ちそうになっていたとしても、おつまみ欲しさに起こした行動ではないだろう。きっと、多分…。
そして、
「あれ?空いてる?」
工藤は優の部屋の扉を開けようとしたとき、既に扉は開錠されていた。
「優の奴、昨日鍵を閉め忘れたのか?珍しいな。」
そんなことを思いつつ、
「邪魔する、ぞ?」
玄関に入り、靴を脱ごうとしたところで、女性物の靴が、優の靴にしては大き過ぎる物があった。
「まさか…!?」
工藤はまさかの事態を推測し、急いで優の寝室に向かう。
そこには、
「・・・zzz。」
上半身裸で寝息を立てている少年と、
「はぁはぁ。優君の上半身、素敵♪」
その上半身を見て興奮している女性がいた。
工藤はその光景を見て、
「はぁ~~~。」
深いため息をつく。
「お前、ここで何をしているんだよ?」
「?あ、工藤。来ていたの?」
「ついさっきな。ところでこれは一体なんだ?」
「何って、見れば分かるでしょう?」
「見たところによると、お前が優をひん剥いて、性的興奮している。そういう風に見えるのだが?」
「…そんなわけないでしょう?」
菊池は若干目を泳がせつつ、
「これは…看護よ。優君が最近疲れていないか、触診して確認していたのよ。」
もっともらしいことを言うが、
「ほ~?それで本音は?」
「優君の体を堪能し…何でもないわ。」
「は~。」
単なる欲にまみれた行動であった。
「お前はもっと、優に対してそう…性的な目で見るのを辞めないか?」
工藤は単刀直入に聞く。
「それは駄目よ。優君がいなかったら、私が死んじゃうもの。」
「またそれか。そうだとしても、」
工藤は上半身裸の少年、優を指差し、
「これは不味いんじゃないか?」
警察が見れば、すぐさま菊池を現行犯逮捕し、そのまま連行していく案件だろう。それぐらい、危険な構図が完成しているのだ。その場にいるだけで、何もしていない工藤も現行犯逮捕されそうである。
「いいじゃない?人間だれしも、大切な人の上半身を見てみたくなるものよ。」
「百歩譲ったとしても、それは互いの同意あってこそ、だろう?これは明らかに優の許可取っていないだろう?」
もっといえば、工藤も優の許可なく家に上がり込んでいる。よって、優は工藤に対して、不法侵入で訴えることも可能となっている状況である。二人とも、犯罪に手をかけそうになっていた。いや、もう既に時遅し、かもしれない。
こんな感じで言い合っていると、
「・・・う、う~~~ん・・・。」
優が目を覚まし、
「ふあ~…、ふぁ!?」
ふぁを言い直した。自分の装いに驚きを隠せなかった。
「な、なんですかこれはぁ!?」
「「あ。」」
「あ、じゃないですよ!?二人して何やっているのですか?というか、二人ともどうして私の部屋にいるのですか!?」
優は驚きの連続で、起きて早々体力を消耗する。
「あー…。あ。私じゃなくてね、隣にいるこいつがやったのよ!最低よね!こんな小さな子の上半身を鑑賞したがいために、なんて!」
「は?お、おい。お前は何を言って…、」
「優君!この変態は、優君をひん剥いて写真を撮り、脅迫しようとしていたのよ!そして、性行為を強要させるつもりだったのよ!そんな羨ましい、最低な人間なのよ!」
と、菊池は工藤に対し指を差しながら罪を擦り付ける。
「はぁ?お前は一体、はぁ!?」
言われた本人も驚き、理解しきれていない状況に陥る。それでも、
「お、俺は知らない。何もしていないからな?本当だからな?」
自分は無実だと主張する。実際は無実なのだが、言い方や態度から、どうしても犯罪者が言い逃れしているようにしか見えない。
「・・・ま、全部菊池先輩がしたことだって分かるからいいですけど。」
そんな二人に対し、優は冷静になり、落ち着いて言葉を発し始める。それに、二人の様子から、優はすぐに、菊池が全ての元凶だと察していた。
理由はと言うと、
「そ、そんな!?こいつが全部うらやまけしからんことを…、」
「そういうことは、鼻血を止めて、にやけた顔をまともに戻してから言ってください。」
菊池が優の露出した上半身を見るたびに、鼻血を出し、顔をニヤニヤさせていたからである。こんな状態で弁明しても意味はなく、
「違うの優君!全部あの馬鹿が全部やったことなのよ!信じ、てへへ♪」
…最早、誰が見ても全ての元凶は明白だろう。
「…もういいか。」
工藤に至っては、自分の無罪主張がばかばかしくなり、途中で放棄した。
「…はぁ。それで、今日は二人そろってどうしましたか?」
「優君の寝顔写真コレクションを増やそうと思って♪」
「俺は優の…あれ?お前さっき、優を触診しに来たんじゃなかったか?」
こうして、優はしっかり休息をとりつつ、信頼できる大人に囲まれて休日を過ごしていく。
そして、
「・・・うん。今日もいい買い物をしたな。」
ここにも、休日を謳歌している者がいた。その者は、ネットショッピングを利用し、プリン堂のプリンを買っていた。
「さて、後はつい最近出たラノベアルカディア最新刊を手に取って、」
その者の最近の趣味は、プリンを食べながらライトノベルを読む、というものである。実に、食欲の秋、読書の秋を堪能している構図である。食事の作法的にはマナーが悪いかもしれないが、そんなことを指摘するのは野暮であろう。
「う~ん♪今日も美味い♪」
室内でもサングラスをかけながら、好物のプリンをスプーンでいただき、味を楽しみつつ、ライトノベルを読む。こんな時間が、何気ない穏やかな時間がこの者、橘寛人にとっての安らぎとなっているのだ。こんな穏やかな休日を過ごせるというのも、一人暮らしをしていることで、家族に気を使わなくて済む、という点が大きく関係している。そして、その名残なのか、いつ誰がきても怖がられないよう、室内でもサングラスを装着し、来客者が来ても大丈夫なように準備している。最も、そんな準備をしたところで、橘には、部屋を訪れる友人は一人もいないのだが。
「お?へぇ~。唯我がまさか、ほぉ~。」
ライトノベルを楽しみ、
「うん。うん。」
プリンの味を堪能する。
もしかしたら、多くの人からすれば、この趣味は悲しい趣味かもしれない。
独りぼっちで本を読み、プリンを食べる。これを趣味と公にする人は、そうはいないだろう。本を読み、プリンを食べることまではいいだろう。だが最初に“独りぼっち。”と付いている時点で、多くの人は何か察してしまうだろう。それでも、“独りぼっち。”と付けざるを得ないのだ。理由は、
(まさか、趣味関連で人と話が出来るなんてな…。)
橘は今まで独りで、出来るだけ人と関わらないように過ごしてきた。例え家族でも、出来る限り関りを無くし、独りでいる時間を増やしていった。そのおかげで得た知識もあるが、その孤独ゆえに得られなかったものもある。それは、普通の人が当たり前に獲得しているものであった。
(少なくとも、桐谷と話出来るくらいには読み込んでおかないとな。)
それは使命感や命令されて嫌々、というわけではなく、友人と楽しく話をするため。そのために、橘はもっとラノベアルカディアを読み込んでいく。
そして、ラノベアルカディア大好きな人がここ、とあるマンションにいた。
その者は今、何をしているのかと言うと、
「はぁ~。何で片づけをしないといけないのかしら?」
片づけをしていた。理由は部屋中に散らばった紙のせいである。この者、桐谷杏奈はこの紅葉見られる情緒溢れるこの時期、桐谷は片付けの秋を過ごしていた。そもそも、何故部屋中に紙が散らばっているのかと言うと、
「まったく、冬コミ用のネームを急遽描いて欲しいなんて…。」
とある友人から、冬コミ用のネームを催促されたからである。本来なら桐谷はこの休日、ラノベアルカディアをゆったり読み、軽食をゆったりと食べ、眠くなりそうな一日を過ごそうと計画していたのだ。それが急遽、ネーム作成に1日以上費やすことになったのだ。
「こんなんじゃ駄目!駄目!駄目!」
自分自身、ネームの質に納得いかず、こうして部屋中に紙が散らばるほど描き直したのだ。
「はぁ…。」
ここまで不調な理由に、桐谷自身、心当たりがある。それは、
「やっぱり、先にあれを読んだ方がいいかな?」
そう。ラノベアルカディア最新刊をまだ読んでいないのである。その続編が気になり、ネームに集中できていなかったのだ。最初は、先にネームを終わらそうと奮闘していたのだが、奮闘すればするほど、ラノベアルカディアの続編が気になってしまう。そんな呪いのような心境が絵のクオリティーを低下させていた。
「・・・(悩)。」
桐谷はしばらく悩み、
「・・・(悩)。」
段々とラノベアルカディアの最新刊に手を伸ばし、
「・・・(喜)♪」
結果、悩みを先に解消することとなった。
「やっぱり、このラノベアルカディアの続きは読んでおかなくちゃね~。」
と、自分に言い訳しつつ、ネーム作成を一時放棄し、ラノベ読破に力を注ぐ。
数時間経過。
「・・・ん、ん~。」
桐谷は手から本を離し、背伸びを始める。それは、
「う~ん。今回もいい展開だったな~。」
読破完了の合図でもあった。
「そういえば、気分転換したり、いい作品を吸収したりすることで、よりよいネームが描ける、なんてことを聞いたような…?」
ここで、友人から聞いたような聞いていないようなことを思い出し、一人呟く。それは本当なのかどうかは判断しかねるが、
「…なんか、今なら最高のネームが描ける予感。」
今の桐谷にとって、本当だったのだろう。読む前と読んだ後との様子が、真実性を増している。
「さ、頑張りましょうか。念のためにもう一度、描くネームの内容を確認しておかなくちゃね。」
桐谷杏奈。新入社員にして、時折、漫画家のアシスタントを頼まれるオフィスレディーである。
次回予告
『小学生達の運動会練習生活』
会社員が仕事している中、宝鳥小学校に通う小学生達は運動会を来週に控え、練習を続けていく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか?




